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【恋愛 異世界】

桜の下にはいつも女の子が

作者: 小雨川蛙

 

 古の時代。

 私は人ならぬモノと恋に落ちた。

 それは人を喰らう恐ろしき悪神。

 けれど、何の因果か私はそれと恋に落ちた。

 それは言った。


『君と結ばれたい』


 私もそれを望んだ。

 しかし、彼の犯した千を超える罪が彼が幸せになるのを許さない。


『待っていてくれ。必ず罪を償い、再び君の前へ来る』


 そう言って、彼と私は桜の木の下で別れた。

 彼は数百、数千の転生を経て、少しずつ罪を償い続ける。

 そして、私は。


「あなたは分かるかしら」


 桜の木の下で今日も寂しく呟いた。

 身体は既に骨となり、自分が何故生きているのかも分からない。


「もう、私はお婆さんですらない」


 不安になる。

 けれど、私は待ち続ける。

 あなたが戻って来るのを。


 ふと、足音が聞こえた。

 ちらりとそちらを見て、私は思わず声を出す。


「あなたは……」


 ・

 ・

 ・


 ながい、旅だった。

 永遠に終わらないと思ってしまうほどに。

 それでも僕は遂に贖罪を終えた。

 幾千の転生を繰り返し、その都度、幸福や不幸を味わった。

 数え切れないほどの人に出会った。

 記憶は最早、一つを注視して見ることさえ出来ない程だ。


「それでも君を覚えていた」


 僕はそう呟きながら歩き続ける。

 記憶の奥底に常にあった、桜の木。

 僕は自分の存在さえ忘れてしまうほど昔に、そこで君に恋をして誓ったんだ。

 必ず、君と一つになると。

 あれから数千の時が過ぎた。

 それでも僕は確信していた。

 君は必ず、そこで待っていると。

 例え、骨になっていようとも。


 そして。


 僕は桜の木の前に来た。


「あっ、来たよ」

「え? うそうそうそ!?」

「えー! 今、いいところだったじゃん!!」

「いや、ここは私達も喜んであげるところでしょ……」


 桜の木の前で僕は呆然とする。

 君の他に、何人もの女性が……あるいは女性の魂が居ることに。

 困惑しながら僕は君に言う。


「ひ、久しぶり……」


 すると君が嬉しそうに、だけど少しだけ、恥ずかしそうな顔で言う。


「うん、久しぶり。会いたかったよ」


 直後、あがる歓声。

 彼女の周りにいた女性たちの黄色い声。

 中には興奮したまま両手で顔を抑えている者や飛び跳ねている者もいる。


「えっと、その人達誰?」


 僕の問いかけに君は苦笑いをしながら答えた。


「私達と同じ人達」

「同じって?」

「要するにこの子達も前世の恋人をここで待ってるの」


 ここにきてようやく僕も状況を掴めた。

 なるほど、僕と君がこうして数千年かけて再会したのと同じで、彼女達にもそれぞれ数千年かけて再開するべき相手がいるという訳か。


「ううーん……」


 僕が悩むと一人の女性が言った。


「ほら。やっぱり恥ずかしがってる」


 その声を聞いて君も含めて笑い出す。

 僕は恥ずかしくなってそっぽを向いた。


「ごめんね。皆、ほら。女の子だし、退屈だったから……」


 所謂、女子同士の話が盛り上がったというやつだろうか。


「ほらほら。あんたもこっち来なさいな。積もる話もあるんでしょ?」

「そうそう! 聞かせてよ! あなた達の話!」

「どうせ、私らの恋人まだまだ来なさそうだもん!」


 僕は切なささえ覚える光景で君と再会するとばかり思っていた。

 どこか寂しく、どこか温かく。

 だけど、やっぱり寂しい……そんな再会ばかり思い描いていた。

 それがまさかこんなに騒がしいことになるとは……。


「まぁ、君が幸せそうだから別に良いんだけどさ」


 僕の言葉に嬉しそうに笑う君。

 そして、僕らを見て他の女性たちが囃し立てる。


「ほら! ほら! 抱きしめてあげなよ!」

「そうそう! ずっと待っていてくれたんだよ!」


 やかましい。

 そう思ったが君のどこか期待するような声に負けて僕は数千年に渡る願いをようやく叶えた。


「それで、この後どうするの?」


 君の問いかけに僕は答えた。


「どうせ、時間ならあるからもう少しここに居よう。今度はあいつらをからかってやる」


 僕の言葉に君は笑った。

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