紫陽花の咲く季節
学校に行こうと決心したのは、何だかもうどうにもならないということに気づいたからだった。悪い夢だと自分に言い聞かせてきたけれど、こうも長く続くと夢も現実も大して変わらない。
何処ぞの、虎になったリチョーさんを思い出す。今はまだ角谷紗奈になった野々村七海でいられるけれど、いつか、かつて野々村七海だった角谷紗奈になってしまうのでは無いか。そんな不安が日々大きくなる。
とにかく、二人してして学校を休み続けたところで何かが前進する訳では無いということは明白で、むしろ日々前進していく日常に、私たち二人だけ置いていかれているような気さえして来る。
きっと私についてのことなのだろう、夜中にリビングで相談している紗奈ちゃんの両親。面談に来る紗奈ちゃんのクラスの担任の先生。事情も言わず休み続ける私に対して、大人たちの心配は日々濃くなっていく。そして、高校の出席日数。小テスト。課題。迫ってくる期末テスト。考えるだけで頭が痛い!
元に戻る目処が立たない以上、たとえ多少齟齬が生じたとしても、客観的に見た場合の日常は取り戻さなければいけないわけだ。考えたくは無いけれど、このまま生涯、角谷紗奈という少女の身体から出られない可能性も視野に入れざるを得ない。ていうか嫌でも視野に入ってくる。
というわけで、
「学校に行ってみるっていうのは、どう?」
と、紗奈ちゃんに提案したところ、やはり彼女も大方私と同じような不安を抱えていたようで、神妙な顔で
「ちょうど同じことを言おうと思ってたんです」
と、覚悟を決めたように頷いた。
面倒なことにならないためなのだ、と私は自分に言い聞かせる。そうでもしないと私は何も動けない。見た目が変わっても、私は反吐が出そうなほど私なんだ。
「お姉さん、」
「ん?」
「わたしは、分かってますから。お姉さんが、お姉さんだってこと」
真っ直ぐな視線が、私の中の、出来れば目を逸らしたい柔らかい部分を、突く。私は唾を飲んで、紗奈ちゃんを見た。数え切れないほどに鏡の前で対面してきたその顔は、今まで見たこともないくらい凛としていて、けれどその内側にある不安は、瞳の奥から滲み出ていて、
「私も、ちゃんと分かってるよ。紗奈ちゃんは紗奈ちゃんでしょ?」
どれだけ周りが紗奈ちゃんの事を"野々村七海"と呼んでも。
二人で、笑って、それから握手をした。
私がわたしで、わたしが私で。
私が私であることを、わたしだけは分かってくれている。
***
チャイムを押すと、ドタドタと響く足音と、何かがぶつかる音、そして悶絶するような声が聞こえたあと、数秒後にドアが開いた。
「……おはようございます、お姉さん」
高校の制服を着た紗奈ちゃんが、足の脛を押えながら挨拶をした。私と違って、着崩すことも無く、シャツのボタンは全閉じ、スカートは膝丈。私のそんな姿見たの、高校の入学式以来だなあ、と思ったりして、いやそれよりも。
「だ、大丈夫?」
はい、と紗奈ちゃんは気まずそうに項垂れたまま、返事をした。最近気づいたけれど、紗奈ちゃんは案外ドジなところがある。足を見ると、入れ替わる前はなかった痣が数個増えていて、ちょっと苦笑した。
今日から私たちは学校に行く。私は小学校に、そして紗奈ちゃんは高校に。数年ぶりに背負ったランドセルは思っていたより軽かった。記憶の問題なのか技術の差なのか分からないけれど。つま先立ちをして、それからかかとを勢いよく地面に下ろすと、ランドセルが揺れて、中に入っている教科書が籠ったような、懐かしい音を出す。数年前にはよく聞いていた音だった。
「それ、どうやるんですか?」
紗奈ちゃんが、私に指をさして問う。
「それ?」
「髪です。どうやったんですか?」
指さしていたのは、私の髪型だった。サイドの髪を編み込んで、後ろで束ねている。人形のような顔立ちをした紗奈ちゃんには、似合うと思ってアレンジしたのだ。勝手の違う小さい手で髪の毛を弄るのは難しく、なかなか苦戦したものだ。
紗奈ちゃんは見たところ、髪の毛は特に触れていないようだ。私の髪は、何もしなくてもサラサラな紗奈ちゃんのと違って、手を加えないと、どうももっさりしている。
「よかったら、お揃いにしようか?」
私が提案すると、紗奈ちゃんは、ぱっと顔を明るくさせた。
「いいんですか?」
「もちろん」
私はそう言って頷いた。
***
「お姉さん、それ大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だよ。私、失敗しないので」
私の自室にて、紗奈ちゃんの髪を改造していた。髪質が違うので、私が自分で今日やったのと同じ手順という訳にはいかないのだ。
「でも、お姉さんの髪の毛焦げちゃう!」
「焦げないよ。……ていうかヘアアイロン使ったことない?」
へああいろん?と首を傾げる紗奈ちゃんに、右手のそれを掲げて見せる。百八十度に熱されたヘアアイロンは温度の上がった空気を纏い、指を近づけただけでもその熱を感じる。慣れていたけれど、確かに使いようによっては危険だ。
「ア、アイロン?そんなの髪に使っていいんですか?」
「まあ、みててよ」
紗奈ちゃんの髪を一束とってコテに巻き付ける。数秒後にしゅるっとコテを外すと、さっきまでもさっとしていた髪が、緩やかなウェーブを描いていた。
「す、すごい……!」
紗奈ちゃんは興奮したように声を昂らせた。
一通り髪を巻いて、それから私と同じようにサイドの髪を編み込む。自分の髪を後ろから弄るなんて初めてで、つい興が乗る。結ったあとに、普段はつけないリボンも付けてしまった。
「お姉さん、可愛い……」
紗奈ちゃんが鏡を見て呟く。絵面だけ見ると自画自賛しているようにしか見えないが、これは私が褒められているということで良いのだろうか。
時計を見ると、八時を指していた。ゆっくりしすぎたようだ。もう家を出ないと間に合わない。
横に置いたランドセルを背負い、ヘアアレンジもすんだ紗奈ちゃんと部屋を出る。私の母親はもう仕事に出たようだ。リビングはしんとしていた。
***
「じゃあね」
警鐘を鳴らす踏切の前で、私たちは手を振って別れた。踏切を渡らずに左へ進んだ先に、私の通っている高校がある。紗奈ちゃんは、高校へと続く緩やかな坂道を、私に背を向けて登り始めた。電車が通過し、音が鳴り止んだ時、一度紗奈ちゃんが私の方を振り返った。一瞬目があって、こくりと頷く。そうしてから私は、前を向いて踏切を渡り始めた。
ポツポツと小粒の雨が降っている。道行く人の中には傘をさしていない人もいた。午後から雨足は強まるとテレビでは言っていたけれど、どうなのだろうか。制服が濡れてきたので、私は持参した傘を開いた。ビニールに落ちた水滴が微かな音を立てる。どんよりした雲の下では、踏切を渡る人々のざわめきは質量を持って、空気をさらに重くするようだった。
私たちが住んでいるこの町は、かつては城下町として栄えていたようで、今でもその面影が町の至る所に残っている。私が通っている、そして紗奈ちゃんが現在進行形で向かっている高校の近くには城跡があり、桜が咲く頃には桜まつりが、夏には夏祭りが毎年開催される。その時だけは、この町もたくさんの人で賑わうのだ。
いまいち活気のない商店街を抜けると、外堀に沿うような形で緑地公園があり、公園の途中に小学校の校門へと向かう道が分かれている。卒業して以来、ここに足が向いたことは一度もなかった。外堀に浅く流れている淀んだ水に、水滴が波紋を作っていた。脇に並んで植えてある桜の木には青々しく葉が茂っていた。この道を歩いていると、通学路としてこの道を通り続けた六年間の記憶が、莫大な既視感として私に襲いかかってくる。私の横を、低学年の男の子たちがはしゃいだように通り過ぎて行った。
公園にある大きな時計は始業時間五分前を指していた。私にとっては目に入る景色の全てが心を揺さぶるほど懐かしいものだったけれど、思い出に浸っている時間は無いようだ。私は足を進めた。
教室に入る前に、紗奈ちゃんから貰ったメモをもう一度確認する。ファンシーなキャラクターが随所に描かれたメモ用紙には、必要最低限の確認事項が書かれてある。ちなみに私も、同じようなものを紗奈ちゃんに渡してある。私の場合は、ルーズリーフに書いたものだけれど。
席の位置。仲の良いクラスメイト。あだ名……エトセトラ、エトセトラ。
よし、と意を決して教室の扉に手をかけた直後、
「あらっ!」
横から甲高い声が響き、そちらを見ると、担任が名簿表を持って立っていた。
「学校、来られたじゃない!もう、大丈夫なの?」
声を発する度に、お腹の肉がぷるんと揺れる。
「え、ええ。まあ……」
「紗奈?」
教室の扉がガラッと開き、女の子が顔を出した。背の高い子だ。紗奈ちゃんの身長が小さいという事も相まって、その子のことを見上げるような形になった。
「あら、黛さん。角谷さん、来たわよ。良かったわね」
先生が声をかけると、黛さん、と呼ばれた子は無言でこくりと頷いた。名札を見ると、丁寧な字で「黛 茜」と書いてある。急いで貰ったメモを見返すと、
「やっぱり……」
メモによると、黛茜という子は紗奈ちゃんの「親友」らしい。
「さ、ホームルーム始まるから二人とも教室に入りなさい」
先生に半ば押し込まれるような形で教室に入る。ちょうどその時にチャイムが鳴り響き、「黛茜」という子と話す時間は無くなってしまった。
「紗奈、また休み時間にね」
涼やかにそう言うと、彼女は自分の席に戻ってしまった。紗奈ちゃんの友達は、何だか小学生らしからぬ落ち着きを持っている。高い身長や、小学生にしては優れた発育も相まって、とても大人っぽい。
メモに記された通りの席に座ると、後ろからつんつん、と背中をつつかれた。振り返ると、後ろの席の気の強そうな女の子が私の方を見ている。背中をつついたのは彼女のようだ。
「なんでずっと休んでたの?」
先生にバレないよう、囁き声で私に聞いてきた。もちろん、本当のことは言えるわけが無い。
「あー……。体調不良?でさ……」
思ったよりもしどろもどろになってしまった私の返事に、彼女は少し疑いの目を向けながらも、そっか、と軽く答えて、その話は終わった。
***
連日の雨のせいで更衣室の中は、大変蒸れていた。空き教室を女子更衣室として流用していることは私の在学時と変わりないようで、閑散としたその空間には懐かしさが込み上げる。六年間、何に使うのか分からないと思っていた棚もそのままだ。次の時間が体育なので、制服を脱いで、体操着に着替える。布地の体操服に、赤白帽。まさかもう一度自分が着ることになるとは思わなんだ。
隣で着替えている茜(紗奈ちゃんがそう呼んでいるとメモに書いてあったので私もそう呼ばせてもらう)は、私が長い間休んでいたことに何も言及してこない。気を使っているのだろうか。あまり感情が読めない子だ。そういう意味で、表情のコロコロ変わる紗奈ちゃんとは違ったタイプに思える。なぜ仲良くなったのかは気になるところだ。
耳をつんざくような笑い声が隣から聞こえた。見ると、私の後ろの席に座っていた子のようだ。頭の上できゅっと結んだポニーテールに、前髪はカラフルなピンで止めている。気の強そうな子だ。一体何を話しているのか、と耳をそばだてると、どうやら担任の悪口で盛り上がっているらしい。
絶対結婚できないよ、あの先生。太り過ぎだもん。ほんとほんと。彼氏もいたことないよ、きっと。どうやったらあんな太れんの?くすくす。
小学校も六年生となると、女子の悪口にも磨きがかかってくるようだ。ばーか、ばーか。ばかって言った方がばかなんですぅー、の時代は終わり、仲間内で盛り上がるようなエンターテインメントな悪口が始まるのも小学校高学年頃だったかしら。
JSこえー、と思いながら眺めていると、ふと、その子たちの一人と目が合う。慌てて目を逸らそうとすると、その前に、彼女の方が怯えたようにビクッと肩を震わせ、一緒になって盛り上がっていた子達になにか耳打ちをした。耳打ちをされた子達はもれなく引きつった顔で私をちらりと見て、さっきまでの喧騒が嘘のように口をつぐみ始めた。
……なにか私の顔に変なものでもついているのだろうか、と首を傾げていると、その子たちは揃ってありえないものを見たかのように私の方を凝視してくる。本当になんなんだ。
「あの子たち、なんであんな反応したんだろう?」
その子たちが更衣室から去ってから茜に聞くと、数秒間の無言の後、
「紗奈、今日は怒らないんだね」
と、小さな声で、答えになっていない答えを返された。
「……どういうこと?」
「紗奈、いつも人の悪口言ってる子にキレるじゃん」
「そうなの……?」
「そうなの?」
訝しげな顔でオウム返しされる。そうなの?は流石におかしいか。というか、紗奈ちゃんいつも学校でキレてるの?思ったより強めの正義感というか、沸点低い感じ?
これ以上墓穴を掘るのはよした方が良い、と思いつつも、とんだ予想外の新情報に、私の知っている紗奈ちゃんの輪郭がぼやけてしまい、流石にこのままスルーは出来ない。
「……どんな風にいつもキレてるの?」
「そりゃ、もの蹴ったり、机殴ったり……とか。え?記憶喪失?」
茜は冷ややかに尋ねた。
「そういう訳でも、ないんだけど」
つまりさっきの子は、悪口を言っているところを私に見られたから、怯えていたということなのか?そんでもって私が何もしないからあんな風に不思議そうな顔をしていたと。
とんだ狂犬じゃあないか、紗奈ちゃん。
絶句して黙りこくっている私を横目に、茜は
「……ごめん、私、体育委員だから先行くね」
と困惑した顔のまま更衣室を出ていった。
***
午後を待たず、雨は強さを増していった。体育館の床が擦れる甲高い音と、皆の喧騒に雨粒の轟音が被さり、向かい合ってキャッチボールをしている茜の声も聞こえない。
「なんてー?」
茜は口をパクパクさせているけれど、雨音にかき消されて何を言っているのか分からない。そして恐らく、聞き返した私の声も届いていないのだろう。茜が緩く投げたボールを胸の前でキャッチし、そのまま投げ返さずに茜の方に歩み寄る。
「ごめん、何か言った?」
目の前まで近づくと、流石に私の声も雨に勝つ。茜はやはり数秒無言の後、ゆっくり口を開いた。
「キャッチボール、なんで急に上手くなったの?」
しまった、と思う。紗奈ちゃんの運動神経のほどを聞いておくべきだったろうか。いや、聞いていてもそれをコピー出来るほどの運動神経は私にもない。そもそもあんなゆるゆるなキャッチボールに得手不得手もあるのか?
「……私、そんな下手だったかなぁ……?」
「紗奈、飛んできたボールキャッチ出来たことなかったじゃん」
……紗奈ちゃん!?
溢れだしそうな喧騒と、豪雨の圧を全て制すような張り上げた声が体育館中に響いた。
「じゃああとの時間は二グループに別れてドッジボールしましょうね!球技大会近いからしっかり練習するのよ!」
先生の声だった。散らばっていた生徒たちは声に従って中央に集まり始める。私もそれにならって、茜と共にざわめきの中に紛れ込んだ。
二グループを決めるとなって、とある問題が発生した。紗奈ちゃんの所属しているクラスはどうやら奇数の人数で構成されているらしく、均等に二グループに分けられないというのだ。そんなの適当でいいだろう、と思ってしまうけれど、横にいる先生は子供たちの話し合っている様子をニコニコと微笑んで見ているのみで、なかなか埒が明かない。
「あー……、じゃあ、私が抜けるよ。見学しとく」
私が手を挙げて声を張ると、クラスの皆は一斉に私の方に顔を向けた。思いの外目立ってしまい、喉がく、と硬くなる。
面倒な話し合いを終わらせるため……という理由も嘘では無いけれど、私の真意は別のところにあった。さっきの茜の反応を頭の中で反芻する。キャッチボールをするだけでも違和感が滲み出てしまうのだ。ドッジボールでの紗奈ちゃんの振る舞い方を知らない以上、あまり参加しない方が良い。私が声を上げたのは、中身が違うことを悟られないようにする為だった。
「え……、いいの?でも、一人で見学って、淋しくない?」
眼鏡をかけた優しそうな女の子が、心配そうに眉をひそめて言う。
「あー、いいよ、大丈夫。ほら、どうせ面倒だしさ……」
私がそう言うと、その子はポカン、と口を開けた後、
「そ、そっか……」
と、小さく答えた。そしてそのまま、私以外のクラスの皆はコート分けの話し合いへと移り、私は体育館の端へと移動をした。
ボールの入っているカゴの横に、壁にもたれて腰を下ろす、と同時に私は頭を抱えた。
ああ、またしても、しまった。
何をするにしても理由を「面倒だから」にしてしまうのは私の悪癖だと自覚しているけれど、よりにもよって紗奈ちゃんの身体で口を滑らしてしまうとは。溌剌としたあの娘の辞書には、「面倒」という言葉は無さそうだ。
紗奈ちゃんが、「面倒だから」と言っているところを想像して、似合わないなあ、と実感する。誰にも聞こえないよう、小声で呟いてみる。
「面倒だから……」
声に出したつもりだったけれど、地面を叩く雨粒のせいで呟いたはずの声は私の耳にも届かなかった。
***
トイレの個室に入って鍵を閉めた。私が卒業してから改修工事が行われたようで、トイレはすっかり様変わりしていた。見たところ和式便所は見当たらず、所々欠けていた床のタイルは、オシャレな木目調の柔らかいシートに張り替えられていた。水も勝手に流れるらしい。ショッピングモールさながらの様相に、むしろ学校の中でトイレだけ浮いているような感じだ。うーむ、隔世の感。
私は便器には腰を下ろさず、前より広くなった個室の壁にもたれてポケットからスマホを取りだした。
給食の時間が終わり、時刻は一時。現在は昼休みだ。ちょうどこの時間にメッセージアプリで現状報告をしようと、紗奈ちゃんと約束をしていた。
アプリを開くと、新着メッセージが一件来ている。紗奈ちゃんからかと一瞬思ったが、どうやら違うようだ。送り主は、以前クラスが同じだった、瀬川という友達からだった。
『六限目の古典のプリント忘れちゃった~。六限目までに写真にとって送ってくれると助かる、、』
む、どうしよう。
既に既読はつけてしまったので無視もできない。紗奈ちゃんに頼んで写真をこちらに送ってもらい、私のスマホから送るということも出来るけれど少々手間だ。
『ごめん、私も忘れちゃった、、』
メッセージの後に、憎めない顔をしたクマが土下座をしているスタンプを送り、私は溜息をついて肩の力をふっと抜いた。
ちょうどその時、ピコンと通知が鳴る。今度こそ紗奈ちゃんからだった。
『お姉さん、小学校はどうですか?』
『今のところ目立ったトラブルはないよ。そっちは大丈夫?』
『はい。こちらもなんとか。授業は一応、板書はちゃんとノートに移しているのでもし良かったら使ってください』
『え、ほんと?わざわざありがとう。ごめんね』
私、普段からろくに板書とってないんだけど。紗奈ちゃんすげー。
『あと、さっき瀬川さんという方が教室に来たのですが』
え?
『古典のプリントを写真に撮らせて欲しいとの事だったので、ファイルの中に入っていたそれらしきプリントを渡しましたが、よろしかったでしょうか』
ちょいちょいちょいちょいちょい!
全然よろしくないよ紗奈ちゃん!
慌てて先程のトーク画面を開き、メッセージが未読であることを確認すると、直ぐに削除し、胸をなでおろす。た、助かった。
最後に適当なスタンプを送りあって、紗奈ちゃんとの連絡は終わった。スマホをポケットにしまい、トイレを出る。スカートのポケットは高校の制服のそれより一回り小さく、スマホを入れにくい。 スカートの上から撫でると、硬い感触が伝わった。
勢いのやまない雨は渡り廊下に降り込んでいた。床が濡れないよう、廊下の端には、雑巾が雑に並べられている。けれどそれもぐっしょりと濡れていて、もうあまり水を吸わなさそうだ。
濡れないよう小走りで廊下を渡る。季節に似合わずひんやりとした空気が二の腕を冷やした。
図書室に入ると、一気に空気が整然としたような感覚を覚える。カウンター横の猫のぬいぐるみは私がいた頃と変わっていない。私がいた頃に飾ってあった、折り紙で作られたガーランドはいつの間にか無くなっていた。
小学校にいると、懐かしさと同時に、ずっとここにいたような不思議な安心感にも時々襲われる。本当はずっと前に卒業して、中学校に行って、それから高校にだって行って、それももう卒業するというのに、昨日も、一昨日も、ここにいたような気がしてならない。
本棚の場所は変わらず、私の記憶通りだった。表紙の外れかかった、ボロボロの伝記漫画を手に取る。ヘレン・ケラー。この本は、途中の二ページが破けて抜けているのだ。かつては、飽きるほど読んだ本だった。
ポケットの硬い感触だけが、戻れない過去を教えてくれる。もう一度、スカートの上から長方形の縁をなぞるように撫でた。
***
「お姉ちゃん、なんで学校行けるようになったの?」
紗奈ちゃんの妹である、五歳の結衣ちゃんが私に聞いた。
私、結衣ちゃん、紗奈ちゃんのお母さんの三人の角谷家の夕食もそろそろ慣れてきた。紗奈ちゃんのお父さんは、この時間はまだ仕事から帰っていない。
「んー……まあ、色々ね」
適当にはぐらかして残っているご飯を口に詰め込んだ。
「ご馳走様」
お粗末さま、と紗奈ちゃんのお母さんが微笑んで言う。今日は私が学校に赴いたからなのか、いつにも増して嬉しそうな顔をしている。
慣れたとはいえ、やっぱり野々村家の食事が時々恋しくなる。紗奈ちゃんのお母さんの料理は、私の母親のそれより断然上手で、見栄えもいいけれど、私はそういう食事に見合うようなちゃんとした人間じゃない。カップラーメンが似合うようなぐうたらな人間だ。
そそくさと部屋に戻り、どさっとベッドに体を預けた。全身から力が抜けていくような感覚がする。今日はとても疲れたのだ。スマホを確認すると、メッセージが一件届いている。同じクラスの女子からだった。見ると、
『なんでいきなりキャラ変?』
んぐっと息が止まる。今日の野々村七海はそんなに明らかにキャラが違ったのだろうか。
『どうしてそう思ったの?』
できるだけ不自然にならないように、文面を考えて送った。
『いや、だっていきなり真面目に板書とり始めたし』
その事か、と息をつく。それぐらいだと真面目キャラに転向しました~ぐらいのノリでいけるだろうか。
『なんか謎に敬語だし』
『あと、なんか急にキレだすし』
紗奈ちゃん!
『そんなにキレてたっけ?』
どうにかして詳細を聞き出そうと、少し攻める。
『キレてたじゃん。ほら、テストの時に』
『テストの時?』
『え、ほんとに覚えてないの?隣のクラスから調達したカンニングペーパー勧めたらキレたじゃん。そんなの使うわけないじゃないですかって』
なるほど状況が読み込めた。確かに紗奈ちゃんはそういう不正は毛嫌いしそうだ。彼女に、教えてくれてありがとう、と送りそうになって寸前で止めた。私は誰なんだ。
紗奈ちゃんに電話をかけると、二コール目に電話口からもしもし、と私の声が聞こえてきた。
「高校、どうだった?」
「あ、お姉さん!私、漢字テストで百点とりましたよ!」
「え?……な、なんで?」
私、いつも三十点もいかないのに……。
「頑張って昨日覚えたんです!」
「そ、そっか。え、えっとね?」
言葉選びに悩む。
「あの、ね。ほんとに学校にただ行くだけでいいから、ね。出席日数稼ぐだけで大丈夫、だから」
少しの沈黙の後、
「はい!お互い頑張りましょう!」
私の声帯から出ているとは思えない明るい声が響いた。苦笑して電話を切る。
思ったより、ずっと、ずっと真っ直ぐな娘だ。真っ直ぐすぎて、凶器と見紛うほどに。いつか大怪我するぞ、と小さく呟き、目を閉じた。
***
今にも空から雫が落ちてきそうな、濁った重苦しい雲が空を覆っていた。梅雨も真っ只中で、居酒屋の店先に鮮やかに咲いている紫陽花にはカタツムリが二匹乗っていた。
紗奈ちゃんの代わりに通い始めた小学校も、そろそろ日常に足を踏み入れ始めた六月下旬。時刻は四時。放課後だった。
ランドセルを地面に置いて、財布を取り出す。十七歳の誕生日に貰ったそれは少し背伸びをしたブランド物で、ランドセルに入れるにはあまりにもアンマッチな代物だ。目の前の自販機を物色すると、三段目の端に、何が出るかお楽しみに、と書かれた缶が二つほど並んでいた。こんなものを選ぶ酔狂な人がいるものか、と呆れながらも、つい好奇心に負けてそれを選んでしまった。結局、音を立てて取り出し口へ吐き出されたものは、麦茶だった。もっとゲテモノじみたドリンクが出るものかと予想していたので、なんだか肩透かしを食らった気分だ。飲めるものが出てきたのだからいいか、心の中で呟き、麦茶を取り出す。よく冷えていた。
水筒を家に忘れ、カラカラに乾いた喉に雀の涙ほどの唾を流し込みながら下校していた時に、たまたま見つけたのがこの自販機だった。家に帰るまで待った方が良いだろう、と静止する心の声を粘つく喉が黙らせ、この麦茶を手に入れた訳だった。喉を鳴らして飲むと、滞っていた生命活動の歯車が一気に動き出すようだ。ぷはー、と、ビールを飲んだおっさんのように息をつく。
「紗奈ちゃん?」
背後からの声に、数秒遅れで自分のことを指しているのだと気づく。振り向くと、例の後ろの席の子が首を傾げて立っていた。今日は髪を二つに結んでいる。前髪のカラフルなピンはいつも通りだ。今まで気づかなかったけれど、同じ方向の通学路を通っていたのか。
「学校に、お金って持ってきていいんだっけ?」
困惑交じりに、私に質問する。もちろん、一応質問の形を取っているけれど、彼女が本当に疑問を感じている訳では無いということは明白だ。つまり、意味するところとしては学校にお金持ってきちゃだめだよね?ということだ。
失念していた。高校ではこんなことは日常茶飯事だったから忘れていたが、小学校の下校中にものを買って飲み食いするなどご法度でしかない。
頭を押さえて数秒熟考したあと、私はもう一度自販機に向き直り、小銭を入れてからオレンジジュースのボタンを押す。
「……ここだけの秘密にしてくれると助かる」
手のひらを口に添え、内緒話をするように囁きながら、取り出し口から出したそれを彼女に渡した。賄賂だ。認めよう。これは賄賂だ!
オレンジジュースを受け取った彼女は、少しの間呆けたような顔をして、それからへへっと笑った。
「まじか」
「まじだ」
彼女はそそくさとオレンジジュースをランドセルに直し、
「オッケー。誰にも言わない」
と言って手を振り、住宅の並ぶ路地に入っていった。
鼻先に、ポツリと冷たい感覚がした。次に頬、二の腕、と私の肌に次々に水滴が触れる。瞬く間に雨量は増し、紺のプリーツスカートの色を変えていく。
慌ててランドセルを背負い、走り出した。雨に気づいて傘を差し出した人を横目に、腕を振って地面を蹴って駆ける。濡れて束になる前髪にも気を留めず、ただランドセルに入れた麦茶が泡立ってしまうだろうなあと思いながら、家へと向かった。
***
四時間目の体育の授業は、体操着を忘れて見学をする羽目になった。お姉さんごめんなさい、と心の中で謝る。
体育館の隅で、制服のまま体育座りをして授業を眺める。昨日降った雨のせいで、今日は運動場は使えないらしい。高校の体育館は小学校のと比べて、面積の大きさが段違いだった。その大きい体育館に、低くて大人びてるけど、でも大人よりちょっと無邪気な声が響いている。
二人組を作って、キャッチボールをしているみたいだった。皆、図体は完全に大人のそれなのに、小学生みたいにはしゃぐこともあって、なんだか不思議なものを見ている感覚。
ちょっと混ざってみたいかも、なんて思いながら眺めていると、一人の女子生徒がふっとこちらに近づき、わたしの隣に座り込んだ。同じクラスの子、だったと思う。体操服ちゃんと着てるし、あれ、さっきまで参加してたはずだけど。
「あの……」
隣で膝を抱えて座る彼女に話しかけると、彼女はどこか予想していたようにこちらを向いた。真っ直ぐの黒髪を下の方で二つに結んだ、すっとした感じの、どこか素朴で、童顔な子だった。お姉さんとは、ちょっとタイプが違う。
機嫌悪いのかな。むすっとした表情。でも、なにか我慢しているようにも見える。わたしは聞いた。
「授業、参加しないんですか?体調が、悪いなら……」
「ううん、大丈夫。組む人、居ないだけだから」
わたしの言葉を遮るように、早口で彼女は答えた。
組む人がいない?彼女の言葉に疑問を持つ。そうなことはないだろう。キャッチボールをしている人の中には、三人で組んでいる人もいる。人が余っているからそう組んでいるのかと思っていたけれど、そうでないのなら。
わたしはその三人組を指さした。
「あそこに入ればいいんじゃないんですか?」
彼女の表情が固くなった。
「それは……」
口ごもる彼女に、わたしの中で嫌な想像が膨らんだ。ちらりとその三人組を見て、確信づく。三人で示し合わせたようにわたしの隣の彼女の方を見て、一瞬顔を見合せてにやり、と笑っていた。
「もしかして、仲間はずれですか?それはいけない、わたしが注意を」
「ちょ、ちょっと待って!」
立ち上がって、三人組の方へ足を踏み出したわたしを、彼女が腕を掴んで止めた。思ったより強い力に驚く。
「仲間はずれじゃないんですか?」
「それは……!」
わたしはちょっとむっとする。
「わたしは、許せませんよ!注意させて下さい!」
「私は、ここでいいからっ!大丈夫だからっ!」
彼女が、私をたしなめるように小さく叫んだ。
「でも!」
ふと、体育館がさっきより静かになっていることに気づく。周りを見ると、皆がキャッチボールをしながら、そして数人は動きを止めて、わたしたちの方を心配そうに見ていた。声が大きすぎたんだ、と自覚し、一瞬にして熱が覚める。
「大丈夫かー?喧嘩かー?」
体育教師がこちらを見て、体育館に響き渡る声で聞いた。
ありえない、という呟きが隣から聞こえた。隣を見ると、彼女は、唇を歪ませ、破裂しそうなほど赤い顔をしていた。
「いえ、それが……」
「体調悪いので保健室行ってきます!」
その体育教師に返そうとしたわたしの声を遮って、彼女が叫んだ。途端、床をキュッと鳴らして足で方向を定め、わたしの前を光の速さで通り過ぎ、一心不乱に体育館の扉へと駆けていった。彼女の横顔が、一瞬見えた。目が、とても赤かったような気がした。わたしはなんか、とてもよくないことをしたんだな、とそこで気づいた。
体育教師に事情を説明しようと思って、でもやっぱり辞めてしまった。適当にはぐらかして……はぐらかせたかどうかは分からないけど、でも本当のことはどうも言い出せなかった。わたしはなにか失敗をした、のかな。
体育の授業が終わっても、彼女は保健室から帰ってこなかった。四時間目頃に、早退した旨を担任が報告した。
お昼になって、わたしはトイレに向かった。洗面台の中のお姉さんに、向かい合う。
明るく染めた髪は、綺麗なウェーブを描いている。右側の髪を留めている白いヘアクリップのおかげで、右耳がちらりと見えていた。どこかあどけなさを残しながらも、大人の冷たさを感じる端正な顔に、思わず口元が緩んだ。
今日の髪型も、お姉さんがやったものだった。お姉さんのヘアアレンジはまるで魔法みたいだ。本当にすごい。
かれこれ五分はトイレの鏡の前でお姉さんの顔を眺めていた。わたしは今、お姉さんの姿をしているんだ、と自覚する度、内蔵の温度が上がるようだ。腕を前に組むと、二の腕におっぱいが当たり、耳が熱くなった。
「七海なにしてんのー?もうみんな昼ごはん食べ始めてるよー」
肩の上で髪を切りそろえた、スレンダーな女の子が廊下からひょっこり顔を出してわたしに言った。
「あ、すみません、今行きます!」
敬語を使うわたしを、皆、疑問を感じながらも段々と受け入れ始めた。最初はタメ口も挑戦してみたのだけれど、宇宙人のような話し方になってしまったので、却下になったのだ。年上にタメ口は、難しい。わたしは水道の横に置いた櫛をポケットに入れ、教室に向かった。
朝のうちに買っておいたパンをカバンから出し、机に置く。ベーコンエッグパンと、ピザパン。おいしそう!
いつも、私を含め五人ほどのグループで島を作ってお昼ご飯を食べている。あまり話にはついていけないけれど、皆それについては違和感を持っていないようだ。お姉さんは元々、そんなに話の輪には入っていなかったのだろうか。
「いやでも、七海はいるもんね?彼氏」
ベーコンエッグパンを頬張っていると急に話を振られ、頬を膨らませながら戸惑う。何の話だろう。
わたしに話を振った子はなぜかニヤニヤしていた。いーやちょっとやめなよー、と周りの子達が笑いながらその子を肘でこずく。
「えー?いやでも実際いるじゃん、七海には"彼氏"がさ?」
含みを持たせたような言い方で、からかうようにわたしを見る。どういうことか分からない。
口に入ったものを飲み込んでもわたしは何も言えなかった。指の末端が麻痺したように上手く動かない。
周りの子は、芳しくないわたしの反応に興味をなくしたのか、すぐに、その場は流行りの歌手か何かの話題へと色を変えた。
周りの話題が変わっても、わたしの脳内では、さっきかけられた言葉がエコーのように何度も鳴り響いて止まらなかった。
お姉さん、彼氏いるの……?
薄暗い靄のような疑念を抱えたまま放課後になってしまった。
曇った空の下で、野球部の何かを叫ぶ声が響いた。わたしはそれを聞きながら家へと足を早める。もうすぐ雨が降りそうだった。
高校のすぐ横にある池沿いには桜が並んで植えてある。春にはとても綺麗に咲くそれは、今は葉の色を濃くし、緩やかにカーブした道に影を落としていた。
前方に同じクラスの女の子を見つける。わたしは駆け寄って声をかけた。一緒に帰ろうと誘うと快諾してくれ、わたしたちは並んで歩き始めた。
「あの、」
彼女は何?と首を傾げる。
「わたしに、その、彼氏っているんですか?」
昼休みから胸の中で反響し続けている感情を、そのまま質問としてぶつけてみる。
なにか答えを期待して彼女の方を見ると、彼女はとても理解し難い、というふうな顔をしていた。改めて今自分がした質問を心の中で繰り返すと、あれ、ちょっとおかしいかも?
うーん、と唸るわたしを見て、彼女が戸惑いながら口を開いた。
「噂だと、そうなってるけど。本当は違うの?」
噂?
なんだろう。聞いたこともない。混乱する。
「……噂って、どんな?」
「……社会科の前田先生と付き合ってるっていうやつ。え?その話じゃないの?」
黙りこくったわたしを彼女は困った顔で見つめる。でも、本当に理解が出来なかった。
全身の血液がヘドロに変わったように身体全体に不快感が蔓延する。なにか言葉を紡ごうと思っても思考がぐちゃぐちゃと混ぜられるようで全てがままならない。わかんない。わかんない。
お姉さん、そうなんですか……?
***
「なんか最近、大人っぽくなったよね」
給食のうどんを口に運んでいると、横からそんなことを言われた。
給食に出てくるうどんは熱を逃がさないためなのか、ねっとりしている。とろみのある豚汁にうどん麺が入っているような感じだ。これだと、啜るより普通に噛んで食べる方が行儀がいい。
「そう?」
飲み込んでから聞き返すと、うん、と彼女は頷いた。給食の時間になると、机を左右前後の四人でくっつけるため、普段後ろの席にいる例の彼女は、横の席に位置することになる。
彼女は今日は、頭の上で小さなお団子をふたつ作って、クマのような髪型になっていた。
「今の紗奈ちゃんの方が、断然いいよ」
自信満々に言う彼女に、曖昧な笑みを返す。複雑な感情だけれど、性格が変わったことについて深く疑問を持たれていないのは、有難いことだった。
「……前の私は、あんまり良くなかった?」
ほんの出来心で聞いてみる。声に出したあと、すぐにちょっと後悔した。面倒な感情を飲み込むように、残った汁を流し込んだ。
「うーん、良くないって言うか、なんかノリ悪いって言うか」
「あー……」
なんだか同意するのは憚られた。聞いておいてなんだけど、適当な相槌を打って返した。
「なんか、精神年齢が低いっていうかさ。もう高学年なんだから、ちゃんと空気読まないとウザいって思われちゃうよ?的な」
ウザい。
記憶の底から、濁った既視感が波のように迫ってくるのを感じた。不味い海水が肺に溜まるようだ。過去に、未来に、薄く影が差す。
「そう……かもね」
ウザいかもね。
サラダに入ってあるピーマンを口に入れた。在学中は、この味を、幾度となく味わった。
懐かしさの中にある苦味を、咀嚼している。