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親愛なる鏡の向こうで笑う女王様

作者: 一色 良薬

「鏡よ、鏡。この世で一番美しいのは誰」

 肌を白雪に塗り替える。浮き上がった生きた証である足跡を丁寧に消して、妖精の鱗粉を纏うように粉を散らす。

 瞬きをする度に煌めく輝きと美しさを主張する目尻の確かな線。決して俯くことの知らない睫毛が今日も気高く伸びている。

 強靭な爪はいつだって赤く美しい。その指先で仕上げの色指す紅を手に取り、もう一度真正面から鏡の向こうにいる女王様と目を合わせた。

「それはもちろん貴方様です」

「この先美しい娘が現れても?」

「えぇ。貴方様が一番美しいです」

「いつか老いぼれて醜い姿になっても?」

「貴方の内側から光る美しさは姿形が今と変わっても衰えることはありません」

「嘘ばっかりの鏡。この先に待つのは賞味の切れた需要のない私だけよ。不名誉なことにね」

「自分だけが持つ美しさを信じることが、最高の美しさになるはずですよ」

 塗り終えた紅を携えた口で最高の笑みを贈った。女王様は少しだけ不安に瞳を揺らして、私を真っ直ぐに見つめている。

 二十年前の彼女は信じて疑わないといった、強気の意味合いを持った質問の仕方をしていた。この世の誰よりも美しく、誰がなんと言おうと己の「美」を突き通す精神。けれどそんな女王様も例外なく不安になるのだ。

 でも彼女はおとぎ話の魔女とは違う。周りの「美」を毒林檎で食い潰すほど愚かでもなければ、まだ腐るほど醜態を晒しているわけでもない。

 鏡の向こうにいる女王様を美しくするも、醜くするのも私自身だ。

 そして今日も完璧で天才的な私がそこに映っている。

「鏡よ、鏡。この世で一番美しいのは誰」

 他でもない私が一番に決まっている。魔法の鏡が例え白雪のお姫様を指名しても、私は私の誇りを掲げて最高の笑顔で今日も世界を生きていく。

 しわくちゃのおばあちゃんになっても、いつか骨になってしまっても。最後の時まで鏡の向こうの女王様の美しさを、私が信じてあげるの。

「それはもちろん貴方様です。女王様」

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