ナヴィル視点
沢山の方に読んでいただけているようなので追加です。
初めてリシィと会ったのは俺がまだ商会立ち上げて間もない、兄に連れられて隣国の夜会に行ったときだ。
隣国に行くこと自体は初めてじゃなかったけれど夜会は疲れるので気乗りしなかった。知り合いの女の子と遊んでいる方がましだった。
俺は群がってくる女の子を適当に相手しながらぼんやりと夜会の様子を見ていた。夜会にいる女の子は皆人によって態度を変える。顔がいい、お金を持っている、地位があるなどの利益がある相手には媚び、それ以外には見向きもしない。俺はそれが嫌だった。
社交の場では当たり前のことで、商人の世界もそんなものだ。けど、俺はそんな奴らを恋人にするのはおろか遊ぶのさえごめんだ。
早々に女の子の相手をするのに疲れたのでそろそろ帰ろうか悩んでいたその時だった。
がしゃんと音がしてグラスが割れ、飲み物がその場に広がった。
気になって近づくと女の子がその場で倒れ込んでいた。集まっている人達の話を聞くに、その子が飲み物を運んでいる使用人にぶつかってしまったそうだ。わざとでは無いが、飲み物は床にこぼれてしまっているし何人かドレスの裾にかかったと文句を言っている。
皆その場でひそひそと何かを喋り、その場を見ているだけだ。女の子は目に涙をため、ごめんなさいと小さな声で謝っている。
見ていられなくなった俺が声をかけようと足を踏み出すと、輪の中から1人の令嬢が出てきた。
「大丈夫?」
しゃがみこんで女の子にハンカチを差し出す。そして立ち上がるとドレスの裾にかかったと文句を言っていた人達に向かって言った。
「汚れてしまったドレスは私が替えのドレスを用意致します。いいですよね。マダム・リリィ?」
彼女が声をかけた先には老齢の女性が立っていた。洗練されたドレスに身を包み、眉間に皺を寄せている。
「いいでしょう。わたくしの店のドレスを貸し出します。」
女性がそう言うとその場がわっと盛り上がる。
「マダム・リリィのドレスが着れるですって。」
「わたくし達運がいいみたいですわ。」
皆盛り上がって、飲み物をこぼした女の子からは興味を失っていた。
その隙に令嬢は女の子を起こして、控え室へと連れていった。
俺はその令嬢から目が離せなかった。亜麻色の髪に海の色に似た深い青の瞳を持った彼女の名前が知りたい。俺はそう思った。
多分一目惚れだった。
夜会は1度中断し、こぼれた飲み物を片付けた後再開した。こぼした女の子は新しいドレスに着替え戻ってきた。しばらくしてあの亜麻色の髪の令嬢も戻ってくる。
俺は彼女に声をかけた。
「あの、お名前は。」
言って少し後悔する。あまりにも不自然すぎた。何をやっているんだ、俺は。目の前の令嬢も困っている。
「いや、その……。」
「ふふっ。」
令嬢がクスリと笑う。小さく花が咲いたような微笑みに俺は言葉が出なくなる。
「私はリリシア・フィシィ・フィルムーアと申します。貴方のお名前は?」
彼女が、リリシアがそう言う。俺はしどろもどろに答えた。
「俺、俺はナヴィル・ツヴィ・ハティツリュー。」
「ナヴィルさん。よろしくお願いしますね。」
「よ、よろしく。」
これが俺とリシィの出会いだった。
それから俺とリシィは手紙でやり取りしたりと何度か遊びに行ったりと仲を深めた。仲良くなってくるとリシィは俺の事をナヴィルと呼び捨てするようになり、俺もリシィと彼女の愛称で呼ぶようになった。
リシィはデザイナーになりたいと言っていた。
「私ね、人に綺麗を届ける人になりたいんだ。」
とはにかみながら話してくれた。
俺は彼女の夢を応援したくて、商売の傍らデザインについての勉強も始めた。自身の商会で布も取り扱うようになった。
俺の祖国の帝国は特徴的な柄の布が名産物だ。それを軸に商売をしたら俺の商会は瞬く間に大きくなった。
帝国内に限らず周辺の国にも知られるようになったのだ。
リシィは俺の商会の成長を喜んでくれたし、自分自身も独立して店を開いた。店についての相談を良くしてくれて俺は頼られているようで嬉しかった。
本当はすぐにでも彼女に想いを伝えたかった。でも、リシィは恋愛よりも仕事の方が大事そうだったので言わなかった。
そんな時彼女に婚約者がいるという噂を耳にした。アンドレー侯爵家の子息が女のくせに働いていると文句を言っていたらしい。
調べると裏付けができた。本当のことのようだ。
とりあえずリシィの様子を見守ることにした。
するとリシィが婚約破棄されたと愚痴ってきた。公衆の面前でそんなことを言う相手に腹が立ったが、邪魔者が消えて嬉しかった。
突然リシィの家にナルと言う女が来た。フートレータ男爵家の令嬢だそうだ。媚びを売るような視線や態度も嫌だったが何よりもフートレータ男爵家がリシィの店を知っているとこが気がかりだった。
フートレータ男爵家はきな臭い噂ばかり聞く。数々の違法な取引をして貴族になったとか。話を聞くにナルはリシィの元婚約者と関係があるらしい。
そうなるとアンドレー侯爵家も怪しくなってくる。
俺は急いで情報を集めた。
結果は黒だ。フートレータ男爵家とアンドレー侯爵家は違法薬物の輸出入に関わっていた。しかもアンドレー侯爵家はリシィが取り引きしている商会に圧力をかけて布を渡さないようにしていた。
俺はまずアンドレー侯爵家とフートレータ男爵家が薬物の輸送に使っていた商会に話をつけた。この件に対しての告発はしないから、輸送を止めろと。商会は運んでいるものが違法なものとは知らなかったようですぐに頷いてくれた。
そしてそれとなく隣国の知り合いの商会の会長達にこの件を話した。すると噂が広がりアンドレー侯爵家が小麦を取り引きしている所がアンドレー侯爵家との取り引きを止めたそうだ。
最後に俺は証拠を揃えて国王に提出した。国王はとてもお怒りになり、すぐにアンドレー侯爵家もフートレータ男爵家も取り潰す準備を始めた。
後始末やらなんやらが終わってリシィの店に行くとリシィから夜会のエスコートを頼まれた。願ったり叶ったりなので喜んで了承する。
外堀を埋める意図で俺はリシィに瑠璃色の宝石のネックレスを送った。
夜会当日、自分のデザインしたドレスに身を包み、俺の送ったネックレスをつけたリシィはとても綺麗だった。
思ったことをそのまま口にするとリシィは照れていた。可愛い。
俺の装いのことも褒めてくれた。今日のためにわざわざ青色の宝石でピアスを作って、つけている。傍から見れば俺達は恋人同士だろう。でもリシィはそれには気づいていないようだった。
会場に入って1曲踊ると俺の周りにはすぐに人だかりができた。リシィは大丈夫だよと言わんばかりに片目を瞑り行ってしまう。俺はリシィと一緒にいたかったので適当に女の子の相手をしながらリシィを追いかけようとしたがなかなか抜け出せない。
リシィは綺麗だし可愛いから放っておくとすぐに男の人に声をかけられる。が、持ち前の鈍感さでいい感じに回避していた。
俺は何とかリシィの元に行こうとした。その時リシィの元婚約者から声をかけられた。
なんでも取り引きを俺が邪魔したらしい。あながち間違ってもいないため認めると一方的にまくしたててきた。こんな公の場で個人的な話をするのはどうかと思うが好都合なので違法な取り引きのことをぶっちゃける。
元婚約者は青くなって座り込んだ。
リシィの元へ行くとドレスが濡れていた。どうしたのと聞くとナルがぶつかってきたと言った。わざとらしいと思ったのでリシィが着ているものが新作だと言うと、リシィのブランドのファン達がナルについて噂をし始めた。ナルは恥ずかしそうにしている。
リシィの友人で王太子妃のルルレッタに事情を説明してドレスを用意してもらう。リシィを連れて控え室へと行った。
着替えたリシィは相変わらず綺麗だった。会場に戻るのも嫌だったのでバルコニーへと連れていく。星が綺麗に見えた。
リシィが綺麗だと呟いた。リシィの方が綺麗だと言うと冗談だと思ったのか呆れたような反応をされたので真剣な顔をしてリシィに想いを伝えた。彼女の手に口付け告白すると暗闇でもわかりやすいくらい真っ赤になっていて可愛かった。
それから放心状態のリシィを伯爵邸まで送り届け、滞在しているホテルへと帰った。
しばらくは国王から呼び出されたりと忙しくしていたけれどその間もリシィとは手紙で連絡を取り合っていた。リシィから多分一目惚れしてたと手紙で言われた時は柄にもなくはしゃいでしまった。
「ねぇ、ナヴィル。何笑ってるの?」
リシィが聞いてくる。俺は笑って答えた。
「いや、好きだなぁって思って。」
リシィは驚いたように目を見開くとそっぽを向いてぼそっと言った。
「私も……好き。」
リシィの言葉に笑みが深くなる。
「リシィ。」
愛しい人に呼びかける。彼女はきょとんとした。
「愛してる。」
そう言うとリシィは真っ赤になってうろうろと視線を彷徨わせたあと下から俺を見て
「私も。」
と小さく言った。
なんて可愛いんだろう。俺は愛しい人を見つめる。
1度、リシィにアンドレー侯爵家はどうなったかと聞かれたが俺は曖昧にはぐらかした。
だって彼女は知らなくていいからね。
読んで頂きありがとうございました。
沢山の方に読んでいただけているみたいで本当に嬉しいです。読んでいただいた方、本当にありがとうございます。
お陰様でブクマ登録が100件、ポイントが1000ポイントになりました。ブクマ登録してくださった方、評価してくださった方ありがとうございます。励みになっております。
この話で完全に完結となります。お付き合いいただきありがとうございました。
※誤字脱字報告ありがとうございます。よく誤字や誤った表現ををしてしまっているのでとてもありがたいです。