シャイニング・スピリッツ
――「何だよアレ」「レイちゃんが……」「ふざけんなよアイツ」――
聞こえてくる声を受け流しながら、剣を振る。思いっきり。
悔いが残らぬ様に。
「まっ、まだ――『ライトヒール』」
時折縋る様に回復を挟むが、それはただの引き延ばしに過ぎない。
そしてその時間が彼女の首を絞める。
寄生により徐々に減っていくそのステータスは――今や無視出来ないモノになっているはずだ。
「『スウィング』」
「あ、あれ――うッ!」
普通なら間に合う回避も不可能。
怖いよな。
気付けば、自分の身体がどんどん衰えて行く様に思えるのだから。
「な、んで――ッ!?」
「『シャイニングブレード』!」
そういう風に。
じりじりと。
そのHPを減らしていって――
「――あと10%」
気付けば、もう勝利はそこまで。
――「無職の癖に……」「クソが」「きたねーぞ」――
その声を背中に浴びながら、歩いて行く。
そして、そんな中――
――「レイちゃん負けるな!!」「レイちゃーん!!!」「レイちゃん勝って!!」――
その歓声が、決闘場に響き渡る。
まるでそれは――主人公を立ち上がらせる様に。
「これは、ステータスが落ちてるんですね。厄介なスキルです」
「……ずっと動きが悪かったのは、あの寄生から、ですか」
「油断していました、でも、それはもう終わりです」
喋っている間に突っ込めとか、そんな事を観客は思うだろう。
しかし今飛び込めば――やられるのは俺だ。
どんどんと大きくなる風格。
強く、洗練されて、その目は前へと向いていく。
プロゲーマーである彼女の意地か、才能か。
なんにせよ、俺に無いもので。
「状態異常さえなければ――私は、私のままで居られるのだから!」
まるでそれは、物語の主人公の様に。
「私は、負けません――ッ!」
立ち上がる。
その雰囲気に気圧される。
ああ。
これが――本当に、選ばれた者で。
特別ってやつなんだろう。
「――『シャイニング・スピリッツ』!」
眩い光。
それが彼女を包み込んだと思ったら――
《寄生状態が解除されました》
《片手剣スキルが破棄されました》
《聖騎士スキルが破棄されました》
《ソードの装備条件を満たしていません》
《ソードが装備から強制的に外されます》
「……あ?」
ぽろりと、力が抜けて手から剣が落ちる。
その無慈悲なアナウンスが流れ。
反射的に俺は叫ぶ。
「っ――『寄生』!」
「――『シャイニングブレード』!」
《寄生スキルが無効化されました》
「は?」
もはや彼女に縛り付けるデバフは無い。
本来のスピードを取り戻した、迫り来る光の一閃。
無慈悲なアナウンスを添えて。
「――ぐっ!! はっ……」
動揺もあって、身体が動いてくれない。
初めて食らう一撃。
「『寄生』――っ!」
《寄生スキルが無効化されました》
「やぁッ!」
「ざけんなっ――」
そのスピードに目が慣れず避けるのが手一杯。
ああ、まずい。まずいぞコレは。
「――『シャイニングブレード』!」
「ッ――!?」
避けるのに身体を使いすぎた。
その隙は逃さず、腹にぶっ刺さる一撃。
気付けば体力は60%。
既に半分近く削られた。
対して彼女のHPは、いつのまにか30%まで回復。
「――貴方には負けません。応援してくれる皆さんが居る限り!」
その宣言と共に見下ろす彼女の顔。
……ああ。
本当に、輝いている。
――「いっけー!」「レイちゃん凄い!」「さっさとやっちまえよそんな無職!」――
「……」
「なんで、追撃しない」
回避の体勢を取ったが……俺はそれを解いた。
歓声を見せつける様に、ただ立ち尽くす彼女。まるで格の違いを分からせているかの様だ。
「――『ハンデ』。お返しです」
「はっ。案外気にするタイプ?」
「私はプロなので」
……なんだよそれ。
ああ、クソ腹立つな。
「そのハンデじゃハンデなんて言わないね」
「……な、なんでですか」
――探せ。
口だけ動かして、頭を回せ。
「だって俺、もう負け確だし? お前はただの勝ち確でイキってるだけじゃん? 格上の、舐めプってヤツだよ」
「……ッ」
「シャイニングスピリッツだっけ? アレあるなら最初から勝負決まってたじゃねーか。勝ち確アピもうぜーし、さっさと殺せよ。プロゲーマーさんよ」
「……! あ、あれはHPが30%を切ってからじゃないと――」
「あっそ。なあ、ほら、やんないの?」
「ッ、なんで……」
手を頭の横にあげ、お手上げポーズ。
そのまま俺は脳を回す。
――探せ。
何か。
何かを。
「なんで、そんな事を」
「だって無理ゲーじゃんコレ」
諦めの顔を貼り付け、脳内で思考をぶん回す。
何か無いか。
寄生スキルが使用不可となった今――パーティ専用の職業訓練は使えない。
「せめて正々堂々決着を――」
「いやぁ、だってもうどうしようもないし」
良い感じに時間を稼げているが。
――クソ。肝心の答えが見つからない。
何もない。
「……ッ。分かりました。貴方が諦めたと言うのなら――全力で叩き潰します」
「……」
いやぁ時間稼ぎタイムも終わりか。
俺の煽りスキルも落ちたもんだな。
「――途中で諦める人は、私は大嫌いなので!」
そう叫ぶ彼女。
……ああ、そうさ。
俺だって大っ嫌いだ。
「『シャイニングブレード』!」
迫る一撃。
俺は――俯き、顔を隠した。
「……」
その笑みを、隠す為に。