ハンデ
《決闘は30秒後に開始します》
――「レイちゃんの戦う所が見れるなんて」「生レイちゃんだ」「ほんと可愛いよな」――
「ありがとうございます! PvPはいずれプロゲーマー同士の大会があると思うので、練習したかったんです!」
「こんなレベル低い素人相手でも?」
「相手が誰だろうと関係ありません!」
「そうか(諦め)」
いちいち浄化してくる様な、そんな曇り一つ無い瞳と声。
対人戦闘慣れしていない、よく分かった。
もしかしたら勝機があるかも。一分ぐらい。1%ね。
《決闘を開始します》
「『シャイニングアーマー』!」
そのスキル発動後――純白の鎧に纏われた白いオーラがドレスの様で。
「――行きます!」
「対人戦で、いちいち宣言する奴がいるかよ――」
早速突っ込んでくる彼女。
そしてその相手は“プロ”。
さっきの剣士の様には行かない。
さあ。
ここからは、“瞬き厳禁”だ。
寄生が完了するまでは――
「――『シャイニングブレード』!」
目をかっぴらいてソレを見る。
振り下ろされる片手剣。
それは、美しい白の軌跡を描き――
「――っ」
「!? やあッ!」
空振り。
軌道を予測してステップ、回避したからだ。
しかし彼女もバカじゃない。
外したと分かった瞬間、左手の盾を構え反撃に備える。
良い動きだ。
だが、俺がやりたいのは“攻撃”じゃない。
「――『寄生』っ!」
「ぇ――わ!?」
回避の瞬間、振り上げていた拳はブラフ。
そのスキルを発動と同時に、左足を蹴り上げた。
衝突。
重いが――何とか足を振り上げる。
「ッ~~!」
地面の砂を巻き上げながらの、彼女の右手への蹴り。
武技でもなんでもないが――その剣を手の平から離すには十分だった。
「っと……拾えよ」
「! 来ないんですか」
「ハンデ」
「ッ!!」
距離を取りそう言ってやる。
これまで笑顔しか見せなかった彼女の表情が、初めて――歪んだ気がした。
別にハンデとかじゃなく、その盾の反撃が怖いからなんだけど。
ほんの少しだけ気味が良いと思ってしまったのは、恐らく俺の性格がゴミだからだろう。
“プロゲーマー”である彼女への……ゴミみたいな復讐心か。
《レイ 状態異常:寄生状態》
《寄生段階が上昇しました》
《片手剣スキルを取得しました》
《聖騎士スキルを取得しました》
《武技・スウィングを取得しました》
《武技・シャイニングブレードを取得しました》
「……来た来た」
そして現れるスキル達。
心なしかいつもより多い。
インベントリ――片手剣、ソードを装備。
「――やぁ!」
そして切り込んでくる彼女。
先程と同様、動きを見て回避。
武技は使ってこない――いや。
次だ。
「ッ――『シャイニングブレード』!」
俺の回避後の隙を狙った振り上げ。
良い連撃だが――
「『シャイニングブレード』」
補正がある今、ステータスはほぼ互角。
下から迫る輝く剣に、俺もソレを振り下ろす。
「ッ!?」
衝突。
鍔迫り合いの形になる。
――そして。
俺は、前に頭を突き出した。
二文字にすれば頭突だ。
「ごッ!?」
その、小さい顎を強打。
鍔迫り合いで視線が剣に行っていた所を突いてやった。
可憐な声が、濁点を含んだソレに変わる。
「『シャイニングブレード』」
「きゃあッ!!」
光る一撃を、怯んだ彼にお見舞いして。
倒れる彼女に――
「『スウィング』」
早めの一撃。
……なるほど。シャイニングブレードの方が威力が高いんだな。
しかし、武技の出はスウィングのが早い。
使い分けが肝心と――
「ッ――!!」
追い払う様に彼女が振った剣。
予測し、距離を取っていたため当たらない。
そして当然。
「――『シャイニングブレード』」
「ううッ――」
その隙は逃がさない。
振り終えた後の彼女にまた光の一撃。
俺は未だほとんど無傷。
対して彼女のHPは既に50%。
上手くいきすぎて、逆に怖い。
「来いよレイ」
「ッ!」
そんな不安を抱えながら。
俺は、またその少女に対峙した。