前言撤回
「……へ」
「聞こえなかったか?」
「ちょ、ちょっと貴方!」
「……レイに変な事言わないで」
《カナ LEVEL20 神官》
《ビール LEVEL20 魔法使い》
彼女の向こうから現れる二人。
両方とも純白のローブを羽織っており、また優れた容姿だった。
神官の方は金髪のロングヘアー。
酒みたいな名前の彼女は、黒髪ショート。
俺がゴミに見えてくるから止めて欲しい。
「もう、ほんと目を離したら厄介事に巻き込まれるんだから」
「……気を付けて」
「えへへ。みんなごめんね~」
――「おい、アレ」「レイちゃんだ! なんでこんな場所に」「マジで可愛い……」――
まるで、ここだけお花畑でも有るかの様だ(幻覚)。病院へGO!!
可憐な彼女達を眺める為、立ち止まるプレイヤー達も増えてきた。
どうやら皆幻覚を見ているらしい。集団幻覚か?
――「アイツ誰?」「無職って」「なんか闘おうとか言ってたぞ」――
そして当然、その最中に居るゴミにも目が行くわけで。
……どうしたもんか。
早く答え聞かせてくれないかな。
「で、どうする」
「――あ! す、すいません放置しちゃって」
「いえいえ」
私こんなゴミなんで。
五億年ぐらい待っても良いよ。
「やりましょう!」
「は?」
「……レイ、何言ってるの」
「プロなんだよ私達! PvPにもどんどん慣れとかないと!」
「それはそうだけど……こんな素人相手に、しかもレベル低いし」
思わず驚く。
その後の追撃で、胸が抉られるが耐える。
「でも中々ない機会だし~。お願い二人とも!」
「はぁ……まあ良いけど。さっさと終わらせてよ」
「……」
呆れた様な二人の反応。
ただ、レイだけは意気揚々だ。
「それじゃ! やりましょー!」
「……ああ。条件はこっちで決めるぞ」
《レイ様に決闘を申し込みました》
《レベル差により、レイ様のスキル・ステータスに大きく補正が掛かります》
《決闘時間:無制限》
《賭け対象:なし》
《観戦不可》
「あ、申請来ました。それじゃぁ――」
――「レイちゃん決闘するってまじ?」「見たい見たい!」「観戦出来るのかな?」――
なんか周りの声がうるさい。
というかめちゃくちゃプレイヤー集まってるじゃん……凄いな天使の翼効果。
ま、無視するけど。
決闘は見世物じゃないんだ。
《決闘申請が却下されました》
「は?」
「……ちょっと変更していいですか」
「え」
「観戦はアリにしましょう!」
「――嫌だよ、というかアンタらプロだろ……素人相手の対戦なんて見せて良いのか」
「えっ別によくないですか?」
「レベル5だぞ俺」
「ハンデありますし!」
「……」
本当に、曇り一つ無い瞳。
彼女は考えていないのだろう。
自分が――大衆の面前で敗北した時の事を。
レベルの差はスキルの差。
いくらハンデがあるといえど、その差は大きく出る。
プロである彼女が、そんな状態で負けたとなれば――どうなってしまうのか?
「……やっぱいいや。じゃあな」
「えっ!?」
なんか白けた。
これじゃ万が一、いや億が一勝っても後味が悪くなるだけだ。
そのまま踵を返し、戦闘エリアに向けて歩き出す。
――「えっやんないの?」「何だったんだよ」「まぁあのレイちゃんだからなぁ~」――
聞こえてくる声。
鬱陶しい。
――「レベル差あるとはいえ、PvPって補正掛かるんだろ?」「いや見ろよあの職業……“無職”だぞ」――
「……」
《――「分かりやすく言ってやろう。“モブ”なんだよ君は」――》
聞こえてこないはずの声が、まるで幻聴の様に響いていく。
このまま逃げたら、過去の己に戻りそうで。
どうせ負けると分かっていても。
その結末が迫るとしても。
“プロ”の見世物になるとしても。
「……ああ、クソ。何なんだよ――ッ」
分からなかった。
どうして、そのまま歩いて行かなかったのか。
正気ではない。
そう分かっていながら、俺はその選択をした。
《レイ様に決闘を申し込みました》
《レベル差により、レイ様のスキル・ステータスに大きく補正が掛かります》
《決闘時間:無制限》
《賭け対象:なし》
《観戦許可:決闘コード11245》
「前言撤回――やろうか、レイ」
「!」
もう、後戻りは出来ない。
□
【職業説明:聖騎士】
スキルによりSTR、VITに追加ステータスが掛かる。
近接武器である片手剣と片手盾を装備可能。
攻撃と防御、さらに補助、回復まで行える職業。
だが器用貧乏な一面もあり、プレイヤーに大きく左右される職業でもある。
代表スキルなど
《聖騎士スキル》
聖騎士専用の武技を扱えるようになるスキル。
レベルの上昇により武技は増えていく。
『シャイニングブレード』
片手剣を装備時使用可能。
片手剣を発光させ、そのまま振り下ろす。
少々隙があるものの、与ダメージは大きくモンスターのヘイトを集める効果もある。
《片手剣スキル》
片手剣を扱えるようになるスキル。
また、以下の武技を扱えるようになる。
レベルの上昇により武技は増えていく。
『スウィング』
対象に片手剣を振り回し、ダメージを与える。
隙が少なく扱いやすい。
《ライトヒールスキル》
MPを消費し、少量のHPを回復出来るが自分にしか発動出来ない。
ただ隙も少ないため、己が戦闘中でも無理せず発動、回復出来る。