劣化版
「『アタックハート』!」
叫ぶと同時に、赤いオーラを纏う剣士。
恐らくバフ効果のあるスキル。
……当然俺にそんなものはないが――
「『寄生』」
「!?」
《ヒロ 状態異常:寄生状態》
良かった、効いて。
これでムリだったら終わってたね。
「気色悪ぃなクソが」
「それ、褒め言葉ね(コピペ)」
「ほざけ――ッ!」
迫り来るヒロ。
バフ効果か、移動速度が俺よりも早い。
手に持つ剣は、凄まじい圧を放っている。
俺は何も出来ない。
「『パワーブレイク』!」
「うおっ――!?」
大振りな攻撃。
当たればマズい事になるのは分かる。
「――ぐっ!!」
そして俺は、それに被弾。
吹っ飛ぶ身体。消し飛ぶHP。
「ハハハ!! あんだけイキってそんなもんかよ!」
笑う彼。
見れば、既に俺のHPは40%。
当然次を食らえば死。
ぶっちゃけピンチ。負けるかも(RIP)。
《ヒロ様の寄生段階が上昇しました》
《長剣スキルを取得しました》
《長剣武技・スラッシュを取得しました》
「おっ」
そして鳴るアナウンス。
予想通り、彼の武器スキルを手に入れた。
手早くインベントリを操作し――
《ロングソードを装備しました》
「――『パワーブレイク』!」
「っぶな!」
突っ込んでくる彼を屈んで避け、その剣を装備。
「……気持ち悪ぃ」
「へえ。やっぱスキルは奪えるわけじゃないのか」
どうやら職業訓練と同じで、あくまでもスキルを借りるだけらしい。モンスターでもそうだったけど、プレイヤーでも同様。
ま、奪えるなら強すぎるか。
別に良いんだけど……チート主人公になれるもんならなりたかった。
無理だからクビになったんだけど。
「『スラッシュ』」
「は!?」
とりあえず素振り。
青いエフェクトと共に、振るわれる片手剣。
不思議な感覚だがスライムアタックよりは全然扱いやすい。
「大体分かった――」
「『パワーブレイク』!」
「――あっぶないな!」
そして迫る武技を、俺はギリギリで避ける。
もし彼もスラッシュを使っていたら当たっていた。
「クソッ、おらあ!」
「――『スラッシュ』」
「ッ!!」
大振りな武技からの、無理な体勢の追撃。
流石に当たらない――余裕でそれを避けた俺は、武技でカウンター。
「……は、ハハッ! 雑魚過ぎだろ!」
「言えてるね」
そして減った彼のHPは、たったの“5%”のみ。
アレだけのチャンス。
見返りとしては――
「デカすぎるぐらいだな」
☆
☆
決闘コード:21955。
その決闘場では、二人の決闘者がほぼ“互角”に戦っていた。
お互い、HPを40%。
一時は圧倒的に『剣士』が優勢だったが、今は違う。
対峙する無職が、ひたすらに手数でダメージを稼いでいるのだ。
「――くッ、『パワーブレイク』!!」
「『スラッシュ』」
「ぐあッ……」
最初に振るった『パワーブレイク』とは違い、それは一向に当たらない。
またも不発に終わる大振りの一撃。
それを避け、サトウは小さい刃を振るう。
着弾――たった今、そのライフ差は逆転した。
「来いよ『パワーブレイク』君。あと一発で終わりだぜ?」
「ッ、クソがッ――」
それはまるで誘うように。
最初、大きく削ったその武技を。
しかしながら。
その無職に、絶対にその一撃は当たらない。
そしてまた気付いていない。
剣士のスピードが、その無職よりも劣っている事実を。
そのAGIが、全ステータスが――どんどんと減少している事を。
「――『パワーブレイク』!」
彼は知らない。
知らぬまま、その鈍速の一撃を振るうのだ。
☆
☆
「……クソッ、なんで――!!」
「教えてやろうか?」
体力差は逆転、焦りが露骨に見えてきたところでそう声を掛ける。
「お前には、俺よりも……特にSTR、AGI辺りが高い。その『バフ』も相まって」
「だから何だよ……!」
「加えて、俺よりも『手』が多い。高威力の武技もお前“だけ”が使える」
「それが――」
「――全てにおいて、俺はお前の劣化版だ」
それは紛う事なき事実“だった”。
そして――
「“だからこそ、俺はお前に勝てる”」
「訳分かんねぇ事ほざいてんじゃ――!!」
突っ込んでくるヒロ。
手元には剣。
その手は、既に震えていた。
「――『スラッシュ』」
「!?」
ここで俺は、初めて前に出る。
狙いはその弱点。
「――あッ」
手元の長剣は、彼の事が嫌いらしい。
そりゃそうだよな――全く攻撃の当てられない主人なんて、剣からしても嫌いだろう。
その理論だと、俺は職業自体に嫌われてるんだが。
……傷付きました。死んでくれ。
「なんで……ッ!」
あっけなく弾き飛ばされる彼の長剣。
残念ながらこの世界はフルダイヴVR。
装備を外すにコマンドは無い。
「最初と立場が逆になったな、『パワーブレイク』君」
離した剣を追おうとする彼に、手に持つ剣で制す。
当然隙なんて与えない。
ここからは、一方的な蹂躙だ。