聖騎士レイのプロローグ
「な、なんで――」
あの時。
シャイニングスピリッツを発動し、逆転した時は、まさかこんな結末になると思っていなかっただろう。
勿論俺も。
あの自立スキルとかいうふざけたスキルが無ければ俺は何も出来ずに負けていた。
――「れ、レイちゃんが」「何だったんだよあの動き」「ふざけんな」――
喚く観衆を背に、俺はメニューを開く。
今回の勝ちは運が良かっただけ。
彼らがそう吼える理由も分かる。
「……」
《決闘場から退出しますか?》
「ああ」
だから、彼女には黙って去る事にしよう。
☆
《スライム LEVEL3》
「お前のおかげで勝てたよ」
お礼代わりに、俺はそのモンスターに会いに行っていた。
――「ピギィ!?」「ギィ……」――
相変わらず、周囲のスライム共は初心者達にやられまくっている訳だが。
「ギィ」
戦わずにソイツを眺めていると、結構可愛いもんだ。
その外見も強さも、本当に初心者向け。
どんな奴でも臆さず倒せるモンスター。
「……スライム相手に仲間意識かよ」
もしかしたら――いつの間にか俺は、コイツに己を重ねていたのかもしれない。
だからこそ、自立スキルの説明を見た時……パッとスライムタックルが選択肢の中で輝いていた。
「……ギィ?」
「今日は勘弁してやるよ」
笑ってソイツを後にする。
職業『無職』――自立スキルの発見により、ソレはモンスターと戦えば戦う程強くなれるモノだと認識出来た。
「楽しくなってきた、か」
倒したのは、PVPに慣れていない初心者。
プロゲーマーとはいえ、その根底は覆らない。
が――
「諦めなくて良かったな」
呟いたその声は、仮想世界に消えていく。
☆
☆
《貴方は敗北しました》
《決闘場から退出しますか?》
《退出を選択しました》
「……っ、なん、で……」
一人の少女が立ち尽くしていた。
『始まりの街』――適正レベルとは場違いのフィールドで。
《――「『スライムタックル』」――》
突如として動きが読めなくなった。
まるで人間ではないその回避、攻撃。
そしてあっという間に――彼女は葬られたのだ。
《カナ LEVEL20 神官》
《ビール LEVEL20 魔法使い》
「ちょ、ちょっとレイ!」
「……大丈夫?」
「気にしちゃダメよ、あんな変なプレイヤーにやられたぐらいで」
「……あんな『手』を隠してたなんて、卑怯」
「うん……ありがとうね、二人共」
何とかカナとビールに言葉を発するものの、彼女の目は焦点が定まっていない。
――「レイちゃん大丈夫かな」「あんなのに騙し討ちされて可哀そう」「何だったんだよあの無職、今度見掛けたらぶっ倒してやろうかな」――
周囲の声も、彼女には今聞こえていない。
《――「玲さん、君は選ばれた人間だ」――》
《――「その容姿は勿論だが……そのフルダイヴ適正も、プレイスキルも常人の比ではない」――》
《――「ぜひ君に、『FL』で暴れてほしい……どうだろう?」――》
家族が応募した、そのプロゲーマーチームへのオーディション。
それにあっという間に通り、『エンジェルウィング』として三人で頑張って来た。
楽しい。高校生活も楽しい。FLも楽しい。
敗北なんて無かった。ファンもたくさんできた。このFLにおいて、主人公は間違いなく私達だと。
そんな中――彼に出会って。
「……ッ」
その感情は、恐らくきっと、初めて抱く感情。
そしてそれは、無意識に口から零れた。
「――倒す。何時か、絶対に……」
聖騎士レイ。
これは、彼女の人生の転機となる決闘である。
「れ、レイ?」
「……何か、言った?」
「! なにもー? 早くレベル上げよ!」
三人の少女は駆けていく。
一人の眼差しが変わった事に、二人は未だ気付いていない。
ちょっと更新止まります。申し訳ない……。




