私達を捨てた父が死んだ。悲しくはない
「お墓参りだけでもしていってください」
「お断りします。ああ。墓の場所も教えてくれないで結構です」
マリー婦人はとても美しかった。どうして彼女の様な美しい女性が父のような粗暴な男を選んだのだろう?
「夫は生前あなた方には悪いことをしたといつも嘆いていて……」
婦人の話を私たち兄妹は真面目に聞くつもりはなかった。
『夫が亡くなりそうなので一度お会いしたい』
と婦人にしつこく言われたので渋々私たちは『父の死後』彼女の自宅を訪れたのだ。
生前。父がどれだけ私たちを捨てた事を悔やんでいようが彼は何もしてくれなかった。
母と妹と力を合わせて今日まで必死で生きてきた。
父は私たちにとってもう他人の様な者である。
それにこの家は居心地が悪い。
飾られた多くの子供達の写真が……『私達を捨てた後の父の幸せ』が腹が立つ。
「帰ります。父の遺した物は1ドル足りともいりません。もう会うことはないでしょう」
「……そうですか。あっ。……分かった。だからか」
「……?」
私の青色のネクタイ。妹の黄色のスカートを見て婦人はそう言った。
「子供達が『青色と黄色』の物を求めても夫は決してイエスとは言いませんでした。『お前には白が似合うよ』『君にはピンクが似合うよ』って。おかげで私の子供達は白とピンクが大好きになりました」
「……あぁ」
記憶が急に甦ってきた。私の『色』は青。妹は黄色だった。そうだ。食器。歯ブラシ。バスタオル。
父が買い与えてくれた物はみんなそうだった。父が決めた『私と妹の色』だ。
『これは青だから僕のだね』。そんな事を言ったこともあったな。
父は新しい家庭で私たちの色を守っていたのか。まぁ。それを思い出したところで別にどうという事はない。彼が私達を捨てた事に変わりはない。
ただ数分前とは少しだけ考えが変わった。
「父の墓の場所。やっぱり教えてもらっていいですか?」
妹を見ると妹は微笑んでいた。