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休日『美女たち・後編』

 《ナターリアの世界》


 巷で人気の料理店で、ちょっと遅めの昼食。

 あたいは軽い野菜炒めを。ニコルさんは何やら包み焼きらしき料理を注文しました。


 まず運ばれてきたのは、あたいの皿。色の濃い葉野菜と根菜が目に鮮やかな、こってりした一品。見るからに味が濃そうですが、その割に品のある気配を感じます。野菜の色合いのせいでしょうか?


「先に食べてていいよ。あったかいうちにどうぞ」

「では、遠慮なく……」


 あたいはゆっくりと、折り重なった塊を口に運びます。

 熱くはない。野菜の水分か、それとも調味料のおかげか、半分蒸し焼きみたいになっている。ほくほくですね。


「はふっ……」


 噛むと僅かに残った繊維が顎を受け止め、染み込んだ味を解放する。しょっぱさと甘さが調和した、豊かな味わい。舌の上にそれが広がって……まるで絨毯のように敷き詰められていく。


「むぐ、むぐ……」


 美味しい。未知の衝撃はないけれど、もっと大切なものがこの料理にはある。

 そう、包容力です。

 食べるという罪深い行為に身を投じる我々にもたらされた、救いの手。天の誰かが「たんとおたべ」と話しかけてくれているかのような……そんな温かい慈悲がこの料理に詰まっている……。


 あ、やばい。涙が出てきた。これ、あたいに一番刺さる味だ。


「お母さん……」


 あたいが思わずつぶやいたその言葉に、ニコルさんは笑顔を崩して驚愕します。


「あ、えっと、その、ど、どうしよう。どうしたらいい?」

「どうもしなくていいっすよ。あたいはただ、昔を思い出してるだけっすから」


 今は亡き母の味に、あたいは心を溶かしていきます。

 あたいのお母さんは、それはそれは酷い女でした。幼い頃からあたいを酒場に出入りさせて、年頃になったら裸に剥いて踊らせようとして。


 でも料理が上手で、お金のやりくりが得意で、酒場の人たちからは慕われていました。あたいとも少しは親子らしいことをした記憶があります。完全にダメな人ってわけじゃなかったんです。


「このお店、人気なんですよね?」

「……うん」

「よかった。なんだか認められたような気がします」


 思い出に浸れる場所が増えたことに、あたいは静かな喜びを感じます。

 また来よう。ひとりでも、ドリーちゃんとも。


「……あ、私のも来た。ひと口食べる?」


 ニコルさんの包み焼きも到着したようです。

 外見は亀の甲羅のような、分厚い感じ。肉肉しい色合いで、濃厚そうです。中身は謎ですが、おそらく豚の肉と細かく刻んだ野菜でしょう。芋の気配もありますね。これは味わい深そうです。


 あたいは頷き、ひと口分の量を取り皿に分けてもらいます。

 中身はごろごろした肉と芋。そして辛そうな唐辛子がいくつか。……刺激臭はありませんが、警戒した方がいいのでしょうか。


「まずは私から。はむっ。……うん、おいしい」


 ニコルさんに続いて、あたいもそれを味わいます。

 丁寧に匙に乗せて、いざ。


「あむ……」


 飛び込んできたのは、熱。あたいの野菜炒めよりだいぶ熱い。舌を火傷しないぎりぎりでしょうか。


「はふっ!?」


 その波が収まると、待っていたのは味の沼。底知れない深みが足を奪い、理性を取り込んでいく。

 肉の味が強いのに、血の臭いがまるで無い。周りの食材が個性を出し合って、複雑な味わいを構成しているようです。何が入っているのか、見た目以外ではわからないけど……相当な数の食材が煮込まれているに違いない。唐辛子なんて囮でしかなかったのです。


「むっ、むっ……ふむぅ……」


 香りの奥に隠れているのは玉ねぎ。主張が強い酸味は、赤茄子か。

 ……あたいにわかるのはここまで。これ以上はアンジェちゃんでもないと解析できないでしょうね。あるいは、舌の肥えたビビアンちゃんならわかるのかも。


「ごくっ。……美味しいですね、これ」

「一番人気だからね。あ、にんにくは苦手だった?」

「……入ってたんすか?」

「あれ? まあ、平気ならいいか」


 にんにくに気づかないなんて……あたいの味覚は凡人以下ですな。


 ご馳走様。良いお店を紹介してもらいました。今度また来ますね。


 〜〜〜〜〜


 《ナターリアの世界》


 いよいよ後半です。案の定予定は未定だけど、なんとかなりそうな気がしてきました。


「そうだ、ナターリア。公園に行こう」

「公園……。何かあるんすか?」

「特に何も。ただ、食べた後だから……ゆっくりしたいかなって……」


 ああ、そうか。あたいが泣いてしまったから、どう接したらいいのかわからなくなっているんだ。ニコルさんを困らせてどうする。しっかりしろ、あたい。


 あたいはアンジェちゃんに倣ってぴちぴちと音を立てて頬を叩き、宿屋で鍛えた営業用の笑顔を向けます。


「わかりました。ぶらぶら散歩しましょう」

「うん。せっかく目的が無いんだから、何も考えずにのんびりしよう」


 なるほど。そういう考え方もあるんすね。生産的なだけが生き方じゃないと。ためになります。

 ……女の子同士でイチャイチャするのも、ある意味非生産的ではありますし……。子を作る行為を生産と称するのは、個人的に好きじゃないんすけどね……。


 そういえば、あたいとニコルさんはこうして並んで歩いていますけど……街の人たちからはどう思われているんでしょうね。

 ここは比較的同性愛が市民権を得ている街だそうですが、それでも異性同士じゃないと恋人には見えないのでしょうか。ただの友達だと思われているかもしれません。


「アンジェはね……こうやって並んで歩くのが好きなんだ」


 しばらく歩いたところで、ニコルさんは唐突に話し始める。

 あたいの心でも読んだのだろうか。そうであってほしいような、ほしくないような。


「前を行くのも、後ろからついていくのも、くっついて歩くのも好きらしいけど……アンジェは私の隣にいたいみたい。お似合いだねって、言われたいみたい」

「対等でいたいってことっすか?」

「そうかもね」


 ニコルさんはあたいの歩幅に合わせて、ゆっくりと歩いてくれている。


「私は婦婦(ふうふ)だと思われないのがちょっとだけつらい。周りの目と自分の感覚が食い違っているのがすごく気になってしまう。それでも、アンジェを手放したくなくて……隣を歩いていてほしくて……」


 ニコルさんは、あたいに手を差し出す。

 白くて、細くて、冷たそうな手。だけど触れば温かいことを、あたいは知っている。


「私はきっと、寂しがり屋なんだ。だからこんなにも浅ましくて、図々しい。ナターリアはアンジェの代わりじゃないのに、役割を押し付けようとしている」

「……隣にいたいのはあたいも同じっすよ。普通のことです」


 あたいは迷うことなくニコルさんの手を取って、指を絡ませる。


「アンジェちゃんの許可は下りています。あたいでよければ、心を埋めさせてください」


 我ながらちょっとクサい台詞ですね。でも、演劇みたいで悪くない。

 やりますよ、ニコルさんの恋人役。誠心誠意尽くしてみせましょう。


「私、本当に恵まれてるなあ……」


 ニコルさんの顔がちょっと赤くなったのは、気のせいではないはず。

 願わくばそのまま夢中になってほしいところです。まあ、期待せずに待ちましょうか。


 〜〜〜〜〜


 《ナターリアの世界》


 公園で遊ぶ子供たちを眺めたり、楽器の演奏に飛び入りで加わったり、お年寄りを助けたりしているうちに、だんだんと空が濃い色に変わってきます。


 アンジェちゃんたちはどうしているかな。ドリーちゃんは外出を楽しめただろうか。あたいはとっても楽しかったので、みんなにも楽しい気分でいてほしい。


「いい一日でしたねえ。こんな毎日が続けばいいのになあ」


 あたいが手足の枝を揉んで疲れを癒していると、ニコルさんは夕陽を背に真っ赤な姿で切り出してくる。


「えっと……ナターリア。実は今日、宿を予約してあるの……」

「そうなんすか。帰る必要、ないんすね」


 唐突な予定ですけど、どうせ暇な身分ですし、別に構いません。ドリーちゃんは心配ですが、アンジェちゃんたちがついているなら問題ないでしょう。


「(子を縛り付けるあたいの母親みたいにはなりたくない。ドリーちゃんには、地元の友達のような気安い関係を大切にしてもらいたいものです)」


 ところで、ニコルさんは何故恥ずかしそうにしているんでしょう。顔の火照りは、夕焼けに照らされているだけではないようですが……。


「小鳥の巣の看板娘たるあたいに、宿の評価をしてもらいたいとか?」

「え?」

「違いましたか。ビビアンちゃんが経営でもしてるのかと……」


 それ以外に言うのを躊躇う理由が見当たらないんすけど……他に何かあるんでしょうか。

 悪の組織の潜入調査。いや、それはニコルさんがひとりでやればいいだけです。宿に何かあるんでしょうか。あたいが断るかもしれない何かが。


「酒場があって、そこで踊ってほしいとか?」

「そんなこと言わないよ!」


 ニコルさんはあたいの両肩を掴んで、必死の形相で否定しようとする。

 ……だけど、あたいの顔を見るとみるみる萎んでいき、泣きそうな顔で崩れ落ちてしまう。


「どうしました?」

「そんなことないって思ったけど……私、ちょっと見たいと思っちゃった。ナターリアが踊るところ」


 顔を上げたニコルさんは、積もった雪に熱い蜜を垂らしたような顔で、あたいをじっと見ています。

 ……見覚えがあります。いつぞやのお風呂で見た、とびっきりのニコルさんです。ということは、今のニコルさんは、あたいに対して……劣情を……。


「びえ」


 あたいは自分の頬がぽっと熱を帯びるのを感じる。


 ……まさかニコルさんからこんな想いを抱いてもらえるだなんて、考えてもいなかった。あたいはアンジェちゃんより不細工で、そそっかしくて、貧弱で。好きになるところなんて何ひとつないはずなのに。


「あの、ニコルさん。その宿屋で……何をするつもりなんですか?」

「ナターリアと、一晩過ごす」

「……食事と睡眠をたっぷりとって、ゆっくり休むって意味っすよね?」

「その逆。欲に塗れて、爛れて過ごす」


 ああ、そうなんですね……。ニコルさんは、あたいで興奮できるんですね……。アンジェちゃんしか見てないと思ってたんですけど、意外とあたいでも対抗できるものなんですね……。

 それに、わざわざ予約までしちゃって……。前から決めてたってことっすよね……。まさか、そんなにあたいと……。


「嬉しいなあ。好きな人に求められるのが、こんなに幸せだなんて……」

「そういうこと言われると我慢できなくなるから、やめて」

「嫌っす」


 ごめんなさい、アンジェちゃん。今日のニコルさんは、あたいが貰います。


「早く行きましょう。あたいも……そういう気分になってきちゃいました」

「……そうだね」


 あたいとニコルさんは、お互いに腕を抱き合って、気分を高めながら宿へと向かう。

 ……ニコルさんはいつからあたいを抱くつもりだったんでしょう。もしかしたら、あたいと2人きりで街を回ると決めた時から……。だったら今日の逢引は、ずっとあたいを抱くための前振り……。あたいを籠絡するための前座……。


 いや、いくらニコルさんが助平だからって、体のことしか考えていないはずがない。ちゃんとあたいとまったりする時間を気にしてくれていたはずだ。ニコルさんはそういう人なんだ。


 だから、あたいは……。今日だけでニコルさんにたくさんの恩を作ってしまったあたいは……。


 おとなしく、されるがままにされようと思います。


 〜〜〜〜〜


 《ニコルの世界》


 私はクズだ。アンジェという伴侶がいながら、ナターリアに手を出そうとしている。最初から最後まで自分の意思でお膳立てをして、ナターリアを抱こうとしている。


 どうしてナターリアを愛したいと思ったのか。それは私にもわからない。中途半端な気持ちで愛されるのは苦しいかもしれないのに、それを大切な親友で、旅をしてきた仲間であるナターリアに押し付けようとしている。

 ただの友達であるべきだ。親愛を表現するのに、体の関係は不要なはずだ。それなのに、どうして私は胸を高鳴らせているのだろう。どうしてナターリアの優しさに漬け込んでしまっているのだろう。どうしてアンジェに許可させてしまったのだろう。


 開き直ることができない性格。それなのに、体はどうしようもなく疼いている。


「どうかしましたか?」


 机を挟んだ向かい側で、ナターリアが首を傾げている。


 ……うじうじ悩むのは後にしよう。今はナターリアを楽しませる場だ。全力で笑顔を作ろう。


 私は宿が出してくれる夕食を口に運んでいる。

 ここは魔王の谷の向こうの文化を基調とした、特殊な宿だ。サターンで出会った悪魔祓いのモズメさんが教えてくれた。


 料理は珍しいものばかりだ。野菜の温かい色合いをそのまま活かす色彩感覚。肉は少なく、豆と魚が中心にある。全体的に塩味が強いけど、どこかまったりとしていて後味が良い。


「本当はお箸って道具で食べるらしいよ」

「あー、あれっすか。見たことはありますけど、使いにくそうですよね」


 ナターリアは心ここに在らずという感じの顔で、それでもサターンの民らしく、文化的な経験をもとに相槌を打ってくれる。


 サターン。私にとっての都会。そこで生き続けてきた少女。彼女は私よりずっと都会的であってもおかしくないはずなのに、実家に縛られる生き方のせいで、やっぱり広い世界を見れずにいた。人には多く出会うけど、それでも窮屈そうに生きてきた。


 私の中にあった都会への憧れは……もはや存在しない。都会に生きる人たちも、アース村の人と変わらないと知ったから。


「その土地の人にとっては、慣れてるから使いやすいんだと思うよ。奇妙に見えても、そこには必ず理由がある」

「わかんないっすねえ、その感覚」

「色々な人がいるんだよ。地域によって、色々ね」


 都会だろうと、田舎だろうと、外国だろうと……そこに生きる人間は、やっぱり人間で。私を絶対的に上回るわけではなくて。

 大切なものは、場所じゃなくて生き方なんだ。


「……今まで誤魔化してきたけど……私はたぶん、旅が好きだ」


 アンジェに旅を持ちかけた自分の姿を省みて、私は反省する。


「誰かに経験を強いるのは、きっと自分が経験を積みたいからだ。知らないものを知りたい。やりたいことをやりたい。都会への憧れも、旅を選んだ理由も、私の欲望が根源だった」

「……あたいの知らないところで、そんなに前向きな旅、してきたんすね」


 ナターリアは川魚の塩焼きをつつきながら、不貞腐れている。

 私とナターリアとドリーちゃんの旅は……過酷だったからね。アンジェとの楽々な道中は想像もできないんだろう。


 私はお茶を一口飲んで、提案する。


「ナターリア。もし身の回りに整理がついたら……また旅をしてみない?」

「何処へ、誰と?」

「魔王の谷の向こうへと、みんなで」


 アンジェ。ビビアン。ナターリア。エイドリアン。そして私。最強の軍団だ。

 みんなが全員予定を合わせて自由になれるとは思えないけど、それでも……お婆ちゃんになった後だとしても……いずれはやってみたい。


「この街は終わってもいいと思えるくらい素晴らしいけど、私はまだ満足していないよ。ここを幹にして、枝を伸ばして、また冒険をしてみたい」

「いつになるかわかりませんね……。ビビアンちゃんの使命もありますし」


 ナターリアは小鉢を掴んで、菜葉の和え物を一気に口の中に飛び込ませる。


「それでも……夢があるって、いいことだと思いますよ。ちょうど生きる目標ってもんが欠けていたところですし、おあつらえ向きです」

「それじゃあ……」

「いつか行きましょう。魔王を超えた先に」


 私とナターリアは飲み物を高く掲げて、どちらからともなく笑い合う。


 ……ああ、ナターリア。

 私はきっと、あなたが大好きだ。

 序列はアンジェの次だけど、どうか許してほしい。

 命に順序をつける罪深い私を、どうか……。


挿絵(By みてみん)


 〜〜〜〜〜


 《ニコルの世界》


 夜。待ちかねた静けさだというのに、どうしてこうも心細いのか。

 だが、おじけている場合じゃない。この時が来た。来てしまったのだ。

 ナターリアと私が、混ざり合う時が。


「えっと、灯りはどうします?」


 ナターリアが尋ねるので、私は触手を何本か出して部屋に設置する。


「じゃん。用意してあります。日光を吸収して光る、素敵な植物。要らないなら消してもいいけど」

「眩しいので、ちょっと角度を……」


 私とナターリアは照明の角度を調整して、ぎこちなく笑い合う。


「では、えっと、街を歩き回って不潔ですので、湯浴みの方を……」

「個別?」

「…………個別で。始めるのは、落ち着いた場所がいいですから……」


 私とナターリアは別室で服を脱いで、身を清める。

 髪も歯も爪も整えて、ちょっとだけ香水も纏う。

 ナターリアが帰ってくる前に、寝巻きに着替えておかないと。それとも……必要ないかな。


 ……緊張してるなあ、私。アンジェはなんでも許してくれるから、こんなに気を使うことがない。私が汚い身なりで突然襲いかかっても、笑って許容してしまう。


 ……ナターリアとのこれが、本来あるべき愛の形なのかもしれない。世の恋人たちはみんなこうして身綺麗にしているはずなんだ。私とアンジェの関係が異常なんだ。


「あのー、ニコルさん。終わりました」


 扉の向こうからの合図を受けて、私は仕切りを解除してナターリアと対面する。


 ナターリアは今日買ったばかりの下着に身を包み、恥ずかしそうに身をよじっている。均整の取れた美しい体。ちょうどいい大きさの胸に、長い手足。お腹も細くてすべすべ。髪やまつげは豊かなのにどこを見ても無駄な毛が全然生えていない。剃った跡もない。羨ましいなあ……。


「ニコルさん、すごいっす……。今にも理性が吹き飛んでしまいそうです……」


 ナターリアは私の体を褒めてくれている。お世辞ではないことは十分わかっているけど、褒められ慣れていないからか、まだ実感が湧かないな。

 ……本当に私でいいのかどうか、揺さぶってみようかな。


「ふふっ……。ありがとう、ナターリア。私で興奮してくれてるんだね」

「へえっ!? いやいや、感謝するのはあたいの方ですよ。こんなありがたい経験……いや、変態みたいな意味じゃなくってですね……」

「変態になりに来たのに、そんなこと言っちゃっていいの?」


 私は身につけている寝巻きをほどいて、軽く誘惑してみる。


「夜は短いよ。私としたいこと、いっぱいあるんじゃない?」

「……はい!」


 こうして、私とナターリアは慎重に……やがて大胆に……最後は狂ったように……お互いを確かめ合った。


 ナターリアは初めてだった。


 〜〜〜〜〜


 《ナターリアの世界》


 一晩中求め合って、日が昇っても気が付かなくて。ぎりぎりの時間に宿を出て、乱れた髪を直しあって。

 ……それで終わったと、思っていたんすけどねえ。いやはや、あたいはニコルさんの欲深さを甘く見ていたのかもしれません。


「ナターリア。ここなら人は来ないよ。蝶で見てるから大丈夫」

「だからって、お外でこんな服……変態みたいじゃないですか! あ、ああ……隠さなきゃいけないところが、全部丸見え……」

「あはっ。可愛い……。なんなら、ここで昨夜の続きをしてもいいよ?」

「ぴえっ」


 昨日買ったもの以上にヤバい服を路上で着せられたり……。


「いえーい! ビビアンちゃん、見てるぅ!? 親友のナターリアちゃんは……私の手で、こーんなに可愛くなっちゃいました!」

「あ、あたいは、一晩中抱き潰されて、ニコルさん無しじゃ生きていけない体にされてしまいました。えーと……なんなんすかこの台本」

「恥ずかしがるナターリアを記録して楽しみたいって言われたから……。まあ、2人きりにしてくれた対価みたいな感じかな……」

「あの悪戯大好き水女の提案っすね……?」

「うん。……あ、ムラっときた。もっかいしようか」

「えっ!?」


 あたいの反応を記録して晒し者にされたり……。


 ……まあ、色々ありまして。

 屋敷に戻ったのは、夜でした。


「昼には帰ってくる予定だったよねぇ?」


 ビビアンちゃんが激怒しています。当然です。治療をすっぽかし、本来やるべき仕事も押し付けたんですから。

 ……でも、後悔はしてません。とても楽しい時間でしたから。


 〜〜〜〜〜


 《ナターリアの世界》


 後日。

 白き剣士に愛人がいるという噂が立ったそうです。

 あたいは病棟にいますから、否定しようがありませんね。ふふふ。


 あたいとニコルさんは、周りからもちゃんと恋人同士に見えるんですね。今はただ、それが嬉しい。

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