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第84話『少女たちのXX』

 《エイドリアンの世界》


 お風呂です。ドリーたちはお風呂に入っています。極楽って言うんだよね。ドリー知ってる。

 ビビアンちゃんのお湯、温かくて気持ちいいです。広くてのびのびできます。


「巣箱よ」


 ニーナさんはお湯に浸かってゆっくりしながら、みんなの方を見ています。


「我は頂点より裾野を平穏に保てば、霊峰として高く奉られるのである」

「えっと……?」


 前に、首から下だけならお風呂に入っても平気って言ってたので、その話だと思います。

 ドリーはニーナさんの言葉がちょっとわかるけど、頭がよくないので自信はあんまりないです。


「だが山は山である。信仰され、幸を育むこともあれば、時に道を閉じる壁となる。……我は所詮、でくのぼうである」

「むずかしいの、やめて」

「……栓をした」


 ニーナさんがお口を閉じると、ドリーは退屈になったので、外に置いた枝さんで遊びます。


「あ、リンさんがいるよ」


 ドリーが入っちゃダメってしてるから、困ってるみたい。

 リンさんはお庭の外でこそこそしながら、枝に話しかけてドリーに伝えてくれます。


「引越し作業の合間に抜けてきました。こちらはどうなっていますか?」

「みんな、なかよくなった。これから、もっとなかよくなる」

「……浴場から湯気が出ていますね。なるほど」


 リンさんは足でトントンお土を叩いて、考えています。


「それでよろしいのですか、ニーナ様」


 ドリーがニーナさんの方を見ると、ニーナさんは大きな手で枝さんを持ちます。


「悪くはない。我もまた、群青に招かれる暇が生まれたのだから。それで花丸なのだ」


 ニーナさんはちょっと寂しそうです。ビビアンちゃんがアンジェちゃんたちと仲良くしていると、なんだか切ない気持ちになるみたいです。


 でも、ドリーは間違ってるとは思いません。喧嘩なんか起きないし、ドリーみたいに閉じ込められる人もいません。みんないっしょがいいんです。


「ドリーはみんなのためにがんばったよ。『にんげんにちかづく』ために、ドリーがしんじるやりかたを、がんばったんだよ……。だから……これでよかったって、いってくれると……うれしい」

「人の身に……。貴様らしくもない船室だ。どの客の受け売りだ?」

「ドイルさんってひと」

「そいつがあなたを、唆したのですね」


 リンさんはちょっとだけ怒った声で、ドリーに聞いてきます。


「あなたはニーナ様の願いを反故にしたのです。ビビアン様はニーナ様とのみ結ばれるべきでした。あなたと、あなたに妙な観念を植え付けたその男を……私は不快に思います」

「止めろ。我は静寂である。群青卿は安くない。それから明日は栓を閉ざせ」


 ドイルさんのせいって言いたいわけじゃないです。でもドリーは……ドリーは……。


 ああ、もう、よくわかんなくなっちゃった。


「ずっとずっと、こわかった。アンジェちゃんがめのまえでしんじゃってから、どうすればいいかずっとかんがえてた。だから……なかよししたかったの」

「……かの暗黒の結末か」


 サターンの街で、アンジェちゃんはすごい悲鳴をあげて……死んだ。腐って、崩れて、風に飛ばされて消えちゃった。

 今でもアンジェちゃんの死が、ドリーの頭で騒いでる。いつまで経っても、思い出のアンジェちゃんは苦しんでる。

 あの時から、ドリーはずっとモヤモヤしてる。どうすればよかったのかって。どうすればアンジェちゃんを助けられたのかなって。


 ドイルさんに「みんなのために生きろ」って言われて……見逃してもらって……それで……。

 みんなのためになる方法と……アンジェちゃんを助ける方法……考えて……。考えて…………。

 あの時のアンジェちゃんを治せる方法があるとしたら、たぶん……これしかなかったと思う。


「みんなでいっしょにいれば、あんなこと、おきなかった。ドリーはそうおもうよ」

「……ふーむ」

「まあ、我々には分かり得ないことですね……」


 リンさんとニーナさんは、黙ってしまいました。


 だんまりはつまんない。ドリーもみんなに洗ってもらおうかな。


 〜〜〜〜〜


 《ニコルの世界》


 私は聴力に優れている。だからエイドリアンの言葉を全て聞き取ることができている。


「(そっか。ドリーちゃん、自分なりに必死に考えてたんだね)」


 あの子はまだ幼い。経験も知能も不足している。それなのに、悪魔だから人と関わることができない。経験を積むことができない。

 だから何度も何度も失敗するだろう。これまでも、これからも、失敗まみれになるだろう。


 だけどあの子は成長している。自分の力を、手の届く範囲でしか使わなくなっている。効果は強力に、だけど治しやすくもなっている。

 このまま腕を磨いていけば、そのうち多くの人を救うことになるだろう。


 現時点での問題点は……行動力がありすぎること。そして……悪魔の感性で判断しちゃうことかな。


「(独断専行。価値観の押し付け。貞操観念への無理解。あんなことがあったから、人の中で揉まれろなんて言えないけど……私たちの手で変えていかないといけないね)」


 悪魔に利用され、人間たちに袋叩きにされ、目の前で友達のアンジェを失い……。

 幼い頃の私が同じ目に遭っていたら、世を儚んでいたはずだ。他人から感性を学べだなんて、口が裂けても言えない。


 エイドリアンへの教育は、私の手に余る。子育てとは、かくも難しいものか。私のお母さんも、きっとこんな感じで苦労してたんだろうな。

 悪魔にここまで人間じみた性格を植え付けたナターリアって、結構凄いのかも。


「(エイドリアンについて、今はひとまずニーナさまたちに任せよう。……それより、目の前の事態に対応しないと)」


 私は今、複雑な感情を抱えたまま入浴している。

 身も心もさっぱりしているはずなのに、何故だか妙に胸が苦しい。すぐ近くにいるみんなの姿が、いつもより数段上の輝きを放っている。


 エイドリアンが放った薬の影響で、今の私はそういう気分になっているのだ。


「(ただの友達なら耐えられたけど……気づいちゃったからね……みんなの大切さに)」


 アンジェを洗ううちに、その体の小ささに気がついた。

 綿のように軽く、風が吹けば飛ぶ。そんな体を、私は過剰なほど丁寧に洗い尽くした。かつて私の手で抱いた体だけど、触れるたびに新たな発見があった。


 ナターリアを洗ううちに、その内面の奥ゆかしさに気がついた。

 どこに触れても黙って受けて、まるで抵抗しようとしない。それでもしつこく洗っていると、むず痒そうに脚が動く。

 受け入れるのが上手なんだ。私が何をしても、きっと肯定してしまうだろう。


 ビビアンを洗ううちに、その不健康な荒々しさに気がついた。

 戦いに出るには、細すぎる体。表面を覆うのは、白すぎる肌。触れれば折れてしまいそうで、少し恐怖を感じた。

 壊したくない。この子を苦しめたくない。ノーグさんと共に過ごしたあの日々ごと崩れてしまいそうで怖い。強くそう思い、ビビアンもまた親友以上に大切な存在なのだと実感した。


 どうしてみんな美人なんだろう。どうしてみんな優しいんだろう。愛おしい。もっともっと、絆を深め合いたい。

 たぶん、みんなもそう思っている。私だけじゃないはず。そう信じて、ぐちゃぐちゃにしてしまいたい。


 ……今まさにあの子の主張を裏付けてしまっているような気がする。みんなで()()()()し合う土壌が、私にはあったのだ。


「ニコル。その……つらかったら早めにあがっても、誰にも文句は言われない……と、思うんだ」


 私の太ももを抱きながらうめくアンジェ。

 アンジェに性的な快感は存在しない。幼い体では、性的な刺激を得られない。

 だけど人恋しさから、そういうやり取りを求めることはある。


「(やめて、アンジェ。始めてしまう。始まってしまうから)」


 気がつけば、私は無意識のうちにアンジェの頬を指でなぞっている。

 我慢しないといけない。そう思っているのに、体は正直すぎる。……ああ、自分の欲深さに反吐が出る。


 すると、ビビアンが憤慨してアンジェの背中にへばりつく。


「目の前でいちゃつくんじゃないよ!」

「ビビアン、落ち着いて」

「ぼくとも遊べ! 洗う以上のことをしろぉ!」


 幼児退行して暴れるビビアン。

 この子は賢いけど、つい最近そうなっただけで、半年くらい前まではただの幼い子供だった。むしろこっちの方が正しい状態なのかもしれないね。


 さっきまでもうちょっと理性的だったはずなのに、アンジェに構った途端にこれだからなあ……。本当にアンジェのことが好きで、ついやきもちを妬いてしまうんだろう。


 一方で、少し離れたところで何かぶつぶつ呟いている人もいる。


「あーあ。なんだかえっちな気分になっちゃったなあー! ニコルさんを揉んじゃおっかなー!」

「……ナターリア。ちょっと怒っていいかな?」

「ぎぐうっ!?」


 演技が下手なんだよなあ、この人。たぶんそんなにえっちな気分になってない。そこにエイドリアンがいるからかな?


 私はナターリアを浴槽の隅に引っ張って、事情を聞くことにする。


「ナターリア。私を止めて。一緒になって悪ノリしてる場合じゃないよ」

「い、いやー、あたいもこう見えて、結構乗り気なんすよ。拘束され続けて色々と溜まってますし、それにニコルさんの体……ぐへへ」

「……変態」


 ナターリアを肘で突きながら、私はため息をつく。


 これからどうするべきだろう。ナターリアもこの有様じゃ、本当にみんなで……。


 ……すると、今まで静観していたニーナさまが、私たちのところにやってくる。


「諸君。これが我が秘宝であるぞ」


 ニーナさまはふんぞりかえって、金属の体を見せびらかしてくる。


 お湯で濡れた真珠色の肢体が眩しい。間違いなく作り物なのに、力強い生命力を感じられる。色の塗り方や輪郭の造形が巧みなんだろう。


 芸術を感じる。サターンの街で見た訳の分からない彫刻よりも、ずっと感動的だ。あれに感心してたアンジェには悪いけど。


 するとビビアンが彼女のそばに寄って、技術者として得意げに解説を始める。


「ニーナの体はぼくが作ってるんだ。アンジェの知識にも無い究極の技術さ」

「ほんとに魔道具でできてるんすねえ」

「おへそがある……。わざわざ作ったんだね……」


 ナターリアもアンジェも、興味深そうにまじまじと眺め始める。

 アンジェは知識欲があるから当然だけど、ナターリアはちょっと意外かも。魔道具に興味があるのかな。


 ニーナさまはビビアンちゃんの手足を上品な仕草で指差す。


「彼女もまた、鉄の人足である。翻せし姿見。されど価値は価値である」

「……秘密の暴露、か。まあ、他に見せる機会もなさそうだし……」


 ビビアンの表皮がめくれていく。どうやら魔法か何かでできた偽りの皮膚だったようだ。水のように溶けて、お湯に混じっていく。

 その下には、ニーナさまと同じ光沢が。手足が義肢になっているようだ。


「腕も脚も……機械……」


 もしかしたら、ビビアンが魔道具技師になったのは必要に迫られた結果なのかもしれない。

 ……つらい目に遭ったんだね。


 ナターリアが小さく悲鳴を上げ、飛び退く。私もそうしたかったけど、自分を騙すのに慣れているから、我慢してしまう。


「な、なんすかそれ!?」

「一度死んだ時、手足を失ってね……。あ、でもこっちの腕は無事だよ。ほら」


 ビビアンは右腕を変形させて水に変える。あの崖の上で見た変形と同じだ。


 ……変形して手足を作り直せばいいのに、そうすることはできないのかな。体積が決まっているから縮んでしまうとか……あるいは、あの頃とは体質が変わってしまっているのか。


 いずれにせよ、簡単には戻れないんだろう。あの頃のビビアンには。


 ビビアンは腕を元に戻して、手を開いたり閉じたりしてみせる。

 血色が悪いけど、すらりとした手だ。あらゆる技術を再現するとは思えないほど、無垢な手。愛玩動物のように魅力的だ。


「ぼくの心配はいらないよ。自業自得だ」

「握ってもいいすか?」


 ナターリアが興奮気味に許可を求める。

 なんでそんなに鼻息を荒くしてるんだろう。ビビアンの魅力にやられているのかな。


 ……待てよ。まさか。

 もしかすると、私たちは罠に嵌ってしまったのかもしれない。


「うひょー! お湯に浸かってるのにひんやりしてまふよ!」

「んみぃ……触り方がいやらしいよぉ……」


 さっきまでに培った興奮をより一層高めるナターリア。そんな彼女を、ニーナさまはさも愉快そうに眺めている。


 やっぱりそうだ。この人、私たちを()()()()させようとしている。止めに入らなければまずい。


「ナターリア。さっき洗いっこで散々触ったでしょ」

「……はっ!」


 私がナターリアの肩を掴んで引き剥がすと、彼女はくるりと振り向いて私に抱きついてくる。


 ……節操がないなあ。欲望が丸出しだ。女の子なら誰でもいいのだろうか。


 こんなことをされて、ちょっとだけ嬉しいと思っている私も私だけどね。……この人は最低だけど、良いところもたくさんあるから、嫌いになれない。


「あ、いや、これはあれっすよ。腕の比較です。生身に近いかどうか、確認を……」

「バレバレな嘘はやめなよぉ。ぼくの腕しか見てなかったくせにぃ」

「そうだよ、ナターリア。せめてニコルの腕を見て言いなよ」


 アンジェは私の手を取って、ナターリアの目の前に突きつける。


 こんなに大勢の前で力強く手を握るなんて。アンジェったら大胆。アンジェにされることなら、私、なんでも喜べちゃうんだなあ……。


「(あ……。アンジェ……アンジェがほしい)」


 まずい。媚薬のせいにして、暴走してもいいと思ってしまっている。


「ニコルの手は白くて綺麗なんだ。ビビアンは青白い感じだけど、ニコルは雪のように真っ白で……」

「ぼくが不健康だって言いたいのぉ? ……でも確かに、これは綺麗だ。血管の色が全然見えないのに、汚れひとつない純白で……。すごい……。人形みたい」


 ビビアンとナターリアも、私の手に意識を奪われてしまっている。穴が空くほど見つめて、我を忘れて。


 そんなに必死な顔で見つめられると困ってしまう。ああ、どうしよう。


「ニコルさん……」


 私の全てを求めるような目で、ナターリアが見上げてくる。アンジェも、ビビアンも。


 ……アンジェが混ざっているのが心臓に悪い。だって、勘違いしてしまう。アンジェと同じ感情を、他のみんなも抱いているんじゃないかって。


 ……ああ、でも。ナターリアは私のこと、好きなんだっけ。

 じゃあ、ビビアンはどうなのかな……。ビビアンが止めてくれないかな。そうでないと、私はもう……。


 〜〜〜〜〜


 《ビビアンの世界》


 ニコルの白く細い手は、重い物を持ちたがらない貴族にも滅多にいないほど美しい。元々単なる村娘だったとは思えない。これで旅をしてきただなんて信じがたい。


 でもニコルは魔法を使えるし、蔦を自在に動かすことができる。であれば、指を使う機会なんて滅多にないのかもしれない。


 ぼくはニコルの手に顔を近づける。

 近くで見るほど、肌のきめ細かさがよくわかる。おそらく毛穴が小さいのだろう。ニーナの体を作る際に参考にしたい。


「白いって、いいなあ。義体もいいけど、生身の白さは格別だ」


 ぼくはニコルの手に生えたうぶ毛をまじまじと観察しながら、感想を呟く。


「白い肌に白い体毛。ぼくは頭部以外に毛が一切生えてないんだけど、それでも頭髪やまつ毛の処理に困ることがあるし……目立たない色は羨ましい。管理が楽そうだ」

「……そんな褒められ方、初めてかも」


 ニコルは恥ずかしそうにもじもじと白い体をよじっている。


 よく見ると、体の下の方にも白い体毛が僅かに生えているのがわかる。すね毛は皆無だが……なるほど、そういうところの処理も楽なのか。目を凝らさなければ気づかないところだった。まるで硝子細工だ。


 すると、ナターリアがぼくの視線に気がつく。


「ビビアンちゃん……ずいぶん念入りに観察するんすね」

「えっ? ……そりゃ、貴族の体を作る立場だし」

「いっそ比べっこをしたくありませんか? いえ、あたいが見たいってわけじゃないっすよ、決して」


 ああ、そういう……。こいつ、欲の権化か?


 ぼくはナターリアの手頃な腕の肉を摘んで、一言だけ注意する。


「ぼくは体質を見てたんだよ。研究者として」

「似たようなもんじゃないすか」

「ぜんっぜん違う!」

「いいよ。もっとくらべっこしよう」


 ニコルは、アンジェの方に確認を取って……赤面しながら宣言する。

 アンジェもまた、ニコルに続いて誘惑を始める。


「オレもいいよ、ビビアン」

「いいよって、何が?」


 アンジェの方を見ながら、聞き返してしまう。

 アンジェは風呂場の縁に腰かけながら、ニンマリと微笑んでいる。


「需要があれば、だけど……比べていいよ」

「な、なんの、ことかなぁ?」

「どうせ裸の付き合いをしてるんだから、同じだよ」


 アンジェはゆっくりと、体勢を変える。ぼくたちが覗き込みやすいように。


 ……待てよ。待ってくれよ。そんなことをされてしまったら、いよいよ後戻りできなくなる。本格的に、アンジェを奪ってしまいたくなる。


 ぼくはエイドリアンの方を見る。

 教育に悪い。それが口実になるはずだ。


 だが、彼女は既に風呂を出ていた。ニーナが付き添っている。


「巣箱と我の、健康なる一般的な会合を行う。不埒な集いは、注目の届かぬここで済ませるがよい」


 完全にお見通しじゃないか。あいつめ。人を襲った分際で。

 ……いや、そうか。だからこそ、か。ぼくの裸を見ると気まずくなるから、逃げようとしているのか。


 エイドリアンも、ニーナと手を繋いで満足そうに去っていく。やるべきことはやり遂げたと言わんばかりだ。

 行為そのものには興味がないんだな……。恐ろしいほど価値観がずれている。


 エイドリアンを見送ったナターリアが、アンジェの体を見て息を吐く。


「やっぱり女の子っすね」

「ニコル以外からお墨付きを得られたのは、ちょっと安心する」

「男の子の名残でもあるのかと思いましたけど、全然っすね。恥じらいもないですし」

「恥じらいなら、あるよ」


 アンジェはぼくの方を一瞬だけ見て、目を伏せる。


「恥ずかしいけど、それでも見せてるんだよ」


 ぼくは……ぼくは……。

 もう、我慢できそうにない。


 ニコルの許可を得ているってことでいいんだよね。ニコルも同じことをしているってことは、いくらでも見ていいんだよね?


 ぼくはいつのまにかアンジェの隣に座っているニコルの方を、黙って見る。

 彼女は透明感のある瞳を瞬きさせ、くすくす笑う。


「そう。ビビアンもそうなんだ。もう、勢いを削ぐ方が不自然かもね」


 ニコルは……なんということだ。脚を組み替え、胸を抱え、明確にぼくたちを誘っている。ついに媚薬に屈してしまったのか。


 ……ぼくは魔力の研究者だから、自分の分を解毒できたけど……ニコルは駄目だったか。


「私の恋人はアンジェで、アンジェの恋人は私。それでも良ければ……いいよ。私だって、限りなく恋人に近い位置に、みんなを置いてあげたいから……」


 ……秘密の暴露を経て。お互いの気持ちを晒しあって。傷ついて。泣かせて。……それでもぼくたちは、きっと大切な関係で。嫌いになんか、なれなくて。


 激しい感情のぶつけ合いの末に、それでも最後に、希望が残る。きっとぼくたちは、奇跡的な関係になりつつあるのだ。


 長い長い、戦いの果て。ぼくたちは答えにたどり着いた。全員が納得して、全員を大切にする答えに。

 爛れた関係だと、揶揄されても構わない。ぼくたちはお互いを補完し合う。永遠に。


「う……」


 ナターリアが、吠える。


「うおおおおおおっ!!」


 吠えながら、抱きつく。

 抱擁を、ニコルが受け入れる。


「好きっす! 愛しています! どうか受け入れてください。あたいを……あたいの愛を!」

「うん。うん! いいよね、アンジェ!」

「サターンの街からここまでニコルを支えてくれた君なら……信頼できる。オレと一緒にニコルを幸せにしよう」

「うう……アンジェちゃん!」

「でもオレがニコルの一番だ。それは譲らない」

「それでもいいです……!」


 ぼくも、ああしていいのか。あんなみっともないことをしていいのか。


「ビビアン」


 アンジェの声が、ぼくの中のアンジェを呼ぶ。アンジェを守るぼくを呼ぶ。堕落へと誘う。2人まとめて堕ちていく。


「オレはぼくに溶けることさえ、怖くはないんだ。ビビアンのことをそれだけ信頼しているんだ。だから、もっと……」


 アンジェは寂しそうな笑顔で、ぼくを。


「もっと、オレを受け入れてくれよ」


 ぼくはゆっくりと、お湯の中をかき分けていく。


 〜〜〜〜〜


 《エイドリアンの世界》


 ドリーは今、感動してます。

 ドリーが夢にまで見た最高の幸せが、扉の向こうにあります。


 お姉ちゃんも、アンジェちゃんも、ニコルさんも、ビビアンちゃんも。みんなが生きてて、みんなが幸せになってる。

 みんなが幸せなら、ドリーも幸せだよ。みんなの温かい幸せをお部屋で守るのが、ドリーの役目だもん。


 でもニーナさんは、混ざれなくてすごく悔しそうにしています。


「う、ううー……我を引き止めもせず、あんな……。我はまだ絆が満ちていないというのか!」

「まだ抵抗があるのでしょう。命としての格が違いますから。ま、偉大なるニーナ様の魅力を受け入れるには、忠実なる部下であるこの私でさえ半年を要しましたから、仕方ありませんね」


 ニーナさんに『ちゅうせい』を誓っているリンさんが、そう言って偉そうにしています。お貴族さまのニーナさんより偉そうに見えます。


 ニーナさんはしょんぼりしながら、みんなの幸せの声がする方を見てます。

 よくわかんないけど、すごそうです。おねえちゃんが特に気持ちよさそう。ひどい声だけど。


 ……ニーナさんも、混ざればいいのに。そしたらみんな、入れてくれるはずなのに。


「うう……群青があれほどまでに歓喜を……。我と交わし合った物語は、悲劇と見紛うほどに色褪せておったというのに……」


 悲しそうなニーナさんに綺麗な服を着せてあげながら、リンさんは微笑んでいます。


「ニーナ様。私であればなんなりと……」

「欠員。脆すぎる」

「……今だけは、魔物が羨ましい」


 すごく怖いことを言ってる気がします。脆すぎるって、つまり……。

 ビビアンちゃんがニーナさんを好きになれないのって、ニーナさんのおててじゃ怪我しちゃうからじゃないかな……。


 ドリーはお着替えするお部屋に枝さんを置いて、寝る前のお話にすることにします。

 みんなの気持ちよさそうな声を聞きながら、たっぷりおやすみです。


「めでたしめでたし」


 友達がいっぱいできて……よかったね、アンジェちゃん。

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