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第72話『少女たちの集結』

 ピクト領の端にある、領軍基地。その中をナターリアたちと共に通り抜けつつ、アンジェは胸を高鳴らせる。

 ニコルに会える。愛する彼女とまた触れ合える。それだけで、地獄の苦しみを耐え抜いた甲斐があったというものだ。


 雪のようなニコル。いつも笑顔のニコル。たまに疲れた顔をするニコル。押しが強いニコル。数々の思い出が、アンジェの脳裏に浮かび上がる。

 つらい記憶も中にはあるが、楽しい記憶の方が何百倍も多い。今でさえ幸福で胸が焦げてしまいそうだというのに、これからも2人の思い出を増やせるというのだから、たまらない。


 アンジェは徐々に早足になっていき、ついに先導しているクロムを追い抜いてしまう。


「アンジェ殿。御作法が……」

「緊急事態でしょうに」


 ピクト領にとっても、アンジェ個人にとっても、今はそれどころではないはずだ。作法なんか知ったことか。

 そんな言い訳をして、アンジェは皆を置き去りにしていく。


 ナターリアが無理に追いつこうとしてエイドリアンに止められているのが、視界の隅に見える。彼女には悪いが、アンジェは止まらない。自分を抑えられないのだ。


 机や椅子をすり抜けて、顔と名前が一致しない軍人たちとすれ違い、制止する声を振り払い、アンジェは進む。


「こっちか」


 アンジェは外に通じる扉のひとつを直感で選び、体全体で押して開ける。


 向こう側から、夜の冷え込んだ空気が風に乗って流れてくる。砂が混じっていて、目が痛い。


 そんな中、アンジェは一筋の光を見出す。

 夜の闇の中でも目立つ、一際白い人影。

 間違いない。見間違えるはずがない。


 アンジェは荒野に立つ少女に、駆け寄る。


 〜〜〜〜〜


 《ニコルの世界》


 私の耳が、扉の音を拾う。

 強い力で手のひらが押さえつけられる音。錆びついた金属が擦れる音。砂まみれの床を靴で踏む音。


 あの扉を開けることに慣れていない者だろう。そんな予感がする。ここの軍人なら、もっと勝手がわかっているはずだ。

 だとすると、あれは……。


 私は期待に満ち溢れ、思わず身を乗り出す。

 あの向こうにいるのが、どうか私が思い描く通りの人物でありますように。


 分厚い扉の奥から、女の子が顔を出す。

 黒い。目に飛び込んでくるのは、そんな情報。

 小さい。その容姿を、頭で理解する。

 私はその顔を、しっかりと視界に収める。


「アンジェ!」


 それが何者かを判別すると同時に、咄嗟に私は駆け出す。

 体がアンジェを求めている。本能に引っ張られる。意思より先に脚が動く。


 私は地面を抉り、邪魔な扉を建物ごと吹き飛ばしながら、アンジェに抱きつく。

 左腕はアンジェの肩に。右腕はアンジェのお尻に。顔面をアンジェのお腹に押し付けながら回転し、翼を生やして衝突の衝撃を和らげる。


 中にいる人を避けて、壁にぶつかって、破壊して、吹き飛ばして、更にいくつかの壁を粉々にして、街の中で停止する。


「アンジェ! アンジェアンジェアンジェ!」


 腕の感触だけでわかる。温もりも、肌触りも、何もかもがアンジェだ。

 鼻の奥で息をすれば、アンジェが脳まで直接届く。甘くとろけるような、素敵な体臭。食欲と性欲を同時にそそられる、漂う魅力。


 唇をつけると、鮮やかに痕がつく。舌で舐めると、口いっぱいに甘さが広がる。噛みつきたい衝動を、私は必死に抑え込む。


 ああ、五感の全てでアンジェを感じている。至福。そうだ。私はこのために生きているんだ。アンジェを全身全霊で愛でるために、生きたくもない毎日を乗り越えてきたんだ。古きアース村での過去から、最新最先端のこの街の現在まで。


 アンジェは私の巨大な胸に埋もれ、取り乱して暴れている。

 魔物か何かに襲われたと思ったんだろう。事実、私という悪魔に襲われているわけだから、間違っていないよ。ああ、可愛い。


 アンジェは私の体に魔法を叩き込む準備をしながらも、徐々に落ち着きを取り戻す。


「……ニコル?」


 自信なさげに問いかけてくるのは、私がこんなことをするとは思っていなかったからだろう。

 我を忘れて突進して、軍の基地を一撃で破壊して、迷惑をかけて。

 ……私も驚いてるよ。いくらアンジェの生存が確認できたからって、こんなことをしてしまうなんて。


 私はアンジェを地面に固定して、顔を合わせる。

 まだ気が動転しているらしい、揺らいだ表情。長いまつ毛が折れている。前髪が乱れている。


 私はアンジェの目にかかった毛を払って、しっかりと見つめ合う。


「アンジェ」


 呼びかけると、アンジェの黒い瞳に光が灯る。吸い込まれるような暗黒のまま、その奥に宝石のような確かな輝きが生まれる。


 アンジェは薄い唇を開いて、照れ臭そうに笑う。


「ひとりにしてごめん。寂しかった?」


 なんでアンジェが謝ってるんだろう。悪いのは、守れなかった私なのに。あの日アンジェを剣で貫いた私なのに。


 私はアンジェの唇を軽く奪い、無理矢理抱き起こして腕の中に包み込む。

 大切な恋人に対して、まるで人形のような扱い。身勝手な悪魔による最低な愛の表現だ。

 それでもアンジェは、受け止めてくれる。嬉しそうに私を抱き返して、ぽんぽんと指で叩いてくれる。

 甘い、甘い、猛毒だ。飲み続けて、虜になって、そのうち心も体も痺れてしまう。


 私は甘い匂いに騙されながら、懺悔する。


「アンジェ。この3ヶ月、ずっとずっと、謝ろうと思ってたの。アンジェを殺して、私は私を裁きたくて、だけど何処かで生きてるかもしれないと思って、だから彷徨って、怖くて、歩き続けて……その……えっと」

「ニコル」


 アンジェは私の背中を指で丸くなぞりながら、気が狂いそうなほど優しい声で、囁く。


「見つけてくれて、ありがとう」


 私は……アンジェの骨張った背中を撫でて、存在を確かめる。

 いる。ちゃんといる。死んでいない。ここにいる。


 私はアンジェを抱く腕を離し、残り香を拭わないまま謝罪する。


「私は……ビビアンを探してここにきて……偶然会えただけ」

「偶然でもいいじゃん。今ニコルを責めているのは、ニコルだけだ」


 アンジェは指先で私の唇をなぞり、微笑む。


「懺悔は後回しにして、今を喜ぼう。再会できてオレは嬉しい。ニコルも嬉しいでしょ?」

「……嬉しい」

「じゃあ笑って。オレはさっきから……にやにやが止まらないんだ。ほら」


 アンジェは歯を剥き出して、子供っぽい満面の笑みを私に向ける。


 ……そっか。喜んでもいいんだよね。

 ……でも、みんなを待たせてるから……早めに用事を済ませよう。

 アンジェを愛でるのは、あらゆる憂いを取り払ってからだ。


 私は頬を手でぱちぱちと叩き、気合いを入れ直す。


「ふーっ。よし」


 私は崩れた建物の跡を通って、この街の住民たちに怒られに行く。


 侵略行為に手を染めた悪魔として、この街に深く名を刻まれてしまうだろう。あるいはこのまま軍を巻き込んだ大戦争になるかもしれない。


 それでも、アンジェがいる。ビビアンもいるし、ナターリアもいる。だったらなんとかなる気がする。逃げるにしても、立ち向かうにしても。


「みんなのところに行こう、アンジェ」


 私がそう宣言すると、アンジェは屈託のない笑顔で私の手を握りしめる。


 〜〜〜〜〜


 《ビビアンの世界》


 ありとあらゆるものを破壊しながら飛び出して行ったニコルを、ぼくは呆然と見つめる。


 耐魔法、耐衝撃、そのほか諸々の耐性を付与されたミスリル製の防壁を、あっさりと……。

 作ったことがある身だからこそ、わかる。ニコルはとんでもない。


「ニコル……そんなにアンジェのことが好きなんだ」


 アンジェもニコルのことが好きだって言ってたはずだし……あの2人は、本当に……。

 ぼくもアンジェのこと、結構……いや、凄く好きなつもりだったんだけど……。敵わないなあ。


「……諦めるべきなのかな」


 いやいや。ぼくはとっくにアンジェとニコルの仲を知っていたじゃないか。最初から、アンジェのことは友達として大切にするつもりで……。


 ……なら。

 なんでこんなに……。


 胸が苦しいんだ。


「うおおおおおおっ!」


 倒壊した基地の方から、凄まじい声量の雄叫びが聞こえる。

 少女の声帯を酷使して放たれる、獣の咆哮。そんな響きだ。

 恐ろしい。理解できないものは、ただひたすらに恐ろしい。


 でもぼくは、その声の主に覚えがある。この無遠慮な好意のぶつけ方は……ナターリアだ。


「うおおおおお! ビビアンちゃん復活祭を開催しなければなりませんねえ!」

「ナターリア……なんで……」


 緑色の髪。小さな口。そこそこの上背。遠目でもはっきりとわかる。ナターリアだ。

 あまり長い付き合いではなかったが、それでも彼女の姿は脳に染み付いている。声も印象に残っている。強烈だったから。


 何故お前がここにいる。そんな言葉を、ぼくは飲み込む。通信でナターリアの存在を聞いていたことを思い出したからだ。


「そういえば、いるんだっけ。連絡されてたなぁ」


 ナターリアはぼくの頭から指先までを素早く、それでいてじっくりと、鋭い目つきで観察する。


「おお……貴族っすねえ。服の出来が違う。生地も糸も技術もぜーんぜん違う。これ……裏地はどうなってるんすかねえー!?」

「めくるなよぉ。めくるなってば……」


 悪魔になってるとか片目がなくなってるとか、不穏な情報ばかり聞いていたから心配だったけど……意外と元気そうじゃないか。腕が折れてるけど。


「おお……おおおおお……」


 ナターリアはぼくの体を見て、涙ながらに拝んでいる。

 砂の上に膝をついて、ぴったりと両手を合わせて、声を絞り出している。

 一見信心深い修道女のようにも見えるけど、彼女の脳を占めているのは、熱を帯びた欲望だ。


「おおおおお……このうるおい、この色合い。記憶のままのビビアンちゃん!」

「変態」

「でも手足の様子がおかしいっすね。こことか、なんか金属っぽい雰囲気がしません?」


 ナターリアは水の体で覆われたぼくの義肢を見抜いてくる。

 ぱっと見では違和感がないはずなんだけど……流石はナターリア。ぼくの体を誰よりも見てきただけのことはある。


 ぼくは水を解除して、金属のそれを見せる。ナターリアには伝えておいてもいいだろう。


「ほら、これだよ。ぼくは手足が無いんだ。利き腕だけは無事だけどね」

「ぴえっ!? なんてこった! ビビアンちゃんの麗しきおみ足が一大事に!」


 ナターリアはぼくの魔道具と肉体の繋ぎ目をまじまじと身始める。

 そんなに気になるのだろうか。最新技術だし、気になるのも当然か。


 ……ちょっとだけ、見せびらかしてみようか。


 ぼくは体を流動させて、脚の付け根を見せる。


 肉に触れても痛くない、魔物の脂肪。それを加工してできた、柔らかい接続部分。

 ぼくが作ったものだ。不良品を改造して、ぼくがこの手で。

 こうして他人に披露する機会が生まれるとは、人生何が起きるかわからないもんだね。


「見える?」

「うん。サターンの街ですら見たことがないすんごい代物だってことは、わかるっすよ」

「せっかくだから、解説しよう。これは聖水循環機構を備えた……」


 ぼくは体勢を変えて、さっきまで服の内側に隠れていた部分をナターリアの鼻先に突きつけて……。


 そして、異変を察知する。


「あ」


 振り返ると、周囲に人がいる。何人も。

 クロム、アンジェ、ニコル、エイドリアン、ドーナの順に並んでいる。


「お嬢様……なんという……」

「うひゃあ……お外で中身見せてるよお……」

「そういうのもアリ」

「ドリーはなかよしでいいとおもう」

「見なかったことにします。今すぐ記憶を消します」


 見られてしまった。野外での不審な行為を、見られてしまった。


 ……ぼくは。

 ぼくは。


「あんぎゃあああおおおおうっ!!」

「ビビアンちゃんが壊れた!」


 ぼくは慟哭し、体を隠す。

 どうにかなってしまいそうなほど昂って、それでいて脳の芯は冷え込んでいる。


 ぼくは羞恥心が薄い。踊り子をしていたし、基本的には裸を見られても平気だ。

 でも……今の行動を変態的に受け止められると、途端に恥ずかしくなってしまう。そういう意図じゃなかったからか?


 ……まあ、いいや。

 久しぶりにナターリアと会って、気が動転してしまったけれど……それも今回限りだ。明日からは、節度を持って正しく生きよう。


 とりあえず、服を着るか。


 〜〜〜〜〜


 基地で話し合いを始めた使用人たちをよそに、アンジェは戦場に集まった面子を見る。


 ニコル。ナターリア。エイドリアン。ビビアン。そして自分。

 大好きなみんな。奇妙な人が多いし、半分以上は人でさえないし、まだ面識がない組み合わせもあるけれど、それでもきっと……。


「(オレたちは仲良くなれる。かけがえのない素晴らしい関係になれる)」


 これは予感だ。そして、願望でもある。隣人のために命だって懸けられる面々が集まったのだから、強固な結びつきを形成することだろう。アンジェはそんな未来を夢見ているのだ。


 アンジェは狂ったように笑うビビアンの肩を叩き、小さな声で慰める。


「周りがなんと言おうと、オレは味方するよ」

「アンジェは優しいね。また見せようか?」


 ビビアンはとち狂った様子で提案してくる。

 断られるとわかった上での軽口だろう。ここで賛同したら面白そうだが、やめておく。


「(悪戯はさっきのビビアンでお腹いっぱいだ)」


 次に、アンジェはビビアンの股間を凝視していたナターリアに目を向ける。


「久しぶりに会えて嬉しいのはわかるけど、あんまり変なことしないでね。庇えなくなるから」

「……肝に銘じました」


 ナターリアはひどく落ち込んでいる。

 落ち込むだけで解決するほど貴族の信頼は安くないのだが……迂闊なことをしたビビアンにも非はある。責めないでおこう。


 アンジェは2人の手を握って、ニコルとエイドリアンが待つ方へと引っ張る。

 まずは先ほど愛を確かめあったばかりのニコルが、太陽のような笑顔で出迎えてくれる。


「ふふっ。ナターリアとビビアンって、そんな感じの関係だったんだね」

「い、いやあ、違うんすよ。以前はもっと普通の会話をしてたんすけどね……」

「そうそう。普通普通。大事なところなんて、ちょっとしか見たことないよ」


 墓穴を掘りながら、ビビアンの興味の対象はエイドリアンへと移る。


 この2人は初対面だ。どのような会話になるのか、気がかりだ。

 魔物のビビアンと悪魔のエイドリアン。非道徳的な知識人のビビアンと、常識さえろくに知らないエイドリアン。

 お互いに興味はあるようだが、そもそも共通の話題があるのかどうか。


「君が報告にあったエイドリアンかぁ。悪魔だそうだけど……」

「はい。ドリーはドリーです。おねえちゃんのいもうとです。よろしくおねがいします」


 自己紹介になっていない自己紹介を終え、エイドリアンはぺこりと頭を下げる。


 その姿を見て、ビビアンは学者のような顔つきで何やら思案に耽る。


「ナターリアと同一の魔力を感じる。通常、双子でも幼少期の経験によって魔力に微妙な差異が生まれることが多い。完全に一致しているのはどういうことか」

「ドリーちゃんはあたいの眼球なんすよ」


 多弁なナターリアがまた口を挟む。

 エイドリアンの素性を解説できるのは彼女しかいないので、アンジェには余計なことを口走らないように祈ることしかできない。


「あたいのこっちの目に、魔力を全部と、記憶をちょろっと。それでできたのがドリーちゃんっす」

「……なんだそれは。聞いたことのない事例だ」


 ビビアンは更に思慮深そうな顔になって、エイドリアンを観察し始める。

 数々の知識や経験を積み、ビビアンはマーズ村にいた頃よりずっと知的になっている。


 エイドリアンはビビアンの眼差しに当てられ、恥ずかしそうに俯きながらも、目を逸らさずにじっとしている。

 とてもお利口だ。エイドリアンが人懐っこい生き物であることが、この行動だけでよくわかる。


「ドリー、なにかへん?」

「うん。他者に魔力を分け与えて悪魔にする事例はあるけど、自分の肉体そのものにとなると……。アンジェの知識にも載ってないよね?」

「無いよ。ドリーちゃんは例外中の例外だね」


 アンジェは念のために再度知識の海を漁りながら、ビビアンの問いに答える。


 エイドリアンが生まれた経緯は、アンジェの能力とこの街に蓄えられた知識をもってしても解明できないようだ。謎は深まるばかりで、糸口さえ見えない。


 ビビアンはアンジェと手を繋ぎ、共通の魔力を通じて思考の同調を試みる。

 それを受け、アンジェは知識の海に深く深く潜り始める。


「ねえ『オレ』。『ぼく』が考えてることわかる?」

「ドリーちゃんはナターリアと似てない」

「正解。姉妹や親子だとわかる範疇にはあるけど、ナターリアの分身とは言い難いね」

「オレとぼくみたいな関係なのかな?」

「どうだろう。魔力のやりとりをしている辺り、共通点はあるけど……」


 ……最もうるさいナターリアが静かになり、2番目にうるさいビビアンが研究に没頭し始めたことで、しばらくの間、荒野の片隅に沈黙が流れる。


 そのうち、使用人2人がニコルと接触し、何事かを話し始める。 

 アンジェも加わるべきだろうか。街を破壊したせいで、ニコルの立場は非常にまずいことになっているはずだ。

 そう思って、ビビアンに同調の解除を提案しようとしたその時。


 空から何かが降ってきて、地響きと共に皆の輪の中に降り立つ。

 脚と背筋をしっかり伸ばしたままの、強者の貫禄を帯びた着地。


「風光明媚なわたくし、着陸ですわ!」


 辺境伯ニーナである。

 何度聞いても慣れない、不安定だが堂々と偉そうな口調。一般庶民が着るはずもない豪奢な服装。内側に隠された機械の駆動音。


 アンジェは同調を解いて尻餅をつく。


「ぎゃあああっ! 襲撃だあ!」

「暗黒! 幾度水に飲まれれば気が済むのだ!」 

「ニーナが変な登場するからでしょぉ!?」


 アンジェは土下座し、ビビアンは怒り、他の面々は訳がわからず硬直している。


 それもそうだろう。貴族女性が何もない上空から落ちてきた挙句、よくわからない発言を繰り返して、ビビアンと口論を始めたのだから。


 いよいよ状況が混沌とし始めたところで、使用人たちが見かねた様子で皆に声をかける。


「……ひとまず、事態の収拾をしなくてはなりませんね。関係者の皆様に聴取を行いますので、静かに……本当に、どうか静かにお待ちください」

「お嬢様は話がややこしくなるのでこちらに」

「やーだ! ぐんじょー! 獅子奮迅!」

「我儘を言わない!」


 ……その後。

 数日かけてクロムとピクト家による厳しい尋問が行われ、今回の騒動は無事に閉幕した。


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