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第54話『大いなる癇癪』

 《エイドリアンの世界》


 ドリーはゆっくりお家を動かして、立ちます。

 見えてはいないけど、枝が触れたところはなんとなくわかります。ひとつひとつはなんとなくでも、たくさんあれば外の世界がわかります。


 エコーさんのネズミが何処に潜んでいるかも、ちゃんとわかってる。お姉ちゃんに地図を見せてもらったし、物の名前もちゃんとわかります。


 さいしょに、そこの井戸の裏。

 硬そうだけど、ドリーのお家とどっちが強いかな。ドリーの方が強いよね。だってお父さんが作ってくれたんだもん。


 お父さんは、大工さんでした。ドリーが来てから、ドリーのために、ずっとお家を改造してくれました。だからドリーは今、おうちを背負って戦えるんです。


 ……お父さん。ドリーを怖がってたけど、娘だって言ってくれた、優しいお父さん。

 そんなお父さんを……エコーさんが、ころし……てしまいました。


 許さないよ。ドリーは許さないよ。お父さんにしたことを、エコーさんにもやっちゃうからね。


「ドリーはもう、おこったんだからね!」


 ドリーはネズミが隠れているはずの井戸を、拳でゴーンって殴って、壊します。

 やっぱり裏側には、エコーさんが隠れていました。小さくて可哀想だけど、潰します。


「『可愛いおてて(カドリー・ドリー)』!」


 お姉ちゃんが考えた詠唱を、ドリーは頑張ってなぞります。


 詠唱すると、体がすっごく軽くなります。決めておいた動きを、簡単にできるようになります。やっぱり魔法ってすごいです。


 お家のおててで、ネズミは簡単に潰れました。周りのお家もちょっと崩れちゃいました。

 ドリーはちょっとつらいけど、まだ戦うよ。


 ドリー、頑張る。見ててね、お姉ちゃん。


 〜〜〜〜〜


 《ニコルの世界》


 東区にある宿『小鳥の巣』。その建物が巨大化し、大木のような巨人となって、街を踏み潰していく。

 動きは鈍重で単調。右足を出したら今度は左足。次の動きが簡単に読める。


 それでも……あんなもの、人間じゃ誰も避けられないし、防げないと思う。巨体であることは、それだけで強い。


 東区の家が崩れて消えていく。積み木でも崩すかのように、あっさりと無に帰っていく。私がいる西区に来るのも、時間の問題か。


「まさか……ドリーちゃんが……?」


 私はその事実に思い至り、愕然とする。

 地下から現れた植物の巨人。目立つ位置に装着された宿屋の看板。あんなものを生み出すとしたら、エイドリアンしかいない。


 だとしたら、何故あんな真似を?

 エイドリアンは大人しい子だ。街中で暴れ回ったりするとは思えないし、ましてや人殺しなんてするはずがない。ナターリアが悲しむようなことはしないはずだ。


 ……そこまで考えて、私は西区で追われて傷ついたナターリアの姿を連想する。

 そうだ。ナターリアは今、あの状態だ。エイドリアンを止めることはできない。むしろあの子が暴れる原因になってしまっているのかもしれない。


「エコーは何処に?」


 巨人の大暴れを呆然と眺めながら、私は印をつけたエコーの魔力を観測する。


 そして、いくらかの観察を経て、私は確信する。エイドリアンはエコーと敵対している。

 エコーらしき魔力が街の中を行ったり来たりするたびに、巨人の足がそれを狙って追いかける。エイドリアンは明確にエコーだけを狙っている。


 まるで、じゃれあう猫とネズミだ。……それにしては、周りへの被害が大きすぎるけど。


「あれを止めるには、どうしたら……」


 私は蝶を飛ばして街の様子を確認しながら、必死に考える。

 戦って止めるのは難しいし、彼女を傷つけてしまう。説得するべきだろうけど、あの巨体の何処にいるかわからない。声が届くかどうかも……。


 ならエイドリアンではなく、その敵……エコーをどうにかするべきだろう。私もあいつを倒したいし。


「私が先にエコーを仕留めよう。そうすれば、ドリーちゃんも止まるはず」


 私はありったけの蝶と蔦をばら撒いて、街中を私の魔力で満たす。

 ……私はまだ、自分の魔力量を把握できていない。だからいつまで保つかわからないけど……それでも、やるしかない。


 〜〜〜〜〜


 《エイドリアンの世界》


 ドリーはネズミを潰しています。

 何度も何度もお家を動かして、潰しています。

 げんこつで、あんよで、たくさん潰します。


「『輪になって(フレンドリー・)踊ろう(カドリール)』!」


 ドリーはお姉ちゃんから教わった踊りで、街を踏んづけていきます。


 ネズミをたくさん倒します。エコーさんの魔力がどんどん消えていきます。

 悲しいけど、エコーさんにころされちゃった人の方が、もっと悲しいと思います。だから、ドリーは酷いことを続けます。


 ドリーが暴れると、街がどんどん壊れていきます。みんなが住んでいたおうちが、みんなが集まっていたお店が、なくなっていきます。

 でもエコーさんを倒すには、こうするしかないんです。エコーさんはたくさんいてどんどん増えるから、こうしないといけないんです。


「『夢のような(ドリーミー・)ふわふわお菓子(クネドリーキ)』!」


 ドリーはお家をぐるぐる回して、街をごろごろ転がります。


 ここに街の人はいません。魔力がありません。他のところに行っちゃったか、エコーさんに食べられちゃったんだと思います。

 だから、一気に潰します。こうした方が、早いし楽ちんです。


 ドリーは次に、南区に歩いていきます。

 あそこはネズミの食べ物がたくさんあるって、エコーさんは言ってました。


 ……お姉ちゃんは何処にいるんだろう。会いたい。


 〜〜〜〜〜


 《ニコルの世界》


 私は西区を離れ、飛び回る。


 速度が出過ぎて、恐ろしい。翼を生やせるようになったばかりの頃は、よく制御を失って頭をぶつけていたことを思い出す。

 それでも、今の私なら……自由に飛べる。


「(街の住民は、ほとんどが中央と北にいる。ネズミがいるのは、東と南……)」


 餌が豊富で、ネズミが暮らしやすい地域に固まっているみたいだ。

 北と西は貴族がいるから掃除されていて、数が少ないのか。


 ……整備されている場所が安全なのは、ありがたい。貴族は従者を盾にしながら自分たちの馬車で街を離れてるし、ちょうどいいね。


 私は中央広場に蝶を飛ばして、そこにいるドイルさんとナターリアに声をかける。

 どうやって会話が通じているのかわからないけど、こんな大混乱の中でも聞こえるし伝わるんだから、それでいいよね。


「ドイルさん。みんなを避難させてください」

「……ニコルか。あれはなんだ?」

「たぶんエイドリアン……ナターリアの妹です」

「あれがそうか」


 ドイルさんはあまり驚いていない。あの子のことを知っているはずがないんだけど……。


 私は蝶をドイルさんに付けて、エコーの魔力を感じない場所に誘導する。

 街の全景を理解しているのは、私だけだ。戦うだけが私の仕事じゃない。


「そこにいると危険です。人々を連れて、西へ」

「悪魔は西から出現したのだが」

「こっちはもう滅ぼしました。エコー本人にも会いましたけど、大した脅威ではなさそうです」


 ドイルさんは一瞬だけ「信じられない」と言いたげな顔になって、慌てて取り繕う。


 ……なんでびっくりしてるんだろう。ドイルさんだって、中央広場に襲ってきた悪魔たちを全滅させてるんだから、そんなに驚くほどのことではないと思うんだけど。


「わかった。すぐに向かおう」


 そう言って、ドイルさんはエイドリアンの巨人に立ち向かおうとしている悪魔祓いを宥め、人々を逃がそうと試みる。 


 街を見下ろすほど巨大な相手を見て、当たり前のように立ち向かえる悪魔祓いの人たちって……ちょっと怖いかも。私には理解できそうにない。


「……さて」


 私は空の上から、エコーの魔力が濃い場所を探し当てる。

 南の商業区域と、西の芸術区域。その間に、おぞましい魔力が漂っているのを感じる。


 ネズミが集まっているのか、それとも本体がそこにいるのか。

 エイドリアンが見つけるのも時間の問題だろう。あの子がたどり着く前にエコーを倒さないと。


 私は急降下して、流れ星のようにその場所まで突撃する。


 〜〜〜〜〜


 《ニコルの世界》


 墜落とともに、衝撃が私の体を駆け抜ける。

 この街にあるどの建物よりも高い場所から落下したのに、さっぱり無傷だ。


 体が慣れてきたのか、シュンカに負けていた以前よりも、ずっと頑丈になっているのを感じる。

 不気味だけど、そのおかげで守れるものがあるんだから、ありがたいことだと思う。


 私は着地の衝撃を受け止めた龍の脚と、背中に生えた龍の翼をゆっくり動かして、回し蹴りをする。

 たちまちのうちに砂埃が吹き飛んで、視界が良好になる。瓦礫も一緒に吹き飛んだから、戦いやすい地形になったかも。


「ここは……何?」


 私は周りにある箱の中身を見て、無意識に呟く。


 積み上げられた木箱。商人を通じて南の商業区域に流されていただろう、凄まじい数の在庫。

 その中身は、ほとんどが乾燥した植物の葉だ。しかもエイドリアンの魔力でできた、単一の植物だ。


 ……エイドリアンは、エコーに味方していたのか。

 あの子は良い子だけど、生まれたばかりで世間知らずだ。詐欺の被害に遭ったようなもので、責めるのは酷だろう。


 私は知らないけど、アンジェに聞けばどういう効能の植物なのか教えてくれただろう。

 あまり良い予感はしない。おそらく中毒性のある、使い方次第で人の命を奪いかねない代物なのだろう。


「ずいぶんとお早い到着で」


 崩れた箱の間から、エコーが現れる。

 私は蔦を伸ばしてその胸を貫きながら、尋ねる。


「この葉っぱ、何処に流したの?」

「やれやれ。まだ未遂ですよ。ここを奪った後、街が悪魔の手に堕ちたと知られる前に動き、世界を獲るつもりだったのです」


 それだけ言って息絶えたエコーの分身を、私は地面に叩きつける。

 ネズミの死骸だけが、後に残される。本体はまだ死んでいない。

 魔王の側近を名乗るだけあって、本当に厄介だ。


 私は次のエコーが背後に生まれたことを察知して、また蔦の触手で貫く。


「あなたが商人をやってるの? それとも人間を洗脳して操ってる?」

「両方ですよ。……フフフ」


 エコーは新しいネズミに乗り移り、木箱を投げつけてくる。

 私はそれを蹴って弾きながら、触手でエコーの首を捕まえる。


 エコーは抵抗することもせず、楽しそうにぺらぺらと喋る。


「あなた、私だけが唯一の悪であると思い込んでますね?」

「そうでしょ。違う?」

「違いますよ。これだから人間は……ぐっ」


 首の骨を折られたエコーは、新しく柱の影から姿を

 見せる。


「強き者だけが生き残るこの世界において、弱者こそが悪なのですよ。力無き者、心弱き者、皆ことごとく滅ぶべし……ぐっ」


 私はそのエコーの脚を掴んで引き裂きながら、罵倒する。


「やっぱり悪魔ってクソだね」


 次のエコーは、天井裏だ。私の侵入で崩れかけているから、立ち入らない方が安全かな。

 むしろ、この周辺の木箱が全て危ない植物なら……大暴れする方がいいかもしれない。


 エイドリアンと仲違いしたなら、もう植物の増産はできないだろう。こいつの計画の何もかもを、打ち砕いてやる。


「『火の脚:マツ・バ』!」


 私はアンジェから教わった魔法を龍の脚で放つ。

 私は火の魔法の適性が薄いみたいだから、アンジェほどの威力は出せない。せいぜいこの倉庫を焼き尽くすくらいだ。


 脚から広がった炎は床を這って徐々に拡大し、乾燥した葉を消し炭にしていく。


 エコーは私が迅速な追跡を諦めたことを見抜き、ネズミたちを集めて、何かをしようとしている。

 魔力の反応が不穏だ。数が増えたり減ったりを繰り返している。体積は増える一方だ。


 ……まさか、配下を呼べるだけ呼んで、彼らと合体しているのか。


 私はエコーがいる天井裏に飛び上がり、炎を纏った触手を3本同時に伸ばす。

 柱を吹き飛ばし、天井を突き破り、触手は屋根の上まで鋭く伸びていく。

 空で交戦したエコーの分身程度なら、これで仕留められるはずだ。


 だけどエコーの気配は消えない。それどころか、蔦を止められた感触がある。

 ……ここからが本番ということか。


「おっと、君のための合体じゃないよ。あの建物を壊すためさ」


 エコーは私の蔦を素手で引きちぎりながら、悠々と姿を見せる。


 外見が変わっている。人間の優男らしい姿を捨て、悪魔でなければありえないほど筋肉を増大させた、醜い容姿となっている。

 そして、その筋量は未だ増え続けている。街中のネズミたちを招集し、吸収し続けているのだ。


 私は大きく息を吸い、龍の吐息を放つ。


「カアアアッ!!」


 使うのはシュンカとの乱闘以来だけど、体は覚えてくれている。私の吐息は問題なく効果を発揮して、目の前の世界を銀氷に染める。


「うーん、寒いですね……。もっと分厚い毛皮が欲しくなります」


 エコーはぶくぶくと肥大化しながら、凍りつく周囲に目もくれずに余裕を見せている。

 本来なら、ネズミごときは凍って動けなくなる温度なんだけどなあ……。配下の小ネズミさえも凍てついた床を走り抜けてくるのだから、困ったものだ。


 私は火の海から氷の森に姿を変えた戦場を、今度は風魔法で薙ぎ払う。

 龍の翼は風を操る。内側に保てば飛ぶための力に。外側に解き放てば吹き飛ばす暴威に。


「『風の翼:シラトリ』!」


 私は人間には不可能な魔法を詠唱し、伸縮自在の翼から無数の羽根を飛ばす。

 ただの羽根ではない。そもそも、龍の翼に羽根など存在しない。これは風だ。風の刃だ。


 数えることすら難しいとてつもない量の刃が、倉庫の中を埋め尽くす。

 炎も氷柱も木箱も外壁も、何もかもを粉微塵にして吹き飛ばしていく。全てを巻き込んで、未曾有の大嵐となって、エコーに襲いかかる。


「むむっ!」


 エコーと合体しようとしていたネズミたちは、次々に飛ばされて絶命していく。

 倉庫に収まりきらないほど巨大になったエコー本体は、特に何事もなく耐えている。


 ……結構自信があったんだけどなあ。もしかすると今の私、危機的状況なのかもしれない。

 これ以上の有効打をどうやって捻出しよう。先にエコーを倒さなくちゃいけないのに、どうやっても長期戦になりそうだ。


「(……いや、待てよ。むしろ合体させた方が好都合なのかも)」


 私は何なく嵐を耐え切ったエコーの姿を見て、作戦を変更する。

 このまま街中のネズミと合体してくれれば、的を絞ることができる。エイドリアンが無闇に暴れ回らずに済み、街への被害が減る。


 問題は、エコーの思惑通りに事を進めるのが癪だというくらいか。私の魔法が全然通用しなくなるのは怖い。


 けど……このままエイドリアンを戦わせるわけにはいかない。

 街がめちゃくちゃになってしまうのはもちろんだけど、エイドリアンに罪を背負わせたくないという想いもある。

 あんな大きな体で、逃げ遅れた人を巻き込まないはずがない。もしエイドリアンが誰かを殺してしまったら……ナターリアが悲しむし、私も悲しい。


「(よし。決めた)」


 私はこちらに向かっているエイドリアンに向けて、蝶を飛ばすことにする。

 巨大な建造物の何処かに、人間体のドリーちゃんがいるはずだ。蝶を侵入させて、会話しないと。


 私はみるみるうちに力を増していくエコーを監視しながら、エイドリアンの説得のため、意識を切り替える。


 ……もしも私の推測が的外れで、エイドリアンはエコーと敵対しておらず、ただ乱暴な悪魔になっていただけだとしたら。

 その時は……その時だね。


 〜〜〜〜〜


 《エイドリアンの世界》


 ドリーはお人形になったお家の中にいます。

 ドリーの部屋をお人形の真ん中に入れて、周りにお客さんのお部屋をたくさん置いて。手足と頭は、さっき頑張って生やしました。


 ドリーの作品です。きっとお姉ちゃんも凄いって言ってくれるはずです。お父さんにも見せたかったな。


「……あ、ちょうちょ」


 そんなドリーのお家に、蝶さんが入ってきました。

 お外からやってきたんだと思います。綺麗だけど、大きくて怖いです。


「あ、そっか。おそとにつながってるんだ」


 ドリーは今、お家に隙間が空いていることに気がつきました。

 大変です。これじゃお外の人に、ドリーの姿が見られちゃいます。宿に悪魔がいるって噂されて、怒られてしまいます。

 だから、ドリーは頑張って扉を動かして、うねうねを生やして、塞ぎます。


 それでも蝶々さんは諦めません。

 ドリーがいるお部屋に、向かっています。


「だめ。きちゃだめ。ドリーがここにいるって、みんなにばれちゃう」


 階段を平らにして、窓を閉じて、もっともっと塞ぎます。お家の中がだんだん暗くなっていきます。

 こんなことしてる場合じゃないのに。エコーさんを退治しなきゃいけないのに。どうしてわかってくれないの。


 それでも蝶々さんは諦めません。

 ドリーがいるお部屋に、飛んできます。


「こないで。あっちいって」


 ドリーは蝶さんに乱暴なことをしてしまいます。

 枝でつんつんしました。根っこでポイしました。葉っぱでぺちぺちしました。


 それでも蝶々さんは諦めません。

 ついにドリーがいるお部屋の前まで、やってきてしまいました。


 蝶々さんから、聞いたことのある声がします。


「ドリーちゃん。お部屋を開けて」


 ニコルさんです。アンジェちゃんといつも一緒の、綺麗な大人の人です。

 ドリーは扉をぎゅってして、言います。


「いま、いそがしいの。だいじなことしてるの」


 するとニコルさんは、ほんわかするくらい優しい声で言いました。


「ドリーちゃんは、みんなを守って」


 ニコルさんは、言いました。

 街のみんなが、大変だって。ドリーの喧嘩で怖がってるって。みんなをお家に入れてあげてって。


 ドリーはとっても大切な事を思い出しました。

 ドリーのお家は、宿屋なのです。だから、いろんな人が来ます。

 芸人さん。商人さん。狩人さん。


 お父さんはお客さんみんなに優しくします。お姉ちゃんも一生懸命働きます。

 お客さんのことが大好きだからです。お外のお話をたくさんしてくれる、愉快な人が大好きなのです。


 そして、ドリーもそんなお客さんたちが、大好きなのでした。

 お外の世界の、素敵なお話。それがとっても好きなのでした。

 どうして忘れていたのかな。きっと、ぷんすか怒っていたからかな。


 ドリーは、お部屋の扉を開けます。

 蝶々さんが、ふわりと入ってきます。


 蝶々さんから、ニコルさんの声がします。


「よろしくね、ドリーちゃん」


 ドリーはお姉ちゃんと同じ人間の手で、蝶々さんをそっと撫でました。


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