第35話『大性徴』
アンジェは相変わらず土に埋まったまま、時間をかけてじっくりと体を修復している。
周囲を守るのは幼馴染のニコルと、知らない悪魔祓いのドイルだ。
目の前の黒い剣士……ドイルは、アンジェが生み出した黒い剣をじっくり観察しながら、手持ちの剣と見比べている。
外見、重量、重心、硬度、持ち手……その他諸々。
剣の良し悪しは感覚で判断する部分が大半であり、知識の海に頼っても今ひとつピンとこない。魔法に関してなら感覚的な部分もどうにかなるのだが、剣となるとさっぱりだ。
「(魔法を使わずに鍛えた本物の剣と比べられると、流石に恥ずかしい……)」
あれは知識の海にあった剣の形状を反映させて、咄嗟に生み出しただけの模造品だ。もし鍛冶の腕を褒められても、大して嬉しくはない。
それはそれとして、貶された場合は模倣がしっかりできていなかったということで傷つく。手本を再現できないのは、魔法使いとして未熟な証だ。
感想があるとしても、何も言わないで欲しい。それが今のアンジェの心境である。
アンジェは上半身の修復が終わったところで、体を持ち上げて脚の様子を見る。
土から魔力を吸収するため、効率化のために土魔法で泥と一体化している。不細工ではあるが、こうしなければ治せないのだ。仕方あるまい。
こんなことをしなくても、黒い剣を全て吸収すれば魔力を集められるのだが……ドイルへの抑止力とするため、少しは手元に置いておかなければならない。
「(うう……情けない……)」
アンジェは2人に気づかれないように悔し涙を拭う。
泥を啜って生き延びる自分が、魔物よりも汚い存在に思えてきたのだ。
元はといえば、アンジェがあんな魔物ごときに負けて、自爆を選ばざるを得なくなったのが悪いのだ。その後治療中のアンジェとドイルが対面してしまったのも、場所を移していないアンジェが悪い。
彼を連れてきたニコルは何一つ悪くない。全てはアンジェの無力が原因なのだ。
「ごめんね、ニコル。オレ、思い上がってた。シュンカに勝てて、自信過剰になってたみたい」
護衛のように油断なく悪魔祓いを睨んでいるニコルに、アンジェは涙ぐんで声をかける。
謝りたい。無力な自分で申し訳ない。そんな気持ちが溢れ出てきたのだ。
「イオ村を襲った魔物に……負けちゃった」
「私がいるんだから、逃げてもよかったのに……」
無表情でのニコルの問いかけに、アンジェは首を横に振る。
トウリは素早く、逃げても執拗に追いかけてくる。アンジェの走力で撒くことはできず、村まで逃げ込めば人間たちを巻き込んでしまう。
そして元締めであるマンモンは、更に飛行能力が高い。姿勢制御が他の追随を許さぬほど巧みで、森の中でも速度を落とさず追跡してくる。
相対した時点で、迎え撃つ以外の選択肢はなくなっていた。
アンジェがそう言うと、ニコルは目が据わった異様な顔つきになり、無言で立ち尽くす。
怒っているようにも悲しんでいるようにも見える。どちらだろう。どちらも、かもしれない。
ニコルは何度か瞬きをした後、自らの表情が剣呑だったことに気がついたのか、慌ててアンジェに背を向ける。
「……弱いね、私たち」
「……うん」
ニコルは大きめの石に座り込み、ため息をつく。
かける言葉が見当たらない。今のアンジェは無力感でいっぱいになっている。口を開けば後ろ向きな発言ばかり飛び出してきそうだ。
……すると、ニコルはアンジェが生み出した無数の剣のうち、手に馴染む大きさの一振りを取る。
「これ、貰ってもいい?」
体内に戻さず、剣のままにしておいてほしいということだろうか。魔力は他で補えばよいので、断る理由がない。
「いいよ。好きに使って」
「……ありがとう。大切にする」
2人はそのまま、遠くで見張っている剣士を意識の片隅に置きつつ、言葉のない時間を過ごす。
〜〜〜〜〜
太陽が頂上を過ぎて落ち始めた頃。
たまに小動物を追い払いながら様子を見ていたドイルが、2人に近づいて話しかける。
「厄介な連中が集まってきている。そろそろ事情を聞いても良いか?」
トウリとマンモンが全滅したことを察知し、また森の生態系が動こうとしているらしい。万全でないアンジェにはぼんやりとしかわからないが、様子を見にきたらしい小動物の気配が遠方に感じられる。
だが、魔物を倒したアンジェたちを警戒し、まだ近くにはこない。情報を交換するなら、奴らが遠くにいる今のうちだろう。
アンジェとしても、そろそろ彼を本格的に味方に引き入れたい。自分たちは悪魔だが、人間として生きるつもりであると説明しなければならない。
「わかりました。オレのことについて、話します」
アンジェは彼に賛同し、まず火を見るより明らかな情報から開示して、様子見をする。
「実は、オレは……悪魔です」
「見ればわかる」
このやりとりは既定路線だ。そしてここからが、お互いの腹の探り合いだ。
アンジェは慎重に言葉を選びつつ、信用を得るために手札を切る。
まずは……自分が被害者であることを強調する。今の自分にある『人間でありたいと思う心』を、なるべく理論的に、他人にもわかりやすく伝えるのだ。
彼が理屈屋であっても情を重んじる男であっても、どちらでも問題なく説得できるように。
「オレたちは生まれついての悪魔ではありません。アース村という小さな田舎村の生まれで、元は人間だったんです」
「知っている」
その言葉にアンジェは少し考え込み、はたと気がついて反射的に言葉を返す。
「やっぱり、お会いしたことがあったんですね」
「……忘れていたのか」
ドイルは見るからに残念そうな顔になり、視線を一度逸らす。
「(やっちゃった……)」
アンジェが俯くと、彼にしては軽い口調で、お互いの認識の違いを噛み合わせる。
「マーズ村の宿で会った。お前は宿の看板娘として、旅人たちを労って回っていた」
そうか。その時のひとりに、ドイルがいたのか。
アンジェはあまり人と関わってこなかったため、人の名前や顔を覚えるのが苦手だ。故にドイルが客の中にいたのか、今になっても思い出せないのだが……。
それでも、自分の中にある既視感に説明がついた。それで十分だ。
「(だから話を聞いてくれているのか。なんだか少しだけ、人として生きようという努力が報われたような気がする)」
人のための働きが自分に返ってくると、温かいものが胸の内側に溢れてくる。
アンジェが顎を引いて照れていると、ドイルはできの悪い子供を見るような目で、自身の認識を懇切丁寧に説明し始める。
「お前の死体を見た時は、誰だかわからなかった。村で話を聞き、こうして再会して、ようやく理解した」
「まあ、そうですよね」
普通の感性なら、アンジェは今もマーズ村にいると思うはずだ。この歳で旅になど出ない。旅人に話をせがんで回るだけの普通の村娘として、平和に暮らしていると考えるのが普通だ。
だが、そうではなかった。アンジェの考えは普通でなく……そして、アンジェは人間ではなかったのだ。
「お前は悪魔だった。故に、英雄の村を飛び出した。俺の想像だが、これで合っているか?」
「半分くらいはそうです。もう半分は……」
細部を飛ばして簡潔に言えば、ニコルのためだ。
ニコルがマーズ村でのお見合いに我慢できなかったから。ニコルに「広い世界に出てみよう」と言われたから。
だがアンジェは、それだけではないような気がしている。物語への憧れや、ビビアンとの出会い。それらが複雑に絡み合ったこの感情を、理論的に説明することができない。
心とは何か。自分とは何か。それらを一言で表現するのが難しいように。
アンジェが考え込んでいると、ドイルは見張っていた方角を気にしながら、話を先に進めようとする。
「もう半分は、故郷を襲った魔王を探し出して、復讐するためだな?」
彼が悪魔祓いだからこそ、そう考えたのだろう。
確かに魔王を殺してやりたいと思う気持ちはある。あの暴虐を極めた悪魔の頂点を、この世から消し去りたいと思っている。
焼いて、裂いて、潰して、埋めてしまいたい。二度とこの世に現れないよう、念入りに殺して殺して殺して殺して、殺し尽くしたい。
だがそれを旅の理由とするのは……あまりにも乱暴で、夢がないではないか。
「(間違っている……いや、そうでもないのか?)」
アンジェは自らの中にある怨嗟を肯定するかどうかで一瞬迷い、そんな自分の反応に驚愕する。
今でも魔王のことを思い出すとはらわたが煮えるほど怒りが込み上げてくるが、悪魔祓いたちと同等の恨みを持っているとは思っていなかった。魔王から離れて平和に暮らしたいと願っているはずだった。
だが、魔王を探し出して復讐するという言葉を聞いた時、そうしたいと思ってしまった。魔王がいるピクト領まで赴き、命懸けで戦うのも悪くないと考えてしまった。
ニコルと話し合い、それだけはしないと決めたにもかかわらず。
「安住の地を探すためです」
かなり長い間があった後、アンジェはそう答える。
回答までの時間差を、彼はどう受け取るだろう。剣を抱いて背を向けたままのニコルは何を思っているのだろう。気がかりだ。
ドイルはほんのわずかに首を傾げ、疑問を呈する。
「魔物の縄張りと化した森に単身突撃するなど、悪魔祓いでもそれほどの無茶はしない。よほど悪魔を憎んでいると感じたのだが、違うのか?」
「あの時のことを思い出すだけで歯軋りが止まらなくなりますし、魔王を好きなだけ嬲れる機会が用意されたらぜひ参加したいくらい敵視しています。しかし、それとは別の理由があったんです」
ニコルは今のところ悪魔だと思われていないようなので、いつでも庇えるようにしなければ。悪魔に脅されて従っているだけの純然たる人間だと主張できるように。
そう考え、自らの中にある薄暗い復讐心から目を背けつつ、アンジェはここで一歩踏み込む。
「オレたちには素性を隠したまま金を稼ぐ手段が必要です。だから、素材が高値で売れる魔物を狩る必要があるんです」
「他の手段がいくらでもあるだろう。宿でのお前を見るに、商会の小間使いから成り上がるのが安全だ」
「無理ですよ。人が怖い」
才能を褒められ、可能性を真剣に考えてもらえるのは、大物の原石になったようで良い気分だ。しかし、魔物狩り以上に自分たちに向いている選択肢は他に無いはずだ。
旅商人は商品の管理が大変で、街での滞在期間も短くなりがちだ。在庫に振り回される未来がありありと見える。
かといって商会の下働きになるのはまずい。自由に使える金が入らず、毎日休みなく働き、寝床も食事も粗末なものになるのが一般的な下働きの扱いだ。下手をすれば、地位の差を脅し文句にされ、ニコルが肉体関係を迫られるかもしれない。
旅芸人も難しいだろう。知識の海に芸事はあまり載っていない。自力で芸を習得するしかない。
それで芸を得たとしても、裕福な土地の片隅でおひねりをもらうのが精一杯だ。大劇場で演目ができるほどの洗練された芸を披露できれば別だが、そんな自信はない。どうあがいてもその日暮らしから抜け出せないだろう。
それら以外にも臨時の傭兵や野生動物の狩人などが候補にあったが、生活の不安定さや各地の決まり事との軋轢がきつい。
やはり赤追い組合という、どこの土地でも需要があり、新参者が加入しやすく、多少不自然でも実力があれば見過ごされる組織に所属するのが一番なのだ。
「今のオレには、最低限の腕っぷしがあればいい狩人しかないんです」
「とてもそうは見えないが……まあ、いい」
ドイルはそう言って、アンジェのそばに座る。
剣の間合いだが、斬りかかろうという意思は感じられない。彼なりに、アンジェの存在を受け入れることができたのだろう。
「(頭が柔軟な、いい男だ……)」
アンジェは改めて彼を頭頂部から爪先まで観察し、信頼できそうな人物の区分に入れておく。
彼はもう敵対しない。ならば次にするべきことは、情報収集だ。
「本当は、ドイルさんから組合に推薦してほしいんですけど……いかがですか?」
「もう少し人となりを知ってからだな。俺としても、悪魔を見逃すのみならず、擁護して人の輪に入れることになるのだから、慎重になりたい」
「それはちょうど良いですね。組合のこととか、魔物のこととか、それと……ドイルさん自身のこととか、色々聞きたかったんです」
アンジェはドイルの濃い髭面を見上げて、不器用な笑みを作る。
この男はどんな態度で接するのが正解だっただろうか。記憶を必死に探りながらの、半端な表情だ。
「オレ、ドイルさんと仲良くしたいですから」
「媚びているつもりか?」
「まあ、そんなところです」
「仲良く、か。……考えておこう」
それからしばらくの間、アンジェとドイルは時折マーズ村での思い出話をしながら、互いのやるべきことを淡々とこなしていく。
ドイルは剣の腕を磨くために旅をしていること。そのため、街道を外れて過酷な環境に身を置くことが多いこと。アンジェと出会う前も、人里離れた土地に向かっていたこと。
何処までが真実かはわからないが、ドイルという男が風来坊らしいことがわかった。
その間もニコルはずっと、一言も発することなく、2人の様子をじっと監視し続けていた。
〜〜〜〜〜
「ねえ、アンジェ」
日が落ちるほど長い時間が経ち、アンジェの脚が肉を取り戻し、完全な姿になりかけた頃。
夕焼けに照らされたニコルは、背を向けたまま顔だけ振り向いて、ようやく口を開く。
「後で、その……」
それだけ言って、ニコルはまた口を噤む。
散々悩んだ末に出した結論を、この期に及んで言い淀んでいる。
アンジェは健気な雰囲気を感じ取り、先を促す。
「ニコルの言うことなら、だいたい何でも聞くよ?」
「だいたい?」
「ニコルを傷つけるようなことはしたくない。ニコルの命令でも、それだけは聞けない」
これは偽りの無い本心である。
ニコルは空腹でも覚えたのか、ごくりと音を立てて生唾を飲み込んだ後、悲鳴のような上擦った声で提案をする。
「今日の夜……あ、いや、アンジェが嫌ならもっと後でもいいけど……」
「うん」
「蘇ったアンジェの体、前と同じかどうか……ちゃんと治ってるかどうかだよ? 私の目で確かめても、いいよね?」
この世の終わりのような顔で返事を待つニコルを見つめながら、アンジェは肩の力を抜く。
お叱りの言葉でも飛んでくるのだろうかと身構えていたところに、共に旅をする立場としてはごく当然の疑問が降ってきたため、拍子抜けしているのだ。
「断る理由が無いよ」
「でも、アンジェは男の子で……今までも水浴びの時は離れてしてて……」
「えっ。体のどこを見るつもり?」
「その……」
ニコルは冷や汗をかきながら唇を閉じ、前屈みになり、目線を下に向ける。
ニコルは胸が異常に大きく、足元が見えない。故に立ったまま低い場所を見たいときは、いつもこうするのだ。
「(オレの体の、下の部分? ……あっ)」
てっきり脚や腕など、当たり障りのない部分の話かと思っていたが、違うのか。全身をくまなく確認しなければ安心できない、ということだろうか。
確かに、アンジェは元々少年だった。何かの拍子に戻る可能性を、ニコルは考慮したのだろう。
「(そっか。男の子に戻る可能性があると思っているのか。そう思うと、急に恥ずかしくなってきた)」
アンジェは今、服を着ていない。魔道具の服は自爆で脱げてしまった。幸いにも黒い剣に引っかかっているため、風で飛ばされてはいないが……今は取りに行けない。
先程まで地面と一体化しており、今も全身泥だらけになっているため、全裸であるという認識は薄れてしまっていた。
しかし、よくよく考えれば……今のアンジェは少女としてあるまじき状態である。
「うひゃあ……」
アンジェは急激に顔が熱くなる感覚を覚え、咄嗟に自らの股間を隠す。
「ごめん。察した」
「あの、アンジェ。別に変なことはしないよ? ただ眺めるだけでいいから。あっ、眺めるっていうのは見て楽しむって意味じゃなくて、その……」
「大丈夫だよ。わかってるから」
呂律が回らなくなるほど取り乱しているニコルを、アンジェはそっと慰めて、答える。
「オレの体が変になってたら、ニコルも危ないかもしれない。夜になったら、2人で確認しよう」
「いいの……?」
「オレとニコルの、旅のためだからね」
アンジェの返答を聞いたニコルは、乙女らしく胸に手を当てて喜んでいる。
ニコルはアンジェの体を心配してくれているのだろう。人間ではありえない大きな変化があったのだから、健康に影響がないか気になっているのだろう。
他人の体を、まるで自分のことのように気遣う。ニコルの美徳だ。アンジェはずっと、その優しさに救われてきた。
あるいは、ここまで心配しているのは、自分が幼馴染だからか。男のままなら今頃は男女の関係となって結ばれていたかもしれない……と思うのは、アンジェのくだらない妄想だろうか。
「(駄目だ駄目だ。考えるな。ニコルはそんな人じゃないし、ニコルが望むアンジェはこんなことを考えないはずだ。えっちなのは、駄目だ!)」
アンジェは邪な思考を振り払い、黒い剣を崩す。ドイルへの警戒を解いた今となっては、もう不要だ。彼は信頼できる。
黒い剣が唐突に消え去ったためか、ドイルは驚いた様子で振り向く。
大人の男の、鋭い目。
彼はおそらく、異性愛者。子供に興味はなさそうだが、もし彼に襲われたら……どうなってしまうのだろう。
「(オレ、可愛いからな……。ジーポントとミカエルにも言われたし……。オレからドイルは絶対にナイけど、向こうからはアリなのかも……いやいや、ないない。向こうからもナイから!)」
アンジェはニコルとドイルからの視線に羞恥心を覚え、足早にぼろぼろの布きれへと近づく。
下着は跡形もなくなっているが、上下の衣服は揃っている。幸いにも、アンジェでも修理できる程度の損傷しかないようだ。
アンジェは泥を落とすために水の魔法を呼び出し、か細い声で2人に懇願する。
「こっち見ないで……」
想像以上に弱々しく、女性らしい声が出た。自分でも愛おしいと感じてしまうほどだ。
ドイルは既に後ろを向いている。いち早く察して、配慮してくれたようだ。
ニコルは口をあんぐりと開けて呆然としている。頬が赤いように見えるが、アンジェの気のせいだろう。おそらく夕日によるものだ。
「見ないでってば!」
アンジェが悲鳴のような声をあげると、ニコルは背筋を伸ばし、慌てて背を向ける。
普段は気配に敏感だというのに、妙なところでぼんやりしている。そんな部分もお茶目で素敵なのだが、困るときは困る。
「(こんな調子で、ニコルに見せられるのか?)」
アンジェは女性に変化した部分を触らないように気をつけながら、服を着替える。
薄い生地が肌に触れて、何やらこそばゆい心地がする。
「(泥から生まれたせいなのか? 今のオレ、なんだか心の中までドロドロしてるみたい……)」
アンジェはボロ布をキュッと掴み、ニコルの背中に隠れる。
この世で一番頼りになる、大好きな背中に。




