第31話『おっかなびっくり』
イオ村に着いた。
目印も看板もないが、手入れされた畑があって、家もまちまちに建っている。おそらくイオ村で合っているはずだ。道は間違えていない。
「到着……で、いいんだよね?」
ニコルはきょろきょろと辺りを見渡している。
おそらく村人を探しているのだろう。誰かに聞けばここが目的地かどうかはっきりする。最も信頼できる答え合わせの方法だ。
だが、どういうわけか出歩いている人がほとんどいない。遠くで子供が農耕の手伝いらしき仕事をしているのが見えるが、成人男性の姿はない。
アンジェはことんと首をかしげつつ、この村で何か行事が行われている可能性を考える。
祭りや集会があって、成人は皆それに参加しているのかもしれない。それにしては、子供だけ出歩いているのは奇妙だが。
一応知識の海を覗いてみるが、この事態を説明できるような内容は何も浮かんでこない。
知識の海は万能ではない。小さな村の身内で行われる行事など、そのような細かい知識まで載っているわけではないのだ。
当然、景色を見てイオ村かどうか判別することもできない。自分たちが間違えて違う村にたどり着いてしまったのだとしても、すぐにそうとは気づけない。
「うーむ。わからないな」
「とりあえず、話してみようか」
ニコルの提案を受け、2人は最も近い場所にいる男の子に話しかけてみることにする。
おそらくアンジェより歳上の、どこにでもいる村の少年だ。ニコルと同年代だろうか。服装は木綿を編んだ簡素なもの。近くに森の恵みがあるためか、血色が良い。
彼は2人に気がついてびくりと震えた後、興味深そうな目でじろじろ眺めてくる。
無遠慮だが、他所者に対する態度などそんなものだろう。
「こんにちは」
ニコルはいつもより若干高く明るい声色で、少年に話しかける。誰もが警戒心を解くであろう、優しい声だ。
こちらが無警戒であれば、相手も緊張せずに会話できる。そう考えての処世術であろう。ニコルの会話能力の高さが窺える。
少年はまだ2人の、特にアンジェの顔から腹部までを眺め回している。先ほどまでより自然体に近い様に見える……が、どこか不穏な気配だ。
アンジェも努めて穏やかな声を作って自己紹介をする。
「オレたち旅人だけど、ここはイオ村で合ってる?」
「あっ、旅……えっ?」
少年は目を白黒させて戸惑っている。
「(いきなり馴れ馴れしかったかな? ど、どうしよう。嫌われたくない。礼儀正しくした方がいいのかな……)」
アンジェは頭を下げて低姿勢で会話の軌道修正を計る。
「あ、すみません。ここはイオ村じゃなかったんですね……。では何村でしょう?」
「いや、その、イオ村はここです」
よし。強引ではあったが、どうにか話の流れを戻して聞き出すことができた。ニコルが興味深そうな目でアンジェの方を見ているが、彼女への言い訳はこの際後回しだ。
このまま彼を籠絡して、村の現状を聞き出そう。子供だから何も教えられていない可能性は高いが、聞けないようなら大人のところまで案内させればいい。
「案内してほしいです」
「えっと、今、村は危なくて……」
村が危ない。その言葉に、2人の表情は一気に固くなる。
まさか、魔王の襲来か。いや、魔王が来ているのであれば子供がこうも落ち着いているはずがない。さしずめ魔物の出現だろう。
そんなことを考えていると、少年は続きをニコルの方に向けて話し始める。
穏やかで話が通じそうな雰囲気を感じ取ったのだろう。仏頂面で考え込む妙な幼女より、歳が近く物腰が柔らかい彼女の方が話しやすいに違いない。
「村に、魔物が来たって言ってて……みんなで倒すから待っててって……」
「じゃあ、私たちが倒さないとね」
アンジェはギョッとしてニコルの方に顔を向ける。
だが、ニコルはこうするのが当たり前だという顔で少年の頭を撫でている。
「(た、たしかに……戦う方が得だ。怖いけど)」
この先組合に加入するなら、魔物との戦いなどいくらでも経験することになるのだから、こんなところで様子見などしている場合ではない。ここで戦わずして何が狩人か。
また、ここでの戦果を持って組合に提出すれば、文句なしに推薦してもらえるだろう。村人に後押ししてもらうことも可能だ。
あらゆる観点で見て、ニコルの判断が正解だ。
アンジェは無意識のうちに考え方が日和見になっていたことを反省する。
「(ニコルは優しいな……)」
少年は唖然とした様子で口をパクパクさせている。
「倒すって、お姉さんが?」
どうやら実力を疑っているらしい。
ならば、少し力を見せた方が良いだろう。死にに行くのではないと理解してもらわなければ、紹介してもらえないかもしれない。
アンジェは詠唱無しで出せる最大限の炎を指先に灯し、少年に見せる。
特訓の甲斐あって、頭くらいの大きさの炎なら出せるようになっている。中身はスカスカで、魔物にぶつけても怯みさえしないが、焚き火をするときには便利だ。
「おおっ! すげー!」
少年は目を輝かせてアンジェの炎を見つめ始める。
見た目だけは派手な魔法であり、子供騙しにはちょうどよかったのかもしれない。
アンジェは炎をゆらゆら揺らしたり、上下に弾ませたりして、少年を喜ばせる。
「オレは魔法使いだから、つよいんです。魔物にだってきっと勝てますとも」
「すっげえ……。オレよりガキなのに……」
「さあ、案内してくれたまえ。このイオ村を!」
「わかった!」
魔法に魅了された少年は、畑仕事をすっかり忘れ、素直に言うことを聞いてくれるようになった。
交渉成功だ。これでこの村との交流がずいぶん捗るだろう。
ニコルが隣に居なければ、こうはならなかった。積極性に欠けるアンジェだけでは、何ひとつわからないまま、今もひとりで村をぶらついていたことだろう。
「(ありがとう、ニコル)」
そんな感謝の念をこめて、アンジェはニコルに目配せを送る。
ニコルは氷のような目を見開いて、にっこりと微笑む。
〜〜〜〜〜
《ニコルの世界》
アンジェの交渉はとても参考になった。歳上の男の子を惹きつけて、あっという間に仲良くなってしまった。
私がでしゃばる必要なんてなかった。アンジェはやっぱり天才なんだ。
アンジェはたくさんの情報をいっぺんに与えて、男の子の頭を混乱させた。
アンジェは強大で美しい魔法の力を見せつけて、男の子を魅了した。
アンジェは最後に要求を突きつけて、飲ませた。
すごい手際の良さだった。あの時は私も魔法に夢中だったけど……後になって振り返ってみれば、これは計画的な行動だ。
相手から判断力を奪って、力で信頼させて、要求を通す。強引だけど、すごい効果だ。
「(混乱……魔法……要求……よし、覚えた!)」
忘れないうちに実践して、ものにしたい。この村にいるうちに、似たようなことをしてみたい。そして少しでも、アンジェに近づきたい。
アンジェの小さくも頼もしい背中を見つめながら、私は胸の内側で想いが膨らんでいくのを感じる。
〜〜〜〜〜
少年の案内により、いくらかこの村の様子が理解できた。
数日前、鳥の魔物が出現した。村に直接的な被害は及んでいないが、このままでは山に入れなくなってしまう。また、魔物がすぐ隣にいる状況も怖い。
よって、村の大人たちが退治しに向かった。
今のこの村に成人男性が少ない理由はわかった。
まだ組合を呼んでいない段階だということも。
「ありがとう、少年」
アンジェがそう言うと、少年は不思議そうな顔でアンジェに尋ねる。
「アンジェちびなのに、なんだかお姉さんみたいだ」
「お姉さん? え、えへへ……照れるなあ」
アンジェは頬がみるみる赤くなっていくのを感じ、むず痒くなって耳の後ろを掻く。
初対面の相手から頼りにされるというのは、存外心地が良いものだ。基本的に人嫌いのアンジェだが、だからこそ優しくされたり褒められたりすると弱いのかもしれない。
それに……お姉さんと呼ばれると、なんだかニコルのようになれたようで、嬉しい。
「(お姉さんか。良い響きだ……)」
アンジェは微笑ましそうな目で見守っているニコルに向けて、作戦を伝える。
「とりあえず、村長と対談して詳しい状況を知ろう。今回の討伐隊から、魔物の規模や居所を知れるかもしれない」
「すぐ飛び込まないの?」
ニコルは今まさに死地にいる村人たちを救おうとしているようだ。
しかし、流石にそれは考えが甘い。アンジェとしても助けられる命を見捨てるようで心苦しいが、厳しい現実を教えなければなるまい。
「この辺の地理がわからないから、無駄足になる可能性が高い。空を飛んで上から見ても全体がわからないくらい、木が密集しているようだ」
「……迷子は、嫌だね」
「魔物と交戦するにしても、オレたちの魔法が村人に当たったりしたら最悪だ」
アンジェは森の方を指差しながら、そう告げる。
ニコルも酸っぱいものを食べたような微妙な表情だが、納得してくれたようだ。
「そうだね……。私の蔦は、特に周りを巻き込みやすいし……傷つけたくないね」
そう言って、ニコルは体に巻き付けてある触手を服の上から撫でる。
ニコルにとっての力であり、そして容易に命を奪える凶器。これを人を守るための力に変えられるかどうかは、2人の行動にかかっている。
そして2人は、少年と共に村長たちが集まる集会場へと向かうことにする。
村の長との対面となると、マーズ村の長老のせいでどうしても胸が締め付けられるような気分になるのだが……今回はニコルが隣にいる。いざとなれば彼女に任せればいいだろう。
「さて、行こう」
アンジェとニコルは少年に手を振って、村の中で一際大きい建物に入っていった。
〜〜〜〜〜
《ニコルの世界》
会議は揉めに揉めた。
はっきり言って、話が通じなかった。
まず他所の人間を会議に参加させるなと言われて。次に村で起きていることを説明されて。最後に、村から出て行かせるかどうか勝手に決められて。
「オレたちは魔法を使えます」
「嘘つけ。ガキが大法螺ほざいてんじゃねえ。魔法は乳臭いガキに持たせちゃいけねえ代物だ。そんなことも知らねえのか」
「待て待て。黒い子はともかく、白い子は本当に魔法使いかもしれないだろ。それに2人だけで旅してんなら、そういうこともあるかもしれん」
「魔法でも使えねえとやってけねえよなあ、こんな弱っちぃ2人だけじゃ……」
「どっちにしろ、あぶねえからここで出すなよ。火事でも起きたらたまったもんじゃない。うちの魔法使いの爺さんでさえ、たまに火傷するんだから」
アンジェの魔法を見ればきっと意見を変えてくれるはずなのに、内輪で話し合うばかりで、こちらを見ようともしない。
魔物が出たせいで、慌てているのはわかる。集会場の中は澱んだ熱気で満ちていて、息をするだけで吐きそうになる。
「怖い。怖いよ、ニコル」
アンジェは怯えている。
これほど荒れている場を和やかにするのは難しい。魔物が村のすぐそばにいるから切羽詰まっているし、世間話をする余裕もないみたいだ。私が口を挟んでどうこうできる状態じゃない。
だとしても、自分たちで解決しようと躍起になるあまり、アンジェという答えを見落としているのはあまりにも……滑稽だ。
「アンジェ」
「にこる……」
アンジェは私の服の裾を掴んで怯えている。殺気立った男の人たちに怒鳴られて、涙が溢れそうになっている。
……これ以上、ここに居てはいけない。空気が冷えるまで、待つしかない。
触手を置いておけば、遠くにいても会議を見聞きすることはできる。この村の雰囲気を掴んでから、作戦の立て直しをしよう。
「今は良くないね。また後で来よう」
「……うん」
私はアンジェを優しく抱き上げて、足早にその場を後にする。
案の定、アンジェは漏らしていた。いつものことだし、わかっていたよ。責めちゃいけない。
「う、うわぁ、うわああああん! ニコルぅ!!」
集会場を出た途端に大声をあげて泣き始めるアンジェを、私は黙って介抱する。
〜〜〜〜〜
翌日。
アンジェは寝心地の悪い床板の上で目を覚ます。
珍しい保存食を代金として渡し、2人は村の最も外側にある家に泊めてもらっている。
家主は太った男性だ。会議ではどの勢力の味方もせず、冷静に状況を見定めて……そして、己の保身に走っていた。
気が弱いのだろう。敵を作りたくない一心だったようだが、結果として村の外から来た厄介者を押し付けられてしまったのだから、損な立場である。
「……むにゃむにゃ。にこう」
「あっ、起きた?」
ニコルは手に持っていた石板を足元に置き、アンジェの頬を撫でてくる。夜の間、ずっとそばにいてくれていたようだ。
ニコルに見つめられるだけで、みるみる頭が冴えてくる。眠気が吹き飛び、気力が湧いてくる。ニコルのためなら、なんでもできる。そう思えるほどに活力が漲ってくる。
「うん。起きたよ。……さっそく、戦いに出よう」
「いいの? 起きたばかりだけど……」
「こんな時にのんびり寝ている方がおかしい」
昨日は憔悴して、ニコルに流されるままに入眠してしまったが、本当はそんなことをしている場合ではないのだ。体と心に鞭を打って、一瞬たりとも時を無駄にせず、行動しなければ。
家主がまだ目を覚さないうちに、2人はこそこそと村の状況を考察する。
ニコルが触手を使って聞いた内容を元に、魔物の種類や被害状況、そしてこの村の今後の対応を把握するのだ。
ニコルひとりに任せて、徹夜で盗聴させてしまったのは情けない。せめて今日の働きで挽回しなければ。
「じゃあ、要約して読むね」
ニコルは盗聴した内容を書いた石板をいくつか拾い上げて、アンジェに見せつつ読み上げる。
魔物退治に向かった村の男たちは、既にイオ村に帰ってきていたらしい。少年から得た情報はだいぶ遅れていたわけだ。
考えてみれば当然だ。彼は畑仕事で忙しく、会議に参加していなかったのだから、最新の情報を手に入れられるはずがない。
魔物と交戦した彼らによると、襲ってきた魔物は鳥の魔物である『トウリ』。討伐隊は森の生態系の変化から、モズが変異した自然発生の魔物だと推測しているようだ。
正確な数は不明だが、少なくとも10体以上は確認されている。取り囲んで袋叩きにするなど、統率の取れた動きをしてくるらしい。
村人では手に負えないため、赤追い組合に連絡して討伐してもらう予定だ。しかしまだ依頼料の集金が終わっていないため、遣いは出していない。
ニコルは石板を並べて渡しつつ、感想を呟く。
「魔物の数、ずいぶん多いよね……」
「自然発生ではないな」
マーズ村でのシュンカの事例を彷彿とさせる、凄まじい数だ。明らかに鳥を狙って変異させている親玉がいる。
……おそらくはシュンカと並ぶ強者だろう。
早めに対応しなければ、この村も危ない。鳥の魔物は行動範囲が広く、そのうえ上空から奇襲してくる。農作物も家畜も人間も、地上で生きる全ての命が、いつ狙われるかわからない恐怖に晒されることになる。
最悪の場合、明日からここは廃村だ。
「すぐにでも行かないとまずい。ニコルはここに残って、人を森に入らせないようにして」
「わかった。けど……」
「村人もニコルの腕っぷしを見れば納得してくれるかも。力比べで説得して。あ、人間の範疇でね?」
「アンジェはどうするの……?」
ニコルは心配そうな目でアンジェの手を握り、潤んだ目で見つめる。
……本当は、逆の方が良い。ニコルは傷が治りやすく、触手のおかげで多数が相手でも不利にならず、翼を生やして飛行できる。ニコルがトウリと戦い、アンジェがここで待機するべきだ。それは間違いない。
だが、アンジェではこの村を説得することができない。考えるだけで足がすくむ。
不機嫌な罵声。余所者を鬱陶しがる排他的な目。それらを前にして、逃げ出さずにいられる自信がない。
「魔物と戦うのはどちらでもできるけど……村のことは、ニコルにしか任せられない」
アンジェはニコル本人から目を逸らし、家主が眠っている部屋の方を見る。
比較的良心的な対応をしてくれている彼が相手でさえ、まともに目を合わせられない。複数人の前に立つとなると、もはや会話さえ成り立たないだろう。
ここはもう、優しい隣人の村ではないのだから。
「(もう、この村にいたくない。けど、魔物から逃げ出すわけには……)」
アンジェが震えていると、ニコルはすっと近づいて抱きしめてくる。
体温が……気持ち良い。体の柔らかさも、うなじを撫でる指先の動きも、何もかもがアンジェの好みだ。
幼い頃から、他でもない彼女自身にそう仕込まれてきたのだから、当たり前ではあるが。
「(幼い頃からっていうか、今のオレも十分幼いんだけどね……。たまにおねしょしちゃうし……)」
アンジェは自虐的に微笑みながら、そっとニコルを抱き返す。
幸せだ。そう、アンジェにとっての幸せはここにあるのだ。たとえこの村の全てが敵に回ったとしても、ニコルはアンジェの幸せでいてくれるのだ。
大きな胸を押し付けながら、ニコルは幼い子供に言い聞かせるように耳元で囁く。
「無理しないでね、アンジェ。危なかったらすぐ逃げてね」
「わかってる」
「村の人の説得、頑張るから。怖かったら私と交代してもいいから。だから……」
ニコルはアンジェに頬擦りをした後、息を吸い込んで……首筋に唇をつける。
「ふぇ!」
こちらから見えてはいないが、唇のはずだ。覚えがある。
まだ少年だった時、触れ合った唇。
「(いかん、思い浮かべるな! そういう気分になるのは良くないことだし、ニコルに失礼だ!)」
アンジェは劣情を抱くことに慣れていない。体が火照り、脳がぐらつき、腹の奥が熱くなる感覚を、忌むべきものとして捉えている。
これに身を委ねることが恐ろしい。理性的でありたい。頼りになるニコルのために、頼られるアンジェでいたい。
故に、ニコルの気持ちがどうであれ、それに応えることはできない。
「(ニコルはたぶん、親愛のつもりでこうしているだけだから。オレのことを好いているっぽい仕草が時折見え隠れ……してない、してないから!)」
知識の海を漁るうちに、ニコルの行動がかなり親密なものであることは理解してきている。
だが家族や親友に対しても、このくらいの肉体的な接触はあり得る。以前に恋人ではないと言われたこともあり、今ひとつ自分の直感を信じきれない。
もし外れていたら。もし対応を誤ってしまったら。ニコルは永遠に友達のままだ。
結ばれたい。だからこそ、踏み出せない。
「負けないで、アンジェ」
ニコルは顔を上げて、アンジェと額を合わせる。
これは激励ではなく……懇願だ。心のどこかで、アンジェが敗北すると思っている。
心配性とは言い切れない。事実、敵の戦力は不明であり、アンジェは非力だ。
「なんとかしてみせる」
まだ名残惜しそうなニコルに向けて、アンジェは静かにそう宣言する。
一足跳びに距離を詰めることはできない。ならば少しでも成長して、活躍して、心を射止めるしかない。
まずはこの村の一大事から、解決しよう。




