鵺退治④
鬼一が追っていたのは、鵺ではなく天海の氣であった。もともと天海が目的ではあったが、そもそも鵺よりも天海の氣のほうが強く感じられた。賀茂もそれに気付いていた。
権左を置き去りに馬を走らせた。後ろから権左の戸惑う声が聞こえた。
やがて、鬼一と賀茂は、信玄の本陣に到着した。鬼一は天海の氣を探った。
「これはこれは賀茂殿ではないか!」と幕から山縣が出てきた。
「まさか、来てくれるとは思わなんだ!いやぁ有り難い」と賀茂達のほうに歩み寄る。
「天海はどこだ?」と鬼一は聞いた。返す言葉を間違えると殺す。そんな気迫が込もっていた。山縣は一瞬真剣な顔になったが、すぐに温和な顔に戻り「天海?はて」とシラを切った。
「山縣殿、道摩師に嘘は通じないことをご存知ないか?」と賀茂が冷たく言った。
山縣は「嘘などついておらん。わしを侮辱しているのか」と凄んだ。鬼一は「10歳くらいの少女だ。白銀の髪色をしている。知らないのか?」と冷ややかな口調で言った。賀茂は、このままでは山縣を殺しかねないと思った。こういうときの鬼一は、目的に対して恐ろしく合理的に動く。他の道摩士もそのように訓練されているが、鬼一は徹底されていた。鬼一は、山縣が本当に知っているのか、知らないのか、どうでも良かった。答えられないなら、さっさと首を刎ねて信玄を脅せば早いと考えていた。
山縣は少し考え、「あの子供は天海と言ったのか」と答えた。「詳しく話を聞かせて欲しい」と賀茂が言った。
「しばらく私のほうで世話をしていた。今はここにはおらんが、行先なら知っとるぞ」と山縣が言った。鬼一の目が光る。
「鵺退治を請け負えば、行方を教えるということか?」とうんざりした口調で賀茂が尋ねた。
鬼一が「いいだろう」と言った時、あの奇妙な鳴き声が鳴りびいた。