鵺退治③
黙って聞いていた鬼一は「少女は見ていないのか?白銀の」と尋ねた。権左は「俺は見ていない。仲間の源太が見たと言っていたが、本当かどうかも分からねぇ」と答えた。その源太から話を聞きたいと鬼一は言ったが「黒焦げになって死んじまった」とのことだった。
「少女を見たのはいつだと言っていた?」
「確か3回目に襲われた日だから7月17日だ」
「何かいつもと違ったことはなかったのか」
「俺はその現場にはいなかったからよく分からねぇが、鵺がついに親方様の所まで迫った時だ。山縣殿が弓を射て追い払ったが、あわやと言うところだった」
「その時に少女が鵺の背中にいたんだな?」
「いや、その時ではない。鵺がいつものように人を襲う時だ。少女が背中にしがみついていたらしい。俺は幻だと思うがな。銀髪で目が金色の女だと話していたが、見た者は源太しかいないし、その後も鵺に襲われたことがあったが、そんな子は誰も見ていない」
鬼一は、間違いなく天海がいると確信していた。
天海は、死んだ親友の一人娘だ。生まれながらにして白銀の髪、金色の目をしており、霊力も凄まじかった。訳合って鬼一が引き取り世話をすることになったが、天海は鬼一にとって娘であり妹であり友人であり恋人のような存在になった。誰にも心を許さない鬼一が唯一心を開くのが天海だった。しかし天海が10歳を迎える誕生日に突然姿を消してしまった。鬼一はその日に天海を探す旅に出た。123日前のことである。
「ここが俺が初めて鵺を見つけた場所だ。変な鳴き声で鳴いていた」
「鬼一、なにか感じるか?」
「何も。むしろあちらの方角から強い氣を感じるな」
鬼一が指した茂みの向こうは、信玄が襲われ、山縣が弓を射った場所であった。
賀茂は「ここはいいからその場所に連れて行ってくれるか」と言った。
権左は、分かったとその茂みの奥に歩みを進めた。
もう日が暮れようとしている。