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鵺退治②

 鬼一と賀茂は、鵺が現れたという山道まで馬を走らせていた。まだ夜が明けたばかりで、空気が澄んでいた。

「鵺が相手となるとそれなりの準備が必要だな」と賀茂が言った。鬼一は「鵺は放っておく。タダ働きにしては割に合わんからな。あくまで狙いは天海だ」と真っ直ぐ前を見つめながら言った。

「何言ってる。鵺はこっちの事情なんざ考えないぞ」

「賀茂さんの獅子丸があれば何とかなるだろ」

「簡単に言うな。鵺は雷獣だ。天海を引き剥がす前にわしらが黒焦げにされるわい」

「引き剥がさない。俺が天海を説得する」

賀茂は呆れた顔で「あの女が聞く耳を持つか。ましてやお前に」と言った。

鬼一は気にすることもなく「それもそうか」と間を置き「油屋から巻き上げた油がある。こいつに桑の葉を調合して刀に塗れば、雷切3回分くらいは使えるだろう」と言った。

 道摩師は特殊な調合を施した油を刀に塗って戦うことがある。油には刀そのものの力を強めたり、妖怪が苦手な成分を含ませたりと多様な効果を持たせることができた。


 しばらく馬を走らせていると、赤い甲冑を着た兵が二人を呼び止めた。

「貴様ら何者だ。この先は我ら武田が陣を張っている。通すわけにはいかん」と凄んだ。

「見て分からんか。道摩師だ」と鬼一は馬上から見下す。

兵はハッとして「親方様から話を聞いている。鵺退治を引き受けてくれるのか」と聞いた。

 鬼一は「まずは現場を見たい」と言った。兵は「分かった。案内しよう」と歩き出した。この中年の兵は、権左と名乗った。武田の兵だけあって、その所作に無駄はなく相当の手練れであることが分かった。無論、鬼一や賀茂の相手ではない。

 道中、賀茂は「権左は鵺が襲ってきた夜に近くにいたのか」と聞いた。兵は顔を青くして、うなづいた。鬼一は「よく生き延びたな。その時の話を聞きたい」と言った。

 兵はしばらく口をつぐんでいたが、あの晩のことを語り出した。


 越後との戦を翌朝に控えた甲斐の兵達は寝苦しい夜に耐え、何とか体を休めていた。 

 権左はなかなか寝付けず、気晴らしに辺りを散歩することにした。

 すると森の奥から「ひょー、ひょー」という不気味な鳴き声が聞こえてきた。権左は仲間がふざけていると思い「おい、何やってやがる」と鳴き声のするほうに向かっていった。木々を掻き分けて開けた場所まで来ると、権左はその光景に息を呑んだ。

 そこには異形の生き物がいた。頭は猿、体は虎、尻尾は蛇。そいつが夜空に向かって「ひょー、ひょー」と鳴いていた。

 権左は、見つかるまいと息を潜めて体を丸めた。

 不気味な鳴き声が続く。心臓が高鳴る。息が荒くなる。手で口を覆い目を瞑った。

 突然、鳴き声が止んだ。恐る恐る目を開けるとそこに怪物の姿はなかった。「助かった」と胸を撫で下ろす。

 突然、悲鳴が聞こえた。仲間の声だった。権左は木々を掻き分け、慌てて元いた場所に引き返した。あの怪物が仲間達を襲っている。刀や弓で応戦した者もいたが、ひらりとかわされ鋭い虎の爪で切り裂かれていった。血が流れ、悲痛な悲鳴が聞こえる。権左は震えてそこを動くことができなかった。目の前で次々に仲間が切り裂かれた。

 まるで地獄だ。

 その怪物はひとしきり暴れた後、急にピタリと動きを止め「ひょー」と鳴いた後、夜空に消えていった。まるで飼い主に名前を呼ばれた犬のようであった。


 あの夜以降、戦の前になると鵺が必ず現れ、兵を襲うようになった。権左達は何とか鵺を退治しよう試みたが、追い払うのが精一杯であった。

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