道摩師
道摩師は、元を辿れば陰陽師に由来する。
戦国の世に入り朝廷の力が弱まる中、その庇護を受けられなくなった陰陽師の一部が生活のために民間から妖怪退治や祭事を請け負うようになった。
その中で戦闘に特化していった陰陽師を天文や暦を専門とする陰陽師と区別して「道摩師」と呼ぶようになった。
道摩師は『車太刀』と呼ばれる長さ50センチほどの大きく反った太刀を使う剣術と陰陽道を基礎とした『式』を使うことが特徴である。式は呪術のようなもので人間の心を読んだり惑わしたりすることもできた。
さらに、特殊な儀式を行うことで人間の潜在能力を極限にまで解放しており、超人的な身体能力を持っていた。しかし、その過程で地獄の苦しみを味わうことになり、廃人になる者や命を落とす者もいるようだ。道摩師の多くが白髪なのはこの特殊な儀式のせいである。
そして、いつしか道摩師は不気味で、金に汚く、血を好む怪物として恐れられながらも穢れた存在として侮蔑の対象となっていった。
鬼一法眼は、そんな道摩師の中でも、磨き上げられた剣術と式を兼ね備えており、一目を置かれる存在であった。また、金に汚いことでも有名であった。
油屋から金を搾り取った鬼一は、甲斐に来ていた。ある男との約束のためだった。
町人達の嫌悪の眼差しを全く気にすることなく、鬼一はずんずんと歩いていった。
そして、通りの外れにある茶屋に着いた。
そこには鬼一と同じ白髪の男が茶を飲んでいた。髪は少し薄く、顔には年相応の皺が刻まれているが、口元の髭は短く整えられており、若々しさを感じる。
「賀茂さん、しばらく」と鬼一は声をかけると、賀茂は「相変わらず遅刻か」と愚痴を言った。この男、賀茂光喜と言い、鬼一と同じく道摩師である。その中でも年長者であり、道摩師のお頭としての役割を担っていた。
「どうして、こんなとこへ?」と鬼一が話を続けると、賀茂は真面目な顔になり「実は鵺退治の話があってな」と話し始めた。