表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】悪虐聖女ですが、愛する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、溺愛は想定外なのですが)  作者: 雨川 透子◆ルプななアニメ化
〜第1部 とはいえ、嫌われているのですが〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/116

20 私の見解は正しいですか!?



 そういえば、これまでに見た過去の光景を思い出しても、総じてひらひらと薄手のドレスを纏っていた気がする。


「改めて見ると。お胸の谷間がばーん! と出るような、そんなドレスばかりが揃っていますね」

「……見れば分かるから、わざわざ言わなくて良い」

「このドレスもすごいですよ。太ももの、こーんなところまでスリットが入っています!」

「実際に自分の太ももを指差さなくても良い!」


 昨日も今日も、その中から少しでも布面積の多いドレスを選んで着た。

 とはいえそれは、深い理由があったわけではない。単純に、露出が少ない方が暖かそうだったからである。


「オズヴァルトさま、露出が多いドレスはお好みですか?」

「全く興味はない」

「!!」


 さらりと言い放たれた一言に、シャーロットはがあんと衝撃を受けた。


「普段は君の好きにすればいいが、次の夜会については別だ。あまり悪目立ちする衣装でいると、余計な面倒が起きる可能性が……」

「新しいドレスを!! 新しいドレスをどうにかします、全部替えます今すぐに!!」

「いや、別に普段は好きにすれば良いと言って」

「普段から露出の少ないドレスに致します!!」


 必死に言い募るシャーロットに対し、オズヴァルトは物言いたげな視線を向ける。

 だが彼は、やがてどうでもよさそうに表情を戻した。


「いずれにせよ。今からドレスを作らせるのでは、どうあっても夜会に間に合わない」

「でしたらどうでしょう。お胸のところがガバーッと開いているこのドレス、針と糸で、谷間をうんしょと縫い合わせて……」

「歪な形になるだろうが。仕立てが間に合わないのであれば、既製品を用意する必要がある」


 確かにそれは、そうなのかもしれない。


(どうしましょう。どこに行けば既製品のドレスが買えるのか、私の記憶には無いようです……)


 眉間の辺りをむいむいと指で押しても、微かな記憶すら出てきそうにない。

 そして、困り果てたシャーロットに向かって、オズヴァルトがなんでもないことのように言い放った。


「仕方がないから買いに行くぞ」

「……………………え」


 ぽかんと口を開けたシャーロットに、オズヴァルトが顔を顰める。


「明後日の午後、街に出るからそのつもりでいろ。ちょうど俺も公休日で……なんだ、その顔は」

「お……オズヴァルトさまが、私の代わりにドレスを買いに行って下さるのですか?」

「は? 君のドレスを選ぶのに、君が一緒じゃなくてどうする」

「『一緒』……」


 必死に思考を巡らせた。


「一緒。一緒とは、あの、私がどなたかと買い物に行くということで」

「そうだが」

「それとオズヴァルトさまの公休日に、一体どのような関連が……?」


 するとオズヴァルトは、深く溜め息をつきながら言うのだ。


「俺が、君と一緒に街に行くからに決まっているだろう」

「………………!!」


 それを聞き、シャーロットの頭の中に光が満ち溢れた。

 色とりどりの花が咲き乱れ、庭師の老人が祝福のラッパを吹いてくれる。


 これはつまり、どうあっても、まごうことなきあれだろう。確信を持ち、はやる心を抑えながら尋ねる。


「ひょっとして!! 今度こそっ、オズヴァルトさまとのデートですか!?」

「違う」

「えええーーーーーーっ!?」


 オズヴァルトは苦い顔で耳を塞いだあと、シャーロットをじろりと見た。


「妙な誤解をするな。たとえ監視をつけていても、一般国民の多い場所で君を野放しに出来るわけがないだろう」

「でっ、ですがですが、オズヴァルトさまとふたりでお出掛けなのですよね? 私のドレスを一緒に選んでくださるのですよね? これは間違いなくデートのはずでは!?」

「違う」

「わあん!」


 ぎゅっと目を瞑ったシャーロットに、オズヴァルトがここぞとばかりに追い討ちをかけてくる。


「いいか、くれぐれも肝に銘じておけ。あくまでも互いに等間隔を保ちながら歩き、目的が同じなので同じ店に入り、必要なものを迅速に購入するだけだ」

「うっうっ。はい、分かりました……!! 私とオズヴァルトさまは、あくまでお互いに等間隔を保ちながら歩くだけ。……おんなじ目的を持って……。おんなじお店に入り、必要なもの、つまりは夜会の衣装を一緒に買うだけ……あらら?」

「そうだ。ちゃんと理解したな?」

(……どうしてでしょう。たとえデートと呼ばなくとも、とんでもなく僥倖な気がしてまいりました……!!)


 きらきらと目を輝かせ始めたシャーロットには気付かず、オズヴァルトは息をつく。


「では、俺は部屋に戻る」

「はい! おやすみなさいませ、愛しのオズヴァルトさま!!」

「……何故この一瞬で元気になっている……? まあいい」


 オズヴァルトが扉に向かうまでのあいだ、シャーロットは彼の後ろにくっついて、全力で見送りをした。

 彼はものすごく煩そうだったが、やがて諦めたような表情で部屋を出る。


「……先ほどまでオズヴァルトさまがいらしたお部屋は、なんと素晴らしい空間なのでしょうか……」


 ほうっと溜め息をこぼしたあと、シャーロットはそっと机の日記帳を手に取った。

 表紙を開くと、あれほどぴったりと張り付いていた日記帳が、すんなりともう一枚捲れてしまうではないか。


 二ページ目と三ページ目の、その見開きにたった一行だけ書かれていたのは、やはりシャーロットと同じ筆跡で綴られた文字だ。


『消してしまえ』

「…………」


 シャーロットは、日記帳を逆さまに振ってみる。

 けれどもやはり、その先のページに進むことは出来ないのだった。




***




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 連載が再開されてあらためてはじめから読んでいるのですが登場人物たちのやり取りがリズミカルでまるで喜劇のミュージカルみたいで楽しい、面白いです。
[一言] あー可愛い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ