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近衛の姫、信長の妻  作者: 御幸
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6. 荘園

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天文十四年(1545) 九月 山科 山越村


「こちらが今回姫の護衛をすることになったものたちです。」

輿の周りに、十人程がひざまづき、首を垂れている。

「面を上げよ。此度はよろしく頼む。」

侍女の幸に紹介され、護衛のものたちに目を向ける。

孝子は、その中の一人、がっしりとした武人のような体つきに似合わぬ柔和な笑みを浮かべた男に目がいった。

二十代半ばだろうか。優しい笑みのはずなのに、どこか違和感がある。

「ささ、姫様、輿へ。」

「うむ。」


ついに近衛家の荘園に向かう日がやってきた。

孝子、初めての外出である。

京の町は、孝子の想像よりはるかに寂れていた。

日ノ本の中心と言われているが、とてもそうは思えない佇まいである。

それだけ戦火が人を、町を、苦しめているのであろう。


荘園のある山科まではすぐだった。

孝子は輿に乗って移動しているため、疲れもない。

荘園の入り口には、二人の男が待っていた。

「ようこそ山越村へお越しくださいました。お初にお目にかかりまする。某、浅木祐之進と申しまする。

こちらは倅の裕次郎にございまする。」

「浅木裕次郎にございます。姫様にお目にかかれて光栄にございます。」

「妾も会えて嬉しいぞ。手数をかけるが、村の案内を頼む。」

「ははっ。」


「今は収穫の準備をしております。これといった名産がある訳ではありませんが、皆一所懸命に米を作っております。」

「わぁ〜、きれい。お姫様みたい!」

孝子と同い歳くらいの女児が歓声をあげて走り寄ってくる。

「これ、無礼じゃろう。姫様、申し訳ございませぬ。幼児のすることゆえ、何卒ご容赦くださいませ。」


「申し訳ありませぬ!何卒、何卒ご容赦を!」

女児の母親だろうか、地面に平伏して謝っている。

「早く謝らんか!」

平伏すように女児の頭を押さえつけようとしている。

孝子は護衛をかき分けて、急いで声をかけた。

「よいよい、綺麗とな、嬉しいことを言ってくれる。

ほれ、早く立つがよい。」

孝子は女児の手を取り、立たせた。母親にも立つように促す。

「姫様、お手が汚れてしまいます。」

「良いのじゃ、この手は実りを生み出す手。妾の役に立たぬ手よりよっぽど綺麗じゃ。

そなた、よく母御を手伝っているようじゃな、えらいぞ。何か村で困っていることはないか。」

「わあ、きれい…。」

「ほほほ。」

女児は孝子に見惚れているようだった。村で見たこともない格好をした孝子に興味津々のようである。


この子も綺麗な着物を着られるくらい、村の民も豊かな生活ができるようになるだろうか…。

いや、自分がそう導くのだ。

孝子が決意を新たにする様子を、護衛の男が興味深げに見ていた。




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