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近衛の姫、信長の妻  作者: 御幸
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5. ひととき

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天文十一年(1542) 九月 山城国葛野郡 近衛邸


「父様。」

「おぉ、孝子。布団の件では、大活躍じゃったの。

主上も孝子の発案じゃと知って、如何な娘かといたく興味を持たれたようじゃ。」

「恐れ多いことにございます。非才の身なれど、今後もより一層精進していく所存にございます。」

「ふぅ、誠其方は手のかからぬ子じゃの。まだ童なのじゃから、父に甘えて良いのじゃぞ。

麿は少し寂しいぞ。」

「そんな、妾は十分父に甘えておりまする。

妾が好き勝手できるのも、父上が公家衆を抑えてくださっているからではありませぬか。」


此度の一件で、公家衆が孝子のことを神童だと持て囃し始めた。

しかし、その一方で近衛家だけが莫大な富を手にするのをよく思わないものもいる。

なにせこの時代の公家は困窮しており、実態なき権威といった様相であった。

利益の分け前に与ろうと擦り寄ってくるもの、商人の真似事など下賤だと非難するものなど様々であった。


「そうか。子を守るのは、当然の務めじゃからの。」

稙家は、少し照れ臭そうに鼻をかいた。

孝子は、心の奥底を擽られるような、温かな気持ちになった。

この時代、あちこちで戦が起こり、世は混乱を極めていた。

中には、悲惨なことに、親子でも騙し殺し合う武家もあるという。

父稙家も兄晴嗣も孝子に優しい。一人娘のせいか、少し甘すぎる気もするくらいだ。

親子の情があるこの近衛家に生まれてよかったと、孝子は幸せな気持ちになった。


「それで父様、布団の販売で、我が近衛家の懐事情も大分改善いたしました。

その資金を元手にやりたいことがあるのです。」

「ほぅ、また何それと思いついたのか。

そなたの枕元に恵比寿様がお立ちになったと聞いた時は驚いたが、此度もお告げがあったのか。」

「はい。恵比寿様は様々なことを教えてくださいます。

民のためになることをせよと、お示しになられているのだと、孝子は思っております。」

「立派な心がけじゃ。もう民草のことを思うて行動するとは、大人でもなかなかできるものはおるまいに、そなたはほんに…。」

涙ぐんだ稙家を見て、孝子は苦笑する本心を隠した。

この時代は信心深い人が多いので、神のお告げと言えば、孝子の未来知識も受け入れられた。

稙家に嘘をつくのは心苦しかったが、今後動きやすくするためにも、妖憑と思われないようにする必要があったのだ。


「稲作に関することで、いくつか腹案がございます。

一度、我が家の荘園に行ってみとうございます。」

「そなたはまだ幼い。外に出るのは、早いのではないか。」

「はい、ですので、この家からほど近い山科の荘園に行ってみたいのです。

そこなら移動も楽ですし、極力迷惑をかけないようにいたします。

お願いいたします、父様。」

「ふぅむ、まぁ、十分な護衛をつければ、安心じゃろう。手配するゆえ、時をくれ、孝子。」

「ありがとうございます、父様!」


まずは、実際の農作業を見てみなければならない。

孝子は農業に詳しくはないが、試行錯誤しながらでも食糧事情を改善しようと意気込んでいた。

逸る孝子は知る由もないが、孝子が以前より渇望していたある人物との出会いが、すぐそこまで迫っていた。


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