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蒼い雪、魔女の唄  作者: 水槽
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櫻之風

 僕の通う国立濡烏学園は普通の学園とは違う、多くの歪な特徴がある。『魔女』が通える唯一の学園であること、立地が首都がある大陸ではなく、船に三時間は揺られなくちゃいけないほど遠い孤島にある事などもあげられるが、なんといっても島の構造が一番の特徴だろう。

 まず学園が地下にある。その上、つまり地上には街並みが広がっている。何故このような構造になったのか、入学当初は不思議だったが、その疑問が解けるのに二日もかからなかった。

古い建物を見れば、嫌でも目に入る「証」。港にある交易場の壁。罅がジグザグに入ったレンガに食い込むようにして存在する「それ」は、いわずもがな銃痕だ。交易場だけでなく、いたる所で見られる銃痕は、昔この島が軍事基地だったことを伝えている。

 その地下施設を再利用する形で建設されたのが、いまの濡烏学園である。

 地上に広がる町の上には、もう一つの町がある。

 空上都市。通称「魔女の箱庭」

 人間とは別の、努力によって魔術を会得せず、血脈による魔術を試行する、人間のカタチをした別の生き物。

 人間は彼女らをこう呼ぶ。 

 「魔女」と。

 魔女と人間の違いは大きく分けて二つある。

 一つは使える魔術が異なること。人間には環境に干渉する魔術、「水をだす」や「火を起こす」などが出来ないが、魔女はそれらの魔術を扱うことができる。ゆえに戦場では重宝される。

 人間がいくら束になったとて魔女一人には到底敵わないからだ。だからこの島の上空には箱庭がある。魔女を一か所に集めれば、だれもその場所には手を出さないと考えた結果だろう。だだ種としての数は人間のほうが圧倒的に多い。

 この国は前世で僕が暮らしていた日本より領土も人口も広く、多いのだが、箱庭があるのはこの島と首都にしか無いということが、なによりそれを象徴してるといえる。

 昔、まだ小学生の頃に読んだ、いわゆる「剣と魔法のふぁんたじー小説」では誰もが「魔女」が使うような、呪文を唱えるだけで炎の剣や氷の槍を出現させる魔術を使っていたが、よく考えたらその世界の治安は相当悪かったに違いない。話が進むにつれて主人公の気弱な性格が、いつのまにか弱者を見下し強者に媚び美少女を愛でるといった感じに変化していたが、それもそのはずだ。たしか時代設定は中世レベルだったから、毎日のように殺人事件が起きていたとしたらそんな性格にもなる。この世界は他者を攻撃できる魔術をつかえるのは魔女だけなので、いささか小説の世界よりは平和だ。

 もう一つは寿命。人間より成長速度が五倍から七倍遅い。まるでエルフみたいに。


 その日の放課後、一旦寮に戻ってから部活に参加しようと考えた僕の思惑を見事に破壊したのは、玄関に備え付けられている掲示板の呼び出しだった。

 僕の下宿先は学園の正門を出てから数十分ほど歩いた先にある、築百年は経たんとする九龍城もびっくりの雰囲気をしている寮である。聞く所によると、昔は命をかけて戦う戦士の集う兵舎だったらしいが、今では親からの仕送りを受けずにバイトで何とか学費と生活費を絞りだしている、ある意味で命がけの生活をしている学生が集う場所となっている。

 ギシギシと音を立てる玄関を開けると、壁に掛けられている掲示板、この場合は伝言板といったほうが分かりやすいのかも知れないが、両者の違いはほぼ皆無———が目に入った。

 そこには「分かった、来て」という、主語を完全なまでに無視した、なにが言いたいのかわからない、しかしながら僕には逆らえない文字が連なっていた。誰が書いたのか、名前も宛名も無いが、筆跡からしてこれを書いたのは彼女で間違いない。

 授業が終わってからほぼ一直線で帰ってきたので、真面目に学園に通っているならばこれを書く時間があったとしてもどこかですれ違うはずだ。彼女が学園に顔を出すのは多くて週に二回、きっと今日も今日とてさぼったのだろう。

 「はあ・・・・・・」とため息が出てしまう。何しろ彼女の家は遠いのだ。駅にいかなくてはいけないから。

 一度、部屋に戻ってコートを着る。きっと帰ってくるのは夜になる。四月の風はまだ冷たいのだ。


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