古代都市アーツドペファの住人の八割はインディ・ジョーンズです
2日前に予約投稿していたことに先程気づき慌てて2話目投稿です。
「あぁ、なんて言うことだ、まさか英雄を召喚してしまうだなんて。やはりあの魔法陣は王家が秘匿してきた英雄召喚の……だとしたらこの血が鍵となったか。なんでも好奇心で弄ってしまうのは良くない癖だな。英雄の血筋だとしても無関係の少年をこちらの世界に呼び出してしまった……それともあの資料にあった紅月が王家の秘宝に関係があるというのはこの魔法陣に関係することだったか……くそっ!なんということだ。王家に月永水以上の秘宝があっただなんて……いや、だがまだここに月永水がないと決まった訳では……ブツブツ」
あぁ、おじ様が思考の海へとダイブしてしまった。俺にも説明して欲しいんだけれども……
「あのー、おじ様?俺にもわかるように説明してくれませんか?僕が英雄ってのはどういうことなんですか?」
「え?あっ!?いや、申し訳ない。また考え込んでしまってひとりにしてしまったね。どうも気になることがあると考え込んでしまうタチでね……」
おじ様がこちら側に戻ってきてくれた。
「そうだね、どこから説明したものか。いや、そういえば自己紹介がまだだったね。僕はクロリード、いまはしがない考古学者をしている。まぁ冒険者と兼業みたいなものだけどね」
まじか。こんなイケおじでしかも考古学者って。めっちゃ渋いイケボだし。ちょっと抜けたところがあるのがまた可愛い、完璧じゃあないか。クロリードさん、恐るべし。
「はじめまして、クロリードさん。改めまして、俺は佐久間貴利と言います。故郷は日本の田舎、学生をやっています」
「そうか……タカトシくん、僕は君に謝らなければいけない。ここは、いやこの世界は君の住んで居た世界ではない」
「まぁ、デスヨネー」
ぶっちゃけ覚悟はしていたがやはりここは地球では無いようだ。
あれ?でもなんでクロリードさんはここまで言い切ることができるんだ?何か知っているのだろうか。謝らなければいけないとか言ってるし。
「随分あっさりと受け入れるんだね……兎にも角にも、この国の名はグラングラン王国、そしてここは王国の郊外に位置する古代都市アーツドペファだ」
「アーツドペファ……当然ですけど聞いたことのない都市ですね」
「僕が君に謝らなければならないというのはこの都市の特徴が関わっていてね……この都市はかつて大陸一の大国として名を轟かせたアーツドペファ神聖国の成れの果てなのだよ……そしてこの廃墟こそ、その大国のシンボルマーク、アーツドペファの教会城さ」
なるほど、廃墟の割には意匠の凝った石柱の瓦礫や破れかけたタペストリーはその残骸という訳だ。あれって持ってったらそれなりのお金にならないかな?めっちゃ高そうだし。
「古代都市アーツドペファには謎が多い。一晩で文明ごと滅んだとか最後の王は不老不死だったとか、英雄を召喚し魔王を倒し魔族を従えたとかとても信じられないような噂が絶えないんだ。だから私は考古学者としてこの都市を何度も調査しに来ている。最も、こんな廃墟にテントを張ってるような物好きは大抵はアーツドペファのロマンに惹かれた夢見る考古学者だがね」
「へぇぇー、やっぱり元はお城なだけあってお宝とかあるんですか?」
「あぁ、昔は冒険者や盗賊がこぞってこの城に来ていたみたいだね。何故か宝石や金や銀のようなものは残っていなかったらしい。残っていたのは歴史書などのすぐに金には換金できないようなものだけだったらしい。何故だろうね」
それじゃあこのタペストリーもきっとお金にならないのだろう。悲しい。
「話が少し逸れてしまったね。それで君がこの世界に呼び込まれてしまった理由なんだが……それはあの部屋にあった魔法陣にあると思われる。推測だが、あの魔法陣は先ほど例に出した魔王を倒したと言われる英雄、サクマヒデタカを召喚する際に用いられたものだ。ところでこのサクマヒデトシという名に聞き覚えは?」
「………父です」
サクマヒデトシ……佐久間秀俊は、4年前に仕事道具の画材を買いに行ったっきり行方不明になっている俺の父親の名だった。
やっと見つけた
「そうか……やはり英雄の親族か。……ここは教会城の最下層。約230年前に滅亡して以降きっと誰の目にも触れずひっそりとその姿を隠し続けていたのだろう。それを私が不用意に目覚めさせてしまったという訳だ。そして数百年ぶりに目覚めた魔法陣はまた自分の役目を果たそうとした。その結果異世界の英雄、その息子であるところのタカトシくん、君が呼び出されたんだ」
「……そう……ですか………」
情報量が多すぎる。4年前に失踪したと思っていた父の行方が実は異世界召喚されていて、そのうえ英雄として魔王を倒していた?あの虫も殺せないような心優しい父さんが?そりゃあ三点リーダーだらけにもなるさ。とてもじゃあないが信じられない。
「アーツドペファの最下層にある魔法陣がまともなもののはずがなかった。安易に発動させるべきではなかった。本当に申し訳ない」
クロリードさんがこの魔法陣を発動させたから息子の俺が召喚された……つまり父と近しい人間だったからこの世界に呼ばれた。ということは
「……いえ、むしろお礼を言わせてください」
「お礼?知り合いなんて誰一人いないこの別世界に君を連れてきた僕に何を感謝するんだい?」
僕の父親は4年前失踪した。そして母親は3年前に姿をくらました。兄が2年前に行方不明になり、去年には妹が学校に行ったっきり帰ってこなかった。
俺は家族を全員失った。そうとばかり思っていた。
「この世界に俺の家族がいるかもしれない」
そう考えると、クロリードさんには感謝しかなかった。