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私の愛する婚約者が今や定番の婚約破棄を言いたいみたいなのですが、最後まで言えずにいます。

「ミア・コンスタンティーヌ・ワーズウィンナー、話がある」

「はい、ノエル様」

 私の愛する婚約者で王子のノエル様。白馬が似合う、私にはもったいないお人ですわ。

「……いや。その、実はだな。話と言うのは……」

「はい」

「お、お前と、こ……こ、こんや……っ」

「今夜?」

 もう、今夜だなんて、ノエル様ったら大胆ですわ。

 本当はそんな意味じゃないと分かっていても、私はつい頬を染めてしまいました。

「こ、こっ……こんや、は良い満月だな。もし月見で夜風に当たるなら、冷えて風邪など引かぬよう、暖かくするんだぞ」

「ふふ、はい。ここ最近気温の差が大きいですものね。夜は暖かく過ごしますわ」

「ああ」

 ノエル様が目元を和らげて微笑んでくださいました。

 あぁ、なんて素敵な微笑みでしょう。好きですわ、ノエル様。

 いつか、ロマンチックに「月が綺麗ですわね」って言ってみたいわ。




 数日前、私が王宮でノエル様とお茶会をしていた時でした。

 少し席を外したノエル様のコートから落ちた手帳を、私は見てしまったのです。

 本当はお届けしたかったのですが、あっという間に歩いていってしまわれたので、そのままテーブルに置こうとしました。

 ですが……私のいけない手が、手帳から離れません。それはほんの、出来心だったのです。

 お綺麗なノエル様の字。文字は人を表すと言いますし、ノエルが真っ直ぐな方だと、すごく感じます。

「…………え?」

 私は目を疑いました。

 そこには、『今流行りの婚約破棄というものをしてみたい』と書かれたノエル様のお言葉。

 驚きと戸惑いと悲しみで、手が震えました。

 私が何かしたのでしょうか、どこか悪いところがあったのでしょうか、愛想を尽かされてしまうようなことをしてしまったのでしょうか……、その時は頭の中がぐちゃぐちゃになりました。

(いけない、ノエル様の手帳を盗み見みたなんてバレてしまったら……)

 私は慌てて閉じようとしましたが、ふとそのページに、大きく『でも、そんなことをしたらミアが可哀想だ。僕は愛しいミアにそんなこと……』という言葉を見て、本気ではないの? と、手の震えは自然と消えていました。

 だから私、そっと見なかったことにしたのです。




「ミア、今いいだろうか?」

「もちろんですわ、ノエル様」

 今日もノエル様に呼び止められました。

 私、少しでもノエル様に可愛く見られたくて、振り返る練習を何度もしましたの。おかげで、学園では“見返り令嬢”と呼ばれています。

「……すぅ、はぁ……」

 深呼吸するノエル様の唇に目がいってしまいます。

「ごほんっ……、あぁ、えっと。お前との婚約を……婚約を」

「婚約を、なんでしょう?」

 言いたい言葉は知っているけれど、やっぱり愛する人からの婚約破棄という言葉を聞くのは、胸が切なくて、悲しいものです。

「っ、く……っ、お前との婚約をっ!」

「はい……」

「こ、婚約を――喜んでいるのは僕だけだろうか!?」

 顔を真っ赤にしたノエル様の言葉に、私は胸がときめきました!

「いいえっ! 私もすごく喜んでいますわ!」

「そ、そうか。なら、いいんだ……引き止めてすまなかったな」

 そう言って颯爽と去っていかれました。ノエル様の後ろ姿、ピンと伸びた背筋、残り香、あぁすべて好きですわ。

 ノエル様、今日はちゃんと“婚約”まで言えてましたわね。




 それから、ある日のこと。

 学園のテラスでノエル様と昼食を食べていた時でした。

「ねぇ聞いてよ。私、昨日ついに婚約破棄されたわ!」

「!」

「っ!」

 “婚約破棄”というフレーズに早く反応したのは、サンドイッチを食べる手を止めたノエル様でした。

 そわそわと聞き耳立てるノエル様、お話の続きが気になるのですね。

「婚約破棄って、一体何がありまして? あれほどラブラブでしたのに」

「私よりも素敵なレディを見つけたんですって。運命の恋とか言って、相手は男爵令嬢よ」

「まぁ、それは……。でも、今流行ってますわよね婚約破棄。この前は名門の伯爵令嬢でしたわね」

「随分と落ち込んでたものね。とうとう学園まで辞めてしまって……可哀想だわ」

 レディたちの会話を聞いて、少し胸がズキッとしました。

 ずっと婚約者として傍にいたのに、いきなり婚約破棄されるなんて、私も辛いですもの。

「…………」

 私もいつか、本当にノエル様から婚約破棄を言い渡されるのでしょうか……。

「……ミア」

「は、はい」

「もし、僕がお前に……」

 今日はなぜか、その言葉の続きを聞くのが怖くなりました。

「……ボク、お前に婚約は」

「はい」

 は、まで言いましたわ。破棄と仰るの?

「婚約は、っ……婚約は、婚約はぐをしようと思うのだが、いいだろうかっ!!」

「婚約はぐ……? は、はいっ! もちろんですわ、ノエル様! ハグしましょう!」

 私は人目も憚らず両腕を広げて、ノエル様からのハグを待ちます。なんて嬉しいんでしょう!

「い、今は恥ずかしいから……後でな」

 照れてしまわれたノエル様、とてもお可愛いかったですわ。私はそのお姿に、好きが止まりません!




 私に婚約破棄という言葉を言いたいけれど、なかなか言えないノエル様を観察して早……何日目でしょう? あまりにノエル様がお可愛いから、忘れてしまいました。

 あれから何度か“婚約は”までは言えてるのですけれど、その先を言うのが辛そうで……。見ている私も心が痛みますわ。

「ミア、話がある」

 いつになく真剣なお顔のノエル様ですわ。

「はい」

「聞いてくれるか?」

「もちろんですわ」

 これはいよいよ、婚約破棄ですの?

「そうか……では、ん゛んんっ」

 ノエル様が喉の調子を整えている間、私は心構えをして、ノエル様のお言葉を待ちます。

「ミア・コンスタンティーヌ・ワーズウィンナー。僕は、僕はお前との婚約を……」

 そこまでは詰まらず言えるようになったのですね。私、ノエル様のご成長が見れて幸せですわ!

「婚約をは……ぅ、っ……婚約を、は」

 その先の、破棄が言えないノエル様。唇を噛み締めて……あぁお辛そう。

「は……は、っくしゅん!」

「まあ、ノエル様っ! 大丈夫ですか? 中庭は冷えますものね。さ、これをお掛けになって」

 お可愛いくしゃみに萌え、好きが溢れる私ですが、今はノエル様のお身体が先決ですわ。ノエル様がお風邪でも引かれたら、私、生きていられませんもの。

 私は肩にかけていたブランケットをノエル様に掛けてさしあげる。

「す、すまない。……あぁ、ミアの香りだ」

「っ!! は、恥ずかしいですわ……」

 ノエル様の蕩けるような瞳に、私はリンゴのように顔を真っ赤に染めました。




 もしかしたら、来週の卒業パーティーで私は今度こそ婚約破棄を言われるのでしょうか。

 どうやら“パーティーで婚約破棄”される方がほとんどだと、そうお聞きしましたもの。

「ミア? どうした?」

 あぁ、私を心配してくださる慈愛に満ちたノエル様の瞳。私の大好きな、深いエメラルド色。

「元気がないようだが、体調が悪いようなら言ってくれ。屋敷まで送ろう」

「ふふ、大丈夫ですわ。ノエル様を気遣わせてしまうなんて、私も配慮が足りませんわね」

「そんなことない。お前が元気なら、それでいいんだ。遠慮なんてしなくていいからな」

 ノエル様が私の手に、ご自身の手を重ねてきました。温かくて、大きくて、落ち着きます。

「ミア、こんな時に言うのはなんだが……落ち着いて聞いてほしい」

 い、今ですの!? 卒業パーティーまで待てない、ということなのでしょうか!

「え、えっと、はい」

「……こほん。では、ミア・コンスタンティーヌ・ワーズウィンナー」

「は、はい」

 手が震えては緊張がバレてしまうわ。落ち着くのよ、私。

「お前との婚約は、婚約は今日で、破……、破」

「はい」

「破……はっ、きりさせようと思う!」

 え? 破っきり……ぁ、はっきり?

「はっきりですか?」

 私は目を瞬かせました。

「ああ。お前との婚約は、今日ではっきりさせよう」

 はっきり、とは……いえ、でもちゃんと“は”と“き”が入っていますもの。東方でいう、「すき焼きの焼きを取って、すき」っていう、あれでしょうか!

「そ、れはつまり……婚約破棄、ということですの?」

「!? な、なぜお前がそれを?」

 ノエル様が驚いたようなお顔をされました。あぁ、そうなのですね。

 私は溢れそうな涙を必死に止めます。

「……ごめんなさい、ノエル様。ずっと前、ノエル様の手帳を盗み見してしまいましたの……。そこに“婚約破棄したい”と書いてあるのを……勝手に見てしまった私はいけない娘ですわ」

 嫌われるようなことをしてしまったのですから、破棄とは直接ではなかったものの、そう告げられたも同然ですわ。

 “お前との婚約は今日ではっきりさせる”なんて、婚約継続か破棄か、その白黒をつけようと、そういうことなのでしょう?

「……ミア、お前はいけない娘じゃない。ちゃんと自分の非を言って謝れる、優しい婚約者だ」

 ノエル様が私の肩をそっと抱き寄せました。

「確かに、最初は流行りにのってみようと、言ってみたいという、ほんの好奇心だった。だが、いざ言おうとしても、愛するお前の悲しむ顔が浮かんで辛かった。お前にそんなこと言えない、僕はお前を愛しているから」

「ノエル様……」

 お辛そうだったのは、私を想って……。そのお気持ちだけで充分嬉しいですわ。

「婚約をはっきりさせようと言ったのは――卒業したらすぐに結婚しようという意味だ。婚約関係ではなく、夫婦として新たな関係を築いてほしいと、そう言いたかった」

 け、っこん……私とノエル様が結婚……。け、けけ結婚!!

 言葉を理解した私は、あまりにも嬉しくて、堪えきれず涙を溢してしまいました。

「卒業パーティーが終わったら結婚しよう、愛しい僕のミア」

「はいっ! 私の愛するノエル様! もちろん、もちろんですわ!!」

 私はノエル様の胸に飛び込みました。

 優しく抱きしめてくれるノエル様に、私の頬は緩みっぱなしですわ。





 私にとって卒業パーティーは婚約破棄の場ではなく、とっても幸せな未来への、忘れられない場になりました!

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!




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[一言] 流行りに乗って、って理由で破棄して見ようとかおバカさんな動機だけど、実際にやろうとすると出来ないあたり良い子だな というかなんでそんなもんが流行るんだ、この世界
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