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短編恋愛小説集「嘘の告白」  作者: ?がらくた
女友達 中野未来編
8/23

第8話 ダメダメな一日? 中野未来編その4

俺たちは電車に乗ってテラスモールと呼ばれる、市内では最大規模の商業施設に訪れていた。

週末なだけあって道路は渋滞していて、想像以上に混んでいる。

これだけ人がいると、デートを予定通りに進められるか不安に駆られたが


「歩きでよかったね」


と未来がフォローを入れてくれて、少しだけ肩の荷が下りた。

内部のテナントは、どこでもあるようなチェーン店ばかりだが、別にそれ自体に何の文句もない。

人間は目新しいものより、慣れたものに安心する生き物だ。

どこで食べても同じ味、同じ装いのチェーン店は、なんだかんだ嫌いではない。


「もう12時だねぇ」

「昼飯にしようか。ちょっと待つかもだけど」

「うん、そうしよっか」


俺たちが入ることにしたのは、店内の至るところに絵画が飾られている洋食店。

子ども用メニューの裏には、やたら難しい間違い探しがあっていい暇つぶしになる。

料理の値段が安いので、何度か友達と立ち寄ることもあった。

時間が時間だけに、店の外にはたくさんの人が並んでいた。

片手で数えられるくらいの丸椅子が置かれているが、家族連れや友達連れの客ばかりで、まるで足りない。

ウェイティングシートに記入された名前が呼ばれると、一つまた一つと席が空いた。


「未来、座れよ。俺は立ってるから」

「優吾はいいの? 」

「バーカ、部活でしごかれてんだ。これくらい平気だっての」

「痩せ我慢してない? でもありがと」


金はない上に、芸能人と比べれば容姿もはるかに劣っている。

そんな俺にはできるのは、これくらいのものだ。


「そういえば昨日、洋服の準備してたらお姉ちゃんにからかわれちゃった」

「兄弟がいると、そういうのが鬱陶しく感じるの分かるわ。でも美晴さんは優しそうだけどな」


彼女の姉である美晴(みはる)さんの名前を出す。


「家族と他人とは扱いが違うものだよ。優吾の前だと、結構猫被ってるって」

「そういうもんか。姉妹なのに似てないから、血でも繋がってないのかと……」

「ハハハ、そうかもね~」


冗談に対しても、今日の彼女はどこかうわの空で、反応は芳しくなかった。

もしかすると女の子の日、だろうか。

男の自分には、その辛さなど知る由もない。

だが一人の友人として、好きな人として心配になる。

体調不良なら、無理して遊んでくれなくてもよかった。

彼女が苦しいのに、一人だけ楽しむことなんてできない。

大事なく健康でいてさえいてくれれば、また一緒に来れるのだからら。


「何か元気ないな。調子悪かったら、断ってくれてもよかったのに」

「あ、ごめん。そう見えちゃった?」

「俺の取り越し苦労ならよかった。体調が優れないなら、すぐ家まで送るからな」

「いつもより心配性だね。好感度稼ごうってのが見え見えだよ。ま、また来てあげてもいいけど」

「それだけ口が達者なら、大丈夫だな」


ただの杞憂ならいいのだが。

彼女の仕草に注視していると


「2名の田島様、田島様~」

「おっ、店員さんが呼んでるな」

「は~い」


出入り口で忙しなく動き回っていた店員さんが俺の苗字を呼ぶ。

窓際の席に案内された俺は、彼女にメニューを渡してから、もう一つのメニューに目を通す。


「俺はアーリオオーリオにしよう、未来はどうする?」

「私も同じのでいいかな」

「それだけで足りるのか。遠慮しないだっていいんだぞ。ドリンクバー頼むか?」

「うん、頼む。朝に食べたから昼は軽めでいいや」


そういうと未来は遠慮がちに微笑む。

口角が吊り上がっているだけで、目は笑っておらず、表情には固さが見られる。

持ってきたジュースの中身を、退屈そうにストローで掻きまわしていて


「早くデートが終わってくれないか」


との心の声が、聞こえてきそうだった。

裏表がなく誰にでも気さくに話しかける彼女は、女子からは勿論、男子からも人気がある。

でも浮いた話は、全くと言っていいほど聞かない。

デート自体が初めてなのではないだろうか。

そうだとしたら、知らず知らずに過度な期待させていたかもしれないと、俺は猛省していた。

いつも行くような場所に、新鮮味や特別さなどない。

その上昼時で人が多く、ゆっくり腹を休める時間も取れなさそうだ。

社会人にしたら安いレストランでも、貧乏な学生にとっては、数千円も大金なのである。

外食しただけでも小遣いなんて吹き飛んでしまうし、デートをした暁には、財布はすっからかんになるだろう。

そこまでの財力がある家庭でも身分でもない自分には、これが精一杯の贅沢だった。

でもせっかく誘ったのに、ケチケチして幻滅されるのは嫌だ。

財布の野口英世の枚数を気にしつつ、俺は彼女に尽くそうとした。


「本当に気なんて遣わないでいいからな」

「だから大丈夫だって。そんなだと私もやりづらいし、いつもみたいにしててよ」

「……なんかごめんな、しつこくてさ」

「別に謝るようなことじゃないじゃん。デンと構えてないと、好きな子から逃げられちゃうよ」


何だか申し訳なくなって謝ると、彼女は俺を励ました。

気心が知れた間柄なのに、俺たちは何故か気を遣いあっている。

ただ今日という日を楽しむ。

それだけのことで、訳のわからない数式を見た時みたいに頭が混乱していた。

事前にプランを立てていても、いざ好きな子を目の前にすると、上手く実行するのはなかなか難しいものがあった。

彼女が望むことを望む通りにやらないと、100点満点を取らないといけないと考えると、明るい気分にはとてもなれなかった。

どうすれば彼女の心を、射止めることができるのだろう。

足りない頭で考えていると、次々に悪感情が雪崩れこんでくる。

今がダメでも、次に挽回すればいいだけだ。

映画の最中なら、口数が少なくても問題あるまい。

何もしないで、映画の内容にムードを委ねればいいのだ。


「何時から上映するんだっけ」

「確か14時頃だよ。その前にチケット買いにいこうな。あとポップコーン分け合おうぜ」

「お菓子とかつまみながら見るの、映画館の醍醐味だよね~」

「しょっぱい味付けで美味いよな~」


デートの内容は、テストなら赤点ギリギリだ。

それでも他愛ない会話に付き合ってくれる未来のために、憂鬱な気持ちを吹き飛ばそうと尽力した。

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