国を導く資源
俺の大規模な攻撃で偶然発見された資源。
この資源はこの世界において、中々に貴重な資源らしい。
安定して供給されることは無く、非常に有能。
特に魔法を基準に発展している国からしてみれば
喉から手が出るほどに欲しい資源となっているそうだ。
「この資源があればかなり有益な取引が可能となるわ!」
この報告を受けたマリア姫は非常に喜び
すぐにウィップ山の探索を指示する。
結果、このレイアストーンがウィップ山に多数眠っていることを発見した。
「ウィップ山にこれ程の資源があるなんて!」
早速この事を全国に伝えようとマリア姫は動こうとした。
だが、こう言った行動をディルさんはすぐに静止する。
「冷静に考えてください、マリア姫。
確かに喜ぶお気持ちは分かりますが、それは危険です」
「何でよ…」
「大量の資源というのは確かに素晴らしい財産です。
しかし、この資源は非常に貴重です。
その資源が大量に眠っている…この小国に。
これが全国に知れ渡ればどうなるか…想像出来ますか?」
「え? そりゃあ、取引して欲しいと沢山の国がくるに決ってるわ!」
マリア姫は意外とこう言った知識を持っていないのかもしれない。
こんな平和な国のお姫様なら、それはある意味当然とも思えた。
しかしだ、一応戦争についての歴史を今まで学んできた俺からしてみれば
そんな事実が全国に知れ渡ればどうなるかと言うのは容易に想像出来た。
そして、ディルさんもその知識を持っていると言うことだ。
「……マリア姫様、ハッキリと言わせて貰います。
そんな事実を安易に広めれば…戦争が起こりますよ」
「はぁ!? そんな訳無いでしょ!?」
「あなたは人間の悪意を知らないのですか? 人は利益のみを求める物。
ましてや国となれば、人はただ利益のみを求める。
こんな小国にこれだけの資源があると分かれば
最大の戦力を用いて潰し、奪い取ろうとするのが必定!」
「何言ってるのよ! 人は手を取り合って生きていく物よ!
資源があれば、お互いに交渉して協力関係を築いて
お互いに向上していくことを目指すはずよ!
モンスターという危険な存在も居る中で戦争なんて愚手を!」
「あなたはお優しい。きっと強大な国になろうとも
あなたのそのお考えは変らないのでしょう。
仮に変ったとしても、私が必ず正しい道へ導くと誓えます。
しかし、あなたとは違い、心に善意などなくただ悪意しかない人間は多い!
その様な人間の元に集うのも、また同じく悪意しか持たぬ悪鬼のみ!
それを知るべきです。国を請け負い、国民の一生を担う姫であるならば!」
「……そんなの、私に信じろというの!? あなたは!」
「卑劣な人間は必ず存在する。そして、その様な人間がのし上がるのです。
あなたのように悪意など持たぬ者はいつか踏み台にされてしまう。
しかし、それを避ける方法もある。力を付けること。
安易にこの報を全国には広げず、今はこの資源を使い
この国の戦力を強化していくべきだと私は考えます」
上の人間の行動に対し、ここまで意見を述べる人間が居るんだな。
もしマリア姫が暴君とか、そう言った人間であるとすれば
そんな人間は生まれる事は無かっただろう。
殺されるのを恐れ、何も言う事が出来ないただの駒しか周りには集わない。
だが、マリア姫には自分の間違いを指摘してくれる部下が居る。
それがディルさんだ。彼女はまさしく忠臣といえる。
主君に絶対の忠誠を誓いながらも、主君の過ちを正そうと動く真の忠臣。
「……分かったわよ、ディルがそこまで言うなら…」
「ありがとうございます、マリア姫様」
「いや、お礼を言うのは私の方よ…一緒に考えてくれてありがとう」
マリア姫はディルさんの忠告を受入れ、この事実を伝えない事を決めた。
これはきっと正しい選択だ。
この小国であれば、自身から発信しない限りはこの情報が漏れる可能性は低い。
注目もされていない国であれば、秘密を守り抜くことはきっと可能だろう。
「…とは言え、問題はレイアストーンをどういう風に使うか…よね」
「はい」
魔法の効力を高めてくれるレイアストーン。
このレイアストーンを有意義に扱うためには魔法の知識を持つ人財が必要。
その人財を見付ける事が出来ず、時間は流れていった。
同時に、俺達が元の世界に帰る方法も見付かることは無かった。
「3ヶ月位経ったかな」
「そうだね、ご主人」
今日も特に大きな問題も起こらないまま1日が終わる。
だが、大きな問題は起きていないが、小さな問題は起きている。
それは国の財政難。流石にこのままだと資金がそこを尽きてしまう。
折角レイアストーンという名産物を発見できたところで
これを生かす方法が見付からないのでは意味が無かった。
(うぅ…レイアストーンがあっても錬金術が無い…
魔法はディルがやってくれてるけど…錬金術の技術が無いと何も作れないし…)
今日のマリアの台詞が頭の中でこだまする。
確実に今足りないのは錬金術だろう。
一応、錬金術の本を他国から仕入れて勉強をしているが
その進歩はあまりよろしくない。
レイアストーンの知識として、錬金術で物を作る際に
一緒に入れる事で、更に錬金術で完成する物品の品質を向上してくれる。
一応、錬金術の知識を多少学んで、この事実が分かった。
そして、この錬金術はどうも魔法の才覚がある人間で無ければ作れない。
現在国全体を捜索して、魔法の才能がある人物は見付かったが
俺とディルさんを合わせても僅か10名と非常に数が少ない。
内、錬金術を勉強して扱える様になったのは俺とディルさんの2人。
他の8人の内、3人は全く扱う事が出来ず、残り4人は少しだけ。
残り1人は中々に高性能な錬金術が可能になっているが俺達の方が上だった。
「ふーん…」
「ご主人! 錬金術出来た!」
「んー?」
とまぁ、ポロはたまに構ってくれと言わんばかりに錬金術出来たと言うが
大体が粘土で何か作った程度の品を持ってくる。
一応、ポロにも魔法の才能はあるみたいなんだけど覚醒してないからなのか
そもそも錬金術を行なう事すら出来ては居ない。
「上手いな、流石ポロだな」
「むむー! もっと関心持ってよ! ご主人!」
「抱きつくなって~」
でも、個人的には結構まんざらでも無い気分…
いやぁ、構って欲しいと近付いてくるときほど愛らしい姿はそう無い。
寝顔もまぁ可愛いと言えば可愛いが
やっぱり構ってくれと近付いてくるときが1番可愛いよな、犬って。
「……んー?」
「あ? どうした?」
さっきまで俺に構ってと抱きついてきていたポロが何かに反応する。
表情は今まであまり見たことの無い表情だが、少し嬉しそうに見えた。
「……ご主人、懐かしい匂いがするよ」
「懐かしい匂い?」
「ご主人! ようやく見付けたの!」
「んぁ?」
ふと頭上から初めて聞く声が聞えた。
俺の事を主人等と言っているが、一体誰だ?
普通ならビビる所なんだろうがポロの表情から敵意がある相手では無いと分かる。
「ムキー! その馬鹿犬と一緒なんて酷いと思うの! あたちを差し置いて酷いのー!」
「…誰だ?」
声がする方を見てみると、真っ黒い服にデカい帽子…
パッと見た感じ、魔法使いのような姿をした小さな少女がいた。
ポロより小さい…10歳くらいか? と言うか、なんで箒に乗っている?
「俺はお前のような黒髪魔法少女なんぞ知らん」
「ご主人! ミミちゃんだよミミちゃん! 猫ちゃん! 匂いそっくり!」
「馬鹿犬! 馴れ馴れしくあたちの名前を呼ぶななの!」
「ミミってこんな感じだっけ…猫だったような」
「気が付いたらこうなってたの! それより馬鹿犬が女の子になってるの!
やーいやーい! 玉無しー! いいざまなの! 似合ってるの!」
「わはは! ありがとう!」
「そこでお礼を言うななの! 馬鹿にしてるの!」
「わはは! 似合ってるという言葉は褒め言葉だよ!
僕はこの姿になって色々とお勉強したから分かる!」
「状況次第じゃ貶し言葉になると言う事を知るべきなの!
ふっふっふ、その点あたちは完璧なの。
主人の気配を感じて探す間にお勉強も沢山してきたの
馬鹿犬! これが何なのか分かるの!?」
自称…と言うか、ポロが言うにミミは自分の服を指差す。
「服!」
「ぶぶー、これはふ…む! 答えやがったの!?」
「わはは! ご主人に色々と教えて貰ったからね、僕は!」
「む、むきぃい! う、うらやま! いや、羨ましくは無いけどむかつくの!
このー! これでも喰らいやがれなの!」
「おぉ! 僕の服が!」
み、ミミ? が、杖をポロに向けると、ポロの服がワープしてミミの手元に移動した。
「にゃはは! やっぱり玉無しなの! 何も生えてないの!」
「ふっふっふ、僕はそれも知ってる。お風呂で見た!
でも大丈夫! これでご主人との間に子供が出来るからね!」
「むむ! 何を馬鹿な事を言ってるの? わたち達とご主人達は
種族が違うから残念だけど子供は出来ないの!」
「今の僕達とご主人はそっくりだから、多分大丈夫!」
「あ! そう言えばそっくりなの!」
「今度の発情期で襲う!」
「にゃ! それはわたちが!」
「黙れ! 変な話をするな!」
「あだ!」
「いだい!」
勢い余って2人とも叩いてしまった。
本気で叩いたわけでは無いから大丈夫だろうけど…
「よし、ひとまずお前、とりあえずミミという事にして
ポロから奪った服をちゃんと返せ! 裸じゃ風邪引くだろ!?」
「うぅ、ご主人の命令なら仕方ないの…はい、馬鹿犬」
「ありがとー!」
ミミから受け取った服をポロは嬉しそうに着直した。
「……まぁ、一応お前からも話聞くから…答えてくれるのか?」
「勿論なの、ご主人の質問なら何でも答えるの!
うぅ、何だか嬉しいの。ご主人とお話しできるなんて…
あ、いや嬉しくは無いの! 嬉しくは!」
「そうなの? 僕は凄く嬉しかったけどなー」
「馬鹿犬には何も言ってないの!」
「僕はミミちゃんに何か言ったよ?」
「知らないの! そんな事!」
「わはは! ミミちゃんが怒ったー!」
「こ、この馬鹿犬ぅ!」
……この中の良さ、やっぱりミミなんだろうなぁ。
あいつ結構ポロに絡んでたし、そっくりだ。
でも、実はミミでは無くポロの方が主導権を握っていたとは驚きだった。
……うぅ、しかし、何かよりよく分からなくなってきたな…ふーむ。
ま、良いか。ひとまずは賑やかな感じで悪くないしな。