お金の価値
まぁ、一晩寝たら現実世界なんて都合の良い事は起こらない。
そもそもだ、何がどうなってるか分かって無い状況が
一晩寝て元通りというのも、それはそれで少しもどかしいからな。
「……むぅ」
しかし、朝起きて目覚めると自分に抱きついている美少女というのは
正直言って、心臓に悪いと俺は思うんだ。
だが、この美少女がポロだと自覚したら、心音は小さくなる。
…何だか、少しだけ新鮮な気分だ。
ミミはよく俺の布団に潜って寝てたけど
ポロはずっと外で1人で眠ってたからな。
もしポロが美少女の姿じゃ無く
前までの犬の姿でこうやって同じ布団で眠っていても
俺は凄く嬉しい気分になってると確信出来る。
ひとまず満足げな表情のまま眠っているポロの頭を撫でる。
はたから見たらどんな光景に見えるんだろうな。
個人的には可愛い愛犬を撫でているという感じだけどな。
「えへへ~……ご主人~…もう食べられないよぅ~…」
「ベタな寝言だな、おい」
どうやら夢の中でポロは腹一杯の飯を食ってるようだな。
確かに結構食いしん坊だったからな、ポロは。
しかし、どうしてオスだったはずのポロが美少女になってるかは謎だが。
そもそも、人の姿になってるのが謎なんだよなぁ。
「っと、じゃあ朝食の準備をするか、下手だけど」
あれ? 動けない…おかしいなまるで身体が動かせないぞ。
両手は動かせたというのに、何か全然身体が動かない。
「……ん、ん!」
「ご主人~」
「……」
無理矢理起き上がると、何かポロが付いてきた。
正直、前の方に引っ付かれたままというのは実に邪魔だ。
「……ふん!」
「うへへ~」
離れない…だと…思いっきりしがみついていやがる!
こいつ、いつの間にかこんなにも怪力になったんだな。
とか言ってる場合じゃ無いんだ…このままじゃ、満足に動けない。
「この…!」
や、ヤバい…まるで引き剥がせる気がしない!
こいつ、マジで全力で俺に抱きついていやがる! どんだけ怪力だ!
そして、いつの間に俺は人を1人引っ付けたまま動けるほどに怪力になったんだ!?
変な能力も手に入れてるし、実は現実世界の時よりも身体能力上がってる?
姿は同じで、ムキムキになったというわけでは無いのにどうなってるんだ?
いや、落ち着け。もしかしたらポロが軽いだけかも知れない。
ポロが犬の状態と体重が変ってないとか、そんな感じかも?
いや、柴犬の体重は僅か十数㎏…人間体でその体重はあり得ないだろう。
見た目的に女子高生くらいの見た目だし、十数㎏はあり得ねーよ。
なら、やはり俺の力が上がっているというのが無難…か?
変な能力も手に入れてるし、十分あり得ると言えばあり得るんだけど。
いや、そんな事は今はそこまで重要な事ではない。
今、最も優先すべきは…どうやってこいつを引き剥がすかだ。
正直、こいつを引き剥がすのは困難だと考える。
しかし、引き剥がさないと何も出来ない。
まぁ、朝食とかは外で食べるとしても、この体勢は窮屈だ。
……いや待て、そもそも外食できるのか? 金無いぞ? 俺。
現実世界の金ならあるけど…これはヤバい気がする。
「この、マジでいい加減離せよ!」
「むにゃ~」
「だ、駄目だこりゃ…」
うん、もう諦めることにしよう。一応引き剥がさなくても
寝る事は出来るし…こうなれば、放置しか選択肢は無い。
ポロが早く起きることを願って、今はぐうたらするとしよう。
「ふわぁ~、よく寝たぁ~」
「…起きたか」
「おぉ! ご主人おはよう! 目が覚めたらご主人が目の前に!
最高の気分だよ! それだけで僕は今日も1日中超ハッピー!」
「俺はお前の顔は見飽きたんだがな…1時間以上も眺めてたし」
「そうなの!? ご主人も僕の事大好きなんだ! 嬉しい!
僕もご主人の顔なら1時間所か10時間だって見られるよ!」
「それは止めてくれ、実際お前なら飽きないだろうけど…
ほら、もう離してくれよ。ずっと引っ付きっぱなしは辛い」
「あ、ごめんねご主人」
ポロが少し名残惜しそうに俺に抱きついていた腕を放した。
何か人の姿になってから、本当これでもかと言う程に分かりやすくなったな。
いやまぁ、犬の状態でも十分分かりやすいアホの子だったけどさ。
やっぱり性格その物は犬の状態と殆ど変ってないようだ。
妙に俺に懐いてて、かなり毎日楽しそうな奴だったからな。
俺なら退屈で死にそうな毎日でも楽しんでた奴だし
これ位元気なのは納得って感じだ。
「うん。それでご主人、今日はどうするの? 何する? お散歩したいな! 僕!」
「散歩ねぇ…それも良いが、飯はどうするんだよ」
「あ! そう言えば昨日もご飯を食べてないよ! お腹空いた! ご飯食べたいよ僕!」
「結構あっさり意見変えてきたな…だが問題があるんだ」
「何々?」
「…俺達、お金無いんだよなぁ、後日褒賞を持ってくるとは言ってたけど」
「……おぉ! お金が無いとご飯が買えない!」
「そうなんだよな…現実世界の金しかないし」
「あるんだ! なら大丈夫だね!」
「冷静になれ、ここは俺達が知ってる世界じゃ無いんだ!
俺達が使ってた金が使えるわけ無いだろ!?」
「…? お金って全部一緒じゃ無いの?」
あぁ、そうだよね、そりゃそうだよね
一応、お金という知識があってもそう言う詳しい知識は無いよね。
そりゃそうだ、だってポロって犬だもん。元々犬だもん。
多少の知識はあるみたいだけど、大体俺達が与えた知識なんだろうし
そりゃ、教えてない知識をポロが持っている筈も無いよね。
いや、何故か教えてない知識もあるけど…それは何処で覚えてきたんだか。
だがまぁ、そりゃお金について詳しい話など知らないのは当然か。
「まぁ、うん。お金って色々あるんだよ。俺達が元いた世界でも
国によってお金が違うんだ。日本…まぁ、俺達が住んでた場所は円で
デカい国で、アメリカって言う国ではドルって言うお金を使ってる」
「ほぅほぅ、よく分からないけど同じ物なんでしょ?
同じ紙とか、硬い何か何でしょ? なら同じじゃん?
それとも違うの? 紙とかただの硬い丸とかじゃ無いの?」」
「い、いや、同じなんだけど」
「なら同じじゃ無いの? それとも凄い価値があるとか?
あ、もしかして、紙ってそんなに凄い物なの!?
じゃあ、ご主人がたまに鼻をかんでるのも、実は凄い価値が!」
「お金自体に大した価値は無いんだけど
お金に書かれてる数字に価値があるって言うか」
「書かれてる数字だけに価値があるなら、紙に書いちゃえば良いんだ!」
「いや、紙自体にも価値があってだな、
その紙と数字が揃ってやっと価値が出来るんだ」
「え? それってご飯よりも価値があるの?」
「あるある、超ある。これが無いとご飯買えない」
財布の中から現実世界の金、ひとまず1000円札を出してポロに見せる。
「お、おぉ! ただのペラペラした紙なのに、そんなに凄いんだ!」
ポロはお金の価値がいまいち分かっていないようだな。
まぁ、そりゃな、ただの薄っぺらい紙だからね。
宝石みたいにキラキラしてるわけでも無いし、何かに加工できるわけでも無い。
紙自体には大した価値は無くて、ただ商品を交換するためのチケットみたいな物か。
「じゃあ、ご主人がたまに鼻をかんでる紙も価値が!」
「いや、あの紙には殆ど価値は無いぞ」
「な、なんで…?」
「同じ物だけど、加工の仕方が違うから」
「うん! 良くわかんない!」
「知ってた」
説明したところでポロに理解できるわけが無いからなぁ。
でも、この姿だと言う事はお金の大切さを教えるべきかな。
うーん、手間の掛る妹が出来たみたいで面倒だな。
「まぁとにかくだ。お金は食べ物とかを交換するときに必要な物だ。
食べ物とかの前に書いてある数字の分だけ、紙の数字を合わせる。
それより増えたらお釣りって言って、増えた分だけ帰ってくる。
つまりだ、このお金が無いと物は買えない。
そのお金は国によって違うから、異世界であるこの世界で
このお金が交換できる筈が無いって事だ」
「うぅ、つまりご飯食べられないの?」
「最悪…今日はご飯抜きかなぁ…」
「そんなぁ!」
うぅ、何か即席でお金を作る方法を探さないとな。
とりあえず…街を巡って何か無いか探すしか無い。
「仕方ない、何かお金を手に入れる方法を模索するか。
今は散歩が先な。ご飯は…お金が手には入る方法が見付かったらで」
「うぅ、僕お腹空いたよぉ~」
「お腹いっぱい食べただろ?」
「え? …あ! そう言えば沢山食べた! 僕勘違いしてたよ!
えへへ、ごめんなさいご主人! じゃあ、お散歩しよう!
僕も何だかお腹いっぱいだから運動しないと!」
こいつが馬鹿で良かったと本気で思った瞬間だった。
同時に何か若干羨ましく感じた…ゆ、夢のご飯で満腹になるのか…
なる程、これがかの有名なプラシーボ効果…犬にも適応されるんだな。
ま、まぁこれで時間は稼げるな…急いでお金を手に入れるとしよう。