小国の主
彼女は俺達が助けた後、確かに私の国と言っていたな。
うん、その言葉の解釈を俺は少し間違えていたようだ。
そりゃまぁ、兵士の護衛とか居る地点でさ
良家のお嬢様である事は確定していた要素だ、うん。
…でもさ、私の国という言葉を俺は正直
私が住んでいる国という風に解釈したわけだ。
そりゃぁ、ぱっとみお嬢様でもまずお姫様だとは思わない。
……しかしまぁ、うん。まさか…お姫様だったとは。
「さ、ここが私の住んでる場所よ」
「おぉ、デカいね!」
「……いや、ここは…」
「マリア様! ご無事で何よりです!」
「マリア様、この狼藉者はどうしましょう」
で、でもほら、最初に俺達に対して敵対心剥き出しなのは止めて欲しい。
剣を構えないで欲しいんだけど…ちょっと待ってこれ。
「馬鹿! 何やってんの!? その人達は私の恩人よ! 恩人!」
「は、し、失礼しました!」
「この人達が居なかったら、私はゴブリンに襲われて死んでたわ」
「何と! だから、護衛を少なめにするのはよろしくないと」
「うるさい! うるさいうるさい! 分かってる、分かってるわよ!
反省してないと思ってるの!? 私が! 目の前で兵士達の死を見て!
一切反省してないと、そう思ってるの!? してるわよ!
私があんなわがままを言わなかったら…あんな事にはなってないんだから!」
マリアが涙を堪えながら話し掛けてきた兵士達を怒鳴りつける。
彼女はしっかりと反省していた、そして後悔している。
自分の行動のせいで人を死なせてしまったという後悔を。
自分自身が死にかけたことでは無く。
誰かを殺してしまったという点で彼女は後悔している。
「し、失礼しました…最も恐ろしい思いをしたのはマリア様ですもんね」
「違うわ…最も恐ろしい思いをしたのは私じゃ無いわ。
私を護ろうとして死んだ兵士達よ」
「いえ、彼らはきっと誇りを胸に死んだと思います。
我が身を挺してでも姫を護ることが出来たと」
「……そう、彼らは誰1人逃げなかった…勝ち目が無かったのに。
この国にとって、本当に素晴らしい兵士達だったのに…私は」
「自分を責めなくて良いよ。終わったことだもん。どうしようも無い」
「そんな風に割り切れと!?」
「割り切るんじゃ無くて受入れれば良いんだよ。
その経験をして、この先どう生かすかを考えないとね」
「…ポロ、お前…そんな言葉を何処で」
「ご主人が言いそうな言葉ー」
「……言わねーよ、俺はそんな言葉」
そんな風に前向きに生きていくことは恐らく俺には出来ない。
全くポロの奴め…俺よりも大人びて見えるよ。
こいつの底抜けのポジティブさ。誰に似たんだろうな。
「受入れる…ですか」
「…そうだな、多分受入れるのは辛いと思うけどやるしかないのかな。
起こった事は変えられないし…次は起らないように行動しないとな。
正しいと思ったことならそのままで…間違ってると思ったら変える。
なんて、口で言うのは簡単か、行動するのは困難だがな。
言うは易く、行なうのは難し。でも、言わなきゃ始まらないか」
言うというのは、きっと決意をするという意味。
そこから行動に繋げるのはこんなんでも
まず決意しないと始まりはしない。千里の道も一歩から。
どんな尊い行動でも、必ず始まりが存在して
始まりが無ければ何も起らない。どれだけ正しい事でもやらなければ意味は無い。
「衝動的な行動は止めた方が良いと僕は思う。
でも、私はきっと衝動的に行動するよ! 犬だからね!
信じてることに対しては衝動的に動くのがこの僕! そしてご主人!」
「衝動的には動けねーよ…でもまぁ、確かに俺とお前なら動くかもな」
俺が足踏みしても、ポロは引っ張り回してきそうだからな。
散歩の時もいつだって俺を引きずり回してたしな。
「…そう。良いわね、そう言う衝動的に動けるの。私には出来ない事だから」
「そうかな? きっと出来るよ」
「やれば案外出来るからな。出来てもあまり良い物じゃ無いけど」
「…じゃあ、頑張って見みるわ」
「うん、それで良いよ!」
「それともう一つ。あなた達の名前を聞いても良いかしら。
でもその前にまずは私が。私はマリア、この国のお姫様をやってるわ」
「僕はポロ。ご主人のペットだよ!」
「俺は駿河…こいつのご主人…とは何か違う気がするから
そうだな、今はこいつの相棒という事にしておいて欲しい。
あ、でもお姫様が相手なら敬語の方が良いのか…」
「いえ、このままで結構よ。特にポロの方は敬語が出来そうには思えないしね」
「敬語なんて知らないよ!」
「そうでしょうね。ふふ、じゃあ、ありがとうね、ポロ、スルガ…きっとまた会うわ。
じゃあ、ディル。この2人に宿を。褒賞も与えて」
「は、承知いたしました」
マリアが手を叩くと、何処からか執事服の女性が姿を見せた。
執事服の女の人…執事って大体男の仕事だと思ってたけど。
「あら、不思議そうな表情ね。女の執事はそんなに不思議?
でも、私はほら、異性と一緒に過ごすのは不安でしょうが無いからね。
私の身の回りの世話をするのは彼女の仕事なの」
「そ、そうなんだ」
「ディル・マックハートと申します。以後お見知りおきを」
「よろしくお願いします、ディルさん」
「おや、私には敬語なのですね」
「み、見た感じ年上ですし…」
「お気になさらず。敬語など不要です。
私はマリア様の執事。
マリア様が敬語で話す必要が無いとあなた方におっしゃったのであれば
私に対し、敬語で話をする必要などありません。
マリア様に対してと同じ様に、私にも普段通りにお話ししてください」
「…わ、分かったよ」
少し抵抗があるな。でも、本人がそう言うなら従おう。
まぁ、お姫様に対しタメ口聞いてるんだし今更か。
「では、こちらに。宿の用意をさせていただきます」
彼女に従い、俺達2人は近場にある宿に泊まることになった。
どうやら、永久的に泊まっても良いと言う事らしい。
ディルさんが事情を話したら、本当にあっさりと承諾してくれた。
マリア姫の恩人ならば喜んでと、一切悩むこと無く答えた。
その表情に恐怖などは一切なく、あっさり承諾してくれたのは
マリアの人望があってこそなのだろう。
そりゃあ、兵士の死に心を痛めるほどの奴だ。
国民に対しても献身的に行動しているのだろう。
「では、私はこれで。後日賞与を与えにこちらに参りますので」
「分かりました」
「敬語は不要です。では、また後日」
俺達に対して深々とお辞儀をした後、彼女は宿から出て行った。
何となく素人目で見ても、彼女の動きは凄いと感じた。
何か軸が全くぶれない歩き方をするんだよな。
こう、ただ者では無いと言うオーラが凄い人だった。
マリアの執事なら戦闘も行えるように鍛えているのだろう。
「いやぁ、相変わらずディルさんはスゲーな!
で、あんたらマリア様を助けてくれたんだって?
いや本当にありがとな。マリア様は俺達の大事なお姫様だ!
こう、お姫様に対して言っちゃうのは不敬かも知れねーが
何か自分の娘見てーな感じでな! いや本当に感謝するぜ!」
「いえ、そんな…やっぱりマリア姫は愛されてるんですね」
「そりゃもう! あんな親身なお姫様はそう居ねーぜ!
たまにわがままだけどよ、性根はスゲー優しいんだ!
この国でマリア様や国王様の事を嫌ってる国民は居ねーよ!」
国と言うにはあまりにも規模が小さいが、それでも国民に愛されてるなら
どれだけ小さな国でも、将来大きくなる可能性は高いだろうな。
「でー、あんたの隣に居るのはパペットビーストかい?
そんな奴隷を連れてるのに、随分と紳士的な奴だよな、にーちゃん」
「奴隷じゃ無いよ! ペットだよ!」
「お、おぅ。何だパペットビーストって率先して会話出来たっけ?」
「そもそもパペットビーストって何? 僕はそんなんじゃ無いよ。
僕はご主人のペットなのだ!」
「今は相棒という事にしてくれ、ポロ」
「ほーん、率先して動くことが出来ない筈のパペットビーストなのに
随分と明るいし、面白いお嬢ちゃんだな。こりゃマジで
パペットビーストとは関係ねーのかい?」
「そうですね、少なくともそんな存在じゃ無いですよ」
「ほーん、そりゃ珍しいな」
パペットビーストか…ポロと似たような容姿の種族もこの世界には居るらしいが
どうやら、ろくな扱いを受けては居ないようだな。
その内、何処かで出会うことがあるのだろうか?
まぁ、その時が来ればその時にどうするか考えよう。
今は寝る事を優先だ。どうも眠たいからな。
色々な事がありすぎて今日は疲れた…1度寝て起きたら現実世界なら良いな。