支えてくれる相棒
これからどうなるかは分からない。
この行動で俺達がどうなるかも不明だった。
だが、一緒に背負ってくれるという言葉に救われた。
全くただの犬っころだったポロに救われるなんて
本当不思議なもんだよ…だが、今は少なくとも
今はポロのことを、ただの犬っころとは思えない。
「こっちだよ」
「なん…」
ポロの案内で血の臭いがすると言う場所へ移動した。
そこにはボロボロにぶっ壊れている馬車があった。
周りには小さな緑の人…ゴブリンって奴だっけ。
そいつらが馬車を漁っている姿が見えた。
「は、離しなさい…!」
馬車の中から引きずり出されたのは小さな少女だった。
豪華なドレスに小さな王冠と金色の髪の毛。見た感じお嬢様という感じだ。
髪型は少し長めで降ろしてる感じか…
「ぐげげ、女だ女!」
「だ、誰か助けて!」
彼女の声に呼応する物は何処にも居なかった。
既に馬車を護衛していたであろう奴らは全員死んでいるからだ。
兵士のような見た目だが、その周りに何人ものゴブリンの死体が転がってる。
つまりだ、護衛をしようと必死に抗ったが数に負けたと言う事だろう。
兵士達の身体には何カ所に矢が突き刺さっている所から
接近してくるゴブリンに対抗したが
周囲から飛んで来る矢を喰らい、命を落としたと言う事なのだろう。
つまり彼女は助からない。このまま護衛も無くゴブリンに殺される。
もしも…もしも俺があの時、ポロに止められていなければ…
でも、俺達は戦いの心得だって無い。そしてポロも今は女の子。
もしこの場であのゴブリンに戦いを挑めば…
最悪の場合俺は殺され、ポロがどうなるか分からない。
俺達の為に何が良いかと言われれば、そんなの逃げるが最善だ。
「コラー! そこの緑の小さいの-! 女の子に酷い事する何て酷いよ!」
俺の考えが纏まるよりも先にポロが立ち上がり大きな声を上げやがる!
こいつ状況分かってないよな!? 兵士が死んでる位なんだぞ!?
「ばっかポロ! 何考えてるアホ!」
「ぐげ? へへ、可愛い雌がいやがる!」
「さぁ、僕達が相手だー!」
「だ、駄目! 武器も持たない人が倒せる相手じゃ無いわ!」
そうその通り、あの子の言うとおり武器も何も持たない俺達が
武器を持った兵士達でも倒せない連中を倒せるはずがない!
「もうおせーぜ! くけけ!」
だって言うのに、あの連中は俺達の方に走り始めている。
狙いは完全にポロだろう。これはマジでやばいぞ!
「…ご主人! こっち来たよ!」
「お前が呼んだんだよ! 何やってるんだ!」
「だ、だって! 女の子が危ない目に遭ってたら助けようって」
「クソもう! 戦うしか無いじゃないか! でもどうやって戦うよ!」
俺達には武器も何も無いのに対し、向こうは武装してる。
こんなの勝てるわけがないっての!
「こう、倒れろーってやったら倒れない?」
俺達に命の危機が迫っているというのに、緊張感の無い奴!
「はぁ!? ふざけてるのか!?」
「やってみてよご主人ー! ご主人ならきっと出来る!」
「出来ねーよ!」
「じゃあ、手をこうやって、バーンって」
「それやってもお前が死んだ振りするだけだから!」
「もしかしたらあの小さいのもやるかも!」
「やらん!」
「やってよご主人ー!」
「ふざけやがって…もう良い! こうなりゃやけだ!」
手を銃の形にして敵に向けて…はぁ、何やってるんだよ俺。
こんな事やってる場合か? でももう良い、こうなりゃやけだ!
「バーン!」
「ギゲ!」
「うぉ!」
や、やってみたらゴブリンに風穴が開いたぞ…
何? 俺は指先から弾丸を飛ばしていた!?
いや待て、そんなはずは無い。冷静になれ、テンパってるだけだ。
そんなはずは無い…そもそも弾丸の大きさでは無い。
「流石ご主人!」
「何だよこれどうなってる!」
「こいつー!」
「あ、ご主人危ない!」
動揺して居る間に接近してきたゴブリンだったが
ゴブリンはポロの攻撃であっさりとぶっ倒れる。
ゴブリンの腹には大きな爪痕が残っている。
「ぽ、ポロ…お前戦えたのか…」
「何か身体が軽いよ。きっと戦える!」
「でも、牙じゃ無いんだな…爪なんだ」
「爪の方が楽だよ? 噛むのは気持ち悪いもん」
「そ、そうか」
いやまぁ、確かに俺もゴブリンに噛み付くのは抵抗があるな。
「逃げるぞ! せめてあの女だけは連れて!」
「きゃ! は、離しなさい!」
「ご主人!」
「分かったよ!」
急いで馬車の中に居た女の子を連れて行こうとするゴブリンに攻撃をしようとした。
だが、どうやら俺の攻撃は指を銃の形にして撃つのでは無く
「グゲ!」
「あれ? 指を銃の形にしてないのにあの小さいのが…」
「どうやら、攻撃しようとした対象に攻撃する力…か?」
現状の状況をさっぱり理解できてはいないが
攻撃しようとしたらゴブリンが攻撃されて吹き飛ばされたところから
これが俺の力という形らしい…だが、俺はこんな力は知らない。
つまりだ、このわけの分からない世界に突如呼び出されて
何故かこんな変な能力を得たと言う事なのだろうか…
状況が理解できないとは言え、誰かを助けられたというのは事実だろう。
「あ、ありがとう…助かりました」
「いやぁ、助けられて良かったねご主人!」
「もしもの事があったらどうするつもりだったんだか」
「……その耳、もしかして奴隷? パペットビーストの」
「ど、奴隷…?」
奴隷って…え? ポロの事を奴隷だと思ってるの?
奴隷とか、そんな昔の時代じゃ無いんだからねーだろ。
とか思ってみたが、考えてみれば現状…ここが俺達の世界とは限らないのか。
つまりここが俺達の世界では無いとすれば…異世界?
ま、まぁ、ゴブリンとか現実世界には居ないし
こんなにも何一つ無い土地が現在に存在しているはずもないとは言え
異世界か…唐突すぎるな、ちょっとポロとじゃれてたら唐突に異世界に飛ばされるとは。
しかもポロだって何か美少女に変身してるし…異世界転移という奴かな。
転生では無いだろう。転生だったら大体トラックに潰されるし。
転移だとすれば、女神とかに呼ばれたりするのか…いや、呼ばれてないけど?
召喚系? でも、周囲に俺達を召喚した的な奴らは居なかった。
「……ふーむ?」
小説とかを読むのはまぁまぁ好きだからこう言う状況は分かる。
最近のトレンドだからな。物語は唐突に始まる物とは言え
この唐突すぎる展開はちょっと理解が追いつかない。
この場合はどうすれば良い? 戻る方法を模索するべきなのか
はたまたこの大地に根を張る為に動きべきなのだろうか。
そりゃあ、個人的には現実世界の退屈な毎日に飽きていて
異世界という刺激的な世界に飛び込んでみたいとは思っていたが
いざそんな状況になると、何だか不安要素が多い。
運良く言語は日本語と同じ様だけど、もし日本語と違っていたら大変だな。
しかしだ、どうして日本語なんだろうか? 偶然か?
大体物語は主人公に都合が良いように展開するからそれかな?
「僕は奴隷じゃ無いよ、ペットだよ!」
「それを奴隷というんじゃ?」
「奴隷は労力。ペットは愛玩動物だ」
「奴隷じゃ無いの?」
「奴隷じゃ無いよ! ペットだよ!」
「少なくとも奴隷よりは良い生活してると思うぜ、ペットは」
食事も取れるし、休息も取れる。
とは言え、大体は他人にやって貰わないと何も出来ないが。
犬と猫でいえば、多分猫の方が幸せな生活送ってるだろう。
基本自由行動が許されているのだから、そりゃ幸せだろう。
犬は大体監禁されてるからな、幸せとは言えないかも。
そもそも犬猫の幸せという概念が何なのか俺は知らないが。
俺は人間だからな、犬猫の幸せが分かるのはポロ位だろう。
ま、こいつは自分で幸せだと言った。ならば、こいつは幸せなんだろう。
「そうなの? でもパペットビーストは奴隷として有名よ。
他者の指示無くして動くことが出来ない人の形をした獣。
率先して動くことは出来ず、意思を持たないと言われているわ」
「そうなのご主人?」
「俺が知るものか、そんな存在」
「しかし…彼女は会話も出来ているし、指示無しでも動けている。
パペットビーストのように見えて、そうじゃ無いというのが無難?
じゃあ、この子は何者? そんな存在を私は知らない」
「ポロだよ、よろしくねー!」
「犬みたいな名前ね」
「犬だからね!」
「……そうなの? 犬って美少女だったかしら…」
「よく分からないけど、元犬だ。気づいたらこうなってた」
「……何言ってるかさっぱり」
「安心しろ、俺もよく分かってないから」
俺はまだ現状を理解できてはいない。
中々に大変な状況であると言う事は分かるんだけどな。
「……まぁ、あなた達の正体は分からないけど、助けてくれてありがとう」
「いや、お礼ならこっちに言ってくれ」
「ほよ? 僕に? 何で?」
「多分…いや、間違いなく俺はお前が居なけりゃ見捨ててたからだよ」
「あはは! ご主人は結局助けてたと思うよ? だから、僕は関係ない」
「いや、お前のお陰だ。ありがとう」
「なんであなたが言うの? お礼は私が言うべき。
2人とも、ありがとう。お陰で命拾いしたわ。
でも、もう少しだけ頼まれて欲しいの。おこがましいのは分かってるけど…」
彼女が少し悲しそうな表情をして、ぶっ壊れている馬車に目を向けた。
正確には馬車では無く…馬車の周りで横たわっている兵士達だろう。
「ごめんなさい…そしてありがとう。護ってくれて…」
少しだけ涙を流しながら、倒れている兵士達に謝罪とお礼の言葉を残した。
その言葉で兵士達が生き返る。なんて、奇跡的な事は起こらなかった。
終わった物はどうしようも無い…そう言う物だ。
「…ねぇ、私を護衛して欲しいのだけど…良い?
まだ、私の国まで距離があるから」
「ご主人、僕は護ってあげたいって思うよ!」
「……そうだな、良いよ。護る。その死んだ奴らの為にもな」
「ありがとう。優しいのね」
「優しくなんか無いさ。優しいのはポロだ。俺はただのクズだよ」
「ご主人、そう言うの止めようよ-、ご主人は優しいよ? 僕がよく知ってるもん!」
「……はん、じゃあ、そう言う事にしておいてくれ」
優しいか…初めて言われた気がするよ、そんな言葉。
でも、案外悪くない気分だ。こう言うのも。