最高の時間を
俺の魔法の制御というのはこれから先重要な課題になるだろう。
相手を殺してしまう魔法。勿論、制限をしなきゃ無用に殺す事になる。
この場で鍛えるのは無理だが、実戦は何より勝ると言うし。
「お前の魔法は見せて貰ってる…異常な程の破壊力だったな」
「その通りだ、異常すぎて使い方を誤れば相手を殺す」
「強力な力というのは難儀な物だな。
だが、強大な力は何より強力な盾ともなる。
強力すぎれば話は別となるがな」
「分かってる。だからなんとかするつもりさ。
だけど、今回はまだなんとか出来てないからな
何かあっても…怨まないでくれよ」
「それは無理な話だな。私達を殺めると思うなら
お前は身を引けば良い。この戦場ではそれが出来るだろう?
それをしないまま私達を殺めた。だけど怨むなは無理な話だ」
その通りだな、全くもってその通り。
この場面では身を引くことも出来る。
俺達の背後に戦えない誰かが居る訳でも無い。
戦う理由も自分自身の為に近いんだ。
そんな状況で戦う事を強行して結果殺めた。
それなのに怨むなと言うのは確かに無理な話だ。
俺は怨まれたくない。だけど、負ける訳にもいかない。
だったらやることは1つ…殺さないように尽力することだ。
「その通りだな、だったら殺さないように戦うしか無いか」
「それで良い。さぁ来てくれ、私達が戦う初の好敵手よ!」
3人が一斉に広がり俺達との間合いを詰めようと動く。
この場合の対処は色々あるけど、俺はひとまずポロとミミの前に立った。
「ご主人?」
「怪我するかもしれないから俺の影に隠れてろ」
「え?」
俺はすぐに掌を組み、高く振り上げてすぐに振り下ろした。
「な!」
俺の手が完全に振り下ろされると同時にリングの真ん中が大きく砕ける。
周囲に派手な土煙と石片が飛び散ったのは言うまでもない。
流石にこの範囲、俺達の方にも飛んで来るはずだが…おかしいな、痛くない。
「やれやれ、ご主人は相変わらず無茶をするの。あたちが居ないと大怪我なの」
「ミミ!?」
俺が無傷だった理由はミミの魔法だった。
ミミは俺達の前に防御魔法を展開し、こっちに飛んで来た石片全てを防いでいた。
「はへぇ、ミミちゃんの魔法は便利だね」
「勿論なの! あたちは最高の魔法少女なの!」
この世界だと魔法って結構流通してるみたいだけどな。
まぁ、それでも魔法が稀少なのは間違いない。
ミミほどの才能となればより一層稀少だろう。
「くぅ…やはり凄まじい…破壊力だ」
周囲に舞った埃が薄らぐとゆっくりと立ち上がっていく3人の姿が見えた。
彼女達はミミの触手で動きはあまり取れる状態ではない。
本来の3人なら石片を躱すことは出来ただろうがな。
だが、今回は無理だったようで、結構ボロボロ状態だ。
「…その攻撃が直撃していれば、即死は免れないだろうな…」
「人に使った図を想像したら、どうしようも無くグロテスクだよな」
「ふ、その通りだな。肉片が飛び散って闘技大会所の騒ぎではないだろう。
観客全員が一生のトラウマを背負うほどのおぞましい光景が広がるだろう」
「だな…」
それだけ俺の魔法は強力だって事だ。
会場が一撃で木っ端微塵になりそうになるレベルだからな。
これでも加減をしたつもりなのに…やっぱり規模がおかしいな。
「全く…巨大なドラゴンにでも挑んでいる気分だ。
心の中では敗北を確信しているよ、私は」
「だったら、どうしてまだ戦おうとしてるの?」
「愚問だな…あの2人が立とうとするなら、私も立つ。それだけの事だ。
私達は誰か1人が諦めなければ諦めない。最高の気分だしな」
「アイ…うん…」
「戦う…この時間を楽しむ…」
「さぁ! まだ私達は戦えるぞ! 今までの人生最高の時間はまだ終わらない!」
彼女達にとって、もはやこの戦いに勝つことは重要な事ではないように感じた。
敗北を確信している状態で戦っていると言う事は勝利以外の原動力があるから。
…今の彼女達にある原動力。それはこの時間その物なのだろう。
ようやく目覚めてくれた最高の仲間達と共に戦えるこの時間に価値がある。
彼女達はそう言ってるんだ。そして、この時間をもっと味合わせてくれと。
「やれやれ、どうしようも無い戦闘狂なの」
「ふふ、ご主人。ここで引くのは僕は駄目だと思うよ?」
「お前も楽しそうだな、ポロ」
「うん! 何もしてないけど、ここからは僕も全力で!」
最初に動いたのはポロだった。彼女は一気に間合いを詰める。
相手は相当弱っているが、ポロは構わず進む。
弱ってるからでは無いだろう。相手が楽しんでるからだ。
「そりゃ!」
アイに飛びかかったポロは空中で身体を捻り
全力の回し蹴りをアイに向けて放つ。
「ぐ! ふ、そう来なくては!」
だが、ボロボロの状態であるにもかかわらずアイはポロの攻撃を受け止め
少し怯むが、すぐに反撃を仕掛けてくる。
その反撃に瞬時に反応したポロは素早く後方に跳び下がった。
アイの腕に足の力を込めて後方に飛ぶと言う発想は凄いな。
アイが力が無けりゃ、腕が負けて力は入らないだろうに。
ま、相手はアイ。最強のパペットビーストであれば人1人では動かないか。
「その傷で凄いね!」
「ろくな戦闘経験が無い割に良い反応だ、お前の才能は本物だろう」
「ま、馬鹿犬はこの中では最弱なの。身体能力高いだけじゃ
ご主人はおろかあたちにすら届かないの」
「お前の方が応用効くし、お前の方が実力は上じゃないか?」
「にゃはは! ご主人がマジになったらあたちは軽く捻られるの!」
本気で相手を殺すつもりになれば、俺の魔法は強力無比だからな。
その強力無比な部分がこの魔法の最大の弱点ともいえるが。
「だね、じゃあミミちゃんに負けないよう、僕も頑張らないと!
でも、今はあなた達の最高の時間を楽しませて!」
「良いだろう!」
3人はまだまだ戦うつもりらしい。ボロボロであまり動きも機敏でなくなった。
それでも彼女達の連携は凄まじく、ボロボロとは思えない程に素早い展開力だった。
これ程の展開力。よっぽどお互いを知ってなければ無理だろう。
だが、彼女達は既に限界が近い状態だったのだろう。
ポロとの組み合いの中で3人とも、同時に倒れた。
ポロは何も反撃をしていない筈だが…やはり、限界だったんだな。
「ようやく倒れたの」
「そうだね、でも何だか満足そうだよ」
3人とも倒れたというのに笑顔のままだった。
…よっぽどあの時間が楽しかったのだろう。
仲間達と一緒に戦えたのが楽しかった。
中でもアイの表情は他の2人よりも遙かに幸せそうに見えた。
長い時間、孤独だった彼女が本当の意味で仲間を手に入れた瞬間だったんだろう。
彼女の事を知ってる訳じゃないが、何となく表情だけでも分かる気がするよ。
「優勝はマリア姫護衛部隊!」
俺達は勝利することが出来た。だけど、色々と課題が見えた戦いだったといえるな。
その後、俺達は表彰を受け、無事に部屋に戻ることが出来た。
「いやぁ、スルガの魔法はとんでもない威力だったのね
会場があそこまで吹っ飛ぶとは思わなかったわ」
「そうだな、強力すぎて自分でもゾッとしたけど課題が見えた気がするよ」
「あの魔法を完全にコントロールするって課題かしら?
うーん、確かに威力が絶大すぎて使い何処に困りそうよね」
「あぁ、後は剣術だな。今回は魔法に頼りっぱなしだった。
魔法の制御も重要だけど、剣術や体術も鍛えないと」
「魔法が強いなら魔法を極めるのもありだと思うんだけどね」
「いやほら、俺達には既に魔法を極めてる奴居るし」
「にゃはは! ま、あたちもまだ極めてるわけじゃないの。
魔法の完成は実戦を経験してこそ完成となるの。
まぁ、ご主人の課題も重要だけど、それ以上に馬鹿犬の課題なの。
今回は終始無能だったの。もっと鍛えるの馬鹿犬」
「うん! いつかあの3人に鍛えて貰うよ!」
「そうだな、身体能力が高い者同士の方が練習になるだろうしな」
俺達の戦闘面に関する課題も色々と見えてきてる。なんとか鍛えよう。
強くなきゃ、いざと言う時にマリアを守れないだろうしな。