速さへの対策
彼女達の動きは非常に機敏だった。
お互いの行動を完全に把握しているように感じる。
3人ともパペットビースト。身体能力は高い。
この狭い戦場だと、彼女達を追い続けるのは少ししんどそうだ。
とは言え、こっちにはミミもポロもいる。
攻撃だけで言えば、俺だって結構自信がある。
それに折角やる気を出してくれたんだ、あっさり負ける訳にもいくまい。
「向こうの戦術は速さに物を言わせた感じだな」
「確かに言えてるの」
あちらは3人とも素早く動けるのに対し
こっちは素早く動けるのはポロだけだ。
更にこのポロも単純な速度だけではあの3人には劣る。
同じパペットビーストではあるが
やはり経験値の差はでかく、こちらが不利であることは違いない。
違うのは魔法の存在。ならば、この魔法でどうにかするしか無いだろう。
「ポロ、分かってると思うけど」
「うん、耐えるよ」
ポロの役目は、いつ仕掛けてくるか分からないあの3人の攻撃を防ぎ続ける事だ。
こちらがあの3人の行動を解析し、反撃の糸口を作る為にも必須だ。
一応、俺も参戦はして居るが反応速度ではどうしてもポロに劣る。
とは言え、防御性能で言えば俺の方が上であるのは事実だろう。
「何とか攻略法を見いだすしかないよな」
「あたちに任せるの」
俺は接近するイナとセンの攻撃を破壊の魔法で足止めになってる。
接近してくる2人の進行上をなぎ払う様に破壊しての攻撃だ。
切断するように攻撃した場合、殺しかねないしこうするしかないだろう。
「ふん!」
「おっと!」
ポロはアイの攻撃を受け止めるように立ち回っている。
アイが狙うのは基本的にポロのみであり
どうやらポロを自分の力で倒したいように感じる。
「うぅ…やっぱり凄い力…」
「しっかりと経験を積め、その程度では何も守れないぞ!」
「分かってるよ、僕はまだまだ強くなるんだ!」
ポロとアイの力は明確だった。明らかにポロが劣っている。
だが、アイはどうやら戦いの中でポロを鍛えようとしている様子だった。
恐らくだが、あの2人の意識を取り戻すきっかけを作ってくれたポロに感謝し
その恩を少しでも返したいと思っているのだろう。
「ふむふむ、なる程なる程なの。じゃ、こっから反撃なの!」
そんなさなか、ミミがこの3人の攻略法を思い付いたらしい。
彼女は大きく両手を挙げ、地面に強く触れた。
「さぁ、そろそろ戯れは終りにするの。ここからが本番なの。
精々無駄な対策を考えながら、あたち達に屈服すれば良いの!」
「んな!」
「にゃい!」
ミミが地面に触れて少しすると、イナとセンの足下から触手が出て来て
彼女達を完全に拘束した。なんで触手が出て来たんだ?
「しょ、触手!?」
「にゃはは! 召喚魔法成功なの! うーん、流石あたち!」
「こ、の!」
だが、触手達はすぐに2人に引きちぎられた。
「ミミちゃん、あっさり振りほどかれたよ?」
「こ、こんな筈は無いの…あ、あたちの魔法が!」
「見かけ倒しだったようだな」
少し動揺した様子のミミを見たアイがちょっと小馬鹿にするように呟いた。
だが、そんな態度を取った瞬間にアイの元にも触手が生える。
動きが止まっていたからなのだろう。アイはその触手に拘束されるも
あの2人と同じ様に瞬時に振りほどく。
「ヤワな攻撃だな、拘束の意味を知ってるのか?」
「ぐぬぬ…にゃは、にゃんてね!」
しかし、ミミがそんなにもあっさりと作戦をミスるはずがなかった。
これは元々想定済みだった事らしい。
彼女が何故触手の魔法を使ったのかはすぐに分かった。
先ほど拘束されていたイナとセンの動きが鈍っている。
「一瞬でも拘束出来れば、それで良かった話なの。
わざわざ生命体である触手の召喚。拘束以外の意図があるに決ってるの」
「まさか…」
「触手で一瞬でも拘束した理由は、麻痺毒を持つ生物だったからなの。
でも、そんなに強力な麻痺毒じゃない。注入すればイチコロだけど
触れただけであれば、大して痺れない麻痺毒なの。
とは言え、素早い動きが主体であるお前らには結構応えると思うの」
「うぅ…上手く動けない…」
正直、ミミの魔法は種類豊富だし汎用性高いから驚異的すぎるよな。
俺の魔法は完全に殺す事に特化しているから
今回みたいな場面ではあまり役には立てないけどこいつは桁違いだ。
殺傷能力でも非殺傷能力でもかなり秀でている。
俺は殺すばかりに特化した能力だからな…何とか非殺傷能力も欲しい。
「にゃはは! あたちの汎用性の高さは段違いなの!
言うなれば器用万能スタイルなの! あたち1人じゃたかがしれてるけど
3人揃ってれば大体どうにでもなるの! さぁ、馬鹿犬! ぶち殺すの!」
「ミミちゃん、テンション上がりすぎだよ?
それに女の子が汚い言葉を使ったら駄目だよ?」
「うっさい! 元オスにどうこう言われたくないの!」
「わはは、それもそうかな」
「さぁやるの馬鹿犬! 蹂躙するの!」
「了解だよ!」
流石にこれは対等の勝負だし、この状況に追い込んだのは
卑怯な手段を使ったからと言うわけでもない。
ミミが特技を最大限利用してこの状況を作った。
それならポロが卑怯だと感じて本気を出さない理由は無いか。
「く…だが、多少の痺れ程度でどうにかなるわけが無い!」
「うん、分かってるよ」
相手を軽んじる場合なら油断し、反撃を受けてしまいそうな場面。
だが、ポロは油断することはなくアイの反撃は想定済みだったらしい。
彼女の力を振り絞った攻撃を回避して、すぐに背後にまで移動して居る。
「くぅ…」
「単純な力だったら、僕はとてもじゃないけど勝てない。
だけど、今の状況なら速さで勝る。なら僕はそれを使うよ」
「あ、アイ…!」
ポロは現状、自身が最も優位に立っている速さを利用しての猛攻撃を仕掛ける。
アイの攻撃力は高いが、ポロは速さを利用し軽く素早い攻撃を多用している。
一撃一撃にそんなに大きな隙は無く、反撃も受けにくい立ち回りだ。
相手が上手く身体を動かせないというのであれば、この攻撃は最も嫌な攻撃。
ポロはどうやら、勝つための勘が中々に鋭いらしい。
とは言え、あいつは普段の性格や言動とは裏腹に
割と切れ者だし、瞬時に適切な手を取るのは予想出来ていたが。
「にゃはは! ま、今回でとりあえずあたち達の目指すべき方向は見付かったの!
まずは馬鹿犬の強化は必須なの。次にご主人の魔法なの。
殺傷能力が高すぎて何とか対策しないと相手を殺しかねないの。
相手が魔物だったりなら容赦無しで使えるけど
人間ならご主人はどうしても加減するの。
強すぎるけど強すぎる故の弱点がある。
これを何とか対策しないとご主人がちょっとしんどい思いをしそうなの。
今回もこの弱点が大きすぎてあまり戦ってないし、対策は必須なの」
「いやまぁ、俺も分かってるけど…どう対策するべきか…」
「でも今は油断したら駄目だよね!」
「くぅ…だが、活路は1つ残されてる。勝利を確信するのは早い!」
身体が上手く動かせないというハンデを背負っている状況。
そんな状況であろうと、アイ、イナ、センは勝とうとしていた。
この土壇場だろうと勝つ事を諦めない奴は窮地に強いだろう。
何か手があるのかも知れない。俺達も油断してる場合じゃない。
「にゃはは! 何を言い出すかと思えば勝負はもうとっくに着いてるの!」
「お前達を倒すために最も重要な点。それは」
「にゃ? あ!」
ミミの背後に唐突にイナが姿を見せる。
彼女は姿を見せると同時にミミへ強烈な一撃を叩き込む。
「なぁ…」
「ミミ!」
身体が弱いミミがその攻撃に耐えられるはずもなく彼女は一撃で気絶する。
油断していた、あの2人が魔法を使ってる姿を見ていなかったが
ミミもポロも魔法が使えるんだ、使おうと思えばあの2人も使えても不思議無い!
「参謀を倒すこと。彼女が倒れればサポートも妨害も大きく減少する。
この異常状態が治るわけでは無いが、それでも3対2に追い込めるのは大きい」
「完全に油断してたよ。そうだよね、魔法が使えてもおかしくないよね」
「参ったな、俺の攻撃は殺傷能力高いからあまり使えないんだけど…」
「す、少しは…あたちの心配を…するの…」
「あ、気絶してなかったんだ!」
「うぅ…痛いの…怪我はしてないけど全く酷い奴なの
こんな小さくてプリティーな魔法少女を殴るなんて常識ないの!?」
「く…一撃で倒し切れてない…」
「にゃははーー…あ、駄目なの立ちくらみ酷いの…」
「なら休んでろ。後は俺達で何とかするから」
「くぅ…あ、あたちとした事が油断したの…でも、ご主人は攻撃尖りすぎなの」
「そうだよな…だけど、何とかする」
相手を殺さないように力を行使する。
強力だがその分制御が難しいというのは辛いな。
とは言え、方法が無い訳では無い。上手く応用して戦うか。