油断ならない相手
本来ならこんな戦い方は恥ずかしいとしか言えない。
とは言え、これは彼女自身が選択した状況だろう。
彼女に後悔は無いし、卑怯とも感じては位無いはずだ。
俺達が出来る事は全力で立ち向かう事だ。
「ま、あたち達は勝てればそれで良いの。容赦無しなの!」
「な…」
ミミの先制攻撃だった。彼女は自身の周りに小粒サイズの魔法を複数展開。
一気にアイに向けてはなった。攻撃の間隔はまぁまぁ広く
避ける事はそんなに難しそうという印象はない。
「卑怯だとは思うけど、やる以上は全力でやらせて貰うよ!」
「く!」
その弾幕をかいくぐりながら一気のポロが接近する。
彼女の間合いを詰める速度は何とも速かった。
躊躇いも無く、瞬時にアイに急接近した。
流石の接近速度だ。いくらアイでもこの弾幕に紛れながら
この速度による接近には反応出来なかった。
「大した連携だ。だが、弱点はある」
「うわ!」
アイはこの連携にある大きな穴にすぐに気が付く。
穴と言うよりは、絶対的に存在する安置と言えるのか。
この攻撃は勿論、ポロに当てないように展開される。
だから、ポロの前に居る限り、弾幕が当ることは無い。
となると、重要になってくるのはポロの戦闘力だが
残念な事に、ポロの実力ではサシでアイに勝つことは出来ない。
戦闘経験も違うし、種族がほぼ同じなら、鍛え抜かれた身体を持つアイに
あまり鍛えられてないポロが敵う筈が無い。
「ま、ご主人が動けば戦いはすぐに決着になると思うの。
でも、ここはあたち達が2人だけで圧倒するべきなの。
ほら馬鹿犬、ちんたらやってないでさっさと仕掛けるの!」
「なん!」
ミミが展開する弾幕の形が大きく変化した。
従来通り、正面に連続で放たれる弾幕と同時に
左右から押しつぶすように集まってくる弾幕も同時展開される。
この状況は、さながら弾幕シューティングゲームだ。
「弾の軌道、変えられるんだ」
「当然なの!」
「うわ!」
今度はレーザーが目の前をなぎ払う様に走った。
ポロは咄嗟に反応し、伏せて回避をしていたが
この不意打ちに反応出来なかったのはポロで視線が遮られていたアイだった。
「っくぅ!」
彼女はミミのなぎ払いを生身で受けることになる。
とは言え、あの屈強な身体に大きなダメージなどは無かった。
だが、膝を付いてしまうほどのダメージはあったようだ。
「ほら、休んでる暇があるの?」
「本当、容赦ないな…」
そのまま休む暇も与えず、小粒の弾幕がアイを狙って飛んで来る。
だが、彼女はその弾幕を動かずに防ぐ。
「へぇ、防御魔法なの。屈強な肉体に魔法。中々便利な物なの。
あたち達は結構尖った性能だけど、お前は汎用性が高いと言う事なの」
「これでも私はパペットビーストを率いているからな。弱いわけにはいかない」
「にゃはは、あたち達からしてみれば、どうしようも無くお前は弱いの。
単体の実力なら申し分ないけど、戦いは数なの」
「てりゃぁ!」
「く!」
再び弾幕に隠れながらポロが急速に接近してアイへ攻撃を仕掛ける。
アイは防御魔法で護られているはずなのに、ポロの攻撃はその防御を貫いた。
「魔法を防ぐ防御では物理攻撃は通ってしまうの。
魔法に関する知識であたちに勝てるはずがないの。
魔法の雰囲気や性質とかで大体の魔法は見抜けるの」
「くぅ…」
「そして、あたち達はまだ本気を出していないの。
最大の切り札であるご主人が動いてないのがその証拠なの。
1人じゃ所詮この程度。どれだけ鍛えてもたかがしれてるの」
「1人で戦う状況を作ったミミちゃんが言ってもね」
「にゃはは! 精神攻撃は基本なの! そもそもさっきも言ったの。
あたちはただ真実を押付けただけなの。正論を叩き付けただけなの。
あたちの言葉に嘘はないし、偽りはないの。
それはあいつ自身がよく分かってる筈なの」
「……そうだ、私は解放するべき同胞を利用した…だから、もう利用しない!
私は私の力で! 彼女達を救うんだ!」
「なら、お話しすれば良いのに」
「何をだ…」
「あの子達とお話しすれば良いのに。命令じゃなくて、お話しを」
このまま戦えば俺達は間違いなく勝つことが出来る。
だがどうやら、ポロはそれだけでは嫌だと感じているらしい。
あいつらしいと言えばあいつらしい…
「そんな事をしても、彼女達は反応しないさ」
「試したの?」
「……いや」
「なら試せば良いんじゃ無いかな? 僕は待つよ。
このまま戦って勝っても、それは何だか勿体ないから」
「…勿体ない?」
「馬鹿犬、何言ってるの? このまま戦えばあたち達の勝利は確実なの。
お前が後一撃、その猫に攻撃をすればそれで決着なの」
「何だか後悔しそうだから、このまま勝っても本当に勝ったとは思えないし」
「全く馬鹿犬は…ご主人はどうするの? きっとあの馬鹿犬も
ご主人がやれと言えばやるの。もしご主人があいつの好きにしろと言えば
あたち達はちょっと面倒な事になると思うけど、あたちも従うの」
「そこで俺に振るのか?」
「当然なの、あたち達のリーダーはご主人なの」
「ご主人の指示に僕も従うよ。勝つことを優先するなら僕も従う。
でも、出来れば僕は…」
そこで俺に振ると言うのがこいつらの嫌な所だな。
だが、ここで何もしないよりはきっと良いだろう。
このままだと俺はただ棒立ちしてるだけになるからな。
リーダーという感じじゃないし、こいつらのご主人という感じもしない。
「…ポロ、お前の好きにしろ。それで何か失敗しても俺達が何とかする
3人いるんだからな、お前の失敗は俺達がカバーしてやるよ」
「…ありがとう!」
ポロが俺に向ってにっこりと笑いかけてくれた。
そして、彼女は再びアイの方を向く。
「ねぇ、試してみるのも良いと思う。僕達はちゃんと待つから」
「……いや、私の負けだ」
「え?」
「同情を掛けられたのであれば、結局私は負けてる」
「そうやって、何かするのを拒むの? やれば成功するかもしれないのに
失敗した方が恐いからって諦めて止めちゃうの?」
「いや、話し掛けることはいつでも出来る。この後、やってみるさ。
だが、ここは負けだ。とは言え、ここでは降参は出来ない。
さぁ、私を攻撃してくれ。それで終りだろう」
アイは両手を広げ、攻撃するようにポロに促す。
ポロは少しだけ悩んだ後、小さく頷いた。
「分かった、今度はちゃんとしようね」
「あぁ」
ポロの拳はアイに向って振り下ろされた。
これで勝負は着く……筈だった。
「……え?」
だが、ポロの拳がアイに届くことはなかった。
何故なら、その拳を止める奴が居たからだ。
勿論、俺達2人の内、どちらかではない。
「……」
「この2人、どうして…」
「イナ! セン! どうして!」
ポロの拳を止めたのは、今までアイの指示に従い後方で待機していた2人だった。
彼女はポロの攻撃を受け止め、すぐにポロへ向って攻撃を仕掛けた。
「うぇ!」
「にゃはは! 少し意外だったけど、悪くないの!」
だが、その攻撃がポロに届くことはなく
ポロの周囲を護るように展開された魔法の壁に阻まれる。
これは物理攻撃を防ぐ魔法なのだろう。
「へへへ!」
本来なら不利になった状況だが、ポロは嬉しそうに笑っている。
彼女は急ぎ後方に退避し、俺達の前に立った。
「ア…イ…は……」
「喋れるのか…」
「にゃはは! 喋るならもっと饒舌に喋るの!
口が渇いても知らないの。そもそもそんな小声で言葉が通じるの?」
「…アイ…は…下がって」
「私達…が、頑張る…か、から」
「意思を持たない…筈の……お前達が…は、はは」
アイも驚きながらだが、笑みをこぼしゆっくりと立ち上がる。
「いや、大丈夫だ。私はまだ戦える。
折角お前達が意識を持ってくれたんだ、一緒に戦いたい。戦わせてくれ!」
「……無理、しないで」
「いや、ここで戦わない方が私には無茶だ!
ふふ、感謝するよ…君達に! だが、後悔してくれ!
勝利のチャンスを逃したことを!」
「にゃはは! 後悔するのはお前の方なの!
負けたときの言い訳が無くなって残念だったの!」
「これで正真正銘、本気で戦えるね! ご主人!」
「…だな、今度からは俺も参加しよう。3対3だしな。」
「どっちが上か、教えてやる!」
俺達は全員、同じタイミングで同じ言葉を口走る。
お互いに負けるつもりは毛頭無いらしい。
勝つのは俺達の方だ!