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武道大会

書類の整理は終わって、しばらくの時間が経過した。

しばらくと言っても、そんなに時間が経ったわけでもない。

とは言え、少なくともあの時から武道大会が始まる日までは時間が経ってる。

そんなに大規模な大会ではないらしいから準備時間は必要無かったんだろう。


国民全体に伝えるような大会ではない。

恐らく武道大会というのは建前で

本当は俺達の実力を測りたいのかもしれない。


もしくは兵士達全体の実力を知りたいのか。

恐らく両方だろうな。魔物の動きが活発化してきている。

だから、兵士達の実力を計り、どう強化して行くか考えると。

そして、ついでに俺達の実力を知りたい。だから招待状を出した。


「ほぼ間違いないけど、向こうはあなた達の実力を知りたがってる。

 招聘の可能性もある…あなた達にとってこの戦いは大きな物よ」

「前も言ったが、招聘が仮にあったとしても、俺は受けるつもりはないから安心しろ」

「ご主人が受けないなら、あたちも行く理由はないから安心するの」

「そこら辺はちょっと僕達の関係を知ってたら予想できるよね。

 ご主人が行くと言えば僕達はついていくし、行かないなら僕達も行かない」

「名誉に興味は?」

「無い」


2人は同時に答えた。一切の躊躇いの無い発言だった。

彼女達の表情に迷いはなく、嘘をついている様子もまるでなかった。

名誉…か、実際俺もそこまで興味が無いかも知れない。


…いや、どうだろうか? 自分が正しいと思った行動をするのは

案外、名誉が欲しいから…何じゃないか?

……いや、違うか。そんなしっかりとした理由があるのなら

行動に躊躇いがある筈が無いのだから。


こっちに来て高い魔法の能力を得ているというのに

それを大っぴらにして居ない…多分、俺も名誉には興味が無いのだろう。

ただ後悔したくないだけ…きっとそうだ。


「ハッキリしてるわね、名誉があればあなた達は好きな事が出来るのに。

 例えどんな行動をしようと、誰かはその行動に賛同してくれる。

 間違った行動だったとしても、賛同してくれる人間は必ず出来るわ」

「仮に間違った行動だったとすれば、賛同する奴よりも

 指摘してくれる奴の方が価値があるんじゃ無いか?

 マリアで言えばディルさん、とか」

「あなたで例えれば、そこの2人かしらね」


2人に視線を向けた。2人は俺の視線に気付きにっこりと笑う。


「…だな、じゃあ名誉は要らないよ。名誉で得られる物は既に得てる。

 だから、例え招聘があったとしても、俺は決してそっちには行かない。

 お前と一緒に居るよ。お姫様」

「お姫様と言うのであれば、お前ではなくあなたと言いなさい」

「ごもっとも。じゃ、行ってくる」

「頑張ってね」

「本気でやっても良いの?」

「にゃはは! 馬鹿犬が本気なんて出したら人が死ぬの。

 で、あたちが本気を出したら会場吹っ飛ぶと思うの」

「じゃあ、適度に手加減だね!」

「そうなの! ご主人は手加減大変そうだけど大丈夫なの?」

「大丈夫だ、ディルさんに色々と教わってるからな。

 あの魔法を上手く加減するのも練習してる」

「今度、僕とも戦って欲しいなー! いつもディルと戦ってるし!」

「悪いなポロ、俺にお前の相手はまだ無理だ。

 でも、その内相手になれるくらいに鍛えるから期待していてくれ」

「分かったよ! ご主人!」


ポロと組み手なんてしたら、俺が大怪我だからな。

だが、いつか必ず、主としてこいつらを守れるくらいに強くなる。

このぶっ壊す魔法に頼らなくても戦えるくらいに。




「よろしくお願いします」


武闘大会が始まった。観客は居ない。他の騎士や国王だけだった。

玉座に座る国王の両手には剣が握られている。

宝剣とはほど遠い、騎士や兵士が使う素朴な剣。

だが、威圧感のような物を感じる。


そして、あの剣は何処かで見た気がする。

確かドリームが作ってた剣…それに似ている気がする。


「これより武闘大会を始める! 腕に自信がある者は名をあげよ!

 力ある者には地位を与えよう! 共に高みを目指し続けるのだ!」

「おぉぉ!」


国王が立ち上がり、手に持っている剣を振り上げ参加者達を激励する。

兵士も騎士もこの激励により、やる気に更に火が付いたようだ。


「では、団体戦を始めよう! お前達の高めあった強さを見せてくれ!

 手に汗握るような熱い戦いを期待して居るぞ!」


まず第1の試合…で、俺達の出番となった。

この異様な程に熱気が溢れている中で初試合とはね。


「第1試合! リーバス国が姫、マリア姫! その護衛部隊です!」

「うーん、凄い空気だね、湯気が見えちゃいそう」

「この人数で湯気は出ないの、馬鹿犬」

「無駄話すんなよ」


ふぅ、この雰囲気は何と言うかコロッセオって感じだな。

漫画とかで出て来たか、こんな光景。

周囲を取り囲むように高い観客席があって

その中心にある会場を見渡せるようになってる。


その中心に立つ事になるなんてな。こんな経験、元の世界じゃ絶対に味わえない。

で、この剣…刃は無くなってるみたいだが、こりゃ殴られたら痛いだろうな。

普通は重装備で剣やら鎧やらをするのが自然ではあるが

俺達は全員軽装だった。


ミミはいつも通りの魔女服だし、ポロもいつも通りの普段着…私服だな。

そんで俺も軽鎧みたいな物は着けてきたけど、戦士って感じのルックスではないな。

こんなのがマリア姫の護衛だなんて、普通は想像出来ないだろう。


「随分と軽装だな…侮っているのか? 我々を」

「いえ、これが私達の正装です。姫を守る為に動きやすい姿でなくてはならない。

 今回はマリア姫の護衛としての参加ですので、護衛としての正装で来たのです」


俺達の相手は…あの時、一緒に護衛をして居た兵士達か。


「これが正装とか、正直笑えるの」


小声だったけど、そんな人を馬鹿にした風に言わないで欲しい。

…と思ったが、どうやらミミは俺に言った訳では無く

その隣に居るポロに向って言ったようだった。まぁ、私服だからな、あいつ。


「…しかし、我々としても君達の事は不思議に思える。

 パペットビースト…とは違うようだが、それと瓜二つの少女達を連れ

 そのような軽装で戦闘に参加…だが、どんな人物であれ実力が全て」

「護るべき対象を護ること…それが、大事ですからね」

「あぁ、実力さえあればどのような姿であろうと主を護れる。

 我々にとって重要なのは礼節、規律、法律等あるが

 最も重要なことは主を護る力! 見せて貰おう、君達の実力を!」

「後悔する事になるの。赤っ恥をかいて泣かないよう、精々気を付けるの!」


ったく、こいつはこんな場面で相手を挑発するなよな。


「始め!」

「ゆくぞ!」


2人の騎士達がこちらに向かって走ってくる。

1人は背後から弓矢を構え、こちらを狙ってきている。

前衛2人と後衛1人。俺達と同じ条件だ。


近付いてくる兵士達を迎撃するために剣を構え

俺は最初に2人の兵士達の方へ1人で走る。


「1人で来るなど!」


勿論、分かってる。ディルさんから戦闘の基本は教わった。


(同格か、あるいはそれ以上の相手と戦う時に重要な事が分かりますか?)

(うーん…気合い、とか諦めない心とか…?)

(勿論それも大事です。しかしながら、最も重要なのは相手の虚を突くことです)


本来なら卑怯な手となるのかもしれない。だが、俺達は護衛だ。

騎士道を重んじて戦った結果、護るべき主を護れないなら意味が無い。

正々堂々なんて言葉、俺達には必要が無い!


「にゃはは! ほれ!」

「な!」


2人の攻撃は俺に届く前に止まる。ミミの防御の魔法だった。

最初から俺は1人で戦うつもりなど毛頭無い。

そりゃあ、これは団体戦だからな、1人で戦うのはもっての外だ。


「そして、まずは後ろ!」

「うぐ!」

「な! あの娘、いつの間に!」


ポロが背後でこちらを狙っていた弓兵の背後に移動し撃破した。

当然、これはポロの力じゃない。ポロは動きこそ速いが

認知されないほどの速度で敵弓兵の背後に回れるほど早くはない。

これは、ミミのテレポートの魔法だ。


「さぁ、後ろばかり見てて良いんですか!」

「っく!」


現状は俺達の流れだ…攻撃重視のスタイルが俺達。

防御力は皆無に近い装備だから一撃でも受けたら不味い。

そして、俺達が最も警戒するべきはミミへの攻撃だろう。

だが、相手は2人、そしてこっちは3人。

なおかつ、ポロと俺で挟んでいる状態だ。


「はぁ!」

「よし、僕も行くよ!」

「ハイルド、お前は向こうを。私は彼を相手する」

「分かった、やられるなよ」

「お前もな、あの娘はかなり力があるからな」


この2人はまだ勝つことを諦めては居ない。

ポロのパワーを見て、あのハイルドという男はポロへ向っていく。恐れずに。

……何かあるのか? ポロなら大丈夫だろうが、少し不安だ。


「ポロ! 油断するなよ!」

「うん!」

「君も油断はしないことを勧めるよ」

「く! 分かってますよ!」


やはりこの人と俺とが1対1で剣術のみで戦うのは無理があるか。

技術、力、判断力、行動力…色々な面で俺はこの人に劣っている。


当然だ、俺は剣の修行なんてここ数ヶ月ちょっとしかしちゃ居ない。

ディルさんに教わったとは言え、数ヶ月で何十年も鍛錬に明け暮れている

グレーベルの騎士に真っ向切って戦える筈が無い。


最初の攻撃以外は終始押されることになるだろう。

そして、ポロも少し押されている印章があった。

力や素早さならポロの方が圧倒的に勝っているが

やはり俺達は技術面に難がある。今後の課題だな。


「うへぇ、この人達強いね-」

「流石グレーベルの騎士」

「君達の実力も確かな物だ、だが、あまり戦い慣れていないな。

 技も中々に洗練されてはいるが、荒削りすぎる。

 よほどの手練れに教わったようだが、技術は経験が重要だ。

 高い技術と才があろうと、経験不足は致命的だろう」

「君もだよ、ポロと言われていたか。確かに力、素早さ

 どれを取っても素晴らしい才能と言えるが動きが大きすぎる。読みやすい

 あまり修羅場を潜ってきたわけじゃないみたいだね」

「わははー、まぁ、数ヶ月しか経ってないしね」

「……へぇ」


ポロの一言を聞いた2人の騎士達は驚きの表情を浮かべ笑った。


「そうか、まだ数ヶ月…君はどうなんだ?」

「同じくらいですよ、最近戦い始めたばかりです」

「…なる程、それが事実だとすればその経験不足は頷ける。

 なら、少し力不足だ。最初の攻撃は実に見事だったが経験不足が敗因だな

 だが評価はする。その才能は実に素晴らしい」

「にゃはは、敗因? 寝言は寝て言うの。

 ご主人、そろそろ本気でやるの!

 今の剣技でどれだけ戦えるかは分かったはずなの!

 あたち達は、勝つためにここに立っているの!」

「……それもそうだな、ここで負けたら示しがつかない!」

「な!」


イメージした通りに対象を破壊する魔法。

確実に相手を屠れるぶっ飛んだ魔法だろう。

当然、人に使えば一撃で殺してしまう。

だが、使い方次第では中々汎用性が高い魔法だ。


出来ればこの魔法以外の部分でも強くなりたい。

だが、少なくとも今はこの魔法の部分以外は力不足だと分かった。

そしてこの戦いに俺達は勝たないといけない。

マリアに対し、あんな格好付けた事言っておきながら

1回戦目で敗退なんてダサすぎるからな。


「くぅ! この力は…魔法! 君も魔法を扱えるのか!」

「出来ればこの力に頼らないで勝ちたかったんですが

 どうも、あなたが言うとおり俺は力不足だった。

 そして負ける訳にはいかない…使わせて貰いますよ、この武器を!」

「うぐ!」


会場の足下を抉り、石片をあの2人へ向けて放った。

普通であれば近くで戦ってるポロもこの石片の影響を受けるだろう。

だが、ポロはこれ位避ける事なんてそんな難しくはない。


「流石に負ける訳にはいかないからね。

 強くしすぎると大怪我させちゃいそうって思ったり

 後、会場壊しちゃいそうって思ったけど、

 こうなると会場を壊す心配は無いね。

 さぁ、僕だって負けないよ!」

「さっきよりも早く! くぁ!」

「これで…トドメだ!」


俺とポロは同時に叫んでいた。俺は会場を引掻くように破壊して

集中的に攻撃を仕掛ける事で撃破。

ポロは一撃を与え、怯んだところに更に急速に接近し一撃。

ほぼ同時だった、ほぼ同時にこの戦いは決着が着いた。


「しょ、勝者! マリア姫護衛部隊!」

「ふぅ…やっぱりまだまだ鍛えないと駄目だな」

「接近戦主体で戦う必要は無いと思うの」

「でも、僕達の実力も分かったし、僕は良かったと思うよ!」

「やれやれ、最初から本気を出せばもっと楽に倒せたの」

「そんな事言って、俺とあの騎士さんが戦ってる時

 お前は全く支援攻撃をしてこなかったじゃ無いか。

 お前も速攻で倒すつもりはなかったんだろ?」

「し、しんどいからやらなかっただけなの…

 それに、1対1の戦いを邪魔するほどあたちも無粋じゃないの」

「騎士道だね!」

「俺達に騎士道精神って要らないと思うけどな」

「確かに必要無いかも知れないけど、こう言うときはあった方が良いと思うよ!

 だから、ありがとうね。今度はちゃんと技術で勝つよ」

「俺も、今度は魔法無しで勝って見せますよ」

「……ふ、神童と言う奴…か、私もせめて技術では勝ち続けないとな…」

「超えますよ、技術でもね」


倒れている騎士さんに手を差し伸ばし、起した。

彼は心なしか満足そうな表情をしているように見えた。

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