書類整理
「すぅ、すぅ…」
「うにゃぁ…」
「うぅ…」
……俺はどうすれば良いのだろうか。
書類整理をしていると、いつの間にか返事が返ってこなかった。
そして、周囲を見渡してみれば、俺以外がダウンしていた。
…えっと、俺の独断で書類の整理なんかして良いんだろうか?
流石にマリアに了承とか貰わないと駄目な気がする。
とは言え、眠っているのを起すのは忍びない。
特にマリアは死んだ様に眠ってる。
「ふぁ…うーん」
皆が眠ってる姿を見たら、何だか俺も眠くなってきたな。
とは言え、この散らかり放題の部屋で眠るのはな。
ひとまずだが、ちゃんと処理できている書類と
出来ていない書類で分けて置こう。
で、次に判を押すだけで良い書類と
細かい指示が必要な書類を分けて
そこから魔法関連の書類。錬金術関連の書類
んで、武具に関する書類で分けて…
ん、普通に親交に関する書類もあるんだな。
全く、ほんの数日で良くこれだけの書類が出来たな。
まぁ、7割くらいは雑な書類だから今日作ったんだろうな。
いや、正確には昨日か。もうとっくに12時は過ぎてる。
今は何時だろうか、そうだな、多分2時くらいで…
「…あ」
……しょ、書類の整理をしていたらいつの間にか時間が5時!
…た、ただ書類の整理をしているだけでここまでになろうとは…
ど、どうしよう…今更寝るのは何か意味が無さそうな気がする。
それなら、このまま1日中整理で時間を過ごすべきだろうか。
だが、一睡もしてなかったら肝心なところで眠ってしまいそうだし…
なら、少しでも寝るべきではないだろうか。
「…いや、ここは最後まで整理するか」
やはり中途半端というのはやりきった感がない。
ここは少しでも達成感を感じた後にじっくり寝よう。
つまらない事でもやりきるというのは楽しい物だからな。
何かをやってる最中に強制的に終了と言うのは
何とも面白みに欠けるし、俺は嫌だ。
それなら、最初から最後まで徹底的にやりきってやろう。
「…ふぅ」
よし、最後までやりきることが出来た。
いやぁ、朝日が目に染みる…もう7時だ。
予想より遙かに時間が掛ってしまった。
しかし、こうやって丁寧に分けられて積み重なっている書類を見ると
何と言うか、強い達成感を感じる事が出来る。
はぁ、よく頑張ったな、俺…頑張る方向間違えてる気がするけど。
「うし…コーヒー飲んで書類整理の準備しておこう…」
コーヒーの入れ方は一応ディルさんから教わった。
そりゃあ、しばらくはマリア姫を俺に預ける形になるわけだし
当然、マリアの身の回りの世話が多少は出来るように教えてくれるよね。
まぁ、ほんの1週間程度しか教わってないけど。
それでも、コーヒーの一杯くらいは入れられる。
料理はまだ自信ないし、ひとまずコーヒーだな。
…マリアは何が良いんだっけ…確か紅茶だったな。
で、茶葉は確か、ファイ……あっと…た、確か…
ティッピー…ゴールデン……ふ、ふら…長いんだよ!
「畜生、さっぱり名前覚えられねぇ…」
紅茶の名前長いの多すぎじゃないですかね。
こんなの覚えられるか! 何か省略してくれよ!
「…多分これだろ」
うろ覚えだけど、まぁ持たされた茶葉はこれ位だしこれしかないだろ。
入れ方は覚えてるんだけど、名前までは覚えてないんだよな。
「よし」
で、俺はコーヒー飲もう。特別なブレンドとかはないけどね。
とりあえずコーヒー的な…まぁ多分それでも
インスタントコーヒーとかよりは美味しいだろう。
「ふぅ、何か優雅な感じがするよな。
豪華な城の一室で綺麗な朝日を見ながら椅子に座ってコーヒーとはね」
紅茶もいつでも入れられる様に準備できてるしマリアがいつ起きても大丈夫だ。
とは言え、もう少し眠ってても良いとは思うけどな。
一応、寝室まで運んでるし、もっとゆっくり眠っても良い。
はぁ、しかし良い景色じゃないか。花は咲き誇り、小鳥はさえずってる。
こんな日は書類の整理なんぞほっぽり出してのんびりとコーヒーを啜りたい物だ。
……なんて思ってみても、後ろにある書類の山から放たれる威圧感がエグいけどな。
「うぅ、私としたことが眠ってしまうなんて…」
「よぅ、マリア。良い夢見れた?」
「夢の中でも書類整理してたわ…分類的には最悪に近い夢ね…
で、随分と整ってるわね、そしてのんきにティータイム?
私の分はあるの?」
「あるよ、ちょっと待ってろ」
夢の中でまで書類整理とは流石マリアだよな。
と言っても、書類整理しながら眠ったらあり得るか。
「ありがとう。あなた紅茶を入れられたのね」
「教わったからな。今まで言われなかったから作ってなかったけど」
「ふーん…あ、これはファイネットティンピーゴールデンフライリーオレンジペルコ。
私が好きな奴じゃないの、良く持ってきてたわね」
「あっさりとそのクソ長い名前を言えるとは流石だな…」
「そりゃ好きな物ならどれだけ長かろうと覚えるわよ。
で、この茶葉は何処で? 確かリーバス国オリジナルだった記憶があるけど…
え? もしかしてこっちにも売ってた?」
「俺に紅茶の入れ方を教えてくれた人が持たせてくれてたんだ」
「あぁ、流石ディルね。と言うかわざわざ遠回しに言わなくても良いのに」
「何か濁していった方が格好いい気がした」
「多分勘違いよ、それ」
でも、濁した言い回しって少し憧れるからちょっと使いたかった。
これで使えたから、もうそんな遠回しな物言いをする必要は無くなったかな。
「ま、良いわ。とりあえずこれで目覚めの一杯は終りね。
さ、本戦行くわよ。これ、どういう風に分けてるの?」
「あぁ、説明するよ」
整理した書類の並びを伝えた後、俺達は2人で書類整理を再開した。
ミミ宛てに来てる分は避けて、ひとまず俺達2人だけで処理できる分に手を付ける。
と言っても、大体がマリア宛だから9割以上は処理できるんだけどな。
そもそもマリアはお姫様で、今はリーバス国の代表としてここに居るんだ。
殆どの権限はマリアにあるのだから、マリアが居たら処理できる書類が多いのは当然だ。
…ん? あ、援軍要請? 別の同盟国が魔物に襲われた…か。
その支援に余裕があれば兵力を回して欲しいと…無理だな。
そう言うのは国にいるときに要請してくれなきゃキツいだろこれ。
次は…模擬戦闘の参加要請…ねぇ、俺達3人宛てか。
グレーベルの騎士達と戦って欲しい。優勝すれば褒美があると。
多分、俺達がどれだけ強いか知りたいんだろうな。
褒美ってのが何なのか気にはなるが、目立つには良いかも知れない。
とは言え、これは独断では出来ないだろうな。リーバス国に影響がある筈だ。
「マリア、これどうする?」
「ん? 何これ、武闘大会? 何? こんなのやってるんだグレーベル。
で、褒美? どんな物か書いておいて欲しいわね、これ」
「まぁ、褒美がどんな物であったとしても注目を浴びる事は出来るだろうな」
「……さて、どうかしらね。少し悩み所ではあるわ。
現状、ここまで書類が来てる状態で更に目立つと大変だし。
それにあなた達が招聘される可能性が高くなる。
……私、それは何だか嫌なの」
「ん? 意外と俺達の護衛気に入ってくれてる?」
「そ、そりゃそうよ! あなた達が居る安心感は凄いわ!
攻防全てが揃ってる護衛だなんて最高よ!
……なんて、実際は…あなた達と一緒に居るのが楽しいから…だけど」
「嬉しいことを言ってくれるな、俺も楽しいぞ。
多分、あの2人も同じ様な事を言うと思うけど。
あ、いや、ミミは言わないかな。照れて隠しそうだし」
「ふふ、確かにね。でもポロは大声で良いそうよね。
恥じらいとか一切見せないで」
「あぁ、全くそう思うよ」
あの2人の個性はハッキリしているからな。
非常に分かりやすく、どんな行動をするか想像し易い。
「……でも、あなた達の実力を示すには丁度良いわよね。
…うん、この武闘大会出て頂戴、3人で。
チーム戦があるみたいだから、そっちで」
「招聘されるかもしれないけど、良いのか?」
「あなた達が誤解されたままってのも私としては気にくわないのよ。
それに同盟国の護衛を引き抜こうとはしないと思うし。
でも、もし招聘があったら…うん、その時はあなた達で決めて。
そりゃあ、あなた達の実力であればリーバス国なんて小国よりも
グレーベルみたいな大国の方が良い扱いを受けられるはずだし…
それがあなた達の選択なら、私は何の文句は言わないし言えない。
まだ招聘も来てないのに話を進めすぎかしら」
「かもな、じゃあ俺も異常に先の話をするけど
もし招聘が来ても、俺達はそっちにはなびかないよ」
「…ふふ、ありがとう。じゃあ、お願いね」
「あぁ」
俺達はこの武闘大会に参加することにした。
3人で戦う団体戦。自分達の実力を量る良い機会だ。
ディルさんに鍛えて貰った成果を試すのも悪くないだろう。
ま、今はどんな達人より、目の前の書類の方が強敵に見えるけどな…あはは