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小さな天才

「あ、ご主人おは…って、ご、ご主人どうしたの!? その怪我!」

「ん? 怪我って程じゃないけど、まぁ鍛えて貰ったんだ」

「またディルに!? ご主人を怪我させるなんて、やっぱりあたちが!」

「だから、何度も言ってるがこれは俺の為なんだよ。

 俺自身が自分自身に確かな自信を持つために必要なんだ」

「なんでなの? ご主人は十分強いの! 自信があるのが普通なの!」

「馬鹿言え、何処が強いんだよ。

 俺はよく分からんままでこの世界飛ばされて

 変な能力で妙に強くなってるだけ。俺自身は何ら変っちゃい無い」


俺は特殊な力を何故か得ていた…それだけだ。

それだけで、俺自身はただの一般人だ。

今のままじゃ、その力だけが強いだけで俺が強いわけじゃない。

必要なのはこの力だけで、俺自身ではないのだから。


だから、自分自身に確固たる自信を付けたい。

今まで、正しいと思った行動は失敗し続けてきている。

こっちに来て、成功することは増えてきたが

自分の信念に疑問を抱かず行動する。そんな男になりたいとも思ってる。

今の俺にはそれが出来ない。自分が成長しているという過程が欲しい。


「そもそも、この力は元々俺にある力じゃないからな」

「でも、今はご主人の力なの。それなら自信を持って良いの!」

「この力に確固たる自信はあるけどな。

 でも、やっぱり俺も成長したいって言うか…折角のチャンスなんだ。

 何でここに飛ばされたかは分からないけど、新しい事に挑戦するチャンス。

 だから、俺は何かを守る力とか、自分の意思を貫く事が出来る力とか

 そう言う、ちょっと青臭い何かに挑んでみたいと思ってさ」


その過程で怪我をするのは何の問題も無い。

苦痛とも感じない。これは自分自身が選んだ道だ。

失敗ばかりして居た俺がようやく選べた道だから。


「そう…なの…なら、あたちは応援するしかないの」

「あぁ、応援してくれ。そうしてくれたら、俺はもっと頑張れるから」

「勿論! あたちに任せるの! あ、ついでにあの馬鹿犬も応援してると思うの。

 まぁ、あいつの応援なんかよりもあたちの応援の方が効果あるに決ってるの。

 でも、一応あいつも応援してることを知っておいて欲しいの!」

「あぁ、知ってる」


ポロはそう言う奴だと言う事はここ数ヶ月で分かった。

元々、あいつが犬だったときからそんな気はしてたが

こっちに来て、それは確信へと変った。

あいつの言葉を聞けるようになって…本当に良かった。


このよく分からない世界に飛ばされたのは果たして幸運なのか不運なのか。

現状の俺には判断しかねるけど、どちらにせよ良い機会なのは間違いない。

俺はもっと上を目指せる。今の俺には目指すべき到達点も見えるし

その先を目指す、理由だってある。


マリアの護衛…責務があると言うのは意外と良い様な気がしてきた。

プレッシャーはあるけど少し心地良い。

きっと自分で選択したから、少し心地よいと感じているんだろう。


「わはぁー…あ、ご主人おはよう! あれ? どうしたの?」

「馬鹿犬なの。馬鹿犬もご主人の応援をするの!」

「??? 何の事か分からないけど、僕はどんな時だって

 ご主人を応援してるよ!」

「サンキュー」

「むむ、心なしかあたちが応援してると言ったときよりも嬉しそうなの!」

「勘違いだって、さ、今日も仕事やるぞ」

「むー…」


ちょっとだけふて腐れてるミミだったが俺に大人しく付いてきてくれた。

今日もマリアの護衛を続ける。


「はぁ…やっぱり仕事少ないわ…」


昼の段階で今日来ている書類を全て片付けてしまったマリアが呟く。

一応、リーバス国の名前は知れ渡ったとは言え

そんなすぐに事が動くわけではないからな。


「はぁ…武器の錬金はまぁまぁ順調でも注文は来ないし…」

「そう焦る必要は無いと思うけどな。まずストックを溜めるべきだと思う」

「それは分かるんだけど…こう、出来れば早めに稼ぐ何かが欲しいわ…」

「1番早いのがレイアストーンだよね、沢山あるし」

「それは分かるんだけど、レイアストーンは最悪戦争の引き金になりかねないんでしょ?

 ディルはそう言うの良く分かってるから間違いないと思うし」

「最初、あんなに反発してたのに結構認めてるんだね」

「あ、あの時の私は冷静じゃなかったから…興奮しすぎてたわ…」


あの時の衝動的な行動をマリアは反省できている。

反省することが出来る人間は強いと言う話を聞いた気がするが

恐らくその通りなのだろうと思う。


反省すると言う事はつまり、自分の失敗を認める事だからな。

大体の人間は自分の失敗は認めたくないから責任転嫁をする。

そんな事してたら、そりゃ成長しにくい。

だが、反省する奴は責任転嫁をしていない。

だから確実に成長していくのだろう。


受入れる、認めると言う事はきっと凄く難しい事だ。

変ろうとするのと同じくらいに。


「本当、あの時の私はどうかしてた…言い訳するわけじゃないんだけど

 いや、言い訳になるのかしらね。あの時の私は自分のせいで

 大事な兵士達を死なせちゃったし…財政難で焦ってたのよ。

 これ以上、失敗は許されないから急いで行動しようとしちゃってた。

 その行動はきっと失敗への道だったでしょうけどね。


 あれよね、1度焦ると失敗って連鎖するわよね。

 多分、あの時だってディルが止めてくれなかったら更に失敗は連鎖してた。

 本当にディルには感謝してもしきれないわ、私には勿体ない優秀な部下よ」

「勿体ないって事は無いと思うよ? マリアに相応しいから一緒に居るんだよ。

 ディルも言ってたじゃん。悪い人の下に集うのは悪い人だけって。

 だったら、その逆も言えるよね? 良い人の下に集うのは良い人なんだよ!

 だから、ディルが良い人なら、マリアも凄く良い人なんだよ!」

「ふふ、なんとも言えないあまり根拠がない励ましだけど…ありがとう、励ましてくれて」

「お前は本当に人を励ますの得意だよな」

「えへへ」


ポロの頭を撫でる。ポロは本当にムードメーカーだな。

お節介焼きで優しい奴だよ、こいつは。

よく俺なんかのペットがここまで立派に成長した物だ。


……でも、ポロが言ってた事が本当だとすれば

俺も少しくらいは自信を持って良いかもな。

俺が良い奴だから、ポロも良い奴なんだってね…

はは、ちょっと自画自賛が過ぎるか。


「ぐぬぬぅ! あたちが錬金してる間に羨ましいの!」

「あ、ミミちゃん! 錬金術終わったの?」

「当然なの、もうすでに言われたノルマは達成してるの。

 あたちを甘く見ないことなの! 武器を100錬金なんて朝飯前なの!」

「えっと…武器を100って、それはその…1ヶ月分のノルマで…」

「ん? 今日じゃないの? まぁ、あたちにかかれば余裕なの!」

「何この子超怖いんだけど! え? 1ヶ月のノルマを4時間で終わらせるとか!

 しかも100って少し多いかなって思ってたレベルなのに!?」

「にゃはは! もっと褒め称えるがいいの! これがあたちの実力なの!」


こ、これは流石としか言えねぇ…まさか4時間で1ヶ月分の仕事をしてくるとは…


「まぁ、これが1ヶ月分のノルマだと言う事は、今月は好き放題しても良いって事なの?

 あたちとしては、武器錬成とか単純すぎてつまらないの。

 他の奴らには丁度良いかもだけどあたちには簡単すぎるの。

 おにぎりを作るのよりも簡単に武器は錬成できるの。

 だから、後は好き放題作って良いの?」

「ま、まぁ…ノルマ達成したなら…好きにしてくれて良いんだけど…」

「にゃはは! なら好き放題作らせて貰うの!」


何だか楽しそうに高笑いをしながら、ミミが部屋から出ていった。

その後ろ姿を見送ったマリアは終始唖然としていた。

いやまぁ、うん。そりゃ4時間でキツいと思ってた1ヶ月分のノルマを

平気な顔で達成されたらそうなる…あいつ、規格外過ぎるぜ。


「か、完全に天才ね…ここよりもグレーベルとかに行ったら

 絶対にもっと凄い扱いを受けるのに…名誉とか凄い事になるでしょ」

「僕達は名誉とか興味無いからね、ミミちゃんもそうだと思うよ?

 大事なのはご主人と一緒に楽しく過せるかどうかって所だけだよ!」

「ポロも確か体術が大国の近衛兵より上なんでしょ?

 ディルもそうだけど…スルガは最強クラスの魔法を扱えるし

 何で私の周りって、こんな化け物スペックの人ばかりなのかしら…

 何か、私の肩身が狭いわ…私だけ普通のお姫様よ」

「お姫様ってだけで相当なんじゃね?」

「国はいくつもあるんだし、私程度一般の姫より低いわよ」


確かに位は低いかもしれないけど、その人望は

どう考えても並のお姫様が持てるような物じゃ無いと思うんだがな。


「うぅ、私も何とか特技とかを覚えたいわ…」

「マリアには類い希無い人望があるしそのままで良いと思うけどな」

「人望? 私に? ふふ、そんな物ある訳無いでしょ? 私はまだまだ未熟よ」


やっぱりそこまで自覚はしていないようだな。

正直、彼女が言う程の才能が集ってる地点で

凄まじい人望があると思うんだがな。無自覚で愛されてるお姫様とは凄いな。


「でも、少し褒めて貰えて嬉しいわ。頑張ろうって気持ちになったし」

「それは良かったよ、お姫様」

「何? 意外ときざっぽい台詞も言うのね。

 ちょっと予想外だったけど、何だか最初より明るくなってる?」

「あぁ、こいつの影響かな」

「おぉ、えへへ」


隣で立っているポロの頭を撫でる。

ポロは嬉しそうに微笑み、もっと撫でて欲しそうにして居た。

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