平和な目覚め
やはり、この2人と一緒に寝るとなると
中々にしんどい睡眠時間を過ごすことになった。
大体、人の腹の上に乗ろうとするのはどうかと思う。
やはり猫の性質なのか、癖なのか知らないけど
大体腹の上で寝ようとするのは勘弁して欲しい。
猫の状態ならまだしも、今は人型だからな。
腕枕ならぬ、腹枕状態になってるんだよな。
「ふぃっと」
まぁ、ミミは見た目的には10歳くらいだからな。
体重的にもかなり軽いからマシだよな。
問題はポロの方だ。ポロは見た目的に俺と同い年くらいだし。
「と言うか、ポロのこの帽子…ここにミミを出す穴が開いてたのか」
あまり意識はしなかったけど、ちょっと視界にミミの帽子が目に入った。
器用に開けてるな…自分で作ったのか? この帽子。
何となくミミなら出来そうではあるが、こっち来たときに既に身に纏ってたのか?
ポロもこっち来たとき、既に服を着ていたからな。
全体的にボーイッシュな服装だったが
やはり元々がオスだったのが理由なのだろうか。
性別が変ったのは何故だろうという疑問もあるが
…そもそも、どうして俺達はこんな場所に飛ばされた?
あのじゃれ合ったときに死んだ…とかじゃ、無い筈だ。
もし死んで飛ばされたという展開だったとすれば
ポロとミミが一緒にこっちに来ている理由が不明になる。
そもそも、年齢もそのままだったしな。
「うーん、色々と考えると難しい状況だよな」
ま、寝間着は城で用意してくれた物だから分かりやすいが。
でも手配してくれたのはマリアで、その寝間着も中々可愛らしい。
全体的に動きやすそうだからな。そして、ポロには犬の刺繍。
ミミには猫の刺繍…これは、マリアの趣味なのか
2人がお願いして付けたのか分からないな。
と言うか、今更だがミミってナイトキャップ被ってるよな。
このナイトキャップもやっぱり耳穴が開いてる…作るの大変そうだな。
「興味が無いと気にならないが、ちょっと気になると色々と分かるな」
ミミの黒髪は中々に手入れが行き届いている。
ポロの髪の毛は意外と手入れが整ってないように見える。
ボサボサだな、アホ毛と言えるぴょんと跳びだした部分は少し可愛らしい。
後、八重歯が若干長いんだな、この2人。
普段から八重歯が若干見えてるのかも知れない。
口元とか普段意識してみないから何とも言えないが。
「よしっと」
ま、こんな事を考えている場合はないよな。
今はこの後の事を考えることとしよう。
現状、リーバス国はようやくスタートしたと言えるしな。
元に戻るためにも何より情報は必須だ。
情報収集をする為にもコネは大きい方が良い。
リーバス国の姫、マリアの護衛として活躍していけば
色々な所に顔が利くようになるからな。
まずは国を発展させる必要があると言える。
「あぁ、おはようございますスルガさん」
「ディルさん、おはようございます」
「相変わらず、敬語ですね。まぁ良いでしょう。
ここまで言っても変らないのであれば何をいっても変らないでしょうし」
「あはは、すみません」
確かにここまで何度も言われているが、変らない。
やっぱりこれが俺なんだろうなと、考える事しか出来ないかな。
「それで、今日は早いのですね」
「はい、ちょっと寝苦しかったので」
「では、目覚めのウォーニングアップとして、私の指導でも受けますか?
今日は時間があるんですよ。早朝の8時までですが」
「今が5時だから、3時間もありますね。では、お願いします!」
俺には強くなる必要があった。
異様な程に強力な魔法があるとは言え
これだけでは何処かで躓く可能性があるからだ。
自身が持っている1つの能力しか無ければ、連携は取りにくい。
信頼関係も少し生まれにくいと感じるからな。
誰かに指導をするためにも、自分を高める必要がある。
「では、今回は近距離格闘術。短刀を使った立ち回りを1つ」
「はい」
ディルさんは、最初の2時間で、俺に基本的な立ち回りを細かく教えてくれた。
短刀の場合、最も効果が発揮されるのが懐に潜り込んだときだ。
相手が剣などのリーチが長い武器を持っている場合、懐に潜り込めれば
その地点で短刀はほぼ勝利が確定すると言える。
問題は、リーチの少なさだがそこは素早さでカバーが基本だ。
身を隠し、不意を突くというのも良いかも知れない。
「しかし、短刀と言えど不意打ちを受けた場合では格闘術に劣ります。
短刀には武器を抜くと言う行程が必要ですが
格闘術の場合、その行程は必要ありませんからね。
主に不意を突くとき、奇襲を仕掛けるとき等の
攻撃時に高い効果を発揮すると考えてください」
「正面から戦う場合もあまり強くはないんですよね?」
「基本的にはその通り。ですが、短刀が2本以上ある場合は少し違いますね」
2本以上ある場合は何故違うのだろうか。
戦闘の知識などは殆どないから少し分からないが
アニメや漫画の知識から可能性は予想できた。
「短刀が2本ある場合で、かつ距離が多少近い場合
短刀の投擲による攻撃から不意を仕掛け、一気に勝負を決める手もあります。
とは言え、1発勝負ですし使う機会は限定的ですので
出来ればこの手は使わない方が良いでしょう」
「なる程」
投擲から、一気に間合いを詰めて相手を仕留める行動。
強力ではあるが、使い所があまりなさそうな立ち回り。
とは言え、状況次第では使えそうだし覚えていて損は無いだろう。
ひとまずその事を、手持ちのメモに書いておく。
何だか結構メモも埋まってきてる。そろそろ買い換え時かな。
「では、残り1時間です。さ、次は実戦形式で練習と行きましょう。
まずはこれをどうぞ」
マリアさんから渡された偽物の短刀。摸造刀と言った方が良いのかな。
出来は結構良いが、刃の部分はなくなってるから指でなぞっても斬れない。
「そして、もう1本もどうぞ」
「はい」
2本か、どうやら投擲からの接近も狙って見ろと言うことらしい。
「で、私は剣であなたの相手をします。
あなたは私の攻撃をかいくぐり、見事私に一撃を入れてください。
それだけで良いのですが、勿論私も反撃を行ないます。
あなたが何回喰らえば駄目、と言う事はありませんが
摸造刀も痛いので出来れば喰らわないことをお勧めします」
「痛いのは確かに嫌ですね」
ディルさんに教えて貰ったとおり、逆手でナイフを持つ。
突き刺したときに力が入りやすいそうだ。
あくまで上から振り下ろした場合に限定される。
短刀は斬るでは無く、突く事が求められる武器。
状況によっては、順手、逆手と持ち方を変える必要があるかな。
「さ、掛ってきてください」
「はい!」
最初は下手に間合いに入らないようにディルさんを周りながら隙を見る。
だが、ディルさんに隙の様な物は一切見えなかった。
こちらにずっと剣を向けたまに動いている。
この間合いであれば、短刀を投げて接近するという手段があるが
この場面でその手をしたところで、ちょっと剣を動かして叩き落とされるのがオチだ。
その小さな動作で防がれては隙も生まれない…くぅ、中々に緊張するな。
「ふぅ…」
俺は少しだけ緊張から呼吸が荒くなっているが
ディルさんは一切呼吸を乱していない。
表情も何一つ変らない…攻めてくることも無い。
「……行くぞ!」
覚悟を決め、俺は一気にディルさんに接近することを選んだ。
だが、ディルさんは俺の動きをいち早く察知しての反撃。
とは言え、俺もこの反撃は予想できている。
「っ! ここ!」
左手の短刀でその攻撃を流し、右手の短刀でディルさんを狙う。
だが、ディルさんの表情には一切の焦りはない、むしろ…余裕しか無い。
「良いのですけど、少し遅いですね」
「ガフ!」
うぐ…俺の短刀よりも早く、ディルさんの蹴りは俺を捉えた。
そう、短刀が届く範囲は手足が届く範囲だ。
ディルさん程の手練れであれば、ちょっとした隙など物ともしないで
すぐに格闘術による反撃を行なう…
ディルさんに攻撃を当てるには、ディルさんの格闘術よりも早く攻撃しないと駄目だ!
「まだ!」
ならば、手数で攻める戦術を決める!
このまま隙をうかがってもジリ貧になるだけ
素早く動ける利点を利用して、攻撃を連続で仕掛け隙を作るしか無い!
「確かに短刀は素早い攻撃が可能ですね、伝えたとおり、でも攻撃時には基本的に」
「うぉ!」
「足下がお留守になると言うことを考えてくださいね」
「いぐ!」
バランスを崩されたあげく、背後から摸造刀で一撃を受ける。
よ、容赦ない…背中が痛いが…この程度まだまだ!
「うらぁ!」
「勇猛果敢ですね」
倒されてすぐにバランスを立て直し、またすぐにディルさんに挑む。
でも、ディルさんは俺の行動を想定済み、すぐに反撃としてなぎ払いを仕掛ける。
だけどさ、猪突猛進な攻めは予測されると言う事を、俺は予測している!
「おっと」
ディルさんの剣が届かない距離に飛び退いた。
ちょっとこれは予想外だったのか、ディルさんはバランスを少しだけ崩す。
「そこだ!」
同時に左手に持っていた短刀を投げてディルさんを狙った。
「っと」
だが、彼女はすぐに剣を引き戻し、持ち手でそれを防いだ。
正確に…まるで何処に飛んで来るか見えているような動き。
この至近距離で全力で投げられた短刀の軌道を見抜き防ぐとかヤバいな!
でも、やるしかない! この隙に…ほんの一瞬しか出来なかったが、この隙に!
「これでどうだ!」
すぐにディルさんの正面から動き、後方から一気に接近をする。
短刀の投擲から連なる連続攻撃。
相手がただの兵士であれば勝てる動きだと思う。
しかし…俺が今相手をして居るのは歴戦の勇士だった。
「な!」
ディルさんは後ろを見ること無く、伸ばしている俺の右手を蹴り上げた。
そこに俺の右腕があるという事が分かってるかのように。
見えても居ないはずなのに…つまり、俺の動きを完全に予想して…
「良い動きです。ですが、まだまだ甘い」
「うぁ!」
短刀を蹴り上げると同時にこちらに振り向き、摸造刀を振り下ろしてきた。
大きくバランスを崩している俺は、その攻撃に対処することも出来ず直撃。
地面に叩き付けられてしまう。
「さ、そろそろ時間ですので、今日はここまでですね。
ただ教えただけだというのに、良くここまでの動きが出来ますね。
ふふ、やはりあなたには才能がある。荒削りではありますが確実です」
「手も足も出させないで完封した相手に言う台詞ですか…それ」
「いえ、私も少しマジでやってましたよ? 容赦なかったでしょ?
それが証拠です。あなたには確実に戦士としての才能があります。
私が保証しましょう。これからも鍛錬に励めば、私を超えることも出来ます。
ま、本気の戦いであれば私はあなたには勝てないかもしれませんけどね」
俺の能力を知っているのに、勝てないかもしれないと疑問系で伝えている。
俺が本気だったとしても、俺に勝てる可能性があるという事だろう。
全く叶わないな、俺には対象をイメージ通りに破壊する力を持ってる。
そんな俺にチート能力を持つわけでも無いのに
実力だけで勝てるかもと言えるなんて。
いつか…超えてみたいな、ディルさんを。
チート能力無しで、自分の実力だけで超えてみたい。
「では、私はこれで。また次も鍛えてあげますよ」
「はい…ありがとうございます。そして、お願いします」
ディルさんは呼吸1つ乱さずに、動きにくそうなメイド服を少しなびかせ
城の中へと戻っていった。
俺も汚れてる服を払い、ちょっと休んだ後に城へ戻った。
今日もマリアの護衛だ。ちょっと怪我しちまったが、護衛には差し支えないさ。