進むべき道
このモンスターの襲撃はリーバス国にとって本当に大きな機転となった。
人の不幸により、リーバス国が潤う道が見付かったと言える。
若干複雑な気持ちはある。しかし、感謝しなければならないだろう。
今までどんな風に発展しようか悩んでいたマリアは
今回の件で発展先を決めた。
俺達の錬金術。この技術を用いて生産する物が決定した。
それは、武器だった。モンスター達の襲撃から
自国を守る為に必要な、強力な武器だ。
魔法は稀少な存在だし、そんなに扱える人物も多くは無い。
故にギガンテスのような既存の武器では攻撃が通らない相手が来た場合
強力な武器が無ければ、国は一方的に滅びると言える。
強力な魔法を扱える人財が居れば話は別だが
そんな魔法使いは数が少ないだろう。
ならば、強力な魔法使いが居ない国は強力なモンスターが来たとき
ただ指をくわえて滅びを待つしかない。
マリアはそれを良しとせず、自分達の持つ技術を用いて
強力な魔法使いが居ない国でも自分達を守れるようにしたい。そう言った。
「確かにあたしは武器には精通してるけど、錬金術はね-」
武器の錬成と言う事でリーバス国の為に武具を手がけてくれている人を呼んだ。
ドリームと言う名の少女。高い技術力を持っている鍛冶屋だった。
茶色の短い髪の毛にすすだらけのハチマキを頭に結んでいる。
顔もすすだらけだが、僅かに見える肌は小麦色だ。
服装は白いシャツ1枚と動きやすそうな長ズボンだった。
まぁ、白いシャツと言ってもそこもすすだらけでほぼ黒いけど。
身長はそんなに高いと言う訳では無いが
見た感じ、かなり力がありそうな少し太めの腕と足。
体つきはマリアとは正反対と言えるな。
「そこをどうか…アドバイスだけでも…」
「うーん、そうは言われても…」
「なら、あたちに任せるの。一応、レシピは知ってるの。
武器というのは単純なの。雑貨よりも簡単に作れる物なの」
「なら、どうすれば良いか教えて欲しいわ」
「一応、武器を作るのは少し難しいんだけどね」
「そんなの知らないの、あたちはあまり武器とか作らないし。でも、まず材料なの」
ミミは武器の基本的なレシピだけを教えてくれた。
他の難しい武器は興味が無いから覚えてないそうだ。
単純と言ってたが、ミミは恐らく簡単な物に興味は無いのかも知れない。
「正直、生かすよりも殺す方が楽なの。
だから、雑貨よりも武器の方が簡単なの」
「なんで?」
「だって、殺す行為はただ殺すだけ。後の事はどうでも良いの。
でも、生かす方は維持する必要があるし、好き嫌いの好みまで
生き物には存在するの。それらを満たす品を作るのはしんどいの。
でも、殺す行為には殺すと言う目的以外存在しないの。
殺した後に何か影響が-、とかはあるかも知れないの。
だけど、殺すと言う目的はそれでお終いなの。だから、殺すのは殺すだけで良いの。
凄く簡単なの。殺すだけなら、後にどうするかは関係ないの」
相手を殺す事だけが狙いなら、貫通力が高い武器を用意すれば良いだけ。
貫通力をあげる方法は色々あるし、殺すだけが目的なら方法はいくらでもあると。
「何だか、恐い話だね」
「殺意ほど純粋で単純な物は無いの…多分」
そこは曖昧なんだな、あそこまで自信満々に言っておきながら。
だが、何となくミミっぽいと言う風に感じた。
「あたしとしてはその意見には賛同しかねるけどね」
「何でなの? 事実なの」
「大事なのは使い手の意思次第だとあたしは思ってるからだよ。
あたしら武器職人は使い手の意思に添える物を作るんだよ。
魂込めて、細かい所も徹底的にね。
そこを考えてなければ、あたしらはただ殺戮の手助けをしてるだけだからね」
「何と言おうと、その武器で何かを殺す事に変わりは無いの」
「それはどうかな? 大事なのは何故殺す必要があるのか…だ。
殺す必要が無いなら殺さないで、ただ倒すだけで良い。
ま、何と言おうと、使い手次第…なんだけどね、マリア」
彼女はちょっとした笑みを見せた後、マリアに視線を向けた。
その視線に気付いたのか、マリアも僅かに笑みを見せる。
「勿論、この武器は相手を殺す為の武器では無いわ。
これは、大事な物を守る為に扱う武器よ」
「そう言ってくれると思ってたよ。だからこそ作りがいがある」
「相手を殺す事に変わりは無いの、守る為に殺すとしても
殺すと言う事実は変らないの」
「いいえ、守ると言う行為は殺すとイコールでは無いわ。
大事な物を守れるなら、殺す必要は無いのだから」
「ま、それはマリアの好きに解釈すれば良いの。
あたちはそもそも武器には興味無いから大した持論は無いの」
負けず嫌いだったミミが珍しく引いた。
そこまで武器の云々に興味は無いという証拠なのだろう。
「意外と素っ気ないね。まぁ良いけどさ。
でも、ここまで来ると、あたしも何かしないと不味そうだね。
何とか良い武器作らないとね」
「大丈夫よ、ドリーム。今まで通り、私達はあなたの作った武器を使うから」
「それは嬉しいけど、それだけじゃ駄目だからね。
国の為…と言うよりは、マリアのためにもあたしはもっと良い物を目指すよ」
ちょっとだけ嬉しそうな表情を見せた後、彼女は部屋を後にした。
確実に何か動くだろうな。どんな風に動くのか、少し楽しみだ。
「じゃ、あたちは次の道具作りの研究するの」
「もう遅いよ?」
「にゃはは、猫は夜行性なの、馬鹿犬と違って-」
「うん、じゃあ昼はグッスリ眠っててね!」
「……や、やっぱりあたちもすぐ寝るの!」
「分かればよろしい、おやすみー!」
あ、あの会話であの2人がどう言う意思疎通をしたのか分からなかった。
何であの一言でミミは大人しく寝る事にしたんだ?
「じゃ、僕達も寝ようよ! 起きた後、元気に遊ぶために!」
「……あぁ、そう言う…そうだな」
なる程、そう言う事か。流石に察しが悪い俺でも理解できたよ。
なる程、あいつは朝も一緒に活動するために早く寝ることを決めたのか。
意外とポロってミミの性格を把握してるよな。
最初はポロの事、そこまで頭良いように見えなかったけど
実は結構周りの事を見てて、気遣いできる頭が良い奴だったんだな。
「マリアも寝ようよ」
「いいえ、私はまだやることがあるの」
「明日すれば良いじゃん。どうせ暇なんだから無理しなくても良いよ?」
「ぐふ…いやまぁ、確かに今は暇だけど…そ、その内忙しくなる予定で」
「じゃあ、忙しくない今は寝た方が良いよ?
どうでも良いときに体力使うなんて馬鹿だよ?」
「ぐふぁ! よ、容赦ないわね…あ、あなたって結構毒舌…」
「多分、本人が思ったことをそのままド直球に言ってるだけだと思う」
「せめて何かで覆い隠して欲しいわね…」
「ほら、早く寝よ?」
「そ、そうね…」
結局マリアもポロのド直球正論には心が折れたのだろう。
大人しくポロに従って寝る事を選択したようだった。
意外とお姉ちゃんっぽいキャラだったんだな、こいつ。
「じゃ、寝ようよご主人~!」
「そうだな」
布団に潜り込んできたポロを置いて、ソファーに移動した。
「早く寝るの…」
ソファーに座ると、今度はポロが膝の上に乗ってくる。
あー、何かスゲー猫っぽい。見た目美少女でも中身はやはり猫か。
まぁ、とは言え流石に美少女になってる我がペットたちと寝るわけにはいかないので
膝の上に乗っているミミを持ち上げて、どかした後に部屋から
「ご主人! 何処行くの!?」
「いやほら、やっぱりお前らと相部屋って不味いだろ…
いや違うな。決して相部屋では無かったはずだ。
お前らにはお前らの部屋があるのに、何故ここに居る!」
「な、何と言う今更!」
「今日で何日目だと思ってるの? 毎日あたち達はご主人の部屋で寝てるの」
「お前らは見た目が変化していることを自覚しろ。
お前ら今は美少女なんだぞ? 俺がいつ暴走するかも分からないのに
男と相部屋で寝ようとか思うなよ」
「男と相部屋で寝ようとはしてないよ!
ご主人と一緒の部屋で寝ようとしてるだけだよ!」
「俺は男だ!」
「わはは! 僕も男の子~」
「元な!」
「く、あたちは女の子なの…」
「じゃあ、僕の勝ちー!」
「何で張り合ってる! とにかく自分の部屋で寝ろ!」
このまま部屋で居座りそうな雰囲気がある2人を部屋の外につまみ出した。
2人は無抵抗のまま、部屋の外へ運ばれ、扉の前で正座をした後ろ姿が見えた。
「ご主人ー! 開けてよー!」
「そうなの! お前は完全に包囲されているの! 大人しく部屋の中に入れるの!」
「2人だけで包囲できるわけ無いだろ! とにかく自分の部屋で寝ろ!」
「開けないというなら、無理矢理開けてやるの! あたちの魔法を舐めるななの!」
「じゃあ、僕はこじ開けようかな-、力あるし」
「分かったよ!」
「やったー!」
…駄目だこいつら、絶対に自室で寝ようとしない。
くぅ、俺が扉を開けたら、滅茶苦茶良い笑顔で入ってくるし…
「さぁ、寝よう!」
「……はぁ、分かったけど…本当自分達の今の姿を自覚しろよ?
マジで俺が暴走して、お前らを襲ったらどうする?」
「受入れる準備は出来ているの!」
「僕もー!」
「…そうかよ、ならその準備は無意味だな」
「な! 根性無し! 玉無し! 美少女と一緒のお部屋でサンドイッチで
何もしないとかおかしいの!」
「そうだよ、ここで襲わなきゃ男じゃ無い!
まぁ、僕も襲わないけど…いや、発情期だったら襲うかも?」
「何とでも言え、寝るならさっさと寝やがれ」
「むー」
「まぁ、僕はご主人と一緒に寝られるなら何でも良いけどね!
ここに来るまで、僕ずっと1人で寝てたからね!」
「…そうだな」
ポロは家の外で寝てたからな。
犬小屋の中で1人、でも毎日良く楽しそうに過せてたもんだ。
「でも、たまにミミちゃんが一緒に寝てくれてたね!」
「お前の毛皮がもふもふしてて暖かかっただけなの! 勘違いするななの!」
「わはは! ありがとうね!」
「べ、別にあたちは…」
やっぱりこの2人は本当に仲が良かったんだな。
犬と猫の時でも、お互いに仲良く過ごしてた。
ミミはちょっと素直になれないみたいだが
お互い、これで良いと感じているなら深くは口を突っ込まない方が良いだろう。
「じゃまぁ、今日はお前の毛皮が何処まで暖かいか教えてくれ」
「わはは、昔ほどふさふさじゃないけど、尻尾はあるから任せてよ!」
「なら、特別にあたちのもふもふも教えてあげるの…細いけど」
こいつらが後から潜り込んでくることはよくあったが
同時に一緒に布団に入ったのは今回が初かもしれないな。
おぅ、確かにもふもふしてて暖かいな、こりゃミミがはまるのも分かる。
ん、ちょっと細いのが当ってるな。ミミの尻尾か。
ん、確かに細いけど、ちゃんと暖かいな。
「うぅ、し、尻尾に触られるとくすぐったいの…」
「でも、僕は好きだよ?」
「あたちもちょっと癖になりそうなの…」
「尻尾が無い俺には分からない感情だな…しかし、何だか背徳感が凄い…」
「気にするななの!」
とは言っても、気になるな…ま、我慢しよう。
本人も嫌なら勝手に出ていくだろうしな。