救援者として
周囲からは何も聞えない…俺達の足音や鎧や草木がすれる音
小さな呼吸音…それ以外には聞えてこなかった。
激しい戦闘音が聞えているというわけでも無い。
俺の頭の中に…既に全滅しているという最悪なシナリオが浮かぶ。
最後の希望として他国へ援軍を要請したのだろうし
最悪の可能性というのがどうしても出て来た。
「……」
恐らく全員の頭の中にそんな嫌な妄想が浮かんでいるはずだ。
いや、全員では無いか…恐らくポロはその事態を想定していない。
あいつの表情はいつも通りだ…緊張の表情はあるが、不安の表情は無い。
「…見えましたね」
緊張のまま進んでいくと、城壁が見えてくる。
城壁の向こう側から、微かに煙の様な物が見えている。
だが、そこまで酷い煙では無い…まだ大丈夫と言う可能性があるか。
「ふぅ…さぁ、心の準備を」
俺達の人数は少ない。ほんの数百人程度の数しかいない。
国を護る兵士としては、正直かなり少ない数だろう。
だがこの数でも全体の8割…リーバス国がどれ程弱小国かよく分かる。
それに対して俺達が今向っている国は城壁の規模からも
リーバス国よりも3倍ほどの大きさがある。
兵力は何千も数が揃っていると考えても良いだろう。
それだけの戦力でも追い込まれている。
そんな中に俺達実戦経験もあまり無い兵士、数百が入っても
大した戦力にはならないだろう…だが、無いよりはマシだと思う。
僅かな手伝いしか出来なかろうが、見捨てるのは嫌だ。
恐らくここで撤退してもマリアは俺達を責めないだろう。
それはここの全員が承知しているだろう。だが、誰も足を止めない。
圧倒的な戦力差だというのに、誰1人足を止めようとしていない。
なら、俺達が止めるわけにはいかない。
何だかんだで、俺達はリーバス国の中でもかなり実力がある。
そんな俺達がここで兵士達を見捨て撤退だと?
あり得ない。あっては行け無いことだ。
決めた以上は…やるだけだ。
「…では、いきますか」
崩壊している城門から俺達はゆっくりと中へ入った。
城壁の向こう側の惨状はまた悲惨な物だ。
建物は倒壊しているし、弱そうなモンスターがうようよ居る。
家の中にあったであろう食料をむさぼり食ってる奴らもいる。
とは言え、何故ここまで追い込まれているかの特定は速かった。
城門がど派手に壊れてる。高い部分まで。
そんで、倒壊して居る建物も何かが通った後の様に壊れている。
つまりだ、ここまでこの国が追い込まれた理由は
巨大な人の形をしたモンスターが攻めてきたからだろう。
そのモンスター達は周囲の建物に興味を持たず1直線に奥へ進んでる。
奥にあるのは城だろうから、推測として人を追ったのだろう。
数は分からないが、とりあえず巨大な奴さえ潰せば勝算はある。
「この状況から推測できる事柄は…私達でも国を救える可能性があるという事。
大勢で攻められて、その結果制圧されたというのであれば不味い所でしたが
大型の強力なモンスターの進行により制圧されているというのであれば
私達でもその大型のモンスターを潰せれば国を救えると言う事ですからね」
ディルさんも俺と同じ事をこの光景を見て察したらしい。
そう、まだ助けになれる可能性は十分ある。
「スルガさん、ポロさん、ミミさんは大型の撃破を優先してください。
私達は街を制圧している小型を仕留める為に動こうと思います。
相手が単独で強力というだけなら、あなたの魔法でどうにでもなる。
そうでしょ? スルガさん」
「はい、任せてください!」
「あたち達にお任せなの! 絶対にぶっ飛ばすの!」
「僕達の役目はご主人の護衛だよ! ご主人は複数相手はしんどいからね!
奇襲とか不意打ちとか、そう言うのを僕達で迎撃するんだよ!」
「そ、そんな事分かってるの! 偉そうに言うななの! 馬鹿犬!」
「頼りにしてるぞ、一気に走り抜ける!」
「あ、あたち…大丈夫か不安なの…」
そう言えばミミはこの姿になって体力が結構落ちてるんだっけ。
ここまで結構歩いたけど、少ししんどそうだしな。
走るというのはミミには結構辛いのかも…
「なら、僕の背中に引っ付いてて! 魔法での攻撃なら片手で行けるでしょ?」
「く…いや! あ、あたちは馬鹿犬の背中なんかには…」
「じゃあ、ご主人の足手纏いになる?」
「……くぅ! わ、分かったの馬鹿犬!」
「わはは、素直になれば良いのに!」
少し悔しそうな表情を浮かべながら、ミミがポロに背負われた。
でも、何だか背負って貰った後の表情は少し和やかに見えた。
やっぱり何だかんだで仲が良いのがこの2人だからな。
「いくよ!」
「あぁ、俺を置いていかないでくれよ?」
「大丈夫だよご主人♪」
ポロは俺の速度に合わせて一緒に走ってくれた。
流石にこいつの全力疾走に俺が追いつけるはずが無い。
ポロは中身犬で、身体能力もほぼ犬と同じ、あるいはそれ以上なのだから。
特殊な能力は使えても、肉体的にはただの人間である俺が追いつけるはずが無い。
多少ディルさんに扱かれて、昔よりは体力付いたけどそれでまだまだだからな。
「えい! ビーム!」
「何のひねりも無いダサい名前だね」
「うっさいの! 一応貫通力あるのこの魔法!」
「ちょっと細い線が出てただけに見えたが、貫通力あるんだな」
「細いからこそ貫通力が高いの。太くなると破壊力は上がるけど
その代わり、ちょっと力使うし、殺傷能力は低くなるの。
ただの雑魚なら急所さえ撃てばそれで十分だから、破壊力は不要なの。
殆どの時間差も無く相手を撃ち抜けるから使い勝手も良いの」
「へぇ、考えてるんだね、名前以外は」
「名前は関係ないの! あたちは一切関与してないの!」
自分で作った魔法というわけでは無いらしい。
本来、元々あった魔法という事なのかな。
でも、魔法の名前を呼ぶとき、ビームって少しダサいな。
「細いビームって言ったらどう?」
「にゃはは! 馬鹿犬はやっぱり馬鹿なの!
そんなひねりも無い名前とか、ダサすぎるの!」
「ただのビームよりはマシだと思うけどなー」
「どっちも同じだと俺は思うぞ」
「にゃひゃ!」
会話の最中にポロが唐突に跳躍する。
そして、俺を飛び越えて正面に来ていたモンスターを蹴り飛ばした。
不意に飛ばれたからなのか、ミミが驚く可愛らしい声が聞える。
「確かにそうかもね」
飛んで来たモンスターを蹴り飛ばした勢いで
ポロが俺の邪魔をしない位置まで移動して着地と同時に走る。
普通ならかなりの集中力が必要そうな場面ではあるが
ポロは一切表情を変えず、会話の片手間でその動作を行なった。
背中にミミを乗せている状態でだ。
そしてミミは驚いたあまり両手を離しているが
ポロの背中から落下しているわけでは無い。
あの動作をバランスを一切崩さないで表情1つ変えず
会話の片手間で行なっていたと言う事か…凄いな、ポロ。
「ば、馬鹿犬! と、飛ぶなら飛ぶと言うの!」
「言ってる暇は無いよ-、それに大丈夫だって!
ちょっとミミちゃんがバランス崩した程度なら落とさないように出来るし」
「あたちの心臓に悪いの! 確かに両手を離したけど落ちてないけど
それでもあたちの心臓には凄いダメージだったの!」
「ごめんってばー、だから髪の毛引っ張らないでよー」
結構強めに引っ張られているように見えるが…痛くないのか?
表情から全く痛がってるようには見えないけど…
「あ、ご主人前!」
「ん」
ポロの言葉で正面を向くと、そこには少し硬そうなモンスターが壁になっていた。
意外と連携とか取っているのかもしれない。だが、硬いだけなら俺の魔法の敵じゃない筈!
「そら!」
少し出て来たかも知れないを少しでも確信に近付けるために
俺はクナイとかナイフを投げるような動作と一緒に
あの3体のお腹をぶち抜くようなイメージをしてみた。
すると、正面にいた3匹のモンスターにイメージ通りの風穴が開く。
この結果により、俺の中にあったかも知れないが確信に変る。
俺の攻撃は俺がイメージしたとおりに発動するんだ。
最初のゴブリンの撃ち抜いたときは銃をイメージしていたからああなった。
イメージ通りの攻撃を無条件に相手に行なう事が出来る。
これは中々強力な能力だな。
「よし、急ぐぞ!」
「うん!」
少しだけ別の叫び声が聞えてきた…よし、まだ間に合う!