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錬金術という技術の発展。

レイアストーンという魔法資源が見付かった以上は

こんな風に発展していくのはある意味、当然の事だった。


自分達の国で最も裕福な資源を使い発展しようというのは基本。

余所の技術でのし上がろうとする国は早々無いだろう。

とは言え、こう言った場合に最も懸念すべきは資源の枯渇。


このリーバス国では最優先でその枯渇に焦点を当てた。

技術開発と同時に資源枯渇に対抗する手段を講じ始めるという

正直、先を見すぎているような状況ではあるが重要な問題だろう。


「他国に錬金術をアピールするとして、その後の資源供給源を…

 私達の国は国土が狭いから、他国からの供給ルートを確保したいわね」


この問題に率先して取り組んでいたのはマリア姫だった。

最初はすぐに資源のアピールを目論んでいたマリア姫だったが

ディルさんの最初のアドバイスから先の先を読んで行動する事にしたらしい。


実際、色々な国から求められた場合、資源の枯渇は避けられなくなる。

どれだけの資源が眠っているか分からないけどな。


「なんて、先の事を考えすぎかしら…」


机の上に放置されているメモを少し動かした後に

メイドにより運ばれていた紅茶に手を伸ばし、ゆっくりと口に運んだ。

その際の表情には若干の憂いが見えている。


「難しい事を考えすぎなの。とりあえず知名度を上げれば良いだけなの。

 上質な錬金術で作られた道具で色々やってたら自然と声が掛るの!」

「それはそうなんでしょうけどね…」

「大丈夫だよ、何かすれば良いだけ!」

「考え無しに何かやったら、失敗すると思うけどな。

 でも、現状錬金術の技術が発展してきているという部分を

 他国にアピールするべきだとは思う。


 資源枯渇は確かに考えるべき事柄だけど

 まずは金が無けりゃ何も出来ないと俺は思うけど」

「うーん…確かにそうなんだけどね…でも、正直何をすれば良いかは分からないのよね」


大きなため息の後、再び手に持っている紅茶を口へ運んだ。

そして、紅茶を飲み干し机に置くと同時にマリア姫は大きなため息をこぼす。

現在突き当たってる問題は、まぁ確かにこの部分だとは思う。


資源枯渇の問題にはぶち当たっては無いが、何を作るかは定まっていない。

現在候補として上がってるのは雑貨、家具、薬、金などの貴金属

鉄とかのただの金属もありかもしれない。

しかしだ、錬金術が使える人数が少ない現状では複数を錬成は難しい。


可能であれば1つに絞り、それを優先して進めていたいと感じている。

レイアストーンが豊富に転がっているのだから

より品質の高い物を作る事が出来るわけだからな。

出来れば、品質が物を言う物品を扱うのが得策だろう。


「マリア姫様!」

「ん?」


マリア姫がどうするべきかを考えていると扉が開く。

そこには兵士の姿があった…だが、どうやらただの伝令では無さそうだ。

兵士の手元には1通の血濡れた手紙が握られていたからだ。


ただの手紙であると言うなら、それで良かったしその方が良かった。

だが、彼の手元にある手紙に付いている真っ赤な血だけで

この手紙がただ手紙では無いと言うことが分かってしまった。


「なん…何よその血濡れた手紙は!」

「…先ほど、この国に血まみれの兵士が運んできた物です」

「はぁ!? その兵士はどうなったの!?」

「……我々に手紙を渡すと同時に…息絶えました。

 最後に……僅かに笑みを残して」

「……内容は!」


悔しそうな表情だった。やりきれない表情だった。

だが、マリアの目には涙などは無かった。

その報を聞いた彼女の目にあったのは…決意だけだった。


既にこの後、マリアがどのような行動を取るのか

それをあまり交流が無い俺達でも容易に想像出来る表情だった。

彼女はあの瞬間、既に行動を決定している。


「援軍の要請。正確には我々に当てられた手紙ではありません。

 隣国、バイス国にてモンスターが大量発生したそうです。

 危機を感じたバイス国は大国、グレーベル国に援軍の要請を出そうとした様です。

 しかし…恐らくその道中にて、伝令として動いていた兵士が襲撃を受けたのかと」

「命辛々逃げ切れた物の…深い重傷を負い助からないと察した伝令は…

 最後の最後までこの任を全うしようとしたのね。

 このままでは届けることが出来ないから、せめて誰かに託そうと

 偶然近くにあったこのリーバス国へ…最後の力を振り絞って……」


その伝令に俺達は出会っていないし、姿すら見てはいない。

マリアだってそうだ、でも彼女は話を聞いただけで

その伝令の意思を…しっかりと読み取った。

最後の意思を受け取った人間としてやるべき事は…決ってるだろう。


「危険だけど…やるしか無いわ。その兵士の名前を教えて」

「我々にこの手紙を渡し、息絶えた兵士の名は…ジャック・シード。

 彼の鎧に彼自身の名はしっかりと刻まれていました」

「…ジャック・シード。覚えたわ。至急! 兵士を召集して!

 私達の人数は少ないし、危険なのは間違いない!

 だから、付いてくる人だけ集めて! 助けるわよ…無意味な死にはさせない!」

「はい!」


マリアの言葉を聞いた兵士は急ぎ他の兵士へ声を掛けるために走った。

マリアは兵士達が残していった、血まみれの手紙を手に取り

その字を眺め…僅かに涙を流した。


「ねぇ、スルガ、ポロ、ミミ」

「ん?」

「私の判断って…間違ってるかしら…少し自信が無いわ。

 たった1人の意思をつぐために…兵士達が犠牲になるかもしれない。

 国も救えないで、国に尽くしてくれてる兵士達を無駄死にさせるだけかも知れない。

 

 あの時から、私は少し私に自信を持てなくなってる。

 でも…つい衝動的に口が動いてしまった。

 この指示で兵士達が死ぬかもしれないって分かってるのに。


 やっぱり私は姫としては失格なのかしら…

 人の上に立つべきじゃ無いのかも知れない…

 優柔不断な癖に感情的になったら衝動で動く…こんな奴」


彼女の言葉を聞いて、俺は自分自身の過去がフラッシュバックする。

衝動的に動いて、その結果いつも自分や周りを不幸にする。

結局は誰も救えないで、ただ自分だけが落ちぶれていって

最終的に自分自身が正しいと思った行動が出来なくなった過去を


「そんなの、やってみないと分からないよ! 大丈夫、それがマリアなんだから!」

「相変わらず馬鹿犬なの、人の命が掛ってるの。

 でも、あたち的にもやってみないと分からないと思うの。

 やらないで諦めるのは、正直つまらないの」

「……それに、お前の行動が正しかったか正しくなかったかはすぐに分かるさ」

「え? どう言う…」

「少し待て、急いで結果を求めなくても良い」


やはり、マリアの行動が正しかったのか、正しくなかったかはすぐに分かった。

マリアの言葉、この言葉で兵士達は全員マリアの指示に従うことを選んだ。

マリアはあの時、全員を無条件で集めろと要ったわけじゃ無い。


ついてくる人間だけを集めてこいと言った。

それなのに兵士達は全員マリアの指示に従うことを選んだ。

それはつまり、マリアには国を率いる人間として相応しく

何より、この選択は正しい選択だと言う事の証明にもなっている。


彼女が正しいと思った行動は、兵士達が全て正しいと思っている行動だ。

彼女には自分の正しさに追従してくれる兵士達が居る。

彼女は孤独ではない。彼女には立派な仲間がいる。

だから…彼女が自分の正しさを疑う必要は無い。


「……付いてきてくれるのね」

「はい! マリア姫はここでお待ちを! 必ず吉報をお持ちします!」

「いや、吉報は必要無いわ。私も行くんだから」

「な、何を!?」

「これは私が決めた事…あなた達だけを危険な目には遭わせない!」

「そんな危険です! マリア姫!」

「戦えなくても…あなた達を支える事くらいは出来る!」

「そんな!」

「…マリア姫、それがどれ程危険な行為かご理解なされていますよね?」

「えぇ…でも、あなた達に戦えと命じた私が危ない目に遭わないで

 のうのうと待つことは出来ない…少しでも皆の力になりたい!」

「はい、分かりました…では、城で待っててください」

「はぁ!? 何言ってるのよディル! 私の話し聞いてた!?」

「えぇ、聞いてました…私達の力になりたいと。

 だから待っててくださいとお願いしたのです」

「…私は邪魔だと?」

「ハッキリ言いうとその通りです。私達の戦力は少ない。

 なので、あなたの防衛に戦力を割いては死者が出る可能性が増加します。

 あなたが私達の力になりたいのであれば、最善は城で私達の無事を祈ること。


 そして、帰ってきた我々に労いの言葉と微笑みを見せてくれることです。

 兵士達はあなたに忠誠を誓っている。あなたの笑みは何よりのご褒美です。

 生き残れば褒美がある。そう思えば兵士達も生き残ろうと必死になりますよ」


ディルさんの言葉は結構無茶苦茶な所があった。

だが、兵士達は誰1人として否定的な表情はしていなかった。


「……分かった、でも、それなら命令をさせて…全員生き残って!

 私はあなた達の帰りを待ってるから…お願いだから」

「分かってますよ! マリア姫に辛い思いはさせません!」

「必ず生きて、ご褒美をいただきます!」

「…お願いね…じゃあ、兵士達への指示は…ディルにお願いするわ」

「お任せを」


ディルさんが兵士達へ指示を出した。

戦力の内、2割は国の防衛へ、残り8割が援軍に向うことになった。

その内、伝令の兵士達の一部は本来、援護要請が送られる予定だったグレーベル国へ

あの血塗られた手紙を届けるという役目を受けた。

俺達はこの国では2番目に実力がある為、バイス国へ向うことになった。

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