錬金術
「さぁ、今回はご主人に免じて特別に教えてやるの!」
しばらく抱きついた後、ミミがいつも通りの高圧的な態度に戻った。
その後、ディルさんが色々と話をして結果ミミが
このリーバス国で魔法の才能がある人間達に
錬金術の技術を教えることになった。
「違うの! それは駄目なの!」
「うぅ…もっと細かく教えてよ!」
「目分量で測れるようになるの!」
まぁ、こんな感じでどうやら天才タイプだったミミは
人に物を教えると言うことはあまり出来ないと言うことが分かった。
この無茶苦茶な教授に付いてくる人間は極めて少なく。
元々僅か10ちょっと程度だったメンバーの内
未だに諦めずに教えを聞こうとして居る奴はほんの3人まで減っている。
……うん、数字で言えば悪く無いのかも知れないが
実際としてはポロ、俺、ディルさんといういつものメンバーのみって言うね。
「こう、ドバーッと入れれば大体それで丁度良いの!」
「分量から分からないな…」
「自分の直感を信じるの!」
確実に人に物を教えることが出来るタイプでは無いな。
「とりあえずドバー!」
「あぁぁあ! 馬鹿犬! 何度言わせれば気が済むの! 多いの!」
「さっき少ないって言われたからちょっと増やしただけだよ…」
さっき指摘されたときと今指摘されているとき。
殆ど見た目に変化は無いというのがまた斬新だ。
ポロは前少ないと言われたときに、ちょっと材料を足しただけだった。
それでもミミ的にはかなり多いと言うことが反応で分かった。
何度かミミが錬金術で物を作っている姿を見せて貰ったが
正直、マジで適当に材料拾ってぶち込んでるだけにしか見えなかった。
それでも完璧な物が出来るのだから、天才としか言えない。
「うん、完全に見て覚えろスタイルですね。嫌いじゃありませんが」
「うんうん、ディルは中々筋が良いの」
「えぇ…」
しかし流石はディルさん…あの無茶苦茶な指導でよく分かるよ。
俺はイマイチわかってない…と言うか、これ真面目にやって出来るのか疑問だ。
「細かい部分まで難しいもんだな」
ちょっと肩を落としながら、適当に材料を拾って入れて見る。
「おぉ! 流石ご主人なの! 完璧なの!」
「はぁ!? あれでいいの!?」
「勿論なの! 完璧なの!」
ま、マジですか…超適当に拾って叩き込んだのが丁度良いとは。
……ヤバい、どれ位が丁度良かったのか計れば良かった…
「流石ご主人! 僕は全然出来ないのに!」
「ディルも出来てるし、馬鹿犬が全然出来てないだけなの」
「うぅ、やっぱり僕には才能が無いんだよ。諦め」
「あ、諦めるとか無いの! それで良いの!? 情け無いの!
もっとこう! や、やる気を出せば大丈夫なの!」
「ミミちゃんがそう言うなら、僕は出来る気がするよ!」
「ふぅ……ふ、チョロいの」
あー、やっぱりポロが居なくなるのは寂しいのな。
そんで、ポロも結構単純に振る舞うよな。
実際はミミが何を狙ってるか気付いてそうだけど。
「さぁ! そのままやるの!」
「ふーい」
そんな感じで今日の授業は何とか終了した。
この授業が始まって、そろそろ1週間ほどだが
既に参加しているのは3人だけというのが不味すぎる。
正直、ディルさんが錬金術をマスターすれば
後の生徒達にはディルさんから教えると言う方法がある。
天才タイプであるミミが一般人に勉強を教えると言うのは無理そうだしな。
とりあえず、俺はミミの授業を受けながら、分量とか重量を書き出してみた。
とは言え、どうもこれだけじゃ無い様な気がするんだよな。
何度か同じ重量で取ったりしたが、ミミに違うのって言われたし。
「重量とかじゃないとすれば何だろう…」
「ご主人、難しい事考えても分からないよ。
とにかくやるっきゃない! それで良いよ!」
「考えないで何かしても意味ないの! 馬鹿犬!」
「僕思うの。僕は考えて何かやったら失敗するって!」
「確かに馬鹿犬のポンコツな頭じゃ、何も考えない方が良いかも知れないの」
「やっぱり僕は正しかった!」
「お前限定なの!」
この2人の言葉だが、ある程度時間が経ってから両方が正解だと分かった。
確かに難しい事を考えないで行動した方が感覚的に分かるし
ある程度考えてなけりゃ、この感覚にも気付けなかったからな。
「ミミちゃん、ちょっと僕適当にやりたい」
「何言ってるの馬鹿犬!」
「僕、考えない方が成功する気がするから! 1度自由にやってみる!」
「そんなんで成功するわけ無いの! 多いの!」
「いや! 僕はこのままで行くよ! 無鉄砲な行動こそ僕!」
「あぁああ! 失敗するの!」
ポロが適当に材料を摘まみ、そのまま作業を開始した。
ミミの必死の制止を余所に、ポロはそのまま作業を続けた。
ポロは今まで1度も成功していないから、1度勝負に出たという感じだろう。
繊細な作業が必要な錬金術で適当な行動なんて絶対に失敗する。
とは言え、ポロは今まで何度も失敗してきているし、思い切りも時には大事か。
確かにポロは考えて行動するようなタイプには思えないからな。
大体感覚的に何かやってるように感じるし。
「お、おぉおお! 出来たぁ!」
「にゃぁああ! にゃ、にゃんでぇ!?」
あまりに衝撃的だったのか、ミミが猫みたいな叫び声を上げた。
まぁ、元々猫だし…でも、どうしてミミの指示を完全に無視したポロが
こうやって錬金術を成功させたんだ? 俺達は指示に従おうと何度か失敗してる。
だが、たまに成功することもあった……恐らく何かあるんだろう。
「にゃ、にゃんであたちの指示を全く聞いてない馬鹿犬の錬金術が完成するの!?」
「ふっふっふ…わかんない!」
「教えるの! な、何かインチキしたに違いないの!」
「わはは! 僕にそんな事が出来ると思うの?」
「お、思わないけど…でもおかしいの!」
「これは…確実に何かありますね」
「はい」
この違和感を皮切りに、俺達は別方向から錬金術を調べる事にした。
錬金術にはあまり知られていない部分が多いが、色々な情報を探った結果
俺達が見いだした可能性は…錬金術を使ってる人物の魔力だった。
錬金術が使える人間は魔法の才能が無いといけ無いという部分から
色々と情報を探り、推測した結果がこれだった。
どうやら、魔法が扱える人間は常に魔力を微量ながら放出しているとか。
じゃあ、もしかしたらその魔力が錬金術に影響を与えているのかと推測した。
最終的にたどり着いた答えが、体調により放出する魔力が違う。
その魔力の微々たる差が錬金術で完成する品に影響を与えている。
ミミは本能的に自分の体調を理解し、今の自分にとって最適な分量を無意識に把握。
だから、日によって正しい分量に変化があると考えて行動してみた。その結果だが
「うん、かなり安定してきてるの! 流石なの!」
「これは確かに気付かないと中々分かりませんね」
この安定した錬金術だった。自分自身の体調を管理し
その日その日で最善の分量を推定し実行する。
どうも、ミミはこの事に気が付いていなかったようで
今まで俺達に伝えていたのは自分自身が作った場合成功する分量であり
その日のミミが成功する分量が偶然俺達も成功する分量だったという事だ。
通りで完璧な錬金術の品を作れなかったわけだ。
偶然完成する範疇にギリギリ俺達が入っていただけなんだから。
ポロが今まで成功しなかったのは、恐らくミミとは性格で大きな差があるからだ。
ポロは考えて動くのでは無く本能的に動いてその日その日を全力で生きるタイプ。
更にはポジティブ思考であり、常に前向きに生きているからな。
対してミミは色々と物事を色々と考えて行動するタイプであり
結構ネガティブな部分もある。若干後ろ向き思考。
ミミとポロは性格がかなり反対。だから成功しなかった。
こんな所かな。でも、この時間は本当に有意義だったよ。
ポロの突拍子の無い行動に救われた。
「では、この情報を元に後は私が教授するとしましょう。
さ、明日からまた忙しくなりますね」
「はい!」
ようやく国の問題が一歩だけ解決に向った。
次はこの技術とレイアストーンをどのようにして国の発展に使っていくかだな。