魔王(ラスボス)登場だよ、精霊と勇者伝説!《ある意味、ピッタリな配役だと思います。はい》
今後とも〜よろしくどうぞ〜( ・∇・)ノ
それからの私達は、行く先々でクエスト&イベントに巻き込まれた。
まぁ、ね。精霊王が考えた世界だもの。無駄に色々と手が込んでたわ。特別な力を授けてもらうために賢者(《土の大精霊》)に会いに行ったり、伝説の鍛治師(クリストファー殿下)と細工師に装備品作ってもらったり……。本当に、色々あったの。面倒だから端折るけど。
と、そんな感じで。
本当に色々と、いろっいろとありながらも遂に精霊王が封印されしダンジョンーー《魔王城》に辿り着いたの。
で……。
「よくいらしたわね、勇者とその愉快なお仲間さん達。歓迎いたしますわ」
絢爛豪華な大広間の王座に座した黒いドレスを纏った金髪碧眼の美女エルフを見て……ルインと《風の大精霊》はギョッとした顔で叫んだわ。
「か、母さん⁉︎⁉︎」
『ルーちゃん⁉︎⁉︎』
……。
…………。
………………ふぁっ⁉︎
「ルインのお母様⁉︎」
「「ルインの母君⁉︎」」
「ルインのお母さんですぅ⁉︎」
『わふ??』
私達も同じくギョッとしてルインと美女エルフことルインのお母様を交互に見る。
ルインのお母様ーールーナ様。
ルーナ様は精霊王を捕まえて、脅して、子供を妊娠した元祖ヤンデレ。或いは息子のヤンデレ属性の原因とも言える方よ。
過激な妊娠方法が原因で大精霊達に〝危険‼︎〟と判断(&精霊王がルーナ様から離れなくなって仕事をしなくなることを懸念)されたため、普段は隔離(封印?)されているのだけれど……精霊王はコソコソと隔離場所に通って逢瀬を重ねていたし、ルインも定期的にルーナ様の状況報告を受けていた。
まぁ、そんなこんなで。ルーナ様のお姿とかは知っていたけれど、実際に会うのは初めてだったりする訳で……。
まさかまさかの嫁姑の初めての出会いが〝精霊王の夢の中〟なんて……あまりにも予想外すぎて、言葉を失わずにはいられなかったわ。
なんでこうなったのかしら????
「母さん……? もしかして……貴方、わたくしと旦那様の子供ーールインなんですの?」
ルーナ様はキョトンとした顔でルインを見つめる。
あ……そうだったわ。私も初めてだけど、ルインが生まれたら直ぐに隔離されてしまったらしいから、なんだかんだでルインもきちんと会うのは、初めてなのよね。
…………本当、なんで現実じゃなくて精霊王の夢の中でなの……。残念すぎるわ……。
「まぁ……立派に育ったのね。なんて旦那様にそっくりなのかしら。素敵ですわ」
ルーナ様は心底嬉しそうに笑う。息子が精霊王に似ているのがとっても嬉しいみたい。
でも、当の本人はあの残念精霊王に似ていると言われるのが嫌らしく、微妙な顔をしている。
ルインは大きな溜息を零して、胡乱な目を義母様に向けた。
「……それで?なんで母さんがここに?」
「……あら。どういう質問の意図かしら?」
「そのまんまだよ。なんで母さんがこの場所にいるのか。どういう立ち位置なのかを聞きたいだけ」
「うふふっ……うふふふっ。分かりきったことをお聞きになるのね、勇者ルイン」
ルーナ様は艶やかに笑いながら、頬に手を当てる。
けれど、その目は笑っていない。ハイライトが消えたその瞳は……まさにルインとの血の繋がりを感じさせる、笑みだった。
あっ。なんとなく察したわ。
「分かるでしょう?わたくしは魔王。精霊王をダンジョンに捕らえた魔王ですわ。現実ではなかろうが……旦那様がわたくし以外の輩に閉じ込められるなんて。そんなの、わたくしが許すはずがないでしょう?」
…………そうよねー⁉︎
ルーナ様が現れた時点で〝このヒトが魔王だろうな〜〟って気はしてたのよー⁉︎
ルインは険しい表情になりつつも、義母様に告げる。
「あのさ……俺ら、早くこの夢から脱出したいんだけど……。そのためには精霊王を救出しなくちゃいけないんだ」
「…………えぇ。知っていますわ」
「精霊王、解放してくれる気はない?」
ーーヒョォォォォォォ。
重苦しい、沈黙が流れる。ううん、違うわね。ルーナ様から、冷たい風を纏い始める。
義母様ーー魔王は笑顔のまま、勇者を見つめる。けれど、スッと左手を上げると……パチンッと指を鳴らすと同時に、私達に向かって風の刃を放ち始めた。
「っっ‼︎《シールド》‼︎」
ルインが盾を構えると光の結界が発動して、私達を包み込んで風の刃から守ってくれる。
ちょっ……こっわ⁉︎前触れも、何もなくいきなり攻撃っ……。それも実の息子に容赦なくって‼︎どういうつもりなの⁉︎ルーナ様はっ‼︎
「母さんっ‼︎」
「うふふっ……あははははっ‼︎何を言っているの、勇者ルイン‼︎」
「⁉︎⁉︎」
「ここは素晴らしい世界ですわ。だって、魔王が精霊王を捕らえることが正しい世界なんですもの。現実とは大違い」
「まさか……」
「うふふっ……。貴方の問いに答えてあげましょう。わたくしは精霊王を解放する気など微塵もありませんわ。何故、ナニモノにも邪魔されずに旦那様と共にいれるというのに……わたくしの手の中に愛しい方を閉じ込められていれるというのに……その幸福を手放さなくてはならないのです?」
ーーかくんっ。
壊れた人形のように真顔になったルーナ様の首が、真横に曲がる。
きゃーっ⁉︎なんか呪いの人形みたいなホラー具合なのだけどっ⁉︎⁉︎
あまりの怖さに私、ネッサ様、イヴリンは思わず身を寄せる。トイズ様とアダムは警戒心マシマシで、魔王を睨みつける。
そしてルインは……。
「うん、確かにそれはそうだ」
………………思いっきり、義母様に同意していたわ。
えぇ〜……?
「なんでそこで同意してしまうの……ルイン……」
「……あ。いや、つい。だって……自分に置き換えたら納得するから、さ……?」
ハッとしたルインはそっと目を逸らす。
流石親子と言うべきなのか。同じヤンデレ属性と言うべきなのか……。
ルーナ様の監禁発言に地味に納得しちゃってるじゃない……。でも、ここで同意してこそのルインだとも思ってしまう私もいる……。
そんな風に渋顔になっていたら、分かってもらえたのが嬉しかったらしいルーナ様が、にっこりと笑いながらルインに語りかけた。
「そうでしょう?分かってくださるでしょう?なら、このままーー」
「…………いや。それはまた別の話だよ。俺は、俺達はこの夢の世界から解放されたい」
「…………」
「それでシエラとイチャイチャしたい」
…………シーンッ。
どこまでも揺るがないルインの発言に、風の刃が止まり……ついでに場も固まる。
本当、ルインはいつでもどこでもルインね?
ルーナ様は今度はホラーチックではなく……キョトンとしながら首を傾げた。
「それは別にこの世界でもできるのでは?」
「それはそうだけど。でも、精霊王の夢の中、ってのが気に食わないんだよね」
「……は?旦那様を悪く言わないでくださる??」
ーーぶわりっ……‼︎
精霊王を悪く言ったからか、ルーナ様の背後から暗黒オーラが噴き出る。真顔になったルーナ様は翠色の風を纏った細剣を出現させると、そのままルインに向かって攻撃を開始する。
「ルインッ‼︎」
慌てて私達は加勢しようとするけれど、ルーナ様から「邪魔、なさらないで?」という一言で信じられないぐらいの重力が押しかかってその場から動けなくなった。
ルインは私達が動けないのを横目で確認すると、ルーナ様の刺突を避けながら叫んだ。
「母さんっ‼︎」
「旦那様を、悪く言う奴は、息子でも許しませんわよ??」
「こんなのに巻き込まれたの、その精霊王の所為なんだけど⁉︎お陰で面倒くさい目に遭ってんだからっ……悪口を言いたくなるのもっ、早く解放されたいと思うのも当然だろう⁉︎」
「許さない、許さないわ。あの方を悪く言うなんて。イヤ、嫌ですわ。この幸せな世界を、誰が、手放すものですか。ここなら、ずっと旦那様と一緒に、いれますのよ」
ルーナ様の言葉に狂気が滲み始める。
……ルインのヤンデレとはまた違う系統なヤンデレ感に、恐怖で冷や汗が出る。
「確かにっ、精霊王を手元に置いておけるこの世界は母さんにとっては幸せな世界なんだろうけどね⁉︎でも……精霊王が仕組んだ世界ってことは絶対、何かしらの〝欠陥〟があるはずなんだ‼︎あのヒト、よくやらかすから‼︎」
「っっ‼︎わたくしよりもっ‼︎旦那様のことをっ、分かったような口っ、聞かないでくださいましっっ‼︎‼︎」
「うわっ⁉︎」
ーードンッ‼︎‼︎
細剣で攻撃したとは思えない音が響いて、ルインが後方に押される。
結果的に距離を取ることになったルインは、苦笑しながら……ルーナ様に語りかけた。
「本当……母さんは父さんが好きだね……」
「当然でしょう⁉︎愛していなければ脅しませんわ。閉じ込めませんわ。襲いませんわ。子を成しませんわ。欲しがりませんわ。望みませんわ。愛しているから骨の髄まで、血の一滴まで、彼の方の全てが欲しいんですの‼︎」
ルーナ様はルインとの距離を一瞬で詰めると、凄まじい速度で刺突を繰り広げる。ルインは苦しそうにそれを避けて、受け流して、避け続ける。
あぁ……ルイン……。なんで……なんで、反撃しないの……?
ルインなら、簡単にやり返せるはずなのに。貴方の方が、技量は明らかに上なのに。
…………ううん、分かっているわ。分かってるの。ルインが反撃しないのは、義母様を傷つけないためだって。
だって、殆ど初対面でも親子なんだもの。二人は、血が繋がっているんだもの。憎しみ合っている訳ではない。恨み合っている訳でもない。
ただ、互いに譲れないだけーー。
だからルインは……母親を傷つけるのを、躊躇ってる。
止めたいのに。今直ぐにこの戦いを、止めたいのに。
未だに重力が私達を押さえつけていて、近寄ることができない。
「折角、折角っ……ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと旦那様と一緒にいれるのにっ……‼︎誰にも邪魔されずに共にいれるのにっ……‼︎好きなだけ共にいれるのにっ……‼︎なんで邪魔するんですの‼︎許さない許さない許さないゆるさないユルサナイ許さないゆるさないゆるさないユルサナイ‼︎」
金属と金属が擦れる音がする。
止めて……お願い、止めて頂戴……‼︎
どんな理由であれ……‼︎親子で戦うなんて、良くないコトでしょうっ……⁉︎
「母さんの気持ち、痛いほど分かるよ。現実じゃずっと、好きなヒトといれないんだもんね。そりゃあ……一緒にいれる夢から目覚めたくないよね。けど、ごめん。俺は……俺達は現実に帰るためにーーこの夢の世界を終わらすよ」
「いや、いや嫌イヤいや嫌イヤイヤいや嫌いや嫌嫌ですわ‼︎旦那様を手放すなんてっっ‼︎絶対にしませんわっ‼︎わたくしの邪魔をするならばっ……‼︎死んでくださいませっ……‼︎」
「ルインッ……‼︎」
私は叫ぶ。
母親が息子を傷つける姿を、息子が母親を傷つける姿なんて見たくなくて……思わず目を閉じてしまう。
けれど聞こえた声と、何かが飛んで壁にぶつかる音が響いて、私はパッと目を開けた。
『そこまでだ。ルーナ、ルイン』
「旦那様っ……⁉︎」
「⁉︎父さん……⁉︎」
二人の間に立っていたのは、気まずい顔をした精霊王。
どうやら、精霊王が細剣と片手剣を二人の手から吹き飛ばしたみたい。
ついでに私達を押さえつけていた重力も解ける。私は慌てて、ルインに駆け寄ったわ。
「ルインッ‼︎」
「シエラ……」
抱きついて、ルインの怪我をチェックする。
あんなに激しく戦っていたのに、深い傷はないみたい……。細かい傷だけで済んで、良かったわ……。
「旦那様……」
『ルーナ……すまない』
「何故……何故、旦那様が謝られます、の?」
ルーナ様の様子がおかしい。
ガタガタと震えて、瞳孔が開き切っている。
『…………ここは所詮夢だ。いつかは覚める』
「ねぇ……止めて、くださいませ。旦那様……わたくしは貴方とーー‼︎」
『わたしは、現実で君と共にいたいよ。ルーナ』
「止めーー」
『《眠れ》』
ーーガクンッ‼︎
ルーナ様の身体が崩れ落ち、精霊王が彼女の身体を支える。
閉じられた瞼。精霊王は優しくルーナ様の頬を撫でて、その額に口づけを落とす。
そして……。
『いや〜迷惑をかけたな‼︎諸君‼︎』
てへぺろっ☆と、かっっっっるい謝罪をしてきたわ。
…………普通に殴ったわよね。みんなで。




