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【コミカライズ・書籍化】伯爵令嬢はヤンデレ旦那様と当て馬シナリオを回避する‼︎  作者: 島田莉音
番外 ギャグコメレベルはMAXだよ、精霊と勇者伝説(笑)!《勇者と愉快な仲間達》
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分かってたよ、精霊と勇者伝説!《お仲間追加ですね、知ってた》


今後ともよろしくどうぞ(・∀・)ノ





ぴよ〜ぴょよ〜。ぴっぴっよぉ〜♪



頭上を黒ひよこが飛んでいく。ひよこって黒かったかしら?とか、飛ぶんだったんかしら?とは思っちゃダメよ。

だって、ここは精霊王の夢の中。常識が通じないのが普通なの。

だから……えぇ。だから、仕方ないことなのよ。



ーー洞窟に辿り着くなり、盗賊ハイエナの部下であるエルフどもをフルボッコにしたのも……ねっ☆



「現実では晴らせぬ怨みっっ‼︎ここで晴らさずにいられるかっ‼︎という訳で……行きなさい、大精霊達‼︎」

『いっくよー‼︎』

『おう‼︎』

『分かったわ』

「ふぎゃんっ⁉︎」

「ひぎぃっ⁉︎」

「ぐふっ⁉︎」


盗賊ハイエナが身を潜める洞窟の入り口。

私は精霊術(※精霊を召喚して使う感じだった)で呼び出した火と水の大精霊達(※多少は設定に逆らえないようだけれど、NPC扱いではなかった)の力を借りて、盗賊の下っ端達(という見張り役)を叩きのめした。勿論、風の大精霊も参加して、みんなノッリノリで瞬殺したわ。多分、ストレス溜まってたんでしょうね。


『むむっ‼︎まだまだ中にエルフがいる気配……‼︎ドンドン倒してこー‼︎』

『おぅ‼︎数倒せば満足するだろーし……全員フルボッコだな‼︎』

『えぇ、そうね。良い機会だもの。徹底的にりましょう』


ちょっと、水の大精霊??

徹底的に〝ヤ〟りましょうのルビが物騒な気配がしたんだけど??

……でも。確かにエルフにはそこそこ迷惑かけられてきたものね。最初に発破をかけたのも私だし。好きなだけ、暴れて頂戴。


『れっつごー‼︎』


風の大精霊の掛け声に合わせて、火と水の大精霊も洞窟内に突撃していく。

私はそんな三人(?)の後ろ姿に慌てて声をかけた。


「気をつけて行くのよ〜?」


精霊王の夢の世界とはいえ、彼女達は精霊。人間なんかよりも遥かに強い存在。

心配なんて無用なのに、そんな注意をしたからか……ルインはクスクスと笑ったわ。


「ふはっ……精霊に気をつけて、とか。シエラは優しいね?まぁ、アイツらは大丈夫だよ。曲がりにも精霊だから」

「あっ……それもそうね」

「シエラの方こそ、足元に気をつけて。篝火はあるみたいだけど、それでも洞窟の中は暗いみたいだから。さぁ、お手をどうぞ?」


私はルインにエスコートされながら、大精霊達の後を追う。

途中、ぶっ倒れている王宮精霊術師団の団長らしきエルフとか、盗賊の癖にすっごい豪華な衣装を着たエルフとか、そのヒトを悲鳴をあげながら追うエルフとかもいたけれど……漏れなく全員、大精霊達によってフルボッコされていたわ。

うふふふふふっ……。ざまぁみろ、ね。



そんなこんなで……辿り着いた洞窟の最奥。

そこで待っていたのはーー……。


「この紅茶、美味しいですわね。トイズ」

「それは良かった。こっちのチョコレートを食べた後に飲むと更に美味しいですよ、ネッサ」

「まぁ。では頂きますわ」



領主の娘を攫ったはずの盗賊ハイエナことトイズ様と……盗賊に攫われたはずの領主の娘ネッサ様が……地面に直接敷かれたカーペットの上でお茶をしている姿……。



私達は思わずスンッと真顔になって、二人をチベスナのような目で見つめてしまったわ。

まぁ、なんとなくこうなってる気もしなくもなかったけれどね⁉︎⁉︎


「…………トイズ」


ルインが呆れたような声でトイズ様に声をかける。

すると、やっと私達に気づいたのか二人は大きく目を見開いく。

そして、トイズ様が大きな声をあげた。


()()()‼︎」


…………え?


「「「え??」」」


…………。

私達の間に沈黙が満ちる。互いに無言のまま顔を見合わせて、全員の視線がトイズ様に向く。

彼はボソボソと何度もルインの名前を読んで、コクンッと頷いた。


「どういう訳だか、名前(それも敬称なし)でしか呼べなくなってますね」

「「「‼︎」」」


トイズ様はルインの部下だからか、ルインのことは必ず〝エクリュ中佐〟と階級付けで呼ぶ。なのに、その口から飛び出たのは呼び捨て。

彼がルインをそんなことをするとか考えられないわ。それでも呼べなくなっている……ってことは、つまり。


「これもこのトンチキな状況の影響でしょうか?」

「……あぁ。俺の方も姓で呼べなくなってるから、その可能性は高いかな」

「やはりそうでしたか。……ふむ。この夢の世界では現実の身分は適応されないから、強制的に名前呼びーーといったところですかね」


トイズ様は、この世界のルインはエクリュ侯爵・エクリュ中佐じゃなくて《勇者》。私はエクリュ侯爵夫人じゃなくて《勇者パーティーの精霊術師》だから、他の人から(強制)名前呼びされてるって予想したのね?

確かに、そう説明されると〝成る程〟って思うわ。でも、どうしてかしら?


…………精霊王がそこまで考えてるとは思えないのよねー……。


単に昔ながらのRPGキャラクターって、名前だけってのが多いから、そうしてるだけな気がするわ。多分だけど。


「まぁ、呼べないなら呼べないで仕方ないですよね。名前を呼び捨てにしたぐらいじゃ死にませんし。今後も呼び捨てでいいですか?」

「あ、あぁ。大丈夫だよ」

「えぇ、私もよ」

「ありがとうございます。では、この件は一旦解決ということで。次は、現状の詳しい話をお聞きしても?まぁ、なんとなく精霊王案件っぽい気はしているのですが」


流石はトイズ様だわ。頭が良いからってのもあるでしょうけど……無駄にエクリュ侯爵家と付き合いが長いだけあるわね。話が早い、早い。

そうしてルインが代表して今の状況を説明すると、彼は「そういうことでしたか」と納得したように自分達の姿を見た。


「オレはネッサを拐った盗賊という立場になってるんですか……。だから気づいた時から、彼女とここにいたってことなんですね」

「わたくしもなんでこんなところに、トイズといるのだろうと疑問でしたが……誘拐されたからだとは、全然思いませんでしたわ」

「確かに。イメージする盗賊よりも小綺麗ですもんね、オレ」


そう言うトイズ様の格好は、茶色のジャケットに麻のシャツ。焦茶のズボンに頑丈そうなブーツに、首にはスカーフという……どちらかと言えば斥候スカウトとか、平民に近しいような格好をしている。相反してネッサ様は領主の娘という立場だからか、現実とあまり変わらない青色のドレス姿。こんな格好だったら、普通に領主の娘を拐った盗賊と拐われた令嬢だとは思わないわよね。私達から見てもあんまりそんな風に見えないもの。


「それで?これからどうなる感じですか、風の大精霊」

『えっと〜……カンペ、カンペ……。大盗賊ハイエナの寝ぐらへと辿り着いたよ‼︎でも、そう簡単に人質は返してもらえないみたい‼︎勇者ルインは大盗賊ハイエナとの戦いに臨むのであったーー……だって』


うわぁーあるあるー‼︎戦ったら絶対仲間になるやつだわー‼︎

ルインとトイズ様は〝面倒くさい〟って態度を隠さずに、溜息を零す。

そして、やる気ゼロで向かい合った。


「人質は返してもらうぞー、盗賊ハイエナー(棒読み)」

「そう簡単に返すと思うなー。えーい(棒読み)」


ーーガィィィィインッ‼︎‼︎


「「『ええぇーっ⁉︎⁉︎』」」


棒読みの台詞を言ったかと思ったら、剣(ルイン)とナイフ(トイズ様)で結構本気めな戦闘を開始した二人。

台詞と行動が合わなすぎて、私とネッサ様、風の大精霊は思わず叫ぶ。

こちらにまで余波がきたら困ると思って結界を張ろうとするけれど、どうしてだか精霊術が発動しない。嫌な予感がした私は恐る恐る周りを見渡して……いつの間にか姿を消していた火と水の大精霊に「……まさかっ⁉︎」とハッとした。


「私が使える精霊術、現実よりも制限がかかってるの……⁉︎」

『あっ、シーちゃーん‼︎シーちゃんの()()精霊術、精霊を召喚して術を行使するって感じになってて……一回精霊を召喚したらクールタイム入るから、交互に召喚して、上手く使ってねー‼︎』

「それを先に言っといてくれるかしら⁉︎そうしたら一気に呼ばなかったのに‼︎」


予想通りの答えに私は頭を抱える。

取り敢えずこのままじゃ巻き添えで無駄な怪我をしてしまうかもしれないので、私達は洞窟の壁際に移動して……怪我をしないようにと、しゃがみ込んでなるべく身体を小さくすることにした。


「困ったものね、シエラ」

「えぇ……。本当、困ったものだわぁ……はぁ……」


そんな風にネッサ様と話していると、何回か斬り合った二人が一度距離を取る。

トイズ様がコクンッと頷くとルインも同じように頷き返し、ルインが一瞬で間合いを詰めた。


「ハッ‼︎」

「うぐっ……‼︎」

「「‼︎」」


ーードンッ‼︎

ルインが振り下ろした剣に押されて、トイズ様の身体が壁に叩きつけられて、崩れ落ちる。

あまりの急展開に私達は固まり、ハッとしたネッサ様が悲鳴のような声をあげながら立ち上がった。


「トイズッ‼︎」


呻くトイズ様の下にネッサ様が駆け寄る。

彼女は泣きそうな顔をしながら、その背中をさする。今にも泣きそうなネッサ様に、トイズ様は苦笑を零しながら声をかけた。


「そんなに心配しないでください。大丈夫ですよ。勇者に負けた、って事実が必要だからこうしただけで……ルインは手加減してくれましたし。オレも受け身を取りましたから」

「トイズ……本当に、大丈夫ですの?」

「えぇ。この通り、ね」


ヨイショと起き上がったトイズ様はグルグルと肩を回して、全然怪我をしていないことをアピールする。

それを見てやっと安心したらしいネッサ様は「それでも気をつけてくださいませね」と注意しながら、彼に差し出された手を取って立ち上がった。


「トイズ」

「問題ありません」

「うん。なら良い」


ルインとのやり取りはそれだけ。

でも、その短さだけで通じ合えてしまうものだから……上司と部下としての絆に。その信頼感にほんの少しだけ嫉妬しそうになったわ。


「ところで……風の大精霊。実際に戦いましたけど、どうなりましたか?」

『あっ‼︎カンペが更新された‼︎盗賊ハイエナは勇者に敗れたよ‼︎彼は反省したみたい。仲間になりたそーに、勇者を見ている……』


《盗賊トイズを仲間にしますか?》→《イエス・ノー》


「うわっ⁉︎」

『なんか出たー⁉︎⁉︎』


風の大精霊の叫びに反応すれば、確かにルインの目の前に半透明な画面に書かれた文字が浮かんでいた。

今まで(現実含め)ゲーム要素なんてあんまりなかったのに……無駄にゲームシステムチックなの出てきたわね。

ルインは彼の名前を呼ぶ。


「トイズ」

「オレは貴方の頭脳です。こんな茶番をとっとと終わらせるためにも、嫌って言われてもついてきますからね」

「だろうね。それじゃあ早速ーー」

「お待ちになって‼︎トイズがついて行くならわたくしもついて行きますわ‼︎」

「「「えっ」」」


ルインの言葉を遮ったネッサ様の発言に、私達は驚く。

いや、だって……まさかこんなことを言うなんて思わなかったんたもの。驚かずにはいられないわ。

そして……この場で誰よりも驚いているのは、トイズ様。彼は慌てた様子で、それに反対した。


「ちょ、何言ってんですか。街で待っててくださいよ」

「嫌ですわ‼︎トイズ達が頑張っている間、わたくしだけ安全な場所にいろと言うの⁉︎」

「そうだよ‼︎ルイン達の話が本当なら……オレ達はこれから、何度も戦うことになる‼︎貴族のお嬢さんであるアンタは戦い慣れしてないだろ⁉︎だから、安全な場所にいろよ‼︎」


思わず素になっているトイズ様とネッサ様が言い合いをする。

……要約すると。トイズ様は貴族令嬢のネッサ様は戦闘慣れしてないから足手纏い、だからついて来んなって言ってて。ネッサ様は私達が危険に晒される中、一人で安全なところで待ってるだけなんて嫌だからついて行きたいってことよね?

…………まぁ、二人の気持ちも分からないでもないわ。

大切な人だから安全なところにいて欲しい。大切な人だから側にいたい。簡単に言ってしまえば、そういうことなんでしょうし。でも、これじゃあ埒が開かないわ。

チラリッとルインを見ると、彼も呆れたような顔をしながら……増えた文字を読んで、口を開いた。


「盗賊トイズと鞭使いネッサを仲間にする」



ーーぴっぴっろりんりんりん♪



《盗賊トイズと鞭使いネッサが仲間になりました》


「「あっ」」

「もう面倒だから、二人ともついて来るってことで。それでいいだろう?」

「っ‼︎えぇ‼︎」

「ルイン‼︎」


ネッサ様は喜んだけれど、トイズはギロリッとルインを睨む。

普段の彼ならそんなことしないのに、ネッサ様関連だからなんでしょうね。ルインに逆らうのがどれほど危険かを知っていながらそんなことをするんだから、どれほど彼にとってネッサ様が大切なのかが分かるってものだわ。


「いつまで言い合いしてるんだよ。そもそも、戦闘慣れしてないのはシエラだって同じだ。戦闘慣れしてないからついて来ないでって言うトイズの言い分には無理があるよ」

「っ‼︎」


トイズ様は息を呑む。その決定に不服って態度を隠そうともしない。

けれど、ルインから告げられた次の言葉に……彼は意見をころりと変えた。


「それに……ここは精霊王の夢の中だ。何が起こるか分からないんだぞ?目が届かないところにいさせて、大丈夫だと思うのか?」

「………………えっ?」

「あの馬鹿親父はドラマチックな展開を好む傾向がある。つまり……遠く離れた地にいる最愛との再会。けれど、その人を人質に取られ、苦難に陥るーーとか。…………精霊王ならやりそうじゃないか?」

「「「『…………(や、やりそー……‼︎)』」」」


ーーヒョォォォォォォ……。

私達の間に沈黙が流れる。

ルインの説明は無駄に説得力がありすぎて……私達はもう、何も言えなくなったわ。……えぇ。


「…………ネッサ。一緒に行きましょう。この世に安全な場所など……ありませんでした……」

「…………えぇ、ついて行きますわ。人質になんてなって、トイズ達の足を引っ張るなんて嫌ですもの……」


遠い目で頷き合うトイズ様達。

そうして再度、無言。私達の顔は、とても濃い……疲労が滲んでいた。



((((なんて……なんて面倒くさい(んだ)…………精霊王……‼︎))))



多分、この時の私達は……心の声まで完璧に一致していたと思うわ。






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