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第7話 四年後経ちましたが、私は今日も


はい、一気に時間が進みます。


沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます‼︎

今後ともよろしくどうぞ‼︎





精霊王に会ったあの日のことを国王、総帥、女男、お父様は誰にも言えないように精霊王から制約をかけられたようで……。

まぁ、表面上はいつも通りの日々を過ごしている。





あの日から四年。

今日も今日とて、私は手作りランチを片手に黒水晶宮に通っていた。


「ご機嫌よう」

「こんにちは、シエラ嬢」


もう顔馴染みになった門番さんは、会いに来た人の名前を言わなくても入れてくれる。

精霊達に導かれて、向かったのは第五部隊の執務室。

軍部ってのは、総帥をトップに将軍が二人、その下に大部隊、小部隊が存在する。

あ、ちなみに……大部隊に属する第五部隊は後方支援が主要任務らしい。

簡単に言ってしまえば、軍部の事務科だとか。


「失礼しますわ」


茶色を基調とした柔らかい色合いの執務室。

そして、後方支援がゆえに物資輸送やら何やらの書類に埋もれた部屋。

そして……死屍累々。

………うん、いつ見ても酷い。

いや、いつもより酷い?

死んだ魚のような目をして書類を片付ける彼らは、「あぁぁぁあ……」と地獄から響きそうな声を漏らしながら働いている。

うん、怖いよー。


「あ、シエラ。もうお昼?」


そんな中で、完全に場違いな……柔らかい声が聞こえた。

意識しなくても頬が緩むのが分かる。

愛しい人、私はその声の方に向かって微笑みかけた。


「ルイン」


沢山の書類を手に執務机に向かって、凄まじい勢いで処理をしているルイン。

四年前と変わらない姿と美しさを誇っている彼は、この中で唯一、まだ顔が死んでいない。

私は彼の元に歩み寄って、優しくその額にキスをした。


「こんにちは、可愛いシエラ」

「ご機嫌よう、愛しいルイン」


ルインもお返しと言わんばかりに、頬にキスをしてくれる。

私はいつもよりも酷いこの惨状を見て、ルインに聞いた。


「一体どうしたの?」

「あぁ。今度、帝国との共同訓練があるから、各方面との調整で忙しいだけだよ」

「大丈夫?」

「シエラの顔を見たら疲れなんて吹っ飛んだよ」


ルインはそう言ってさっきよりも処理スピードを上げる。

第五部隊は戦闘能力が低い人材が集められたがゆえに、脳筋が多い軍部ではどうやら不当な扱いが多いらしい。

結果、現在進行形で後方支援の事務方みたいな扱いをされていて……提出される書類も不備が多くて大変だと言っていた。


「………さて、みんなお昼にしようか」


ルインの声でその場にいた人達が「あぁぁぁ……」と机に倒れ込む。

それを見て私はなんとも言えない気持ちになってしまった。


「大変そうね」

「そうでもないよ?シエラが書類の基本を作ってくれたからだいぶやりやすくなったし」

「ふふっ、役に立ってよかったわ」


そう。

私は前世のOLという職を思い出して、書類のテンプレを作った。

この世界における印刷技術はなんだかんだと言って、精霊術という力のおかげで私の前世とさほど違いはない。

だから、報告書のタイトルやら何やらの枠を作って、それを大量に印刷して、中身を書くだけというやり方を教えてあげたのだ。

脳筋が多いがゆえに報告書とかも適当だったのだけど、それのおかげでだいぶ改善されたらしい。

後、効率的にやるために小休憩もやったら?と言ったため、昼休みとは別に十時と三時に小休憩を入れるようになったからだいぶ効率が上がったとか。

その他にもちょいちょいアドバイスをしたから、だいぶ労働環境が改善されたはずなんだけど……それでこれって。

軍部はブラック企業なの?


「ふぅ……シエラ、中庭に行こうか」

「えぇ」


ルインが率先して執務室を出て行く。

まぁ、それはそうだよね。

今の彼は、第五部隊四番小隊長なんだから……ルインが先に休まないと他の人も休みにくいもんね。


「忙しそうね」

「まぁ……他の小隊長は物資確保とか雑用で飛び回ってるし……働き過ぎて倒れてるし。おかげで俺一人で他の小隊の奴らも見なくちゃいけない」

「お疲れ様ね」

「………はぁ…大隊長がもう少し強く出てくれたら、もっと楽なんだけどね」


大隊長は第五部隊の隊長のことだ。

どうにも気弱な性格らしく、他の部隊から提出される書類に不備があっても。

物資に無茶な要求をされても。

ついつい受け入れてしまう性格なんだとか。


「その所為で他の人達が苦しんでるって分からないのかなぁ……」

「大変ね。ほら、ひとまず仕事のことは忘れて食べて?」


中庭についた私達は、そこにある小さなベンチに座ってランチを始める。

今日のランチはBLTサンドにココット皿で作ったグラタン、デザートに林檎、飲み物は香草茶だ。

ふふん、大分成長したので、お弁当もここ最近じゃ一人で作ってますよ。

ルインには私の手作りを食べさせてあげたいからね‼︎


「あ、美味しい」

「良かったわ」

「シエラは良いお嫁さんになるね」

「ふふっ、貴方のお嫁さんよ?」

「それは幸せだ」


クスクスと笑い合ってたわいない話をする。

最近は、ルインはとても大人っぽい。

いや、喋り方とかは変わってないのよ?

でも、纏う空気がとても落ち着いていて……こう胸がキュンとする。

見た目は十代だけど、大人の色気?

ダンディズムって言うの?

たまに耳元で囁かれたりしたら……本気で腰が抜ける……。


「…………ふぁ……眠い……」

「ふふっ、どうぞ?」

「あぁ……うん……」


何も言わなくてもルインは私の膝の上に頭を乗せて、直ぐに微睡み始める。

こうやって少しの会話でも話が通じ合うなんて……かなりの仲になったんじゃないかしら?






あの日から四年。

はっきり言って、ルインはこの支援特化の第五部隊に居続ける必要は全くない。

軍部……と言っても、多少は精霊術を使えなくてはいけない。

でも、ルインは使えなかったから第五部隊にいた。

でも、今は違う。

精霊王の息子であり、半精霊であるからなのか……ルインの力はかなり強い。

それこそ、ゲームで見た《穢れの王》のように。


だけど、ルインはまだ第五部隊にいる。

その理由は……。



「おい、見ろよ。混ざり者だ」

「あぁ、あの女が可哀想だな」


……………。

この中庭は《黒水晶宮》の外にある。

つまりは、他の騎士団と精霊術師団の人達も使える場所であるということ。

今の会話からすると、精霊術師団の人達かしらね?


…………ルインが膝の上にいなかったら、潰してやりたい……。





団長である女男は、ルインが精霊王の子だと知っているけれど……公表されていない(できない)以上、他のエルフ達はルインを混ざり者ハーフエルフだと罵倒する。

ゆえに、ルインが前線に出たりすると、異端を嫌う彼らエルフが暴走する危険があるとか。

いや、暴走って何よ……って聞いたら、それこそルインに精霊術をかまそうとするとか。

精霊術師団に所属するほとんどのエルフがボイコットするとか。

まさに、国防に障害が生じる恐れがあるんですって。

なんでも、彼らは気に喰わないことがあると、それを妨害するような行動を押し通すらしく……。


ルインがエルフと同じ前線に立つなら、エルフは前線に立たない。

ルインが精霊術を行使するなら、エルフは精霊術を使わない。


そんな馬鹿げた行動を取る恐れがあるから、ルインは未だに第五部隊うらかたしえんなのだ。


私の本音。

………なんで他の所属なのに、そこまで目の敵にしやがる……。

っーか、ハーフエルフぐらい許容しろや……。


「………シエラ」

「………ん?」


いつの間にか起きていたルインは、困ったように微笑んで私の手を握る。

そして、指先にちゅっ……と優しく口づけをした。


「険しい顔になってるよ。シエラは可愛いんだから、笑って?」

「………っ…‼︎」


甘い声で言われて、じわぁっと頬が熱くなる。

私は誤魔化すように、呟いた。


「可愛い系っていうのは、異母妹みたいな子よ。私はどちらかといえば綺麗系で……」

「俺からしたらシエラは可愛くて綺麗で、大切な女の子だよ。他の女なんかどうでもいい」

「………ぁぅ……」


恥ずかしげもなく言いのけるルインのイケメンさんめっ‼︎

彼は静かに目を閉じると、小さく笑う。

そして、ゆっくりと告げた。


「別に誰にどう言われようと気にしてないんだよ。シエラさえいてくれたらそれでいい」

「………ルイン…」

「でも、もしシエラに手を出そうとする奴がいたら………全力で潰すけどね」


そう言って仄暗いけれど、艶やかな笑みを浮かべるルイン。

………あぁ、うん。

今日も今日で、貴方はヤンデレね。

目のハイライトが消えて、最近は闇に色気を含み始めたわね。

怖いんだけど……お腹の奥がぞくっとする……。


「……………そういえば……」


だが、急に彼はその闇を潜めて真剣な顔になる。

私はきょとんとしながら、首を傾げた。


「なぁに?」

「最近、魔族の動きがおかしいんだよ」

「え?」

「大事にならなきゃいいんだけど……シエラも気にしておいてね」


魔族。

それは、この世界において唯一精霊術を使えない存在であり、術式という独自の魔法を使う者達のこと。

彼らは定期的に人間を襲い、国を襲い、人々に恐怖を植えつける。


戦争・国防を担う軍部からしたら、そんな魔族の動向には注意せざるを得ないのだろう。

そんな魔族が変な動きをしている。

警戒をしないはずがない。


「…………何か、嫌なことでも起きる前触れかしらね」

「かもしれないね」












この予感は的中し……十数年後、災厄の訪れとなる。


しかし、それはこの国の話ではなく……私達が十数年後に出会う彼女・・の物語になる。



まぁ、その話は追い追い……ね?




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