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第8.5話 大体この作品の脇役(?)は胃痛持ち。


副々題(サブサブタイトル)・元悪役令嬢父の、遅すぎる恋(笑)


いや、本当は最終話書こうと思ったんですがね?

タケノコ煮始めたら、なんか疲れちゃって。

そしたら、何故かネッサ父目線になってました(笑)


多分、明日こそは番外編最終話。

では、よろしくねっ☆









その日ーー。


サロンで妻とお茶をしていた最中に届いたロータル侯爵家……ネッサへの婚約の申し込み。



申し込んできたのは勿論、ハイエナとあだ名されるトイズ・フェンネル伯爵。

待っていたようで、こないで欲しかったその申し込みに、わたしは胃が痛みそうだった。







「ネイサン様、大丈夫ですか?」


心配そうな言葉を口にしておきながら、その顔にはハッキリとわたしの胃痛を堪える姿が面白いと書いてある妻ラーサ。

わたしは若干の苛立ちを覚えながら、「大丈夫だ」と返した。


「婚約の申し込みだ。相手はハイエナ……数日前に伯爵になったトイズ・フェンネル伯爵だ」

「あぁ、やっとですのね」


フェンネル伯爵がネッサが他の男性と婚約しないよう手を回していたことを知っている。

しかし、それは我が娘も同じで。

どうやら、フェンネル伯爵とネッサは()()()()らしい。


「はぁ……」

「あら、大きな溜息。昔の貴方なら、ハイエナを手に入れたと喜んだでしょうに……今は丸くなりましたわね」

「わたしだって歳を取ったんだ。丸くもなるだろう」

「そうね。ネッサの婚約者であった()()のコトを見抜けない程度には、耄碌もうろくなさったものね」


ヒヤリと冷たい視線が、向けられる。

どうやら、彼女はこの家を潰しかねなかったグライツ公爵家との婚約のことを根に持っているらしい。

しかし、わたし達は昔の苦労を分かち合ってきたからこそ……何も言い返せなかった。




妻とわたしの仲は悪くもないが良くもない。

分かりやすく言えば……夫婦ではあるが、夫婦にはなれず。

どちらかと言えば、戦友のような間柄だった。

しかし、そうなってしまったのも仕方ないのだろう。

わたし達が若い頃には金遣いの荒いクソ伯父ジジイが、ロータル侯爵家に寄生し、借金をこさえたり……金の無心をしてきた所為で色々と大変だったのだ。



わたしは……いいや、わたし達は、このロータル侯爵家を守ることで精一杯だった。



だから、我が家に手出ししようなんて思わせなくさせるために、そこそこ()()な者達を部下にしてきたりもした。

昔のわたしならば、爆弾とも言えるハイエナが娘の婚約者になったことを「家を守る駒が増えた」と喜んだだろうが……今はそれほどではない。


「……………はぁ……とっとと、隠居すべきか」


一人娘であるネッサに、新たな婚約者ができた。

ハイエナは娘にかなりご執心だ。

婚約後は、何事もなく婚姻までいくだろう。

そう考えると……ネッサが学園を卒業するのとフェンネル伯爵に同時に家督を譲り、領地に引きこもるのもいいかもしれない。


「ラーサ」

「なんですの?」

「離縁したいなら、受け入れるが」

「……………は?」


わたしの唐突な言葉に妻は、ぽかんとする。

………いつも凛とした彼女の初めて見る顔。

どうやら、予想を上回る言葉だったらしい。

だが……その顔が徐々に険しいモノになり。

言い例えるならば、鬼のような形相になっていった。


「…………それは、どういうことです。もう、わたくしは必要ないということですか」

「い、いやっ……違う。この家に尽力してくれたからこそ、もう自由になってもいいと思ったんだ」


もう、この家は次の世代に託される。

わたし達に待つのは、何も縛られない日々だ。

ラーサも……この重苦しい家から解放されて、いいのではないだろうか。


…………娘のように。



「…………ちゃんと、君自身が好いている相手と結ばれるべきなのではないだろうかと、思ったんだ」



シンッ……と静まり返るサロン。

しかし、彼女から大きな溜息が溢れたことで、わたしはゆっくりと顔を上げた。


「……………呆れましたわ」


ラーサは心の底から呆れたと言わんばかりの顔で呟く。

わたしは眉間にシワを寄せ、聞き返した。


「何がだ?」

「相変わらず、時々おつむが足りませんのね」

「何?」

「今更離縁されたって、嫁の貰い手がある訳ないでしょう。わたくし、オバさんですのよ?というか……貴族社会における離縁された貴族女性の扱いがどうなるか、ご存知の癖によくそんなこと言えましたわね」


………………どうやら、娘が恋愛婚約をするため、少し頭が湧いていたらしい。

確かに、離縁された貴族女性は……修道院に入るか、好色爺の後妻になるとか、そういった最悪なモノばかりだった。


「すまない……本当に耄碌したらしい」

「ですわね」


スパンと斬り捨てられ、わたしは頭を抱えて押し黙る。

………本当に、隠居を考えるべきかもしれない。


「それに……女というモノは、長く連れ添えば……戦友であれど多少は好意を抱くモノですのよ」


…………ん?


「…………つまり?」

「はぁ……そこは察するところですわよ、この恋愛初心者。相変わらずそっち方面のおつむが足りないんですから。隠居後もやることはいっぱいありますから、離縁なんて致しませんわ。馬鹿()()()()


クスクスクスクス、ラーサは楽しげに笑う。

…………その笑顔は。

いつからか見なくなった、若い頃のラーサの笑顔と変わらなくて。

わたしは何故か言葉に詰まり、その笑顔に見惚れる。

だが、彼女がわたしの手から手紙を奪い……にっこりと笑ったことで、ハッと我に返った。


「早く了承の手紙を返しなさいな。じゃないと昔の武勇伝(黒歴史)(笑)をネッサに教えるわ」

「っっっ⁉︎直ぐに行くっ……‼︎」

「行ってらっしゃいませ、ネイサン様」


わたしは大慌てでサロンを飛び出す。





だが……わたしの心の中には、いつまでも……妻の笑顔が残り続けたのだった。








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