第7話 ハイエナは月が欠けた夜、事件を解決する(3)
あはっ、ご都合主義だよ‼︎
やっとトイズ目線が終わる……。
詳しい解説は後書きにて‼︎
よろしくねっ☆
翌朝。
早朝から行われる陛下と重臣達の御前会議の席で、僕はにっこりと笑いました。
「という訳で。今回の行方不明事件の真相は、恋人や夫、婚約者などの不仲になった女性達が意気投合、そして自らの意思で姿を眩ましていたというモノでした」
僕の報告に、手元の資料を見ていた陛下達は怪訝な顔をする。
まぁ、納得しづらい……といった感じでしょうか。
「フェンネル少尉。本当に、それが真実か?」
クリストフ国王陛下は、王の威厳を感じさせる鋭い瞳でこちらを探る。
………ですが、この報告は嘘ではないんですよね。
「確かに、彼女達の姿が見つからなかったのは魔族メノウ嬢が協力していたからです。隠蔽系魔術を使っていたらしいので。ですが、あくまでも行方不明になっていた女性達は自分達の意思で姿を眩ますことを決めたそうですよ?」
そう……彼女達は自分の大切な人達と距離を置きたかったから、姿を消しただけ。
貴族令嬢達の身のために、赤毛さんことメノウさんが男であることを隠すだけでいいのです。
おかげで報告はあまり嘘を含まないので、バレることはないでしょう。
「だが、その魔族は貴族令嬢を誘拐したと言えるのだぞ。何かしらの罰を与えるべきだ」
若干、ぽっちゃり気味の体型の貴族がそう訴えます。
あぁ……確か、あの人は行方不明になってた貴族令嬢の父君でしたっけ?
自分の娘がメノウさんの協力で姿を眩ましていたとなれば……何かしら罰を与えたいのでしょう。
「………では逆にお聞きしますが、どんな罰を与えるべきなのですか?」
「それは勿論、奴隷とするのが一番だろう」
処刑よりはマシですが、奴隷落ちも中々に厳しい罰です。
国持ちの奴隷は公共事業の労働力として酷使されます。
例えば、鉱山での労働や河川工事など。
あぁ……そういえば。
この人、国から河川工事の指揮を任されていましたね。
魔族は人間よりも身体能力が高いですから、良い道具として使いたい……という意味合いもありそうです。
腹黒タヌキが考えそうなことだ。
「奴隷、ですか。僕はそれが不当であると思いますね」
「たかが一軍人が我らの意見に文句を言うつもりか?」
「えぇ、えぇ。言わせて頂きましょう」
僕はニヤリと笑いながら、告げる。
「メノウ嬢はあくまでも協力者でしかありません。伴侶に苦しめられていた女性達に救いの場を与えたにすぎません。手を貸してあげたにすぎません。メノウ嬢は帰りたくなったら帰るように。誰かの伴侶が見つけたら、全員帰るようにと説得していたほどなのですよ?それに、彼女は女性です。女性なのに、奴隷落ちさせるなど……不当ではありませんか?」
「だがっ、貴族令嬢をっ……‼︎」
「メノウ嬢は他国出身で、貴族制度がない国にいたそうです。そうと思えば、情状酌量の余地ありだと思いますが」
「しかしっ……‼︎」
「考えてみてください。きっとこの場にいる方々の奥方様も……自分の夫と喧嘩する日々や、自分の夫に他の女と浮気される日々を過ごしていたら、距離を置きたいと考えると思いませんか?」
ピクリッ……‼︎
僕の言葉に何人か反応する。
あぁ、その人は奥方と喧嘩やら他の女性と浮気してるんですねぇ……後で脅しの材料として調べておこう。
「貴族にとって政略結婚は当たり前ですが、その前に貴族だって人間なのです。傷ついている状況で……メノウ嬢のような人が手を差し出してくれたら……その手を取ってしまうと思いませんか?」
僕の言葉に、自分の妻のこと考えたのか。
数名の貴族はバツが悪い顔になりながら、そっと視線を逸らします。
……………というか。
顔は変わりませんが、国王陛下の目にもなんか翳りがあるんですが……。
………まさか、国王陛下も王妃様を裏切ったことがあるとか……言いませんよね……?
……………止めておきましょう。これ以上、それを考えたら危険な気がします。
今は、この場にいる人達にメノウさんの処遇を飲ませなければ。
「それに、もっと相応しい罰があると思いますよ、僕は」
国王陛下は僕の言葉にゆったりと肘掛に肘を置き、顎を乗せる。
そして、厳かな表情で問いました。
「…………では、どんな罰が相当だと?」
「特殊部隊預かり。まぁ、正確に言えば……ドラゴンスレイヤーと騎神の模擬戦相手です」
『っっっ⁉︎』
まぁ、もう既に牢屋ではなくて特殊部隊の執務室(エクリュ中佐の監視下)にいるんですけどね。
「どうやらこの頃、骨がある者がいないらしくて。そろそろ違う模擬戦相手が欲しいようなのです。どうですか?あの二人の模擬戦相手を数週間務めるのは、奴隷落ちよりも大変な罰だと思うのですが?」
僕の言葉に貴族達は顔面蒼白になっていきます。
………まぁ、国を滅ぼせるドラゴンを単独撃破するエクリュ中佐と、騎〝神〟と呼ばれるネルック二等兵を相手にするなんて……。
奴隷落ちよりもこの二人と模擬戦させられる方がヤバいと理解できますよね。
「………あ、それと。忘れておりましたが、これ、貴族令嬢からの嘆願書です。メノウ嬢は悪くないから、処罰しないでくれってヤツですね」
さらに駄目押しとばかりに昨夜の内に用意していた貴族令嬢二人組の嘆願書も提出する。
文官にそれを渡し、嘆願書を受け取った国王陛下は内容を確認し……納得したように頷いた。
「では、魔族メノウ嬢は特殊部隊預かりとして、今回の行方不明事件は解決とする」
「畏まりました」
「今回の褒賞として、トイズ・フェンネル少尉には子爵の位を……」
「あ、それ。伯爵にしてくれませんか?」
「ーーーーー何?」
国王陛下は不快に思ったのか、僅かに顔を歪めます。
でも、子爵じゃ駄目なんですよねぇ。
「国王からの褒賞が不服だと?」
「えぇ。子爵じゃ彼女と結婚するには微妙じゃないですか。それに、そこそこ高い爵位を頂いてれば……社交界でもエクリュ中佐とネルック二等兵のフォローができますし。それと、そこそこ高い爵位で僕を縛りつけてないと……僕は彼女を連れて国を出てしまうかもしれませんよ?」
獰猛な笑みを浮かべながら告げると……国王陛下は大きく目を見開きます。
えぇ……陛下は分かっていますよね。
もし、僕が隣国にでも行ってしまったら……この国は、僕の策略で苦しめられることになるって。
騎神、華姫、ハイエナ。
誰か一人でも欠ければ、その損害は大きいってことも。
だから……陛下はハイエナを逃さないためにも、僕の要望を受け入れるしかない。
……一応、行方不明事件解決っていう功績を挙げてあげたんです。
何もせずに僕に爵位を強請られるよりも、受け入れやすいと思うのですがね。
「…………本当に、どうしようもなくハイエナだな。お前は」
国王陛下は本当に呆れたような顔で呟く。
僕はそれに満面の笑顔で返しました。
「お褒め頂きありがとうございます」
「褒めてない。フェンネル少尉には、伯爵の位を与えよう」
「有難き幸せ。では、御前を辞させて頂きます」
そして、御前会議の場を辞して僕は、黒水晶宮への帰路につく。
こうして、僕は行方不明事件を終えたのです。
ちなみに、その日の午後。
早速、ネルック二等兵とメノウさんが模擬戦をして。
模擬戦後、特殊部隊の執務室に帰る最中……短髪の女性軍人にジロジロと見られたのですが……。
その後、その女性軍人と関わることはなかったので、僕は直ぐにその存在を忘れたのでした。
こうして、第4話の最後とシーンが重なります。
本当は、前世を取り戻したジャクリーン(出落ちキャラになったねw)と絡ませようかと思った(ジャクリーンがアイラポジに収まり、逆にネッサとトイズの仲が拗れて。ネッサがメノウさんに手を差し伸べられて、姿を眩ます。トイズの箍が外れて、ネッサさん速攻で見つかるというシナリオを考えてた)のですが……。
ハイエナって好きな人のためなら手段選ばなそう。
他人の手を借りなくても事件を解決するぐらいできそうだよなぁ……と思ってしまい、まさかの前世の記憶を取り戻したのにジャクリーンと関わらないというシナリオになりました。
安心しろ、ジャクリーン。
流石に出落ちキャラは可哀想だから、いつかどこかで供養するよ。うん。番外編(いつになるかは分からない)で。




