第4話 とある女軍人は前世を思い出し……シリアスは崩壊する
まぁね。真面目なだけで進む訳ないんですよ、この作品が。
という訳で〜タイトルの通りですww
新キャラ目線。
では、よろしくねっ☆
私、ジャクリーン・シャカンが前世の記憶を思い出したのは……もう既に日常と化した黒水晶宮の地震(多分、起こしているだろう人達はいつもと変わらない)で、在庫チェックをしていた備品棚の上に誰かが隠していたらしい本が、私の頭に落ちてきた瞬間だった。
バサッ‼︎
「ぶふっ⁉︎」
本自体はそれほど重くないし、痛くなかったのだが……落ちた衝撃で中身が見えてしまい、私は思いっきり噴き出す。
というか、その内容を見たことで……私の頭の中には前世の記憶というものが勢いよく流れ出した。
驚きのあまり、叫び出さなかった私を褒めて欲しい。
いや、それよりも、だ‼︎
なんで前世の記憶を思い出すのが、エロ本が頭に落ちてきてなんだ‼︎
というか、軍部にエロ本隠した奴……何してるんだ‼︎
職場にそんなもん隠すな、仕事しろ‼︎
………。
…………ごほんっ。
冷静に戻った私は現在の記憶と、前世の記憶を擦り合わせる。
そうすれば簡単に自分が置かれた現状を把握することができた。
「……まさか……テンプレをするとは」
前世の記憶の中にある《精霊と乙女と愛のワルツ》という乙女ゲームに関する記憶。
どうやら、私はテンプレと化した乙女ゲーム転生(※モブ)なるものしたらしい。
一応、ゲーム内容を説明しておこう。
《精霊と乙女と愛のワルツ》。
それは、ヒロインであるアイラ・ジキタリスが学園で王子様や騎士、その他諸々のイケメン達と想いを通じて……涙あり、別れあり、悲しみありの末に運命の人と結ばれて、その愛の力で世界を浄化するっていう……エロい十八禁PCゲームである。
なお、続編の〜夜想曲〜は攻略キャラが増え、エロさが増す。
しかし、しかしである。
………………乙女ゲームで出てきた人達は確かに存在するのだが……かなり相違点があるようなのだが?
「…………そもそもの話、特殊部隊なんて存在しなかったよな……?」
竜殺しであるエクリュ中佐を隊長とした特殊部隊。
国家戦略級軍事力を個人で持つエクリュ中佐を後方支援部隊に置いておけず……だが、他の部隊でも彼を持て余す。
加えて、国に危機が迫った時に少数精鋭で動けるようにと、特別に設立された部隊である。
まぁ、分かりやすく言えば。
危険人物達が個人個人で過剰戦力だから……一つにまとめて、滅多に動かないようにしたらしい。
………まぁ、うん。
軍部の日常と化した地震も、彼らの模擬戦から生じるモノだから……あまり動いて欲しくないと思うよな。
うん。
…………ごほんっ。話を戻すが。
とにかく、ゲームの中では特殊部隊なんてものは存在しなかったはずだ。
ゲームの中のエクリュ中佐はヒロインに会うまで、エルフに迫害を受けていたし、フェンネル少尉もエクリュ中佐の補佐官ではなかった。
そもそも、近衛騎士団にいるはずの攻略対象が軍部にいること自体がおかしい。
「…………それに……エクリュ中佐はご結婚されて……あっ⁉︎」
前世の記憶を思い出す前の私は何も思わなかったが……エクリュ中佐の奥方は当て馬令嬢と呼ばれていたアイラの姉では⁉︎
本当に、ゲームの内容と全然違いすぎないか⁉︎
「……これは……ちゃんとこの世界の人々は生きているパターンというヤツか……?」
電波系転生者であれば、乙女ゲームの世界であると気づいたら、ここはゲームだと考え……そこで生きている者達もゲームキャラであると考えるだろう。
ゲームと現実の区別がつかないというヤツだ。
だが、ここまで違っていれば、この世界はゲームでないことを簡単に理解できる。
というか、今まで生きてきた私の人生をゲームであると言えるものか。
「…………ふむ。前世の記憶を思い出したとしても、何もなかったな」
人によっては、前世の知識を使ってチートなことをしようとする者もいるだろうが……精霊術という力が存在するこちらの世界の方が、前世よりも遥かにチートっぽい。
というか、メリットデメリットを考慮すれば……前世の記憶があること云々は公にしない方がいいだろう。
異常者だと思われかねないし、乙女ゲームの内容を知っていたって……ここまで違うのならば、その知識を役に立てることはできない。
「いや、待てよ……?」
だがふと、私は軍部が抱えている事件のことが頭の中を過ぎる。
それに感じた嫌な予感に、私は目を見開いた。
「……っっっ‼︎まさかっ……‼︎」
今、巷を騒がせている《行方不明事件》ーー。
それは、《精霊と乙女と愛のワルツ〜夜想曲〜》で追加されたトイズ・フェンネルの攻略ルートで起こる……エンディングを確定する最終イベントではなかったか?
発生時期は最終イベントなだけあって冬だったが……犯人が魔族であることも同じだし……行方不明になるのも女性ばかりだというと、最終イベントにしか思えない‼︎
「あぁ……嘘だろうっ⁉︎」
私は顔面蒼白になりながら、震える。
きちんと確認をした訳ではないから明言はできないが……時間軸を考えると、アイラはまだ領地にいるはず。
つまり、行方不明事件が起きるのは、起きたとしても来年だったはずだ。
なのに、起きるはずがないイベントが発生しているだと⁉︎
イベント内容の詳細はこの際置いておく。
ヒロインと攻略対象が協力して事件を解決するとだけ理解できていればいい。
だがっ……このイベントはエンディングを確定する最終イベントなのだ‼︎
ハッピーエンドがあれば、バッドエンドも存在したのだ‼︎
「あぁっ……‼︎どうすればっ……⁉︎」
このイベントのバッドエンドでは、行方不明になった人達が帰ってこない。
つまり、軍部は行方不明になった女性達を助けることができないのだ。
ゲームではアイラも誘拐されるが、その強力すぎる精霊術を使うことで軍部……フェンネル少尉にどこにいるかを気づいてもらい、解決に導けた。
だが、ヒロインがいないならば……どうやって解決する⁉︎
「…………いや、違う‼︎ヒロインがいてもいなくても問題ない……‼︎私が彼女達がいる場所を伝えればいいだけだ……‼︎」
私は、前世の記憶を持つがゆえに事件の詳細を知っている。
つまり、彼女達がいる場所を知っている……この事件を解決に導ける。
しかし、それを軍部に訴えても信じてもらえないかもしれない。
それどころか、なんで知ってるんだと怪しまれるかもしれない。
先ほど、異常者だと思われるかもしれないと言ったが……そういった最悪の事態が起きることもあるだろう。
だが、選択肢などあるものか‼︎
人命よりも大切な物など、ありはしない‼︎
私はバチーンッと勢いよく自分の頬を両手で叩き、急いで備品倉庫から駆け出す。
そして、そのまま第三部隊の執務室に向かいーーーー。
ズルッ……ズルッ……ズルルルッ……。
「い〜た〜い〜……っっっ‼︎優しく運んでちょーだいよぉぉぉぉぉぉぉお……‼︎」
「煩いですよ。誘拐犯の癖に文句言わないでください」
「あははっ、中々に楽しかった‼︎また闘おう‼︎」
「嫌よぉぉぉぉぉぉぉお‼︎なんで無理やり連れてこられたと思ったら、いきなり戦闘になってっ……こんな脳筋の相手しなくちゃいけなかったのよぉぉぉっ‼︎」
「……………………………」
どこのギャグ漫画だとツッコミを入れたくなるような姿……頭からピューっと血を出している騎神と、その隣を歩くフェンネル少尉。
加えて、騎神が行方不明事件の犯人を引きずっていたことで……私は動きを止めるしかなかったのだった。
…………え?どういう状況だ、これ?




