第50話 見えていなかった真実
祝50話‼︎
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エクリュ中佐とクリストファー殿下と話し終えた僕は、早速、国王陛下を退位させるため、裏で根回しをすることにしました。
まず、国の重臣達に報告。
流石に、僕一人じゃ問題なので……殿下と共に話をすることにしました。
陛下の愛人……かつての専属侍女の子である、陛下のご落胤がナハーム王国と手を組んで、この国を植民地化しようとしていること。
精霊姫も洗脳して、向こう側に連れて行かれたことを話しました。
それを聞いた重臣達は、二つ返事でそれに了承。
流石に呆気なくて驚きました。
普通、たかが軍人が国王が退位させるなどと言ったら国家反逆罪となります。
なのに、彼らはそれを受け入れたのです。
「…………なんで、そんな簡単に受け入れたのですか?」
僕の質問に、白髪が目立つ宰相閣下は困ったように笑う。
そして、お答え下さいました。
「……陛下は、他のことでは賢王と称されようとも、こと恋愛感情が絡むと子供よりも愚かだったのだよ。ずっと犠牲になられていたアリアドネ王妃には申し訳ないが……我々の中には王太子の時に、廃嫡すべきだったと考えていた者も少なくないのだ」
「…………王妃が……犠牲に?」
「退位なされるなら、話しても問題ないだろう」
そうして、語られた真実は……とても悲しいもので。
アリアドネ王妃が、どれほどその身を犠牲にしていたのかが分かってしまう話でした。
…………僕の情報収集も甘かったようです。
こんな話、知りもしませんでした。
クリストファー殿下もその話を聞くのは初めてだったようで。
愕然と、していました。
「………陛下はそれをご存知なのですか……?」
「いいや。あの方はずっとかつての恋人……専属侍女ブリジットのことしか考えていない。だから、王妃が負った犠牲も知らないのだ」
「……………」
「王妃にも、話をするといい」
そう言った宰相閣下は、少し……泣きそうでした。
*****
重臣達と別れた僕達は王妃がいる後宮に向かいます。
その道中、僕達の間に会話はなくて。
いや、話せないというのが正解でした。
今すぐ、エクリュ中佐のお力をお借りしたい。
情報収集をやり直したい。
僕は、根本的な間違いをしていました。
『呼んだ?』
「っ⁉︎」
急にエクリュ中佐の声が聞こえて僕はギョッとします。
すると、精霊達が教えてくれたから連絡を取ったのだと言われました。
(………問題発生です。僕達の情報収集が甘かったようです)
『あぁ、そうなの?また力を貸せばいい?』
(お願いできますか?)
『いいよ。今の俺なら過去に起きたことぐらいなら余裕で分かるから』
……………はい?
『じゃあ、好きに調べなよ』
そう言ってエクリュ中佐は凄まじい量の精霊力を僕に送って下さいました。
あれ?前よりも……精霊力が増えて……。
過去のことが分かるとか……そんな………。
本当に、過去のことまで分かってしまいました。
エクリュ中佐……貴方様は一体、何になろうとしてるんですか……。
…………というか……真実はなんて残酷なんですかね。
全てを調べ終えた頃、丁度僕達は後宮に辿り着いていました。
柔らかな日差しが差し込む庭園の、東屋で王妃は花を見ておられました。
「…………母上」
殿下が恐る恐る声をかけます。
王妃はとても静かな眼差しで、こちらを見ました。
「なんですか、クリストファー」
「………その……」
「国王陛下のご退位が、決定しました」
僕は殿下の言葉を遮って王妃に話しかけます。
王妃は、それを聞いて少し悲しげな顔をなされました。
「………そう、ですか」
「王妃様は、専属侍女のブリジットが他国のスパイだったことをご存知だったんですか?」
「フェ……フェンネル少ーーえ?」
殿下はギョッとしながら僕を止めようとしますが、その前に動きが止まります。
僕は聞き続けました。
「だから、国外追放にしたんですか?」
「……………」
「陛下を傷つけないために?」
「………どこまで知っているのかしら」
「全て、調べました」
「……………そう……」
王妃はそっと目を伏せました。
そう……この愛憎劇の真実は、今まで考えていたものとは、丸っきり違ったのです。
王太子だったクリストフ様と恋に落ちた専属侍女ブリジットは……元々、隣国のスパイでした。
女性でスパイをする者は、皆、子宮の摘出手術を行っているのが通例です。
そうすれば幾らでもハニートラップが行えますし、妊娠で活動が制限されることがなくなりますから。
そして、当然ブリジットも……妊娠していません。
つまり、ブルーノ君は陛下の子供でも、ブリジットの子供でもありません。
将来のために、準備された駒だったということです。
エディタ王国……クリストフ国王陛下に復讐するように、仕組まれたのです。
嘘を、真実のように刷り込まれたのですから。
「王妃様は自分の諜報部隊を使い、ブリジットがスパイだと知った。だから、国外追放にしたのですか?」
「……………えぇ、そうよ。調査情報は全て抹消したと思ったのだけど」
「エクリュ中佐のおかげですね」
「………そう……」
王妃様はようやく……全てを語り始めました。
自分が子供を産むための道具としか思われていないのは、理解していた。
だから、別に陛下がブリジットとどうなろうと構わなかった。
けれど、ある日……ブリジットが隣国のスパイだと知ってしまった。
でも、陛下の寵愛を受けている者がスパイだと知ったら……陛下が悲しむと思ったから、自身が泥を被る覚悟をしたのだと。
「甘かったのね、わたくしは」
「…………ちなみに……クリスタ王女が陛下の子でも王妃の子でもないのも、本当ですか?」
「…………えっ⁉︎」
殿下は再びギョッとして固まってしまいます。
アリアドネ王妃は困ったように笑いました。
「そこまで知っているのね。いいわ、お話ししましょう」
ブリジットがいなくなった後、カタチだけの王妃となったアリアドネ様は何回も命を狙われたそうです。
陛下が側室を作ろうとしなかったため……なら、カタチばかりの王妃を殺して、自身の娘を王妃にしようとする貴族達によって。
そんなある日、王妃は毒を盛られてしまい……動けなくなってしまいました。
ですが、毒で動けないなど格好の的となる……そこで、アリアドネ王妃は自身の従姉妹を影武者とすることにしたそうです。
…………とても、タイミングが悪かったのでしょう。
影武者を務めてくれた従姉妹は、毒を盛った貴族とは別の貴族によって送られた浮浪者に暴行を受けてしまいました。
………助けた時には、精神に異常をきたしていたそうです。
そして……妊娠も。
…………中絶することもできたそうですが、産まれてくる子に罪はないと判断したアリアドネ王妃は、その子を自身の子とすることにしました。
そして……それを誤魔化すために浮気をしたという噂を流したのだと。
カタチだけの王妃となった自分が、二度と陛下の子を成すことはあり得ないと……皆が知っていたから。
毒によって子を成すことができなくなったと……アリアドネ王妃は知っていたから。
「……………浮気をしたというのは、当てつけでもありました。わたくしを見てくれない陛下への。でも、陛下はどんな噂が流れようとわたくしに興味がなかったのでしょうね。だって、わたくしが毒殺されそうになったこともご存じないわ。わたくしが毒の所為で子を成せないようになったことも、知らないんだもの」
「………母上……」
「……………これが全てよ」
「……………そんな…ことが……」
クリストファー殿下は愕然としてしまっています。
子供には、重過ぎる話だったのでしょう。
「エクリュ中佐は、戦争の場で国民全員に全てを明るみにし……喧嘩両成敗を行うらしいです」
「…………喧嘩両成敗って……子供っぽいわね」
「えぇ。したがって、場合によっては今のお話をしますが……よろしいですか?」
「…………クリスタに関することだけは、秘密にできないかしら?あの子が苦しむわ」
「………エクリュ中佐にお伝えしておきます」
「…………ありがとう。国王陛下の退位、了承致しましたわ」
王妃はそう言って、視線を花へと戻されました。
僕達は一礼して、その場を去ります。
なんて面倒で……なんてドロドロしているんでしょう。
流石にハイエナと呼ばれる僕でも、これはちょっと憂鬱になる案件ですね。
「……………皆が……普通の日々を送れるような結末は迎えられないのだろうか……?」
殿下は小さく、呟きます。
そんなの、僕には分かりませんよ。
「エクリュ中佐がどう収めるか次第じゃないですか?」
「……………だな」
後は、エクリュ中佐にお任せしましょう。




