第5話 《穢れの王》になるくらいだから、そういう性質があったんでしょう
沢山の方に読んで頂きありがとうございます‼︎
異世界転生/転移ランキングに入り、最高で16位までいきました‼︎皆さんのおかげです‼︎
今後も頑張りますので、よろしくどうぞ‼︎
そしてまた、書きたいから始まる『猫憑き少女とタソガレ探偵喫茶』が明日より連載不定期更新されます。
一度、短編で書いた作品です。方向性が違う作品なので見かけたら、この著者、書きたい小説多すぎだろと笑って下さいwww
ミネルバの絶叫でキスを止められた私は、ちょっとムスッとしました。
なんですか、急に‼︎
「人前でくっ…口づけなんてはしたないですっ‼︎」
あ、顔が赤いわ。
なーるー。
ミネルバは初心なのか。
「好きな人同士なら問題ないでしょ?夫婦もしてるじゃない」
「お嬢様は未婚ですし‼︎子供ですしっ‼︎人前でっ‼︎が駄目なんですっ‼︎」
「ちゃんと責任は取りますよ?」
「貴方には聞いてません、どこの馬の骨かも分からない男がっ‼︎」
「ルイン様にそんなこと言わないで。私の好きな人なのよ」
酷いよ、ミネルバ。
好きな人を罵倒されるのって嫌だよね。
「あー…そうですよね。自己紹介が遅れました。ルイン・エクリュ二等兵と申します」
でも、ルイン様はそれに怒ることなく自己紹介をする。
ミネルバはルイン様を見て、険しい顔をした。
「階級さえない兵がどうしてお嬢様と……」
「えっと……精霊が連れてきてくれて?」
「そこは導かれての方がロマンチックですよ、ルイン様」
「じゃあ、精霊に導かれまして」
正確には私好みの男性見つけてって言っただけなんですけどね。
そしたら、ルイン様が死にかけてたんですけどね。
まぁ、よしとしましょう‼︎
「精霊様がどうしーー」
「一体何事だっ‼︎」
と、ミネルバの声を遮ったのは野太い声で。
振り返ったら、そこにはライオンみたいな茶髪に琥珀の瞳を持つガタイのいい男性と……中性的な美貌を持つ薄金色の髪に翡翠の瞳を持つ美青年(?)が立っていた。
「何をしている、エクリュ二等兵。現在、第五部隊は精霊術師団と戦闘訓練中のはずだが?」
「申し訳ありません、総帥」
総帥と呼ばれたガタイのいい男性は、ルイン様の腕の中にいる私を見る。
その目が悠然と語るわー、〝なんだこいつ〟って。
私はクスッと笑って頭を下げた。
「私からも謝罪致しますわ、総帥閣下。私が泣きそうになったので、精霊達がルイン様を連れて来て下さいましたの」
「……………貴様は誰だ」
「あぁ、自己紹介が遅れましたわ。私はシエラ・ジキタリス。ジキタリス伯爵家の長女ですわ」
「シエラ・ジキタリスですか?」
反応したのは総帥ではなくて、中性的な男性の方。
彼は優雅な笑みを浮かべ、会釈した。
「初めまして。わたしはヨルハ・リュオン。精霊術師団の団長を務めております。貴女の噂はかねがね聞いておりますよ、強力な精霊術を行使する人間として」
「それはどうも」
上から目線で言ってくるその男に私は冷たい笑みを返す。
なんかね、嫌な感じがするからね。
初対面に、呼び捨てにされる筋合いはないわ‼︎
「ですが、何故混ざり物の腕にいらっしゃるのでしょうか?」
「は?」
「それのことですよ、穢らわしい混ざり物」
………女男はルイン様を指差して、ゴミを見るような目をする。
うん、分かった。
こいつは敵だ。
「あら?私の好きな人をそんな蔑むなんて喧嘩売ってますの?」
ピリッ……。
その場の空気が固まり始める。
私の怒気に気圧されたのか、周りにいた軍人達は腰にかけていた剣に手を伸ばしていた。
総帥さんと女男も驚いたように目を見開く。
だが、女男は大きな声で笑い出した。
「あははっ‼︎何を言うのです。君は精霊に愛される者なのですから、そのような混ざり物を好きな人などと抜かすのは止めた方がいい。頭がおかしいと言われますよ」
「……………あ゛?」
ぞわりっ……。
………その地の底から響くようなドスの利いた声を出したのは……今まさに綺麗な顔で微笑むルイン様で。
周りの人達はガクガクと震えていて……まるで世界滅亡数秒前の絶望し切ったような顔だ。
そんな彼らを見てしまったら私の怒りは霧散して……。
壊れた人形のような緩慢な動きで……ルイン様を見た。
うわぁ……目が笑ってなぁ〜い……。
また目のハイライトが消えてるぅ〜……。
なんて暢気なことを考えてたら、ルイン様の足元から黒い光が溢れ出していました。
うん、これはアレだね?
《穢れの王》が使ってたヤツだね‼︎
って……笑いごとじゃなぁぁぁぁぁあいっ‼︎
「俺を蔑むのはいいけどなぁ……シエラを蔑むのは許さねぇぞ、このクソジジイ」
「なっ⁉︎」
恐怖で動けない女男が怒りに顔を染めて、言葉を失くす。
というか……ルイン様に初めて名前だけで呼んでもらえた。
〝様〟なしで呼んでもらえた‼︎
わぁーいっ‼︎……って、トゥンクしてる場合じゃない‼︎
『シエラっ‼︎今すぐルインを抑えろ‼︎世界が軋むっ‼︎』
『本気で‼︎お願いだからっ‼︎』
『あたし達じゃ抑えきれない〜っ‼︎』
『早うしておくれぇ……』
なんて精霊達(声だけは大精霊)のエマージェンシーを聞いたら……はい、動くしかありませんよね。
世界が軋むってヤバイっすもんね。
「ルイン様、落ち着いて?」
私は彼の首に腕を回して甘く微笑む。
でも、ルイン様の目は未だに闇堕ちしてるし。
なら、もう少し大胆に行きましょう。
「私のために怒ってくれて嬉しいんだけど、あいつは私に喧嘩を売ったんだから……私が買ってあげなきゃ」
「…………でも…」
「ねぇ、ルイン様?貴方が好きになった女は、まだ身体は小さいけど……守られるだけの弱い女じゃないのよ?」
彼の唇に指を添えて、妖艶な笑みを意識して微笑んでやる。
そうしたら、少しだけ彼の目に光が戻った。
よし、あと少し。
「………俺は、余計なことを…しましたか?」
「まさか。ルイン様が私のためにしてくれたことですもの。嬉しいわ。大好きな男に守られるのって、女として幸せなことでしょう?でも、あんな女男の悪口なんて小虫が煩い程度で気にするようなことでもないのよ」
「………女男って…小虫って……」
「うふふっ、本当のことだもの。だから、ルイン様?私のために怒ってくれてありがとう。だから、もうこの話はおしまいにしましょう?折角、シェフと一緒にランチを作ってきたのに……ルイン様と食べる時間がなくなったら嫌だわ」
「え?シエラ様の手作りなんですか?」
その言葉でルイン様の瞳はキラキラと宝石のように輝き出す。
私は笑顔で頷いて、甘えるように囁いた。
「そうよ?お手伝いしただけだけど、私が初めてお手伝いして作ったの。だからね?もうこんなどうでもいい奴に構ってないで行きましょう?」
「はい、シエラ様‼︎」
よし、黒い光も霧散したし完全セーフでしょう‼︎
精霊達も『よかったよー』とか『うわぁん、疲れた〜』とか言ってるけど……うん、お疲れ‼︎
周りの人達も緊張状態が一気に解けたからか、バタバタと倒れ始める。
唯一無事なのは、総帥さんと女男ぐらいだ。
「シエラ様の手作りランチ〜」
「さっきは様なしで呼んでくれたのに、もう呼んでくれないの?」
「えっ、本当ですかっ⁉︎ごめんなさい、シエラ様……」
「リピートアフターミー、シエラ」
「……………うっ…」
顔を赤くして目線を逸らすルイン様ですが、逃がしません。
私は彼の両頬を掴んで微笑んだ。
「シエラって呼んで?」
「うっ……シエ、ラ……」
「はい」
もう、幸せ。
真っ赤になったルイン様は可愛いし、私も嬉しいし……。
でも、ルイン様もやられてばかりじゃなかったみたい。
「うぅぅ……俺に呼び捨てにさせるんですから、シエラ……も敬語とか様付け止めて下さいねっ⁉︎」
「えっ⁉︎でも……殿方を呼び捨てなんて……」
「してくれないなら、唇腫れるまでキスしてやります」
うわぁ……それはどちらかと言えば、やって欲しい……。
でも、でも、でもっ……。
「分かったわ。ルインの言う通りにするから、貴方も敬語は止めてね」
「…………適応能力高過ぎでしょう……分かった……」
ルインに敬語を止めて欲しいから、今回のキスは見送りましょう。
どうせずっと一緒にいるし、最初っから飛ばさなくても大丈夫だもんね。
「……そうだ…総帥、なんで周りの奴らは倒れてるんですか?」
「………その甘い空気の中で聞いてくるのか…エクリュ二等兵……」
「はい」
え?
これ、ルイン様がやったって気づいてないの?
というか、対応するの忘れてたけど……周りの人達大丈夫なのかな。
「お前から出たなんかよく分からない威圧に気圧された」
「…………威圧なんて出した記憶ないんですけど?」
「「……………」」
総帥と女男が戦慄してるわー。
まぁ、私もちょっと驚き。
多分、プチ(?)《穢れの王》モードになってたのよね?
でも、アレって絶望とかでなるんじゃ……。
『多分?絶望だけでなく、負の感情が関連するんだと思う〜』
流石、精霊さん情報局…………なるほど。
つまり、ルイン様は私が馬鹿にされたのが我慢できなくてプチ(?)《穢れの王》モードになったと。
………………私のこと、大好き過ぎじゃない?
『逆に言えばシエラ関係なら世界すらも滅ぼしかねないってことだけどねぇ〜』
「…………………」
『シエラ〜。ルインのストッパー頑張るの〜』
それは笑えねぇなっ⁉︎
私が大好き過ぎて闇堕ちって……それは駄目っ‼︎
精一杯、ストッパー役を致しましょう‼︎
「ルイン。取り敢えず、周りの奴ら起こしてあげたら?」
「水かけたら起きるかな?」
「えっ?そんなワイルドな起こし方なの?」
「軍部はそんなもんだよ?」
ルインが小声で「《俺に示す》」と呟くと、バッシャァァン‼︎と器用に気絶している人達の顔にだけバケツをひっくり返したような水をぶっかけた。
わぁ、器用。
流石に気絶していた人達も目が覚めて、騒がしくなる。
「じゃあ、ランチを食べに行こう?」
「………この状況、放置でいいの?」
「大丈夫じゃないかな」
そのままその場を立ち去ろうとするけれど、そうは問屋が卸さなくて。
総帥に思いっきりルインは腕を掴まれた。
「待て‼︎」
「なんですか?」
「お前、一体何をしたか……」
「……………」
スッと目を細めるルインは、まぁ顔が綺麗だから怖いよね。
私もちょっと後退りそうになったけど、彼の首にぎゅうっと腕を回してことなきを得た。
「何もしてませんけど?」
「……いや、その……確かに…そうなんだが……」
「出した覚えがない威圧で倒れたと言われても、俺だって困ります。それに死んでないんだからいいじゃないですか。これ以上、どうしろと?」
「………………」
確かにルインが手を出して気絶させたんじゃない。
威圧なんて不確かなもので、だ。
そうなると〝どうしろと?〟ってなるよね。
「…………後。これ以上、俺とシエラの時間を邪魔しないでくれます?」
ブラックオーラ全開のルインに、周りの人達は再び身体を震わせる。
…………うん、分かってる。
もう否定はしないわ。
まぁ……《穢れの王》になるくらいだから、そういう性質もあったのでしょう。
……………ルイン……貴方、ヤンデレだよね。